ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第二十話 Play Weasel 01

 防空指揮所の中は騒然としていた。

 それは、頼みの綱であるレーダーが全く正常に動作しなかったからだ。

 機械が届けてくれるはずの敵情報は、砂嵐に覆われ、機械が翻訳する情報は無意味なノイズの山であった。

 機械が翻訳できない情報は所詮人間にとっても無意味であったが、唯一確かな情報を届けていた。

 それは、彼らの所有していた機械が、敵側の機械に敗北したと言う事だ。

 

『どういう事だ!?何故我々のレーダーが使えない!?』

 

『敵のジャミングです!強力なECMが戦域に展開されており、我々のECCM能力を大幅に超えています!』

 

 そうしているうちに、陣地の一つが火の手に包まれた。

 つんざくような音が遅れて聞こえてきた。

 明らかに超音速物体がレーダーに突き刺さった音だった。

 ソレは、レーダーを粉々にし、更に車体を引っ繰り返した。

 その引っ繰り返された後には大きなクレーターが出来ていた。

 

『レーダー大破!大佐!此方のミサイルがアンコントロール!データリンクが遮断されています!』

 

 

『エスコートジャミングか!忌々しい!しかし、ミサイルには妨害源指向モードが付いている筈。馬鹿め、落ちてしまえ!』

 

 苦虫を噛み潰した顔をした大佐と言う男が、歪むような笑みを浮かべた。

 彼の言う通り、そのミサイルには内蔵されたアクティブレーダーシーカーが妨害されたときに作動する、妨害源指向システムが搭載されていた。

 古く使い古されたアルゴリズムだったが、それによって敵がレーダーを妨害すると、大抵ミサイルを引き寄せるのだ。

 だから、例え目つぶしされても、その光源へと向かうことは出来た。

 しかし、それも敵側は承知。

 

 

 遥か上空40000フィートを飛行していたパイロットたちは冷静に対処した。

 彼らの後ろ、数キロに迫った頃。

 コックピット内には、ミサイルが放つ紫外線を捉え、自動警告装置が音声で警告を放つ。

 しかし、彼らは動じない。

 それは、何時もの事(・・・・・・)

 

『ウィーゼル1-2、敵が撃ってきたミサイル此方で引き受ける!ジャミングを切れ!』

 

『ウィーゼル1-2、了解!タゲ、頼みますよ!ECM、オールカット!』

 

 即座にミサイルのアクティブレーダーシーカーは反応。

 一番近くに居た、先ほどの妨害源を見失う。アクティブレーダーシーカーは作動していたが、敵機体から跳ね返ってくるレーダー反射波が、新たな妨害源からのECMの電波に塗りつぶされてしまっていた。 

 当然、感覚器を潰された機械(ミサイル)はそれを知る由もなく、新たな妨害源へと誘導されるほかなかった。

 そうして引きずり回されたミサイルは燃料を失い、再び地面へと落ちていった。

 

『ウィーゼル1-4、ミサイルブレイク。同じく二発目も振り切った』

 

『此方ウィーゼル2-1、レーダーに新たな敵反応。車両型。930kg(MK84)JDAM(ジェイダム)で攻撃する』

 

bomb the way(爆弾投下)!』

 

 機体を平行に保つと、積層雲の遥か上から投弾される大型爆弾。その自由落下爆弾は衛星測位システム(GNNS)を元に目標地点の相対位置を認識。なんの痕跡も残さず、闇夜に紛れて地表へと滑空していった。

 次々と、地上の車両目標物に投下されていく大型爆弾は、それぞれの目標に最適な投下コースを辿っていった。

 地上では、それを知る由も無かった。

 それは、F16が携行していたECMポッドから発せられる妨害電波によって、フェイズドアレイレーダーが使えなくなっていたからだ。正確に言うなれば、使えはした。ただ、見えないだけ。

 機械が根を上げたノイズの山は、コロニー東京側の防空士官達を絶望させるに足る物だった。

 最も、彼らの諦めの良さは、同じ側に居るACを繰る傭兵達の知る処ではあった。

 何故なら、彼らは知らなさ過ぎた。

 実際に敵として敵防空網制圧(SEAD)部隊と闘う機会が余りにも少なすぎたのだ。

 それは一重に、彼らの母国の空軍が、SEADを行う仮想敵役(アグレッサー)部隊が居ない事に起因していた。

 結局の所、盾と槍は一セットなのだ。

 自らの槍に貫かれないだけの防空能力しか持てないと言うのは、訓練の原則から考えると、当たり前の事であった。だが、事、この島の人間達にとっては、それがイコールであると言う事実は殆どの場合で忘れ去られていたのだ。

