ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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ソラの歌
扉を閉じる者達1


 宇宙というフロンティアが開かれたのは遥か昔。

 最初に兵器を高度100㎞まで飛ばしたのは彼のドイツ帝国であったが、彼らの作ったV2ロケットは衛星を積んでいなかった為、人工衛星を打ち上げて晴れて宇宙と言う未知の空間を使い始めたのは別の国になってしまう。

 だが、それに関わった彼らの多くはソ連とアメリカに渡っており、その技術の粋は受け継がれる事に成る。

 そして人類は遂に月の地を踏むに至る訳だが、当然その開発には兵器としての側面が色濃く残った。

 巨大な建造物を月まで飛ばせると言う事は、そのままそれを地上に落とせば大惨事を引き起こせる訳であり、その貨物室に大型核弾頭を搭載したのが大陸間弾道弾(ICBM)であった。

 米ソは競って宇宙開発を進めたのは、この弾道弾の開発競争の為であったと言っても過言ではなかった。

 そして時は進み、国家軍は別の意味で宇宙を支配する重要性を認識し始める。

 その切っ掛けとなったのは全地球測位システム(GNNS)の登場だった。

 あのサダムフセインを打倒した砂漠の嵐作戦では、広大な砂漠を道に迷うことなく味方と歩調を合わせて行軍できたのは一重にデータリンクとGPS、つまり全地球測位システム無くしては有り得なかった。

 地図とは偉大であるが、常に自身の場所を特定するのに多大な労力と練度が必要になるわけだが、アメリカが開発したGPSは誰にでも簡単に、そして即座に自分の位置が解るのだ。

 これがどれだけ革命的だったかは、フセイン率いる親衛隊が超えられないと思っていた砂漠からアメリカ軍の機甲師団が大挙して進軍した事からも推し量れる。

 航空機に関してもGPSは革命的な航行システムを提供したし、船舶についてもやはりこの手の測位機器無しには難破の危険が常に付きまとった。地上電波局が知らせる方位情報を基にした位置も、陸地から遠く離れれば、これらの支援は受け取れず、そうなればより精度の低い昔ながらの天測を用いる他ない。

 こういったレトロな方法で太平洋を越えた人間も居ただろうが、大海原の厳しさは18世紀の多くの水兵とその船を飲み込んでいった事を鑑みれば、今の航行システムが如何に安全であるかが解る。

 それはこの新技術無くしては有り得ないのだ。

 だからこそ各国は挙ってこの手の測位システムを開発、配備した。

 ロシアはGLONASS、ヨーロッパはガリレオ、アメリカはGPS、中国は北斗システム、それぞれの超大国は、それぞれ独自の規格を作っていった。

 21世紀初頭、東西冷戦が終わり、それらの衛星測位システムが商業用として多大な利益をもたらすと知った各国は、そのシステムを民間で使えるように、衛星が発信している時間シグナルのスクランブルを一部解除した。

 それによって、カーナビやその他民生用の同システムが高い位置取得精度を得た事は記憶に新しいが、それら全ての国家が当たり前のように使用している地球測位システム(GNNS)には大量の人工衛星が必要だった。

 この種の衛星は高度二万キロメートルを飛行しており、所謂、準静止衛星軌道であった為、これらの衛星は地上から観測しやすい位置にあると言えた。

 それもその筈、地上からそれらの衛星の持つ原子時計から作られた正確な時間情報を地上でキャッチする事によって相対距離を算出するシステムなのだから、複数個、そう言った衛星を打ち上げる必要があったのも道理である。

 一般的なGNNS精密誘導兵器には十数個以上の衛星補足数が必要と言われており、その状況を常時満たそうとすれば、自ずと高度二万キロメートルの大平原が衛星で埋め尽くされるのも想像に難くない。

 

 そして、それらの衛星が寿命が尽き、墓場軌道まで移動しても尚、宇宙(そら)と言う空間は人間にとって狭すぎた。

 文字通りの意味で。

 狭いと言うのは悪い事だ。狭ければ縄張りを争う機会が増えるし、争いを防ぐ為に国連が作った宇宙条約には高度100㎞より上は国際的な共同スペースと言う体が成されたが、それが形骸化するのも時間の問題だったと言う事だ。アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ、それぞれの国が運用するGNNSが常時30機以上の航法衛星を持ち、それが高度二万キロメートル付近を飛んでいるのである。とんだ過密具合だ。バックアップ機や、故障で廃棄された衛星を含めると軌道上には無数の飛行物体がひしめき合っていた。

