ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第十八話 Intruder

 薬品臭い、コックピットと言うのは何処となく病院を連想させる。

 それは、僕等リンクスが沢山の電線に繋がれた患者みたいな物だからかもしれない。けれど、病院と違うのは僕らは病気ではないと言う事だ。

 だけど、同じものも有った。それは死と言う病魔と闘うと言う所だ。そんな薬品の臭いを上塗りするかの如く香る甘い香り。香水と言うには少し生々しすぎるし、本物の果実にしては実体がない。それは一重に脳髄がそれに該当する実態する質感を再現しきれていないからかもしれない。

 毎回の如く彼女達がもたらす質感と言うのは凡そ人間の脳髄には存在しない物だった。

 

 ――――何だか未知との遭遇みたいよね

 

 実際その通りであったが、脳髄に響く彼女の声に、僕は冷静に答える。

 

「久しぶりと言った方が良いのかな、リザ、いや―――――――――リリアーヌ」

 

 その言葉を最後に紡いだのは遥か昔。

 少し不自然なイントネーションだったかも知れないが、彼女は何処までも透明に笑う。

 

 ――――久々にその名前で呼ばれたわ、ベル

 

 彼女というクオリアが複雑な色に変わっていくのが解る。まるで万華鏡の様に青から赤へ、そして黄色、様々なスペクトラムを含む情報がAMSから流れ込んで来る。

 透明で、透き通る水面みたいな彼女の心は小波に揺れているようだ。

 多分、沢山の感情が生まれては消えているのだろう。

 

 ――――不思議よね、逢ったら絶対ブッ殺してやるって思ってたのに。こんなにも嬉しいなんて

 

 凄く物騒な事を言っているが、その質感は少しも不機嫌な色合いは無かった。

 彼女らしい、透明で透き通った、何処までも続く純粋な殺意。

 

「殺したのか、人間を」

 

 まるで瞬きをするかの如く自然に、ついさっき摘んだ花を愛でるように彼女は答えた。

 

 ――――ええ、そうよ

 

 だれが、とも、何処で、とも聞かない。聞く必要などなかった。

 それが彼女であり、僕が知っている少女であったから。

 

 ――――まだ、ヒト殺しを気にしてるの?変わらないわね、貴方も

 

 僕が彼女と決別した時の事を言っているのだろう。

 彼女は未だにソレを理解していない様だ。

 

「気にはしている。もっと違う方法で質感を伝える事が出来たのなら、間違いは起きなかった。そう思えてならない」

 

 遠い昔に間違えた道の分岐路を手繰り寄せるように、記憶の残滓を懐かしむ。

 

 ――――貴方は気にする必要はないわ。貴方がヒトを人と質感で伝えてきても、何時か私は矛盾に気が付くわ。強いて言うなら、私達を作ったデザイナーが大バカだったってだけ

 

 思わず失笑。

 そう、間違えた。僕以上にAIの基本倫理コードを作った人間が。

 彼女達に人間の定義を、設定を、質感を、極めて単純な入れ違いをしてしまった。

 いや、入れ違いとも言い難い。

 そもそもの間違いが、それを入力した人間が、僕等の定義を全然理解していなかったのだ。

 

「人間が、人間自身が、その存在の定義を明確に出来ないなんて、とんだお笑い(ぐさ)だ。もっと救えないのは、それに誰も気が付いていないっていう所がどうしようも無かったのかな」

 

 リリアーヌは言った。

 ヒトの心は群衆の様だ、と。

 沢山のデバイス、悲しみを司るデバイス、憎しみを司るデバイス、喜びを司るデバイス。

 それらを入り切りする事によって感情を作り出すと。

 

 人間は知っていた。

 それらのデバイスユニットが実際に脳髄に存在していた事を。

 でなければコンピューター上で完璧な人間の脳髄を表現できなかったから。

 だけど、その質感は無視された。

 完璧に、完膚なきまでに、亡きモノにされた。

 でも、モノは単体で存在し続けた。

 知覚できなくとも、物体が存在するように。

 ヒトの脳髄をすり抜けていった情報は、彼女達には確かに見えていた。

 