 作れば安心とはいかない。

 戦場では昨日登場した新兵器が今日にも型落ちに成り下がる。

 新しい兵器や戦術が登場すると、また、それに対抗する戦術や兵器が開発される。

 そうやって、永遠に続くイタチごっこが日々繰り返されるのである。

 戦術然り、兵器然り。戦いで優位に立つと言う事は、相手より早く歩み続けると言う行為を指すのであって、第一歩が早い方が優位に立つとは限らない。

 磨かなければどんな名刀もあっという間に鈍らに転じる。

 それを忘れ去った心を一言で例えるなら慢心であり、その代償は文字通り彼等の血をもって贖われた。

 多くの場合のリンクス達と同じように。

 

 

 

 

 漆黒の闇夜に幾つもの火の手。森林の中にある車両群は、爆撃を受け、無残にその骸を晒していた。

 燃え落ちていない車両がその地獄から逃れようと、移動を開始するが、直後に巨大な火球。

 MK84爆弾が炸裂。空中炸裂(エアーバーストモード)で作動した信管は、地表からの反射波(エコー)を捉えて、極めて正確に高度15メートルで作動。

 VT信管を装備したこの巨大な爆弾は、その身に宿した死を、最大限周囲に撒き散らせるように調整されていた。

 数万以上もの弾殻が周囲を飛散。中には大型機関砲クラスの貫通力を誇る大質量の弾殻も含まれて居た。400㎏以上のTNT爆薬は、弾殻内で化学反応を起こし、自己圧縮。爆轟(デトネーション)と呼ばれる状態の反応を示す。それによって発生した衝撃波(ソニックブーム)は、それ単体でも十二分以上に危険であり、平均誤差半径(CEP)5メートル、最長滑空距離28㎞、危害半径が400メートル級のMK84からは、どう足掻いても逃げることなどできなかった。

 再び、漆黒の森で火球が出現。木々が、まるでカマイタチに遭ったかの如く、切り倒されていく。

 凄まじい威力の破片は、爆風では無く、破片で物体を切り刻んでいった。

 その衝撃波に釣られて、一部の飛散物がノーマルACの複合装甲を叩いた。

 鐘を鳴らすかの如く鳴り響く轟音。

 細長いパイプのような物が、比較的装甲の薄い肩部装甲に突き刺さる。

 静かに息を潜めていたACのパイロットはそれにカメラのピントを合わせた。

 ソレは、車のプロペラシャフトだった。余りの爆風の凄まじさに、周囲の物体までも凶器に染め上げてしまうその死の塊は、再び漆黒の暗闇を照らし出す。

 

『―――――各機、絶対に動くなよ。今動けば攻撃機(イタチ)に食われる。イタチが兎に変わる瞬間を待て』

 

 F16の発する死の電磁波が時折コックピット内のESM警報機のスピーカーを鳴らす。

 周波数帯を連続的に変えているらしい同レーダーは、明らかに逆探を避けるようにして電波帯を分布させていた。

 極めて洗練された対地レーダーの周波数ホップパターンは喰い殺した蛇の数の多さを物語っていた。

 どうやれば蛇が尻尾を出し、どうやれば効果的に蛇の息の根を止められるか。

 それを、永遠と戦場と言うフィールドで磨き続けてきたシステムは自らのシステムより格上。そう、本能的に感じ取った彼らが取れる戦術はやはり一つだけ。

 待ち伏せである。

 彼らの搭乗するACは主機が落とされ、十分に冷えていた。それに加え、高性能擬装ネットによって赤外線も十二分に遮蔽されており、地上索敵レーダーと赤外線捜索追尾システム(IRST)の目をも誤魔化していたが、無線電波だけは放出していた。