 準静止衛星軌道であるため、地球はあたかも碁盤の様に見えただろう。

 かつて青く輝かしい色合いを持っていた地球も、国家が解体された現在の宇宙から覗けば塵のようなデブリに囲まれ、その外側には多くの衛星がまるで陣取り合戦を行っているかの如くひしめき合っている姿であろう。

 

 それらのゴミや敵対的な衛星を監視する為、各国は宇宙開発と言う名目で、危険な衛星をマークするようになった。勿論、かつてのアメリカが名打ったSDI防衛構想と言う、極めて煽動的な謳い文句を潜めて。

 システムとしての構成が極めて類似、言い換えると全く同じでも名前が違い用途が違うと、人と言うのは違う物だと勘違いし易いのだ。

 宇宙開発と戦略核兵器運用が似ているように、衛星の運行上の安全を確保する為のステーションとシステムは、SDI防衛システムに極めて類似した物であった為、それを使い潜在的敵国の衛星を即座に破壊する、と言う考えが浮かぶのは当然の事だ。

 

 それを、廃棄された衛星が軌道を勝手に(・・・・・)外れたと言う名目を付けて自国のミサイルで撃ち落とすと言うのは、一般人からすると真っ当な行動に見えるが、内実共にそれは兵器としての側面しかない示威的な威圧行動に他ならなかった。

 それが明確な示威行為となり得るのは、全ての現代兵器はデータリンク無しでは成立しないからだ。イージス艦然り、ステルス戦闘機然り。

 これらの最新鋭兵器に搭載されている通信機では見通し線以上の距離での通信は、殆ど不可能と言っていい程制限される。だからトランスポンダーとしての通信衛星を使うのだが、これを破壊されてしまえばECMでジャミングされるまでもなく、その国の軍隊の武器は只の火の出る玩具に成り下がる。

 データリンクの使えなくなったイージス艦やステルス戦闘機の代表格であるF22がそのいい例だろう。

 自ら電波を発してしまえばステルスなど意味は無くなるし、イージス艦の長距離レーダーも水平線の下まで見通す事は出来ない。

 それに同兵器はシステムの制約上、イルミネーターの数上の目標に同時着弾させることができない。

 それなのに何故、アイギスの盾などと大仰な名前が付くかと言えば、装備されている艦対空ミサイルの射程が百キロ以上と、一昔前の高射砲の数十倍以上の距離から一方的に航空機を攻撃できたからである。

 勿論、見通し線の中に敵機が居ると言う前提が付く。これが覆されるのはデータリンクが使える時に限る。

 だからこそ、その兵器と対峙する潜在的敵国は挙って衛星攻撃兵器、所謂ASATと呼ばれる兵器を所有した。

 戦争初期に敵通信衛星及び、GNNS衛星を破壊してしまえば幾ら数に勝る敵軍であってもJDAMや巡航ミサイルなどと言った精密誘導兵器の代表格的な物を封じれるし、敵軍同士の連携も崩せる。そうすれば、ランチェスターの法則宜しく、自軍に有利になる状況を作りやすくなる事は明白だ。

 それは、先の例に出した湾岸戦争や、ロシアが指揮したチェチェン紛争、ユーゴ空爆などで、国家軍が真っ先に潰したのが敵の通信網だったのがいい例だ。

 

 そう、それが戦いの定石。

 青信号で渡って赤信号で止まる位の当たり前の常識だったのだが、ここで真面な軍人たちなら気が付く。

 一体誰がその通信網や、重要施設の場所を特定するのだ、と。

 技術者がそれに答えを出す。

 それは偵察衛星網だ。

 高度200㎞、惑星低軌道を飛ぶそれらの観測衛星は地表に存在する車のナンバープレートを識別出来るほど高い解像度を誇り、場合によっては人間の顔すら認識できた。

 当然、それらは敵対的な都市や町、その中に住む人間の人数、更には敵対的組織のメンバーが潜んでいるか否かを探り当てるツールと成り、精密誘導兵器をしかるべき場所へ、しかるべき時間に叩き込む事が出来た。

 サダムフセインの機甲部隊の布陣位置や、ロシアのICBM発射基地の場所、石油備蓄基地、弾薬集積所―――――それら重要目標を正確に観測できるツールは正しく神の目の如くである。

 だからこそ、各国はそれらを真っ先に潰したかった。

 