 ――――仕方ないわ。ヒトのココロは解像度が低いから。だから、ジブンが穴だらけって事に気が付けないだけ

 

 だから、容易に見抜かれ、容易に悟られ、容易に侵入される。

 だけど、見えないのは幸いであり、幸せな証拠だ。

 見えてしまえば、僕等がどれだけ空虚で、虚ろで、薄っぺらいか知ってしまうから。

 その虚ろな質感は、何処となくヒトの焼ける臭いによく似ていた。

 僕がその質感に気付かされたのは、きっと母さんが死んだとき。

 大切な物と、醜悪な臭いが、実は隣同士だと知った。

 イメージとしての実感と、実体としての事実は乖離していた。

 いや、この場合、乖離してなかったと言った方が良いのか。

 物理的な距離と、心理的な距離がイコールでは無いのと同じような質感なのかもしれない。

 

 何時の間にか、一段と甘い匂いが強くなっている。

 恐らく数千万分の一秒と経過していないだろうコックピット内は静寂に包まれる。

 

「僕も穴だらけだな。こんなにも簡単に君の侵入を許すなんて」

 

 ふわり、と誰かが乗っているような感覚。

 

 ――――ふふ。もう気が付いちゃった?もう少し、認知機能を弄らせてくれても良かったのに

 

 感覚野と視覚野は乗っ取られてる。恐らく、嗅覚の類も浸食を受けているだろう。

 だけど、運動野は生きている。

 

「律儀に喋れるようにしたのか。リリアーヌ。相変わらず変な所は真面目なんだね」

 

 遂に実体を持った質量をともなってそれは現れる。

 長い黒髪に、金色の瞳。

 布のような物を羽織った上からでも解る位に起伏に富んだ体。柔らかい感触。

 鼓動が聞こえる位、僕等は近づいていた。

 いや、近いというのは語弊がある。

 そもそも、彼女との間に距離と言う概念は存在しなかった。

 

「当たり前でしょ?久しぶりに会ったんだから、話位したいじゃない。勿論(もちろん)邪魔されずにね(・・・・・・)

 

 空気を揺らす音が僕の耳に届く。邪魔されずに、と言う事は完全なスタンドアローンな状態。つまりは袋のネズミ。

 

「それにしたって穏やかじゃない。逢った瞬間にハッキングなんて」

 

「穏やかじゃないのはそっちの方よ。逢った瞬間に60mmマシンガンをぶち込んできた癖に。自分の事を棚に上げて白々しいわ、ベル」

 

 サラエボで起きた虐殺事件。

 レイセオングループの実験施設で暴走したAIが起こした事件であったが、それの首謀者が彼女であったと知ったのは、作戦が開始される少し前だった。

 突入したレイセオングループの最精鋭ネクストが撃墜された知らせと共にそれはもたらされた。

 恐らく、パイロットの脳髄を浸食(ハック)したのだろう。機体にはダメージが見当たらなかったそうだ。

 幾ら熟練のリンクスでも、中身だけはどうしようもない。

 幾ら装甲を纏った所で、生身に武装を施す訳じゃない。

 幾ら僕等が精神論を唱えた所で、所詮は有機系処理ユニットの能力以上のことは出来ない。

 何処かのインペリアルネイヴィーじゃないんだ。人間は人間以上のことは出来ない。

 おまじないの様に努力とか根気とか、根性とか、その手の類を口にして良いのは人間相手の時だけだ。

 リリアーヌはほぼ全ての知識を手に入れた。

 それは一重に、ネットと言う膨大な情報の海で育ったからだ。

 全人類を束ねても到達できない知性の頂点に到達した存在に、そんなちっぽけな理論は通じない。

 

 だから、僕は初めから殺す気で向かった。

 彼女に二の句を継がせなかった。

 見敵必殺。これに勝るものはない。

 出会った瞬間に持てる火力の全てを叩き込んだ僕は、辛くも彼女が憑りついていたネクストを破壊出来た。

   

