ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第二十一話 Play Weasel 02

 つい半時間前まで漆黒の暗闇に包まれていた夜空は、墜落して燃え盛る航空機の残骸や、撃破された地上車両から出る光で煌々と照らされている。その中を静かに飛ぶ垂直離着陸(VTOL)機の一団は匍匐飛行で市街に接近していた。墜落した航空機の残骸から漏れ出した燃料が引火しているようであったが、それらが木造家屋を薪のようにして、幾つもの火の手が廃墟と化した市街地から上がっていた。

 爆音を轟かせながら街並みを縫うように飛ぶ機影。突然その内の一機が火を噴いて落ちていくと、地面と激突、巻き散らされた燃料が引火し、辺り一帯を火の海にした。

 

『クソ!ハンター2-3がやられた!着陸地点は制圧したんじゃなかったのか!?』

 

『此方サンダーヘッド、どうやらSEAD部隊が敵のSAM部隊に派手にやられたらしい。目標周辺、未だクリアならず』

 

 ヘリの横をオレンジ色の帯が超高速で通り過ぎる。遅れて、衝撃波。

 巨大な侵徹体の起こす衝撃波は搭乗員達に容赦なく襲い掛かる。

 

『見りゃ解るよ!おい!高度高過ぎる!狙われてるぞ!』

 

『これ以上は無理だ!地面に突き刺さっちまう!』

 

 卵を巨大化させたような小型ヘリには兵士達が吊るされるようにして搭乗していた。

 左右に張り出した搭乗座席は文字通り宙に浮く様にして兵士を運ぶ。凡そ真面な神経なら即座に乗る事を拒むスタイルであったが、彼らは何の事もなくそこから銃を撃ち放つ。

 

『喋ってないで下の敵を撃て!民兵共、此方が企業の手先だって解った瞬間撃ってきやがった!RPG!飛んで来るぞ!クソッタレ!クラスターで纏めて始末してくれりゃ楽だったのによ!』

 

 廃墟の中からオレンジ色の火を噴きながら飛んで来る砲弾。音速と同程度の速度で飛翔している砲弾は音とほぼ同時に通り過ぎていく。安定翼を展開したそれは、携帯用対戦車ロケットだった。

 

『仕方ねぇ!リンクスも居ねぇ。それに爆撃機も大分やられちまってて、それどころじゃない!俺たちで道を切り開くしかない!』

 

『ネクストは何処に居る!?どうしてヤツが見当たらない!?』

 

『そりゃ、地下に潜っちまってるからだよ!集中しろ!もう直ぐ着陸地点だ!』

 

『畜生!それにしたって喰い残し過ぎだろ!三時方向!敵RPG!』

 

 大型の7.62mm弾を発射するHK417を撃ちながら隣の兵士が答える。朽ちた民家の軒先に居た民兵は血しぶきを上げて倒れ、手からロケット砲が転がり落ちた。

 その上を爆音で駆けていくヘリコプターは、無人大型ヘリの残骸を飛び越えると旋回を始める。

 

『お喋りは終わりだ!着陸地点確保!アプローチに入る!爆撃機が開けた大穴に落ちるなよ!』

 

 着陸地点には巨大な縦穴。超大型貫通爆弾を同じ地点に連続で撃ち込まれて整形された縦穴は、地下施設まで続いていた。

 その横に順次着陸していくヘリから無数の兵士達が一斉に降りると、周辺の警戒に当たる。

 

『ブラボーチーム降下完了。アルファ、デルタチームも降下中。周囲に敵影無し。繰り返す。周囲に敵影無し』

 

『ご苦労だった、ブラボーチーム。引き続き周囲を警戒せよ。アルファ、デルタチームは施設内に突入後、サンプル(・・・・・)を回収しろ。施設内には未確認型ナノマシンの散布が確認されている。対NBC装備を怠るな。以上』

 

 無線のやり取りが終わる頃には全ての降下部隊は展開を終えていた。

 建物の影からは大型のキャタピラ型ACも見える。歩兵支援用に降りたノーマルACだった。

 周囲の民兵達はその姿を見てか、蜘蛛の子を散らすように消えていった。

 

『了解した。ミッションを続行する』

 

 そう言って無線を切る兵士の横に巨大な影。もう一台のキャタピラ型ACが通り過ぎていくと、進路上に放棄されていた戦車を踏みつぶしていった。

 

「相変わらず迫力あるな。戦車よりデカいってだけで、こんなにも威圧感があるもんかネ」

 

「デカいだけじゃねぇよ。重いんだよありゃ。AC三機吊るせるキャリアに一機しか詰めねぇなんて、重すぎるにも程がある」

 