 話が戻るが、戦争の先陣を切るのは決まって衛星攻撃兵器(ASAT)だった。

 それが、ネクストが登場する前から続く、戦場の火蓋。

 そして、今、それが切られようとしていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 大型ディスプレイに映し出される映像は何処かの地下基地を構造体として浮き上がらせたものだ。

 それは巨大な岩盤で出来た山をくりぬいた、対核戦争用のシェルターを兼ねた構造だった。

 アメリカ合衆国が冷戦時代に建造した、人類の最後を見届ける場所として、そして人類に最後の鉄槌を下す場所としてあるその場所は、敵国が放つ核の炎に耐えられなければなかった。

 でなければ、それを放った敵国へ、核攻撃を指示できないからだ。だからこその大型地下建造物であったが、その場所は偶然にも(・・・・・)航法衛星を安全に運行する為の監視所として機能していた。

 通称、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(ノーラッド)。GE社が接収した旧アメリカの施設の一つだ。

 

「今回の依頼はGE。目標はこのGPS衛星(・・・・・)です」

 

 写真が変わり、今度は円筒形の物体に無数の丸型のタンクが群がった様な衛星が映し出される。

 アンテナ類は殆ど見えず、表面には無数の整波装置と思わしきフィンが立ち並び、円筒形の先には砲身と思わしき細長い構造物が見える。そして姿勢制御用にしては多過ぎるブースター類。明らかに通常の酸化剤を噴出するタイプではなくプラズマチャンバーを持ったクイックブーストの類の物だろうそれは、同衛星がコジマ兵器の類である事を示す証拠だった。

 

GPS衛星(・・・・)?アメリカンなブラックジョークにしては笑えない」

 

 キャロルは顔色一つ変えずに続ける。要するに無視された。

 

「同衛星はローゼンタール領の空域を侵犯、彼らは迎撃を試みたようですが全て失敗したとの事。数時間前に再び目標は軌道変更を行い、高度1万9千キロメートルまで飛行高度を下げてGE領空内に再び戻りつつあります。依頼主はGE領内への被害を考慮して撃墜を敢行したいとの事ですが、見ての通り、通常兵器では歯が立たない状況です。ですから、我々にお鉢が回ってきた訳です」

 

 写真が変わり、先ほどのGPS衛星が無数の火に包まれている映像が流れる。

 恐らくはICBMを改造して作られた対大陸間弾道弾迎撃(GBI)ミサイルの洗礼を受けている同衛星は、まるでそよ風を受けるかの如く悠然(ゆうぜん)宇宙(そら)を飛び続ける。自動迎撃用レーザーの洗礼を抜けてたどり着いたミサイル群は全てプライマルアーマーに弾かれてしまう。

 その合間に砲身から何かを何度も迸らせていた。おそらく、あれも迎撃機構の一種だろう。

 

「目標は自立型自己防衛機能を持つ衛星群に属する個体です。GEの標準的衛星の一種ですが、旧アメリカ大陸上空から何らかのトラブルで軌道を外れたようです。原因はこちら側に知らされていませんが…先日のリザの件もあります。レイセオングループ上層部も見逃せないと判断したのでしょう。ローゼンタールに我々と同様の依頼が出されたようですが、その悉くが失敗している模様です」

 

 画面に映る映像には灯台より二回り以上も大きく巨大なICBM。それが画面を埋め尽くすかの如く飛翔しているのだが、“何か”が掠める度にスライスハムのように輪切りにされて巨大な火の玉に包まれていく。

 この様子だと、先ほどの衛星に到達したミサイルの数十倍以上の数の迎撃ミサイルを放っているのだろう。

 核弾頭を積むはずだった世界中の平和の使者(ピースキーパー)を薙ぎ倒していく様子は何処か皮肉めいている。恐らく、今回の迎撃用に換装され外された核弾頭だけで人類は十回以上絶滅できただろう。平和になったのか戦争に近づいたのか解らない所では在るが、今回は確実に後者の方だろう。

 

「今回のミッションでは我々、レイセオングループ、GEの子会社であるクーガー、そして今回オブザーバーとしてお越しいただいたAEGの提携先であるフィン・メカニカの技術スタッフが協力して行う事になりました。あと、非公式ですが、ローゼンタールの技術スタッフも作戦に加わる事となりました」

 

 そう言って後ろに控えていた面々を眺めると見知った顔が幾つかあった。

 マヤにユキはAEG関連で納得だが、桃色の髪を後ろで纏めているトーコは予想外だった。

 そう言えばローゼンタールだっけ。

 