 普通なら電波管制を行うが、彼らは違う。

 優先すべきは隠匿。だが、それをしない場合もある。

 それは相手に敢えて狙わせる場所を作る事。

 戦いでは予測不能な事態が起こる。

 大体において敵の出方が解らない時にそう言った事態が起こりうるのだが、敵の出現ポイントが絞れる場所が戦場には幾つか存在した。

 所謂チョークポイントと呼ばれる場所であり、待ち伏せに最も適した場所でもある。しかし、広大な戦場でそれの特定は困難。ならば自分で作り出せばいい。それは既に経験則としての彼らの血肉であった。

 

 敢えて電波を発する事でそれを成す。

 しかし、命の安売りは負け戦の元である。

 だから値切った。敵の命の値段を。

 いや、正確には偽装したと言うべきだろう。彼らのACから伸びる有線ケーブルは林の奥に伸びていくと、その先には無線電波発信用アンテナ。

 そう、彼らは自らの作り出したキルゾーン内に通信用アンテナ(・・・・・・・)を配置した。

 謂わばそれらは疑似目標。デコイである。

 

 

 ――――さぁ、たらふく食って、ブクブクに太ってくれよ

 

 

 そう囁き、蒸し暑いコックピット内で静かに息を潜めていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 遥か上空を明るく照らす紅の光は、燃え盛る車両群の物であった。

 その残骸を作り出した狩人は雲の上から静かに地上を索敵する。

 地表捜索レーダーは、電磁波対策を怠った敵車両を余すところなくあぶり出した。

 ドップラーシフトと合わせて電波画像解析システムが、人工物を特定する。現代のアクティブフェイズドアレイレーダーは高い周波数帯域を使っており、その恩恵により高い解像度を誇っていた。

 だからこそ、電磁波の帰って来る微妙なタイミングの違いによって起伏を読み取る事が出来、その物体の凹凸が解るのだ。それを解析システムが画像化する。それは所謂、画像解析用AIであり、アリス達の親戚でもあった。

 その彼女達が示した敵性情報原を虱潰しに攻撃していくF16戦闘機は、大部分のウェポンベイを空にしていた。

 

『ウィーゼル1-3、敵情報を更新、新たな電波発信を確認。――――チッ、また無線電波かよ。一体どれだけビーコンを隠し持ってやがるんだ』

 

『そう怒るな。手練れた敵がこの手のデコイを好むのは何時もの事。気を抜かない方がいい。どうやら只の七面鳥の中に本物の毒蛇が紛れ込んでいるようだな。こっちは残りのJDAMを落とす。敵の尻尾が見えない以上、叩き続けるしかない。援護頼むぞ』

 

『そうだったな。“見えないなら、撃たせればいい”だった。ったく。狂ってるよな、俺たちも。蛇の巣穴にわざわざ飛び込んでいくなんてさ。安心しろ!撃ってきたらちゃんとぶち込んでやるさ!』

 

 F16のパイロットがスロットルレバーをA/B領域まで押し込むとプラット&ホイットニー製F110エンジンはアフターバーナーを点火。毎秒8.7リッターの燃料を吹き込みながら白い炎を吐き出すと、12.9トンもの推力を発生させて機体を加速させていった。

 

 

 

 常軌を逸した行動。普通ならそう思われても仕方がない行動であったが、本来マングースと言う生き物はそういいう習性を持つ物であると知っていた地上の傭兵達は冷静に対処した。

 しかし、予想外の出来事があった。

 

 ―――――予想以上に敵の目標破壊率が高い、このままだと爆撃隊が到着する前に、囮が尽きる

 

 破壊され続けるデコイは全てキルゾーン内に設置していた訳では無かった。

 敵も当然警戒してくるし、それを織り込む事は傭兵として当然の事だった為、幾つか攻撃されずに破壊させ、兵装や燃料を消費させてから本命のキルゾーン内の囮に誘導されるよう設置していた。

 

『こちら、ハウンド1-2、スネーク2-3、聞こえるか?』

 

『こちら、スネーク2-3、感度良好。まだ通信ユニットは破壊され切って無いようだな』

 

『ああ。だが、予想より通信ユニットの破壊ペースが速い。この調子だと我々の無線電波は自機から発せなければならなくなる。そうなれば奇襲はままならん。予定外だが、敵のボマーが来る前に戦端を開く。スネーク2-3、ヤツ等がSAMの掃射で高度を下げたら、キルゾーン内に居る敵機を狙い撃て。射撃ポイントの捨てるタイミングはそちらに任せる』

 