 そう言いつつ、その二人の兵士は戦車を紙細工の如く踏みつぶしていく様子を眺めていた。

 実際には、旧式の戦車より新しい複合装甲を張り巡らせた局地戦用ノーマルACは二足歩行型ACの物に比べて異次元の防御力を誇っていた。

 局地戦用と言っても実際は極端な重武装から橋や川などの天然の地形に邪魔されて移動が困難な場合が多いためにそう言われるだけで合って、弾薬の数やAPなど、それら全て持久戦に必要な値はどのノーマルよりも優れていた。

 実際、その場に居た二機のキャタピラ型ACには合わせて16門の90mmオートキャノン砲、計4800発の予備弾薬を携行しており、それこそノーマルAC一個中隊規模の火力に匹敵した。

 つまり、その戦場で戦車以上の防御力と攻撃力を持ったその兵器に戦いを挑む敵などいなかったと言う訳だ。

 たかが、ネクスト一機が行っていた作戦を通常戦力で補おうとすると途端に大規模な物に成る。

 新たなイレギュラーであるネクストが登場してから企業が学んだ最初の実戦データであったそれは、既に企業にとっては当たり前の事実であった。

 その為、レイセオングループは自社の直轄部隊以外に同じ旧アメリカ陣営であるGEグループに支援を要請したのだ。通常戦力に不安を抱えた同社の泣き所でもあった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 降下作戦から数十分前、レイセオングループ本部では事態の急展開に対応すべく会議が行われていた。

 突入していたネクストから重要な情報が寄せられたのだ。

 

「目標が同施設に居る事は間違いないわけだな?」

 

「はい。間違いありません。“声”の使用も確認したとの事です」

 

 キャロルは何かを続けて言おうとして躊躇った。それは予定外の横やりである、GEグループの部隊派遣であった。本来であればレイセオングループ単独で片付けられれば良かったのだが、予想以上に目標の動きが急であった為、急遽、同社のネクストを含む精鋭部隊が派遣された。

 通常の規格に収まる脅威ならそれでも良かったのだが、彼女にはリザと言う怪物が数に物を言わせてどうこうなる存在では無いことは身を持って知っていた。

 炭素系生命体の有機系演算ユニットを自在に操るマインドハックや、その他、機械を自在に操る力は人の概念を大幅に超越した物だった。

 事実、地下施設に突入していた所属不明部隊は既に、彼女に脳髄を乗っ取られ、完全に“無力化”されていた。

 生身、それも只のセクサロイドに降りただけでその有様。もし、かつての様にネクストに搭乗、無いし憑りついたとしたら、被害は計り知れないものに成る。それ位は解る、そう思い彼女は言葉をつづけた。

 

「――――大丈夫なのでしょうか。あのような増援を寄越しても……」

 

 彼女にとっては鎧に包まれた人間など、只の踏み台に過ぎない。その踏み台が扱う兵器が強力でれば有る程、彼女の手駒は強くなる。それは謂わばライオンに餌を与えるような物である。

 

「気にすることは無い。これはGEが望んで行った事だ。我々が無理強いをしたわけでは無い」

 

 それは、ある意味冷酷な事実を示す。派遣された部隊には具体的な目標の脅威は示されていない。つまり、囮、そう言う事だと彼女は理解した。

 

「ですが、GEの上層部が黙っているでしょうか…」

 

 キャロルの心配はそこからレイセオングループとGEの企業間戦争に発展しないかと言う心配であった。幾ら通常戦力が有り余るほど所有しているGEグループと言えども、むざむざ情報を開示されなかった為に愚策とも呼べる戦力の逐次投入と、戦線の拡大を強いられたことを快く思う筈がない。

 当然、その反動は原因となった自分達に向かう可能性もある。そう考えたのだ。

 

「案ずるな。上との話し合いはついている」

 

 彼女は何処か、聞き出したい答えを探るように言葉を探すが、それに気が付いたのか主任が答える。

 

『キャロリン、心配し過ぎ。撤退しろって言った所でそう簡単に行くわけないよ。柄じゃないだろうしね、ルーキーがあの程度で死ぬわけ無いし。―――――――ま、あのセブンシスターズに選ばれた魔女の眷属に、死、と言う概念が許されるかどうか、根源的な問題もあるだろうしね。それに、企業(GE)の連中も見たいんだよ。魔女とやらがどれだけの"可能性”を秘めているかをね。きっと楽しませてくれるよ、あのAIは』

 

 楽しませてくれる、と言う所に含みを持たせたその言葉、それはまるでこれから始まる殺し合いを待ちわびるかの如くであった。

 

「我々は、脅威を正しく認識する必要がある。文字通り、血という贖いを持って。さすれば、企業は二つの答えを見つけ出すだろう。AIという脅威にどうにか対処しなければならないという事と、それをコントロール出来た者が次の覇権を握るという事だ。千葉鈴音は我らと機械仕掛けの神との契約なのだ。その契約が履行される限り、全脳の神(アリス)は我々に豊穣と繁栄をもたらし続ける」