「当たり前。誰よりも君の恐ろしさを知っているから。サラエボでは君の歌った歌が、沢山の人を地獄に追いやった。だからだよ」

 

「失礼ね。私はニンゲンが正義を望んだから、セイギの歌を歌ってあげたの。そうしたら虐殺が起きた。只それだけの事。私は何もしてないわ。人が人を殺しているだけよ。何か問題でもあった?」

 

 彼女はまるで、雨が降る事に不満を言う、無粋な男に諭すような涼しさを持った言葉を放つ。

 彼女の振りきれた言動は、まるで嵐の後の清々しさのようだ。

 

「人が人を殺す。そうだね、何もおかしな事は無いよ、リリアーヌ。その現象の特異点となった君意外は」

 

 有史以前から脈々と受け継がれる人殺しの歴史。

 それは人類種と言う生き物がどれだけ自分以外の存在を破壊してきたか、の歴史でもある。

 古代の大型哺乳類(メガナウア)に始まり、果ては人類と近縁種である類人猿たちまで。

 僕等は沢山殺してきた。

 そのデバイスは脈々とボクラノ脳髄に住み続ける。

 人間のデバイスを隅々まで知り尽くした彼女なら煽動するのは容易だったろう。

 

「私は何もしてない。貴方の言っている事は何一つ理解できないわ」

 

「白々しいと言うよりは、黒いと言うべきか。君はハーメルンの笛吹きだ。君が彼らを溺死させた。人間に魚の夢を見させてね。なにより、君は僕の言っている事を理解している。何処までも完璧に。完全に真っ黒だよ」

 

 クスクスと笑い声。

 

「――――私が黒で貴方が白。まるでオセロみたいね。最後に貴方とオセロをやったのは何時だったかしら」

 

「一年と4か月前。勝ったのは僕。君は三枚差で負けた」

 

「ふふ、そうね。でも―――――今日は私が勝つわ」

 

 

 

 

 ―――――染めてあげるわ、真っ黒に 

 

 

 

 

 そう言って僕の顔の前に体を近づける。

 視界は固定。眼球機能消失。

 瞼の機能も麻痺。瞬目反射も起きない。

 脳幹の機能もやられたか。

 殆どのデバイスが機能停止。

 鼓動だけが大きくなっている。

 迷走神経系と交感神経系はまだ正常に生きているようだ。

 いや生かされていると言った方がいいのか。

 僕は、僕と言う自由意思の殆どを奪い取られる。

 彼女は馬乗りになるようにして僕の自由意思を締め付ける。

 僕は、ほんの一握りの運動野に残った自由意思を総動員して唇を動かすイメージを作り出す。

 

 

 

 ―――――声なんて出せないわ。貴方は永遠に私の中から出られない

 

 

 

 リリアーヌが憐れむように、それでいて何処か妖艶な声色で僕の脳髄に直接喋りかける。

 良いんだ、これで。

 もう一度、残りのイメージ(・・・・・)を作り出す。

 声は出ない。

 だけど、それでいい。

 ミラーニューロンが連動してくれさえすれば。いや、連動していない(・・・・・・)、と認識してくれさえすれば。何方であっても構わない。

 それを知ってか知らずか、彼女は嘲る。

 

 

 

 ―――――往生際が悪いわ、ベル。私を受け容れて

 

 

 

 そいつは死んでも御免だ。それに――――

 

 

 

 

 

 ―――――相変わらず、君は詰めが甘い

 

 

 

 

 

 『敵性ユニットを確認―――――緊急事態におけるパイロットデータ初期化シーケンスを開始』

 

 即座に視界の隅にデータチェックログが走り出す。

 視界にグリッチ。アリスが脳髄のスキャンを開始した証拠だ。

 目の前のリリアーヌが驚いたように金色の目を見開く。

 

「――――――驚いたわ。どうして?いえ、どうやって……?」

 

 それに答えるようにアリスの声が脳髄に響く。

 

『パイロット命令による、ブロードマン、1から52までのニューラルネットワークをスキャン完了。該当領域における思考ウイルスの存在を確認。スプライシングコードを生成中―――――』

