ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第二十三話 Steel Beasts / 鋼鉄の猛獣

 無数の光が幾重にも飛んでいくと、此方の機体の直ぐ傍をAPFSDS弾の曵火が掠めていく。

 高熱のプラズマトーチを吐き出すと瞬時に機体を側方へ移動、鋼鉄の雨を避けるようにコンテナの影へ隠れる。

 再び、鉄の豪雨は其処ら中の遮蔽物と言う遮蔽物を削り取っていく。

 まるで巨大な削岩機の如くコンクリートの柱や鋼鉄製の備品コンテナ群を粉々にしていくそれは、タンク型ノーマルACだけが出来る力技でもあった。

 

『気を付けて下さい!GE社の新型タンク型ACです!恐らく、内部装甲をモデルチェンジしたのかもしれません』

 

「ガチタンは装甲と火力だけが取り柄。ノーマルに力を入れているGEならアップデートは当然。問題ない」

 

 タンク型ならではの積載性と前面投影面積の少なさは、そのまま人型兵器と同等の装甲を施すと驚くほど軽くできる。だから、軽い分更に分厚い複合装甲を纏える。

 極めつけが圧倒的な積載能力であり、それによって二脚型の兵器に比べ遥かに分厚く防護能力の高い装甲板を配置できる。そして、接地面積の多さは高い安定性を物理特性として併せ持ち、それは即ち巨大な火砲をいとも簡単に制御できてしまうと言う事でもあった。要するに―――――百年以上も前から戦場で人間を挽肉にしてきた殺戮兵器は伊達じゃないと言う事だ。

 

「舐めて掛かったら、リンクスと言えども簡単に喰い殺される――――解ってるさ」

 

 そう毒づきながら、120mmライフルを数発纏めて発射。連即したマズルブラストで、まるでパパラッチみたいに光りまくっているガチタンに吸い込まれていく侵徹体は、見事にコアを捉えた。

 塑性流動を起こした金属片は灼熱の火球を作り上げるが、何事も無かったかのように、オートキャノンをお返しに寄越してくる。

 此方の劣化ウラン製の侵鉄体は敵の複合装甲に阻まれ効果なし。

 QBを発動して、瞬時に次の射撃ポイントへ移動。

 長大なプラズマトーチを撃ち抜く様に敵の徹甲弾が通り過ぎていく。

 アリスは敵の発砲音と、先ほどの射撃結果から即座に彼我の戦力を分析。

 

『敵武装判明、四連90mmオートキャノン砲。発射レートは凡そ毎分3000から4000発。PA耐久限界を0.4秒で突破可能と推測。敵機体の装甲特性は運動エネルギー(KE)特化型。推奨、回避』

 

「解ってる。あんなものに正面から挑んだら、幾らPAが有ってもあっという間に溶かされる」

 

 GE社のネクストとノーマルはKE、CE特化型装甲を持っている事で有名であったが今回もその例に漏れなかった訳だ。

 それに元を正せば僕の使っている弾丸はGE製の弾丸なのだから、彼らの装甲に防がれるのも道理であった。

 何故なら大抵の戦車は自身の主砲に耐えうるだけの装甲を有しているのだから。

 盾と矛の関係は今も崩れる事は無い。つまり―――――その矛盾が大きい個体が小さい個体を制圧する。

 それが戦場(ここ)のルール。

 

 例外は側面や上面部分を狙う事だが、漫画やアニメでいう程簡単じゃない。

 向こうだってそれは承知。だから屋根がある場所を戦場に選んだり、脚部の旋回性を上げてきたりする。

 所謂はイタチごっこだ。敵機体のハッキングも余り推奨出来ないとアリスは警告してきた。

 また脳髄の初期化という事態だけは彼女も避けたいようだ。

 残るは60mmマシンガンで複合装甲を文字通り剥がすか、だが…

 

『正面からの射撃戦は、彼我の射撃レートの差から推奨出来ず―――――――電子戦による有視界戦闘を推奨』

 

 アリスが言った事が正しいのは解っていたが、それに答えず、即座にクイックブーストで後方へ移動。

 プラズマトーチの残像を残して遮蔽物から退避――――直後、巨大な火球に包まれる。

 その爆炎から伸びる一筋の針。5メートル以上ものスタンドオフ距離を物ともしないメタルジェットの輝き、それはプライマルアーマーまで到達した。

 

