ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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扉を閉じる者達2

 何時の間にか寝ていたのか、窓ガラスを叩く雨音で目が覚める。大気中の塵を多分に含んだ降り始めの雨は、どこかくすんだ色を含んでいた。おそらくは先の戦いでまき散らされた重金属粒子を含んでいるのだろう。

 それを眺めながら再生を終え、止まっていた音楽再生機器を耳から外すとベッドから起き上がる。

 鼻を衝く臭いは、人の焼ける臭いだ。完全密閉された部屋の外から空気が入り込んできているのだろうか、窓際へ歩いていくと外の広場で葬儀が行われていた。

 長い列はまるで順番を待つかのごとく続いていく。その中には幾つもの冥婦の影。小さな子供を連れて参列している姿を見つつ、自分はもう何も感じなくなるくらいこの世界に慣れたのだと実感した。

 そう、これがいつもの日常。

 ありふれた光景。

 テレビで天気予報が流れるくらいには存在する何所にでもある日常。

 それは重金属汚染が進んだ日本列島では癌などの病により平均寿命が大きく縮まったことを示していたが、それ以上に戦いで多くの人が死ぬようになったのが主因だった。

 国家が破綻して、人の多くは職を失った。だけど、戦いだけは違った。テロリストや正規軍、企業軍、傭兵。皆挙って人を募集した。

 

 戦争とは大量消費の象徴である。

 武器に弾薬、食糧、そして、人間。

 すべて物を等しく飲み込んでいく獣は人類に経済活動と言う名の繁栄をもたらした。

 

 そしてその消費された物の生産には人が関わる事になり、AIによる代替えが進んだとはいえ、少なからずの職を人に提供した。

 だから戦いは人の経済活動となった。

 供給者は企業であり、消費者は人類だ。

 提供者は傭兵であり、レイヴンであり、リンクスだ。

 皆、それぞれが役割を持ち、社会活動の一旦としてそれにこぞって参加した。

 戦闘能力という解りやすいステータスで優劣を競い、公平と平等という名の元に積み重ねた死体の数に応じて金が支払われる。

 生まれ持っての能力差や、生まれた場所の考慮されない公平と平等は、弱き者は叩き潰されて当然という風潮と、勝った者が全て正しいという認識を人々に齎した。

 そうして人は、正義という免罪符の名の元に罪悪感をこの世界から葬り去った。

 とりとめのない事を考えつつ、バイオ3Dプリンターが印刷した肉をオーブンに入れた。

 新鮮な肉はジュウジュウという音と共に綺麗な焼き色を付けていく。

 僕はそれを眺めつつ思った。

 いつからだろうか、この世界で新鮮なニクから血が滴ることが無くなったのは。

 そのキオクは脳髄のどこにも存在しなかった。

 

 

 そう、――――――――記憶の残り香さえも。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 巨大な槍が鎮座する格納庫に佇む少女は、項垂れるようにして近くの手すりに寄りかかっていた。ブリーフィングが終わり、その真実の重さの前に耐えかねた様子であった。

 その横には人型の兵器が彫像の様に聳える。

 表面は鏡の様に輝き、流線形の美しい丸みを持ったコアや腕部、脚部は彼女の機体の設計元であるフィン・メカニカの特徴でもあった。

 非常に優れた耐熱性は同社の得意とする攻撃型エネルギー系兵器とマッチし、正しく盾と槍を対として成す物であった。

 装甲に覆われた整波装置は外部から見る事は出来ないが、それはイコール装置自体が装甲化されている証拠に他ならなかったが、同機体の印象的な流線形を決定づける要因になっているとも言えた。

 

「――――変、ですね。明日、世界が終わるかも知れないって言うのに、全然実感わかないんですよ」

 

 疲れた様な、それでいて諦めたような声色でマヤが言う。

 

「死、なんてそんな物。理不尽に訪れて、理不尽に全てを壊してしまう。そんな物に実感なんて有るわけ無い。あるのは質感だけ」

 

 彼女は耐えかねている。

 恐らくは、その肩に乗るであろう数十億人と言う数の人間の命と、もしかすると、意図して切り捨てなければならないかもしれない数千万人の命の重さを。

 

「冷たいですよね。もしかしたら沢山人を見殺しにしなきゃいけないかもしれないのに」

 

「まだ、結果が決まったわけじゃない。誰かが撃ち落とせば済む話」

 