 

「だが、我々のコントロールを離れた機械仕掛けの神は、死神と同義である。だから、生贄が必要なのだ。その異形が人類種にとっての脅威であると認識する為に」

 

 人類と言う種にとって、数百人、数千人と言う単位は、履いて捨てる程度の犠牲だと彼は言いたいのだとキャロルは理解した。

 企業家とは元来、数字で物事を測る物だと彼女は知っていた為、生贄に捧げられる人間達が決して少なくない事も予測していた。

 それだけ、彼女の部下である鈴音と、第七世代型AIという人類が作り出した最後の存在は世界を根底から揺るがす可能性を持っていたと言う事でもあった。

 だから人は恐れ、慄き、恐怖し、崇める。神とは、何時も力とセットで存在していた。悠久の時を経ても尚、人類の中に住み続ける、人智を超えた存在に対する思いと言うのは変わりなく存在してたのだ。

 

『――――――アステカの太陽神は、人々に豊穣をもたらす代わりに、多くの生贄を必要とした。ま、そう言う事だよ、キャロリン』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 丁度、GEの突入部隊が突入坑周辺を制圧した頃、コロニー大阪から一機の巨大輸送機が飛び立っていた。六発のターボファンエンジンに、全長八十メートルはあろうかという巨大な翼。 

 企業が作り上げたネクスト専用巨人輸送機。それは、ネクストという汚染源を迅速に戦地に運び込むための棺でもあった。

 コジマ粒子を放出した状態で運ぶ訳にもいかず、必然、露出して運ぶ際にはPAは展開不能となる。だが、それでは降下時に丸裸となってしまう。

 そのため、この輸送機には巨大な密閉型貨物室が備え付けられていた。

 内部にはコジマ粒子を安全に隔離できる隔壁を備え、機体回収時にネクストの装甲版に付着した汚染物質を洗浄できる除染用シャワーなども取り付けられていた。

 既にこの手の機体は、国家解体戦争時から各企業で整備が進められていた。なにしろ、稼働時間が短いネクストを如何に効率的に運用するかが、命運を分ける戦場において、時間とは即ち命にも等しいからであった。

 勿論、企業側が数的劣勢を補うために、戦術的、戦略的機動性を突き詰めた結果でもあったが、それらの歩みは現在のネクスト運用の基本となっていた。

 

『―――――――こちら、ウォーハンマー、状況開始、これより突入抗に向けて降下する』

 

 重々しい音と共に、気密を保つ防護壁が開かれ、中から巨大な人型兵器が自由落下軌道に入る。

 それは半透明の膜につつまれており、企業が誇る最新鋭兵器であるネクストであった。

 ゆっくりと高度を下げていくその下には巨大な穴があり、その中はまるで深淵に続くかの如く漆黒の暗闇。

 

『こちら、サンダーヘッド、確認した。目標へ降下してくれ。尚、下層部で味方が交戦―――――…して――――…』

 

 GE社のネクストはその縦穴に接近していくと、その途中で無線に不気味なノイズが走り出す。

 

『よく聞こえない、もう一度言ってくれ。繰り返す、此方ウォーハンマー、サンダーヘッド、応答願います』

 

 途切れ途切れ聞こえていた無線音声も遂には不気味なノイズに飲まれてしまう。リンクスは何度か前線指揮官に連絡を取ったが、応答はない。

 悪態を付きながら近くのノーマルACに通信を試みようとした瞬間、再び無線から音声。

 

『―――――……こちら、サンダーヘッド。ウォーハンマー、応答願います』

 

 安堵から、ため息を付くリンクス。

 

『漸く通じたか。サンダーヘッド、電波状態が悪い。もう一度、先ほどの内容を繰り返してくれ、オヴァー』

 

『どうやらそのようだ。漸く此方のECCMが効き始めた。施設の下から強力な妨害電波が放出されているようだ。念のため、データリンク用のチャンネルを155へ変更してくれ』

 

 先程のノイズまみれの音声とは打って変わってクリアな声が響いて来る。

 

『了解した。データリンク127から155へ、変更する』

 

 リンクスはその命令通りにデータリンクを変更した。

 彼はタッチパネルを操作して、全ての情報の出入り口を無線の主の指定したチャンネルへと変更した。

 

 

 

 ―――――――――確認した。デジタル暗号化コードを転送する。受信次第、解凍してIFF識別コードを変更せよ

 

 

 

 その声は深く仄暗い地の底から聞こえる声の如くであった。




ここまでお付き合いいただき、有り難うございます。
無駄な歩兵描写入ってますが、すみません…ACネタって歩兵活躍するイメージ少ないので、歩兵に焦点を当てたかったんです…
次は、ちゃんと主人公視点入ります
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