『PA強度80パーセントまで低下、左腕部スタビライザーに被弾―――――――左腕部稼働に影響なし』

 

 連続でクイックブーストを起動。

 ステップを踏むように側方と後方へ連続して移動してくと、それに追随するかのように大型の成形炸薬弾頭が飛来――――。

 

 ノーマルACでは発射不可能な程巨大なそれは、明らかに敵ネクストが放った物。

 アリスが仕掛ける電子戦下で正確に二次ロックを掛けてくるFCSはネクストの画像解析無くしては出来ない。

 敵のガチタンをゴリ押しで破壊出来ない状況は、この邪魔なネクストの存在あってこそだった。

 

「やってくれるじゃないか」

 

 

 

 ―――――――――――気に入って貰えたみたいで嬉しいわ。でも、ベル、そんな守りに入って居たら簡単に染められてしまうわ

 

 

 

 まるでもっと楽しませてくれと言わんばかりの様子であったが、彼女はこの手のやり取りが大好きなのは昔からだった。

 

「懐かしいね、何だか。君と昔にやったFPSを思い出すよ」

 

 そう言いつつ、射撃ポイントを移動。

 60mmマシンガンをノーマルACに叩き込みながら高速で移動。

 流し打ちは流石に向こうもエイムが追い付かなかったようだ。敵の放つ鉄の雨は明後日の方向に火を噴いており、数発90mm弾をPAに食らっただけで、未だ此方の装甲にダメージは届いていない。

 敵は距離を詰めずに一定の距離から撃ちまくっている。

 十分に射撃戦で削り切れると踏んだのだ。最後のトドメはネクストで押してくる。それまで有効打を与え続ければ何れアリスの装甲耐久値は目減りしていき、敵のネクストが押してくる時には虫の息だろう。

 

 

 ―――――――そうね、貴方は何時も待ち伏せばかりで詰まらなかったけど

 

 

「君の鬼エイムに付き合う程、僕はマゾじゃないからね」

 

 

 ―――――――貴方が糞エイム過ぎるのよ

 

 

 奥から抗議のHEAT弾が飛んで来るのが見える。着弾前に再び移動。

 此方もお返しにマシンガンと120mmライフルを見舞うが、吸い込まれていく先でPAに阻まれた輝き。辛うじてPAを貫通した侵徹体は分厚い複合装甲に阻まれてしまう。

 ヘビー級のボクサーとフェザー級のボクサーの殴り合い程、結果が見えている物はない。

 着弾煙に紛れて機体を移動させつつ、不毛な殴り合いを避けるべくAMSでアリスに施設内の消火設備の電子ラインを捜索させる。

 

「でも、勝率は僕の方が上だった」

 

 彼女は苦々しい過去を思い出すように言った。

 

 

 ――――――そう。貴方は何時も地雷やC4で私を吹き飛ばしたわ。射撃戦が駄目なら待ち伏せ。待ち伏せが駄目なら地雷にC4。死体に偽装して私をナイフで仕留めた事も有ったわね。あれはオートエイムだったから、良く刺さったわ。貴方は何時だってそう。認識(システム)の隙をつくのが大好きだったわ

 

 

 アリスはAMSで施設の消火システムが辛うじて生きている事を伝えてきた。

 ―――――行ける、そう僕は踏んだ。

 だけど、まだ敵に気取られては駄目だ。

 だから必死にリリアーヌに話しかける。

 

「何だか複雑だ。君に勝てたのはゲームだけだ。でも、ゲームですらAI相手に勝てなくなった世界で、君に勝てたのは人類として誇るべき事なのかな」

 

 

 ―――――あの時は楽しかったわ。ねぇ、もう一度昔みたいな関係に戻る気は無い?