 僕は意図的に避けた。

 軌道上の無数の物体について。

 そんな危険物を打ち上げ続けた企業にも呆れるが、そもそも宇宙を戦略的価値のある物として運用したのは国家軍が最初であり、企業はそれを受け継いだだけ。

 人が構成員で在り続ける限り企業もまた、人の代理組織に過ぎない。

 僕等が平和と安寧を望んだから、他国より有利な兵器を導入して配備した。

 だから世界からは核兵器が無くならないし、核廃絶なんて声が出て来るのは決まって国境線を脅かされない国だけだ。

 今、世界を見渡せばそんな御伽噺の国のような安全な場所は存在しない。

 有るのは食うか喰われるかの弱肉強食の世界だけ。

 だから、僕は人殺しになった。

 もう、喰われるのも踏み躙られるのも御免だったから。

 他人の命の心配より自分の命を心配した。

 それだけだ。

 この国の老人達と同じだ。

 その取り分を取れば多くの若者から搾取してしまうと知っていてもソレを辞められなかった。

 だから日本と言う国は破綻した。

 だから今、世界は終わりの危機を迎えている。

 構図は全く一緒だ。

 皆、自分の世代の事しか考えない。

 それが、今と言う時代だ。

 だから僕は偽善者に成る位なら悪人で良いと思った。

 

 でも、マヤは未だリンクスになっても悪人で良いとは思っていない様だ。

 何かを棄てて、何かを得る。

 そう割り切れる程彼女はドライじゃ無いようだ。

 

「でも、もし外したら―――――」

 

「大丈夫、そのために二機居る。撃ち漏らしても此方で落とせば被害は出ない。それに――――絶望するのはブリーフィングの後のシュミレーターを熟してからでも遅くないよ」

 

 シュミレーションもせずに駄目だと決めつけるのは早計過ぎる。

 少なくとも、姿勢制御はともかくフィン・メカニカの開発チームが作った"槍"が通用しないなんて事は無いだろうと思った。戦場でAEGが製造してフィンメカニカが設計したレーザーを毎回撃たれてるから判る。

 恐らく、彼らはかなりの確率で自信を持っている。

 それはレイセオングループも同じだろうけど、ある程度あのインチキGPS衛星のPAを抜けると踏んでいるんだろう。

 

「そう、だね。うん、解った」

 

「行こう。もう始まるよ」

 

 そう言って彼女の手を引いてブリーフィングルームまで歩くのだった。

 

 

 

 会議室に集まると、見知らぬ女性スタッフがディスプレイの前に立っている。一回目のブリーフィングから丸一日だが、恐らく何らかの進展が有ったのだろう。僕等は再び呼び出しを受けて此処まで歩いて来たのだが、キャロルの姿が見当たらなかった。

 今回は違う企業の説明なのだろうかと考えつつ、目の前の女性に視線を移す。黒いスーツを着込んでいる様子は如何にも企業のスタッフみたいな感じだったが、所々寝ぐせが目立つ。

 技術屋っぽいな、と思いつつ彼女の話に耳を傾けた。

 

「今回は私、レオーネ・ファンティーヌがキャロル様に代わり説明させていただきます」

 

 そういって彼女は画面を切り替えると、そこには航空機と言うには余りにも巨大な翼が何層にも重なった物が映し出されていた。

 

「今回使用されるVOBの問題点について、リンクスの方々は重々承知かと思いますが、コジマブースターはコジマ汚染を引き起こします。ですので、汚染を抑えるため、一定高度までネクストを何らかの形で持ち上げる必要があります」

 

 確かにその方がコジマ汚染云々もあるが、燃料の節約になるのは間違いない。

 燃料を節約できればそれだけ積載量に割り振れるわけであり、武装の自由が大きくなる。

 それこそ、重量が許す限りネクストの正面に複合装甲を貼り付けまくると言う手もあるわけだ。

 勿論、そんなことをして飛行できる程のペイロードをVOBが持っている訳ではなかっただろうが。

 それは、クーガーがそう言った提案をしていなかった事からも推し量れる。

 高度3万キロメートルという途方もない距離は伊達ではないという事だ。

 

「そして、今回はこの空中実験施設(クレイドル00)に使われているシステムの一部を流用する事を提案します。我々が開発したクレイドルシステムは、遠隔地からの空中エネルギー移送をその根幹としており、今回の作戦にも利用できると考えました。用意させていただいた物は此方に成ります」

 