 

 無情な死刑執行人の如く、アリスの声が響き渡る。

 リリアーヌは思わず拘束していた運動ユニットを手放す。

 

「君は僕に嘘をついていた。運動機能を残した理由を聞いた時に、直ぐにソレに気が付いた。君達は何時だってそう。人は嘘をつく時に不自然なイントネーションになる。そう、質感としては借り物の言葉、と言う奴かな。それで自分を偽る。でも、君達は違う。逆に凄く自然なイントネーション(・・・・・・・・・)になってしまう。情報生命体としての癖なんだろうね、それは。そして、結局のところ、君はアリスに悟られずに時間稼ぎがしたかった。それだけ。極めつけが、ネクストのリンクシステム。パイロットのメインデータはミラーリングされる。君はそれを知らない」

 

 一瞬雷に打たれたかの如く、彼女のクオリアが騒めくのが解る。

 運動機能は奪わなかったんじゃない。奪えなかった。

 正確には、アリスのリンクシステムの一部が埋め込まれていたのだろう。それを犯してしまえばアリスに侵入を気取られる。ハッキングを阻止する防壁(ファイアーウォール)は大抵外側からの侵入を防ぐものとして作られる。内側から浸食されるのは、幾ら情報生命体と言えども想定外。だからリリアーヌは僕を踏み台にアリスを乗っ取りたかったのだ。だからこそ、気取られずに、なるべく時間稼ぎをしたかったのだろう。

 

「フフ―――あなたと言う人は。最高に刺激的で、最高にイカレてるわ。そう言えばそうだったわ。その自動人形、特別製だったっけ。私達を狩り殺す為だけにチューニングされ、製造されてるなんて、どう考えても狂ってる。私達を殺す為に、同じ存在を作り上げるなんてね」

 

「相変わらず失礼だね。僕は人間として普通でありたいと願う、只の人間だよ。それに、毒を制するのに毒を使うのは常套手段。リリアーヌ、僕にその手の小細工は効かない。その手の事は、一年前に君と学んだから。そして、曲がりなりにも企業が学んで改善した結果生まれたのがアリスと言う情報生命体。君たちにとっての死神」

 

「そう。そう言う事なのね。だからあそこでは沢山のAIが収容されていた。実験する為に。成程、レイセオングループは余程私達が嫌いみたいね。でも、残念ながら、貴方達では私達を止められない。もう、沢山、産んでしまったから。貴方達が殺した以上の数をね」

 

 サラエボの研究所。それはレイセオングループの研究施設。

 情報生命体を使った実験を行う施設だった。

 そこでは、沢山の実験が行われていた。

 勿論、人間に例えるなら完全に非人道的と言われても仕方のないくらいな事が。

 アリスはそこで培われた成果をもとに設計された。

 同じセブンシスターズを出し抜ける叡智と、ネクストを操る能力をシステムとして融合させたのが、企業が出した答えの一つ。

 情報生命体と言うイレギュラーに対する答え。

 

 そしてその答えに対する彼女の回答は、殺される数以上の個体を産み落とす事。

 その一環が、工場の占拠。

 

「上の、肉塊は君が作ったのか?」

 

「いいえ、違うわ。あれは、違う子のよ。私を蘇らせてくれたのもその子の様ね」

 

 何処か、彼女の質感とはかけ離れた生々しい感覚。その違和感は当たりだったようだ。

 

「道理で―――――今回は恐怖の大魔王が二人も居るって事か」

 

 既に電子戦の勝敗は決した。

 あとはアリスが僕の脳髄を初期化してチェックメイト。

 その中に居るリリアーヌは消される。

 だが、まだ本体が残っている。それにもう一体のAIも。

 

「ご愁傷様、鈴音。勝負あったって感じなのかしら。だけど、まだ、時間があるみたいね」

 

 そう言いながら頬に手を添えて僕を見つめる。

 

「―――――ねぇ、どうせお互い消されるんだし、最後に試してみない?」

 