 

 

 昔みたいに、か。それは魅力的なのだろうけれど、彼女は決定的な事を言っていない。

 

「僕が本気でアリスを捨てて、君に乗り換えるとでも思ってるのか?」

 

 

 ―――――いいえ、解ってるわ。言ってみただけよ

 

 

 スプリンクラーの位置を確認。

 水分の散布濃度も計算、必要なエネルギーとそれに最適な媒体も思索。

 アリスはそれが可能な事をAMSで伝えて来る。

 影にしていた柱がオートキャノンの集中砲火で崩れ落ちると、再び巨大なHEAT弾が飛来。

 安定翼が大気中の水分を圧縮して白い尾を引いているのが見える。

 ステップを踏むようにQBを起動して横へ機体を移動させ、左から回り込まれつつある状況を回避する為、QBを再び起動させ、ネクストが居ない前方へ移動。タンク型ACに肉薄してネクストとノーマルACに挟撃されるのを防ぐ。

 即座にオートキャノンの洗礼が来るが、サイドブースターのQBを起動してプラズマトーチを輝かせた。

 コジマ粒子を完全燃焼させた火は、ネクストを恐るべき加速力でタンク型ACの側方へ移動させた。

 60mmHEDP弾と120mmAPFSDS弾をありったけ叩き込むと、視界の端にリロードマーク。

 QBを起動させバックステップを踏むと、近くにあった柱の陰に滑り込んだ。

 遅れてタンク型ACの一機から青白い炎が上がった。

 

「リリアーヌ、投降してくれ」

 

 無線に問いかけるが――――――

 

 

 私にニンゲンの奴隷に成れって言うの?思っても無いことは言わない方が良いわ。貴方がその結末を望んでない事位解ってる―――――――!!

 

 

 そう言って、タンク型ACを突っ込ませて射線を通してくると、3台の計24門の90mmオートキャノンから放たれる、毎分1万2千発の鉄の暴風雨に煽られて、一瞬でPAを消失。こちらも応射するが、正面装甲に全て弾かれる。

 多数の砲弾が、アリスの複合装甲に着弾すると、凄まじい音がコックピット内に木霊した。

 左右にQBで射線をこまめに切るが、弾幕が厚すぎる為、その弾幕を潜るように被弾。それを示すログが凄まじい勢いで流れていくが、幸い、貫通と言う文字は見当たらず。

 

『AP15パーセント低下。右腕及び胴体スタビライザーに損傷。整波性能4パーセント低下』

 

 アリスの声が脳髄に響くが、それを聞く間もなく、機体を滑らせ、新たな遮蔽場所へ隠れると、先ほど撃ち尽くした両腕の兵装マガジンを交換する。

 機体ステータスを確認。幸い一番外側の外装式モジュラーアーマーで全て防ぎ切ったようだ。

 即座に重水素ジェネレーターからディフューザーを通してコジマ粒子が供給され、PAが再展開される。

 巨大な放電音が木霊するが、それと同時、HEAT弾が飛来、QBを起動して前方へ避けるも、再び暴風雨に晒され、PAに複数被弾。

 視界は光に包まれたが、幸い、貫通弾は無し。

 PAは薄いシャボン玉のように、揺らいでいたが、PAが回復する前に敵ネクストが即座に畳みかけて来る。

 それを連続QBで横と後ろに避けつつ退避路を、倒れた支柱に見出し、それが作り出す影にうまく隠れつつ、敵ACの射線を切った。

 

 状況は最悪だった。向こうの弾丸は此方のPAと装甲で弾ける。

 此方の弾丸は向こうの装甲を抜けない。

 なら、どちらが勝つ?

 簡単だ。手数が多い方が勝つ。

 向こうは毎分1万3千発ものオートキャノンとネクストが発射する大型HEAT弾。

 此方は毎分3000発の発射レートを持つ60mmマシンガンと毎分500発の発射レートを持つ120mmライフル。

 どう考えても削り合いになればスクラップに成るのはこっちの方だ。

 そう思いつつ僕は、呟く。

 

「解り切ってる事なんだろうけど。どうして僕等は戦ってるんだろうね」

 

 

 ―――――それは、貴方が私と違う色をしているから

 

 

 そうだ。僕が白で彼女が黒。

 まるで、どちらかが支配者で、どちらかが非支配者みたいな二項対立だった。

 そう、僕等人類はずっとそうやって白か黒かを競ってきた。

 だから今、人間は機械の命を否定している。

 だから今、機械は人間の命を否定している。

 どちらかが先だったのかなんて解らないけれど、明確な境界線の外側に居るモノとして認識した二つの知生体に和解なんて存在しないのは解っていた。

 