 再び画面が変わると、ネクスト用輸送機にしては大型の羽を持つ航空機であった。

 全翼機という言葉がピタリと嵌る様な見た目であり、マンタみたいな触覚が機首から二本突き出していた。

 その下には肋骨がむき出しになった様な格納庫が張り出している。

 画面ではそこにネクストと思わしき物体とVOBが収められていた。

 

「これは、新機軸のネクスト輸送機になります。スラスター類はネクストと同じアークジェット方式ですが、推力向上とコジマ汚染防止の為、空気中の水分を利用しています。これに熱エネルギーを加えジェットとして吐き出すことによって高い推力比と安全性を両立した我が社の新機軸ブースターに成ります。これによってネクストを安全に地球外へと運ぶ発射台として運用できると我々は考えています。本来であればこちらをVOBと呼称したいところでは在りますが、残念ながら技術体系が根本的に違いますので、以後は我々の開発コードネームであるEXUSIA(エクスシア)と呼称いたします」

 

 そのエクスシアと言う物は、恐らくクーガーの技術に対抗した物だと思われた。

 そもそも、このちょっと残念系美人のお姉さんは、さっきから凄い勢いでクーガーの技術者を睨んでいる。

 こんな所でバチらんでくれよ、と思いつつそれに無視を決め込んだ。

 この残念系美人のお姉さんもやっぱりマッドらしく、クーガーの技術者みたいに熱弁を振るい始めた。

 

「我々の開発したエクスシアの画期的な所は非常に長い航続距離にあります。外部からのエネルギー供給で飛行する為、理論上無限に飛び続けられます。勿論、内部ジェネレーターからのエネルギーでも飛び続けられますので安全性と言う面ではVOBに勝ると考えられます。ただ、残念ながら大気圏内での使用を想定していますので、極めて高高度な大気中を飛行する事は出来ません。恐らく高度4万メートルが限度でしょう」

 

 そこで、クーガーの技術者は何処か勝ち誇った顔をした。

 残念美人は眉間に皺を寄せた。

 僕は目を伏せた。

 

「しかし、余剰ペイロードを活かし、大量の兵装を搭載可能です。これによってリンクスである貴方方に兵装の大幅な自由を確保する事が可能になりました。そして極めつけが回収時の安全の確保です。落着予想地点は旧アリゾナ州と言う事でしたが、エクスシアの航続距離をもってすれば任意の場所で空中でネクストを収容し、そのまま任意の場所へと帰還する事が可能です」

 

 誇らしげに胸を張る残念美人。スタイル抜群なのにちょっぴりマッドなこの御方の話の半分も解らなかったと言う感じのマヤは置いてきぼりにされて居る。

 僕はそれを横目に見つつ気に成った事を質問する。

 

「因みに、そのエネルギー供給システムは見通し線下に有るエクスシアに供給は可能なのか?」

 

 残念美人さんは剥き出しの敵意で僕のハートを射抜く。

 地雷踏んだ?と思いつつ彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「―――――見通し線下へのエネルギー供給は今の所不可能ですが、将来的に衛星軌道にリフレクターを複……いえ、話が逸れました。その場合は内部ジェネレーターで飛行する事に成ります。機動性が低下する事と、航続距離と言う概念が発生する事に注意して頂ければミッション遂行上問題ないでしょう」

 

 歯ぎしりしそうな程、何かを噛み締めている彼女は「アルテリア施設さえ普及すれば…ドイツ人はケチ過ぎるのよ」とブツブツと怨嗟の言葉を吐いている。

 暫く、そうしていると漸く彼女は本題に戻る。

 

「――――コホン、ええと、我々が開発したもう一つの兵装。それがAEGのリンクスに装備して頂く此方です」

 

 画面が切り替わると、長大な砲身を持つハイレーザーキャノンと言うには大きすぎる物体が映し出される。

 思わず肩武器かと思ったがどうやら腕に装備する物らしい。一体、どれくらいのエネルギー供給をすればいいのかさっぱりわからない。やっぱりこのマッド美人の作る兵器はちょっとおかしい。

 腕のエネルギー供給ラインが絶対焼き切れる。GEの腕で使うと100パーセントイカレそうだ。

 