「よろしく、少年」

 

 トーコは予想以上に手広くやっているらしい。

 

「つきましては作戦の概要ですが、今回の依頼に関しては各企業間の最新技術を持ち寄ってネクストを大気圏外へ投射する運びとなります。その為、規格外の兵装を幾つも用意しました。その一つがこれです」

 

 そう言ってキャロルは液晶画面を切り替える。

 そこに映し出されていたのは、巨大な外付けブースターだ。

 見た目は巨大なロケットと言う感じであったが、コジマ粒子を貯蔵する丸いタンクが幾つもブースターに張り付いていた。

 

「今回用意されたのは、GPS衛星(・・・・・)打ち上げ用に使われていたブースターの三段目となります。ここからは、このブースターの製造を手掛けるクーガーの技術スタッフに説明を変わっていただきます」

 

 そう言ってキャロルが後ろに下がると、眼鏡をかけて痩せこけた男が慌てて画面の前に立つ。

 

「ええー。このブースターは元々数千トンクラスのペイロードを持つ惑星外探査用に作られた大型コジマブースターなのですが…訳あって(・・・・・)静止衛星軌道上に超大型物体を打ち上げる為に用いられている物を、ネクストに合うように調整を施した物です。ですので、えー、ソフトウェアの調整と…兵装との連動に一部難があり…

その為、レイセオングループの第七世代型AI専用の装備となります。調整が終われば、順次予備のネクスト搭載する事も可能となりますが…」

 

 煮え切らない態度を崩さない男は僕の方へ視線を寄越す。何時の間にかキャロルまでもそれに加わっており、僕がそれを測りかねているのを見越したのか、彼女はすぐさま説明を入れた。

 

「難航すると思われる姿勢制御系を全てアリスに任せる事に成ります。その調整が上手く行き次第データを予備機であるAEGのネクストにも書き込む算段となりますが、データの出し入れに少々手間取る可能性もありますので、あくまでも可能性の一つとして軌道上へのネクスト投入を視野に入れています」

 

 そう言い終えると、再びクーガーの技術者が話し始める。

 

「本装備を呼称上、ヴァンガード・オーヴァード・ブースター(VOB)と呼びます。今回の依頼で用意させて頂いた

VOBは全部で7基。その内2基がネクスト用にアタッチメントを改造してあり、残りの5基は此方となります」

 

 画面には再びVOBと呼ばれる巨大なコジマロケットが映し出されるが、今回の物には先端に巨大な弾頭が付いていた。

 整波装置が巨大なビットカッターの様に見えるが、恐らくは弾頭内に何らかのコジマ兵装が格納されているのだろう。

 

「此方のペイロードにはコジマ弾頭を装備させました。詳しくは軍事機密なので伏せますが、此方の弾頭には防御機構が搭載されており、ある程度の光学兵器及び実弾兵器を無効化する仕組みが搭載されています。そしてこいつの要が搭載された重水素ジェネレーターの暴走機構です――――――要は簡単なコジマ爆発を発生させる装置ですね」

 

 そう言って彼はご自慢の最新鋭コジマ兵器について熱く語り出した。

 説明を要約すると単純明快、要するに電磁パルスを抑えた戦術核に匹敵する破壊力を持つ弾頭、と言う事らしい。

 PAがコジマ粒子を対流させ、防御機構を付加させられているのは広く知られているが、その周りにコジマ粒子をばら撒いてやると粒子干渉の影響でPAを減衰させることが出来るのだ。

 これを利用して自称GPS衛星が持つ防御機構を破綻させることを目的としている用であった。

 それにしても、大規模な作戦だ。

 企業がこれだけ集まって何かをすると言う事は、それだけ予想される損害が大きいと言う事だ。

 それを測りかねた僕を尻目にキャロルは再び説明を始める。

 

「今回これだけど企業の方にご賛同頂いた訳は一重に、同GPS衛星が落着した際に発生させ得る災害の規模によるものとご理解下さい―――――」

 

 そう言ってキャロルは落着予想地点と予想されうる死傷者数を表示する。

 僕はその数字を見て絶句する。

 

 

 

 

 ――――――え…?40億…?