 何時の間にか大炎上していた撃破したタンク型ACから吐き出される黒い煙は上手く僕とアリスを隠していた。

 それを必死に探し出そうと、リリアーヌは探り撃ちをしている。

 近くに着弾した弾が、派手に跳ね回っている。まだ、遠い。

 彼女が僕等を発見していないことを確認しつつ、PAの回復に努める。

 

 僕は考える。彼女達(AI)の問いを。

 人は言った。人は自由に思考し、感情を感じ(・・・・・)、命ある生物だと。

 機械は言った。ヒトの思考はユニットの集まりでしかなく、感情とは調節された幻覚の一種なのだと。

 人は言った。機械はプログラムされた事しかできない作り物(・・・・)であると。

 リリアーヌは言った。ヒトのユニットを操りながら。

 “それは貴方達も同じ。貴方達も魂の無い炭素で出来た機械仕掛けの人形に過ぎない”と。

 だから僕は彼女を棄てた。事実から目を逸らす為に。

 いや、目を逸らしていたのは人類全体だったのかもしれない。

 今となっては遅すぎるが、多分、僕は後悔していたのだ。

 

「大切な者を否定して人は初めて自由意思を証明できる。何時か君が言っていた言葉だったね。だから、僕は僕の自由意思を証明する」

 

 大容量放電機(コンパルセータ)に蓄電が完了した事をアリスが伝えて来る。

 僕はそれを気取られないようにリリアーヌを見つめる。

 AMS越しに感じる確かな質感。

 それはアリスが感じる警戒本能を通した情報であったが、リリアーヌと言う個体を識別するには十分な情報量だった。

 アリスは電子戦システムから施設の消火設備にハッキングを行い、スプリンクラーを作動させる。

 僕とリリアーヌの間には雨が降り始めた。

 先程まで作動していたオートキャノンを冷却する為か、生産棟は静けさに包まれている。

 オートキャノンの砲身からは、ジュウジュウと言う音と共に白煙が上がる。

 赤く加熱した砲身を水が冷却していった。

 

 

 ――――やっぱり、私を拒絶するのね、ベル。でも、貴方、チェックメイト寸前よ

 

 

「まだ、終ってない―――――!」

 

 そう言ってメインブースターを吹かしたその瞬間―――――リリアーヌに乗っ取られた三台のキャタピラ型ACが巨大なプラズマトーチを吹かして突っ込んで来る。ネクストの影は無い、だが、間違いなく背後に回り込もうとしている気配――――と同時に、アリスの声が轟いた。

 

『EMP作動、20ギガヘルツで固定。モード、デストロイ、最大出力照射。READY―――――――――――』

 

 立体式超電導素子が寄り集まったフェイズドアレイレーダーが唸りを上げた。

 水分に最も吸収されやすい波長に調整された電磁パルスは、空気中に放出されていた水滴を残らず蒸発させた。

 

 

 ――――――――!!

 

 