『此方スネーク2-3、了解。嵐が起こる方が先だったか。これは荒れるかもしれんな』

 

『そうだな。出来れば嵐の中心に成りたくは無かったが…仕方あるまい』

 

 無線電波に紛れてスピーカーから轟音が巻き起こる。それは、巨大な炎を巻き起こすとアンテナユニットを粉々に吹き飛ばす。

 

『此方ハウンド2-4、ポイントデルタ付近の囮が全滅。もう直ぐイタチがキルゾーンに入り込んで来る』

 

『ハウンド2-4、歓迎の花火はお前で決まりらしいな。盛大に上げてやれ』

 

『解ってる、歓迎してやるさ。――――――敵機、接近。攻撃開始する』

 

『了解。こちらハウンド1-2、全機幸運を祈る。狩りの始まりだ』

 

 近くの無線送信ユニットが再び火柱に包まれる。その炎に照らされて、背の高い草むらに偽装された軽量型二脚は静かに大型地対空ミサイルを肩に構えており、地対空型のACは丁度キルゾーンを取り囲むようにして配置されていた。

 

 彼等は静かにその時を待った。

 

 ―――――――上空の支配者が地上に降りて来る時を。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 敵防空網制圧任務は順調に進んでいるかと思われた。

 事実、敵側の主力であった中SAMの陣地が簡単に落ちたため、彼らは拍子抜けしていた。

 そして、安堵は疲れの裏返しでもあった。彼らは爆撃機到着前から空域で待機していた為、かなりの疲労が蓄積していた。極度の緊張は人から集中力と判断力を奪っていく。

 その事実は疲れた本人たち程、認識し難い。

 だからこそ、傭兵達は待ったのだ。

 

『ウィーゼル1-3!ミサイルブレイク!―――――クソっ!何で警告(アラート)が鳴らねぇ!?』

 

『ウィーゼル1-1!敵のレーダー反応無し!繰り返す!敵のレーダー反応無し!敵位置不明!』

 

 無数に射出される旧式の大型ミサイル。不思議な事に上空のどの機体にもレーダー波は照射されていなかった。

 しかし、それは発射のタイミングを隠すための物だった。

 セミアクティブ誘導式のミサイルは、イルミネーターの反射波を捉えてミサイルを誘導させる。

 だから、その電波は容易に敵機に受信される。しかし、逆に捉えることも出来た。電波を照射せずにミサイルだけを放つ事は出来た。その場合、敵機には何のアラートも鳴らない。

 勿論、敵機の機首に搭載されたフェイズドアレイレーダーの索敵範囲外から撃つ必要はあったが。

 幸いなことに、上空の敵機は、肉眼でミサイルを捉えて回避行動に移ることが出来た。

 

 

 

 しかし、それも織り込み済み、と言わんばかりに隊長機は静かに佇む。

 左肩に装備された大型イルミネーターは、冷戦時代に作られた物であったが、今でも十分に使える事を彼は知っていた。

 

 ―――――さぁ、もっと回避行動を取れ。そして高度を下げろ

 

 空の戦いで発見の遅れは致命的。既に十分すぎる程、敵機とミサイルの距離は縮まっていた。

 目測でミサイルを放った内の一発が、丁度敵機の未来位置に到達しようとしていた。

 

 ―――――安いミサイルは良い。沢山撃てるからな。目視でばら撒くには丁度いい

 

 ついにその時は来たと言わんばかりに主機を入れる。

 

『システム、起動。パイロット認証を開始します。お帰りなさい。レイヴン―――――』

 

 鋼鉄の猛獣に魂が灯る。

 電気系統に流れ込むエネルギーは機体の隅々まで行きわたると、機体を統括するシステムに問題ない事を伝える。

 無機質な合成音は再び空気を揺らす。

 

『メインシステム、戦闘モード、起動します』

 

 化学反応で加熱した燃料電池から取り出した熱が、蒸気タービンを回す。

 そのタービンの奏でる音はジェットエンジンのようにパイロットの鼓膜を揺らす。

 メインモニターに電気が灯ると、機体のステータス画面が表示。

 その後ろには夜空を映すメインカメラの映像。

 無数の火の玉が夜空に白い尾を引いて撃ちあがっていく。まるで白い檻のように見えるそれは、つい先ほど、戦端が開かれた証拠。

 