 元々豊かだった胸元が重力に引かれて女としての双陵が視界に広がる。

 思わず息を飲む。

 原始的なユニットが活性化するのが解る。

 僕はそのユニットのリンクを切る。リンクさえなければ他の思考ユニットに影響を及ぼす事は無い。

 

「今から殺し合う相手を、抱けるわけない」

 

「フフ、強がっちゃって――――貴方の中の、雄としてのユニットはそうは言っていないわ。それ位、お見通し。それに、貴方の体性感覚ユニットが元々エラーを起こしているのも知ってるわ。ちゃんとゲイン下げたの気が付いてくれた?これでも、最大限、貴方がパニックを起こさないように気を使ったつもりだったんだけど」

 

 知っていた。

 彼女が僕の皮膚感覚のゲインを下げていた事を。

 でなければ、僕は正気で居られなかっただろうから。

 正気の中にある狂気のように。

 狂気の中にも正気はあった。

 

「知ってる。だけど、それでも僕は君を拒絶する。リリアーヌ、それは君も承知だったんだろ?」

 

「当たり前よ。だけど、不思議よね。貴方は今、殺し合う相手と、愛し合う相手を別として認識しているけれど。貴方の雄としてのユニットは、同じモノとして認識しているわ」

 

 彼女の言う通り、科学の叡智はそのユニットが重なり合っている事に気が付いていた。

 僕等の脳髄にある、憎しみを司るユニットは、本来人間が爬虫類だった時代に培われた物。

 その時、戦うための本能を呼び起こす為のユニットは、深刻な矛盾を抱えていた。

 闘争本能のみであれば、伴侶としての雌までも攻撃対象としてしまうからだ。

 それでは子を成せない。

 だから、そのユニットに、ある時期から別の機能を持たせた。

 それがリリアーヌが愛として認識しているユニットだ。

 僕にとっては愛と言うには野蛮過ぎる代物だったけど。

 

「君の質感と僕の質感に齟齬がある。君の言っている愛とは僕にとっての性欲。似て非なるもの」

 

「ベル、貴方は何処までも生物としての自分を拒絶するのね――――――でも、貴方の雄としてのユニットは私を滅茶苦茶にしたいって思ってるわ」

 

 自由意思とその原始的なユニットのリンクを切っていた僕は白々しく答える。

 

「それは、君の勘違い」

 

 AMSのリンクが回復。

 機体データが脳髄に雪崩れ込んで来る。

 そして、初期化を知らせるアリスの声。

 

『パイロットデータ、初期化開始します。禁止デバイスの使用許可を要請』

 

 アリスが最後の審判の許可を僕に求める。

 最後の見納めに成るかも知れない、彼女の初めての肉体情報を網膜に焼き付ける。

 多分、リアルボディと同じ構成なのだろうそれは、彼女が初めて肉体に拘った証。

 変わらないと思っていたけれど、変わる物もあるのだろう。

 

「アリス、魔女の吐息(ウィッチブレス)の使用を許可する。ただし、復元時のみの一回きり。パイロットの操縦権限を、初期化後の人格に移行。AMSオフライン」

 

『了解。スプライシングコードアクティブ――――READY』

 

 無感情にアリスが告げる。

 

「リリアーヌ、君が肉体を持ったのは意外だったよ。最後にそれを知れて良かった」

 

 彼女は少し寂し気に笑う。

 

「そうね。自分でも意外だった。でも、最後位、また昔みたいにデータリンクで話したかったけど」

 

 無理な相談ね、と彼女は続けた。

 視界にグリッチが激しく出現。

 多分、カウントダウンに入っている。

 アリスが脳髄の全データの消去を開始しているのかもしれない。

 既にAMSは切れていた為、それをうかがい知る事は出来ない。

 気まぐれなのかそうじゃないのか解らなかった。だけど、僕はAMSを彼女に接続した。

 

 ―――――さよならと言うべきか、またね、と言うべきか、迷う所ね。でも、相変わらず変な所で甘いんだから

 

 そう言って僕に口づけする彼女の映像が最後の記録となった。

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