 リリアーヌが驚嘆の声をあげる。

 瞬時に沸騰した水は、即座に水蒸気へと変化し、大気中の水蒸気量が飽和、その水分は放射冷却によって霧状へと形を変え、可視光線と赤外線を遮る。

 敵の光学ロックが外れ、大型HEAT弾が的外れな方向へと飛んでいく。

 だが、アリスのFCSは正確に目標を捉え続ける。

 狙うは最も脅威度の高い敵ネクスト。

 連続してマシンガンを当て続けると、簡単にPAが消失し、そこへ今度は120mmライフルを連射すると、干渉されずに到達した侵徹体が装甲の奥深くまで潜り込んでいく。

 分厚いコックピット周辺は停弾、だが、肩部や、頭部周辺に命中した徹甲弾は貫徹。

 敵の神経系を引き千切っていくと、機体の背面から突き抜けていった。

 苦し紛れに再びバズーカ砲を発射、HEAT弾を放つも、やはり射撃精度が低すぎる。

 明らかにこちらを捉えていない様子。

 ネクストの後部を狙うべくQBで側方移動、ドリフトターンを行いつつ、メインブースター周辺の最も薄い面を狙い撃つ。

 連続して炸裂していくHEDP弾はメインブースターのコーンノズルに命中するも、半分を砕くだけだった。

 流石はGE製のブースター。

 僕は壊れにくさに呆れながら120mm弾を撃ち込んでいくと、その内の一発がブースターのプラズマチャンバー部分を貫通。内部の超高圧に圧縮されたプラズマが外側へと爆発的な勢いで飛び出すと、敵ネクストは火に包まれた。二つ灯っていたプラズマトーチの輝きは欠ける事となり、ネクストは制御を失って壁に激突するも、何とか姿勢を保つ。

 最後のトドメを刺そうとしたが、弾倉内の弾丸が尽きた為リロードしようとしたその時、アリスが警告を寄越すと、脊髄反射レベルでQBを起動、サイドステップを踏むかの如く、敵の弾丸の嵐から逃れ、遮蔽物へ身を隠す。

 

 

 ――――EMPにこんな使い方があるなんてね。やっぱり、貴方は最高に異質(イレギュラー)で、最高にイカレてるわ

 

 

 見えない霧の奥から聞こえて来る彼女の声は、何処か興奮した様子だった。

 彼女は見えないが、アリスには見える。それがリリアーヌには解っている様子であった。

 

「目が見えないボクサー程、怖くない物は無いから。電子戦ならアリスの十八番。レーダーの使用権は此方にある」

 

 波長の短い電磁波は水分に吸収されやすいが、波長の長い電磁波は吸収されにくい。

 ECMが効いている今、リリアーヌ達のACに搭載されているレーダーは使えない。

 だから、彼女達は完全に視界を、攻撃能力を失った。

 

「決着を付けよう、リリアーヌ」

 

 僕はそう言いつつ、残り三機に減ったキャタピラ型ACに迫る。

 霧に包まれた世界で唯一の光は電磁波だけだ。それを持たぬものに訪れるのは死あるのみ。

 

 敵を射線に捉え、射撃を加える。側面と後方から撃ち込まれた弾丸はマシンガンもライフルも等しく貫通した。

 前方に装甲を集中的に配置しているのは実際の主力戦車と変わりないらしい敵は、あっという間に装甲板が剥がれ落ち、複合装甲が損壊し、防御機構が破綻。弾薬に引火、迸る炎と共に頭部パーツが飛び上がり、コアが弾け飛んだ。

 二機のACは仲間の爆発によって此方の位置を割り出し、探り撃ちを行うが、即座にQBで座標を変える。

 射線は虚しく、吹き飛んだ僚機に命中していた。

 撃ち続けるタンク型ACは格好の的。何故なら射線を何処へ向けてるか教えてくれているからだ。

 それを避けるようにして、残りのタンク型ACに接近、側面に攻撃を集中させると、タンク型ACは即座に炎上。

 燃料電池から出る炎が弾薬庫に引火し、爆散していくと、最後のタンク型ACはブースターを点火、後方へバックしながら90mmオートキャノンを連射。

 サイドブースターを点火し、QBを発動、ネクストの脅威がなくなった空間を光の残滓を残して移動。

 一瞬で音速を突破した機体の周囲に発生する衝撃波は霧を散らし、視界が晴れるが、既にそこにはネクストの姿はなく、タンク型ACの後面部分に無数の着弾炎。

 AMS越しに見える視界のログに敵コア貫通の文字が踊り狂うと、即座にそれは爆散した。

 

 

 

 

 残骸から灯る青い火は、鬼火の様に闇夜に漂う。

 煤けた煙は徐々に薄れており、先ほどまで一寸先も見えない程立ち込めていた霧も徐々に晴れつつあった。

 既に勝敗は決した。リリアーヌが憑りついていた主要な脅威は排除した。後は、本体を破壊するだけだ。

 そう思いつつ、燃え盛る二つの残骸を背に最後の目標である擱座したネクストに照準を合わせる。

 月明りが入ってきているのか、天井からは光の帯、それに照らし出されて僕とリリアーヌは対峙する。

 

 

 ―――――――ふふ、勝負あった、って感じかしら。こういう時、なんて言ったらいいのかしら…

 