「ようこそ、地上へ――――」

 

 そう言って、隊長はイルミネーターの電源をオンにした。

 その瞬間、夜空に立ち昇って居た無数の白い蛇が、キルゾーンに迷い込んだ一匹のマングースに鎌首を向け、喰らい付いた―――――

 

 

 

 

 ミサイル接近警報とロックオン警告は同時。

 キツツキのような鳴き声と共に、不気味に鳴り響く電子音。それはコックピットで遠心力に耐えるパイロットの耳に届く。機械が警告を発するまでもなく、キャノピーの外に無数の光が接近しているのがパイロットからは確認できた。Gロックしないよう、必死に意識を保つ彼の体には既に体重の8倍近い荷重が加わっていた。

 

『――――――――――pull up!』

 

 人工音声が地表との激突を警告する。低高度での機首下げを行うパイロットには解り切った事であったが、そうしなければミサイルに激突する。

 半ば強引に機動を行い、ミサイルを振り切らんとするが、既に窓の外に幾つもの爆炎。

 無数の破片が飛び散り、幾つかの破片がキャノピーを貫通。急激にコックピットの気圧が下がる。

 だが、既に地表近くに居たため、意識を即座に失う事は無い。

 しかし、既にそこは地上付近。

 無数の蛇が犇めく地上に入り込んだイタチを待ちわびたかのように、一斉に大型スナイパーキャノンが撃ち込まれた。

 

 

 音速の8,7倍近い速度で撃ちだされた侵徹体は、距離2000メートルから発射された。

 到達まで半秒ちょっとである。

 時速800㎞メートルで飛行していた航空機に対して行われた射撃。通常なら避けられる筈だった。

 だが、侵徹体の飛翔速度が桁違いだった。

 分厚い大気中を飛ぶF16は速度が低下する。高度100メートル以下と言う超低空では、戦闘機も本来の速度性を出せない。

 彼の戦闘機が半秒に移動できる距離は約220メートル。戦闘機の機体の大きさからすると、狙えないスピードでは無かった。

 異次元の姿勢制御能力を持つネクストを狙う為に訓練された傭兵には、落とすことが不可能な目標ではなかった。

 

『ウィーゼル1-3!応答しろ!ウィーゼル1-3!』

 

 必死に叫ぶパイロットのレーダーから、味方の光点(ブリップ)が一つ消えていた。

 

『ウィーゼル1-1!後ろにミサイル!ブレイク!ブレイク!』

 

『いつの間に!クソ!一体どれだけミサイルを撃つ気だ!』

 

 必死に操縦桿を握るパイロットの視界、そこには再び白い蛇が無数に鎌首を擡げていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 オレンジ色の光線が夜空に一瞬だけ煌めくと、その先に小さな爆発。

 巨大な薬莢がエジェクションポートから排出。

 装薬機から子供の体程の大きさの弾薬が出現すると、ローダーが薬室に押し込んでいった。

 

『スネーク2-3、目標破壊。次弾装填、APFSDS。爆撃隊も到着した模様。順次砲撃を開始する』

 

『了解した。よくやった。敵は戦域を離脱中―――――――いや、奥に新たな熱源。爆撃隊とは別の奴だ』

 

『此方ハウンド1-2、此方も熱源を確認、敵のAC部隊かもしれん。長居は無用だ。爆撃機をある程度狩ったら撤収する』

 

『『了解』』

 

 その横で、ひたすら射撃を続ける重装型四脚が装備する大型滑腔砲からは湯気が立ち昇っていた。

 一時的な制空拒否は叶った。彼らの囮戦術によって敵機の同時対処能力を上回ったからだ。

 傭兵部隊の隊長は初めからある程度解っていた。戦争では数が多い方が勝利すると。

 それは、よほどの事、通信を完全に遮断され、連携不能になったりしなければそうそう覆る事は無い。

 無論、ネクストと言う例外はありはしたが。

 

「―――――今回はパックスの死神が居なくてホッとしたぜ」

 

 幾つもの巨砲の咆哮が吐き出す輝き。それに紛れながらそう呟く隊長は、撤退のルートを指示していく。

 殺し合いは勢いも大事だが、引き際も肝心。それは、ネクストと言うイレギュラーに対抗する事が如何に大変な事か、知り尽くした彼ならではの心得であった。

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