 

 

 

 

 しん、と静まり返る会議室。

 有り得ない。

 そう、僕はたかが数千万人が死ぬくらいだろうと思っていた。

 数メガトンクラスの核弾頭が市街地に落ちたら、確かこの位の死亡者数だったから。

 死傷者に換算すればその倍位は行くだろうが、40億は行き過ぎだ。

 地球人口の半数が死滅する計算になる。

 衛星の重さは解らなかったが、PAによる空気抵抗減衰効果によって大気圏突入時の空気抵抗による減速が余り期待できない以上、静止衛星軌道からの落下エネルギーは想像を絶するようだ。

 理論上は軌道投入時に消費された運動エネルギーがそのまま瞬間的に放出される訳だから、想像を絶するのは仕方のない事だろうが、それにしても大きすぎる気もする。

 僕が疑問の声をする前にクーガーの技術者が話し出す。

 

「プライマルアーマーは高い空気抵抗抑制機能を持ちます。空気抵抗の塊であるネクストを音速の二倍近い速さで飛行させることからも想像できると思いますが、これによって大気によるエネルギーロスが限りなく少なくなります。大抵の隕石は地表に落ちる前にこの空気抵抗の断熱圧縮によって溶解、質量とエネルギーを失いますが、同衛星はそれが殆ど見込めません。そして、この数字の根拠となる物がもう一つ。それは、搭載されている燃料である重水素です。長寿命を謳っている同製品は数百トンの重水素を搭載しています。此方の重水素は地表衝突時に核融合反応の材料となる公算が非常に高いと思われます。恐らく、純粋な爆発エネルギーだけで数千メガトン以上の核出力に匹敵すると思われます」

 

 成程、と思った。

 コジマ粒子による核融合反応の誘発。

 そもそも、ネクストのジェネレーターもその理論による核融合エネルギーを使った熱機関の一種なのだ。

 そのジェネレーターの触媒となる粒子を満載した機体が大量の燃料と共に地表に落下してくるのだから激しく反応して当然、と言う事なのかもしれない。

 少なくとも、地表への衝突エネルギーはコジマ粒子を励起させるには十分だろうから。

 

「あくまでもこの数字は、我々の使っている人工知能(AI)が出した試算です。地球規模の環境変化に伴う死傷者数であると言う事を念頭に置いて頂けると幸いです」

 

 暫く映像だけが流れていた。

 幾つかの疑問だけが頭を過ぎるが、一番の疑問は―――――――――

 

「―――――それは解った。それよりも、何で同じタイプの(・・・・・・)衛星があるのにソレで迎撃しないんだ?」

 

 沈黙、それが答え。

 嫌な予感がする。とてつもないレベルの。

 

「残念ながら私の権限ではその質問にお答えする事は出来ません。ですが、レイセオングループの方々に助けを乞わなければならない状況なのは否定できません。勿論、AIの専門家である貴方に依頼が来る意味をお察しください」

 

 クーガーの技術者は案外GEの機密情報にアクセスできる権限を持っているのかもしれない。

 だから僕はもう少しカマをかけてみた。

 

「その助けを乞わなきゃいけない(・・・・・・・・・・)状況に、先の戦いで打ち漏らしたリザは関係あるのか??それとも第七世代型AI絡みの?」

 

 彼の表情が少し変化する。

 だけど、何を言うべきか迷う前に、前頭葉の抑制機構が邪魔をしているようだ。

 

「それはお答えできません」

 

 硬い表情になり、思考するのを辞める。

 だけど、確かにその思考の色は解った。

 秘匿通信でアリスから連絡がある。彼女は『50%の確率で一致、もしくは一部該当』と伝えて来る。

 騙して悪いけど、僕はまだ死にたくない。

 情報は多いに越したことは無い。

 質問して銃殺、なんて事にはならないなら、出来るだけ相手から情報を頂くまで。勿論、表情と言う情報だったが、アリスからすればソレだけで十分(・・・・)

 

 

 残る疑問は一つ―――――――――

 

 

「―――――解った。なら、最後に答えてくれ。その衛星と同型の物は今、軌道上に何基存在するんだ?(・・・・・・・・・・・)

 

 暫くの沈黙の後、クーガーの技術者が答える。

 

「――――各企業の同一タイプの物が、軌道上に140基。予備基を合わせて300以上あると思われますが…破棄された墓場軌道にある同型を含めると、千以上は有るかと…」

 

 

 

 僕はその時、リリアーヌが言っていた言葉の意味を思い出した。

 

 彼女は知っていたのだろう。

 

 僕等の足元はとっくの昔に地獄と地続きになっていた事を。

 

 静まり返る作戦会議室の中誰かの囁き声だけが聞こえてきた。

 

 

 

 ―――――神様

 

 

 

 その声は何処にも居なくなった誰かに届く事は無かった。

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