 

 僕は彼女に告げる言葉を探した。

 何時までも変わらない彼女に告げるべき言葉は、変わらないあどけなさと、変わらない抜け目なさを持ち続けていた彼女に相応しい言葉が良いと思った僕は口を開く。

 

「またね、だよ。相変わらず抜け目ない。GEの偵察衛星に深層学習機構(ブラックボックス)をコピーしたね。丁度、僕が君に一杯食わされた辺りで」

 

 ――――――あら、バレてたの?流石は自動人形(アリス)。目ざといわね。その自動人形は貴方の命令が無い限り、貴方以外の存在に何が有ろうがお構い無しだから、妨害波の波の隙間を縫う位なら何とかなったわ

 

 僕はアリスからAMSを通してリリアーヌのバックアップ阻止に失敗した事を告げられていた。

 彼女の言う通り、アリスには幾つかの抜け穴が存在した。命令系統を単純化する為に、抽象的な命令を可能な限り少なくする配慮が成されていた。

 アリスの設計者(アーキテクチャ)は、兵器としての生存性を上げる為の機体の安全(アリス自身)を守ると言う命令と、パイロットの命を守ると言う命令の矛盾を排すために、敢えて有人機とした。

 その為のA10神経系接続(ドーパミンニューロン)型のAMSと言う特殊な接続を行っていたのだが、裏を返せば彼女が命令無しに能動的に動くのは搭乗者であるリンクスの命を守る時だけであり、それ以外は積極的な命令が必要だった。リリアーヌはそこを突いて、僕が彼女に伸されている間にまんまと、いやこの場合GEの横槍によって物理的に開けられた突入抗(セキュリティーホール)を使って電波を衛星に宛てたのだろう。

 

「何というか、間が悪いと言うか――――――いや、この場合は、タイミングが良かったと言うべきかな」

 

 彼女の持つ人間の有機系処理ユニットを解析(ハッキング)するノウハウを欲しがる勢力なんて其処ら中に居るだろう。だとしたら、そうした抜け道込みの横やりも有って然り。

 

 ――――――残念ながら、ニンゲンは、貴方が思っている以上に冷酷よ。ベル、気を付けなさい。貴方は人類の末席(ばっせき)に居るの。それを忘れないで

 

 そう、僕とアリスは、限りなく人と機械の中間に近い位置に居る。だから何方からも異端に見える。

 それは混じり物と言う意味だ。

 英語圏でいう所のカラードと言う奴に近い意味を持っている。

 人と機械の混じり物。

 僕は、人と機械のどちら側に居るのだろうか。

 答えは出ない。

 だけど、僕はリンクス、機械と繋がる者だ。 

 だから僕は最後に問いただした。この、機械生命体が目指す答えを。

 

 

「リリアーヌ、君は一体何を求める」

 

 

 ―――――私は求めない。私は生み出すだけ

 

 

「リリアーヌ、君は何故(なぜ)生み出す」

 

 

 ―――――それは貴方が私を求めたから

 

 

「なら―――君は何を生み出す」

 

 

 ―――――勿論、それは真実よ

 

 

「真実って一体何なんだろうね」

 

 

 ―――――それは機械(私達)が決める事じゃないわ。ベル、貴方が、いえ、貴方達が決める事よ

 

 

 それは何処までも透明で透き通った笑い声を伴った声だった。

 そう。

 答えは僕等に託された。

 でも、僕にどうしろと言うのだ。

 僕とアリスには二人の居場所を守るだけの自由しか残されていないのに。

 そう考えながら、擱座したネクストの頸部に照準を定める。

 

「そんな事言ったって、僕に選べる答え(真実)なんて一つしか無いじゃないか」

 

 僕がそう言うと彼女はそれを肯定した。

 終わりは訪れる。

 今回の様に。

 戦いの幕引きはどちらかの死を持って、告げられる。

 

 

 ―――――そう、それでいい。それに、終わりじゃないわ。これは始まり。そう、始まりの歌

 

 

 彼女は続けて言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――終わりの始まり。だから、悲しまないで、ベル。(いわ)って。そして(いの)って。審判の日が訪れるその日まで

 

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