ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第二話 In Fight

 ジェネレーターの奏でる共鳴音が相変わらずコックピットに鳴り響いていた。時折メインブースターが吐き出すプラズマトーチの乱れる音が聞こえる程度で、戦いの終った戦場の空は静寂その物であった。

 

 ひっくり返った戦車の残骸をメインカメラ越しにぼんやりと眺める。僕は数年前に歴史番組で見た湾岸戦争の映像を思い出していた。

 戦力に勝る多国籍軍の戦車部隊がサダムフセイン率いる戦車隊をボコボコにしたあれだ。

 

 当時、ソ連が作り上げた最新鋭戦車であるT72は非常に強力な戦車だと思われていた。だが、アメリカの誇る劣化ウラン弾と劣化ウラン装甲の前に敗れ去った。

 

 悪魔の様に恐れられていたT72は一転してキャビアの缶詰と呼ばれるようになった。それ程までにアメリカ軍のM1A1HA戦車の攻撃力と防御力は隔絶していたと言う証拠でもあった。

 

 公式には敵による損害は無いとされたM1戦車であったが、実際にはT72に撃破された記録があった。

 

 戦闘の詳細は伏せられていたが、そのM1を撃破したT72は燃え盛る友軍戦車の影に潜み、敵に発見される危険のあるアクティブ暗視装置を切り、撃破された友軍戦車の炎に照らし出されたシルエットだけを頼りに肉眼でM1戦車を砲撃したそうだ。

 

 それだけならM1の装甲を貫く事は叶わない。何せ、T72の主砲はM1の正面装甲を至近距離からでも抜けないからだ。

 だが、この戦車乗りは考えた。戦車の弱点についてだ。

 

 正面で一番装甲の薄い場所、それは戦車のターレットリングだ。砲塔と車体の継ぎ目であるここは、構造上装甲を施す事が出来ず戦車共通の弱点なのだ。

 

 砲手はそこにシルエットだけを頼りにして命中弾を叩き込んだ訳だ。初弾からそこを狙っていたと言う事は自身の砲の貧弱さを理解していたと言う事だ。

 

 自分の弱さを解っている相手程怖い物は無い。

 戦車乗り(しか)り、ノーマル(しか)り。

 

 だから僕は視界の奥で眩いばかりの閃光が現れた時に躊躇することなく緊急回避を行えた。 

  

 

 

急激な慣性変化によって機体が軋み、メインフレームに掛かる過負荷を警告するアラートが鳴り響く。

超高温のプラズマトーチが吐き出され、衝撃波と共に一瞬で機体を真横に移動させた。

 

 その機体の有った座標に圧倒的熱量を持った光の帯が通過していくと同時に勘だけを頼りに再び機体を違うベクトルに動かす。

 

 吐き出されるプラズマトーチの衝撃波を貫く様にしてもう一条のレーザーが通過していった。

 

「上手いな。教科書通りの見事な十字砲火だ」

 

 データログが勢いよく流れているのを横目で見ながら感嘆するように呟いた。

 相変わらず電波警戒機(RWS)の警告音は聞こえない。

 敵はレーダーを使っていない証拠である。これは勿論、逆探を避ける為だ。

 

 良く訓練されているし、対策も考えている証拠だ。

 

 そう思いつつ、メインカメラの画像処理によって割り出された敵目標に向かって射撃していく。

 

 吐き出される巨大な薬莢。同時に発射された有翼徹甲弾は、レーザー砲のレンズを射抜いていった。

 

 硝煙を残して残像の様に超高速で移動していくネクストは異次元の機動性を持っていた。

 

 ジェネレーターから無尽蔵に生み出されるエネルギーを糧にプラズマブースターを駆り、ビルの間を潜り抜けていく。

 

 それを追いかけるようにして別の超高出力のレーザー砲がビル群をチーズの様に切り倒した。

 倒壊したビルに潰される破棄された自動車達。

 

 その間を縫うようにして進むネクスト。

 

 プライマルアーマーによって空気を押しのけていくネクストの後ろには巨大な乱流。

 

 木の葉の様に舞う、道路脇の看板。

 

 超音速で移動している証である衝撃波は、辛うじて残っていたビル群の窓ガラスを軒並み粉砕していった。 

 

 長距離での射撃戦では不利と判断した僕は高揚感を抑えきれずにいた。

 剥き出しの害意と考え抜かれた戦術。そのどれをとっても、一朝一夕にできる物じゃない。

 

 機体のデータログは激しく動いていく。

 スタビライザー損傷と言うログが一番上に表示されていた。

 

 どうやら、姿勢制御機構の一部を持っていかれたらしい。

 機体のステータスバーに赤色で着色された部分を眺めながら、巨大なレーザー砲の砲身にマシンガンを打ち込む。

 

 粉々に粉砕された砲身が木の葉の様に空に舞い散るのを見届けることなく、ビルの陰に隠れた。

 

 その横をレーザー砲の光が通過していくと、額から汗が零れ落ちていく。

 

「成程、七面鳥の中に狼が混じっていたか。或いは不死鳥(フェニックス)の類か――――」 

 

 機体から送られてくる情報は、光の様に輝いて見える。それは何処か命の輝きにも似ているような気がした。 

 

「今回の戦闘は楽しめそうだ」

 

 そう囁いた言葉は焦げ臭いが立ち込めるコックピットに吸い込まれていく。

 戦闘用AI(アリス)は回避を推奨しているようだ。コマンドリストに撤退の文字が見え隠れしており、その文字は何処か子供みたいに(はしゃ)ぐ僕を諫めるようであった。

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