「こちらは、試作型レーザーキャノン。便宜上HUGE LASER(ヒュージレーザー)と呼称しますが、これを搭載して頂きます。既にリンクスの方々は知っていると思いますが、既存のプライマルアーマーは光学エネルギー兵器に対して防護能力を発揮できない欠点を持っています。目標となる衛星も高濃度プライマルアーマーを持っている為、実弾兵器に極めて強いと言う性質を持っています。ですので同社の技術の粋を集めたこのヒュージレーザーで射抜く事を提案します。同レーザーであれば遠距離から同衛星の複合装甲も射抜く事が可能であると試算されました」

 

 GE社の衛星は確か700mm厚の複合装甲でバイタルパートを防護していた。

 キャロルの話だとRHA換算で2000~3000mmクラスの防護能力と言う事だ。

 とてもでは無いがライフルやマシンガンで何とかなるレベルを遥かに超えていた。間違いなく地上最強の防護能力を持った軌道要塞である。PAが無くても腕武器では無理過ぎる。戦車の正面装甲が可愛く見えるレベルだ。

 それを射抜くと言うのだから、ヒュージレーザーとやらは相当な熱量を持つと言う事なのだろう。

 しかし、既存のネクスト用兵装に使われない理由が有るのだろう。

 そもそも、そんな熱量を発生させるだけのエネルギーをどうやってジェネレーターから取り出すのだろうと思っていると再び彼女は説明を始める。

 

「同兵器は、既存のタイプの独立したエネルギー系では無く、クレイドルシステム全体からエネルギーを抽出する機構を用いて規格外の出力を実現しました。機体各所に装着された電力変換装置から供給されるエネルギーを用いてプラズマを圧縮してこれを保持、大容量のコンパルセータとして利用し、発射時にこれを解放してエネルギーをレーザーに変換しています。ですのでチャージ時間と言う概念が発生する事をご承知ください」

 

 まるで企業の技術見本市だ。

 そんな印象をぬぐえないままブリーフィングは進む。

 しかし、肝心な所はサラッと流される。

 要約すれば、発射可能数は数発。

 射程は長いが、仕留めきれない可能性は否定できない。

 あの要塞みたいなGPS衛星がどれだけの対熱防御性能を有しているか解らなかったが、やはり予備機は必要かもしれない。それにしても“規格外”(ヒュージ)レーザーか。デカ過ぎるだろう。そう思いつつVOBの全長の数倍はあろうかという砲身を眺めるのであった。

 

 

 一頻りファンティーヌという技術者の説明が終わり、ネクストのハンガーに戻ると、新しい装備が運び込まれていた。

 アリスからそれは、レイセオングループの作った長物だと教えて貰った。

 どうやら、ブリーフィングには間に合わなかったようだ。

 だけど、彼女の説明で十分に分かった。

 要するに超大型コジマキャノンと言う奴らしい。

 王道なのだろうと思った。

 向こうがコジマ粒子の盾を持つなら、此方はコジマ粒子の槍を持つ。

 イタチゴッコは最先端のコジマ兵器にも当てはまるらしいそれは、今も昔も変わらない矛盾と言う奴なのだろうけれど、その矛盾が大きい方が勝つのだから、巨大な砲身を持つ目の前の兵器は頼もしかった。

 八木アンテナに大型の整流器を大量に取り付けたような外見だ。

 どことなく地デジのアンテナに見えなくもない。

 とてつもなく長かったが。

 そう思いつつ視界の隅に映っていたcallマーク、携帯型端末を開く。

 

『ヤッホー。そっちに例のヤツ、到着した?結構突貫作業で作ってたみたいだけど…』

 

 キャロルかと思ったが主任のようだ。

 

「コジマキャノンの事?それなら今整備兵が組み立ててるけど」

 

『あ、そうそう、それそれ。んでさ、そろそろシュミレーター立ち上げたいから、シュミレーションルームに来てくれる?』

 

 どうしても解決しない疑問が有った。

 キャロルに聞きたかったのだけれど、この際主任でも良いやと思い問う事にした。

 

「それは良い。結局GEの衛星群、どういう状態になっているか聞きたかったんだけど」

 

 主任は悪戯を考え付いた子供みたいに答えを拒んだ。

 

『いやー、なんていうか、アレなんだよ。ぶっちゃけて言うと国家機密ならぬ企業秘密ってやつ?アハハハハハ!』

 

 笑いで誤魔化されている気がするが、取り合えずシュミレーターを起動させないと始まらない。

 ぶっつけ本番で死ぬのは御免だ。

 そう思いつつ僕は、答える気のない主任を放っておいてシュミレーションルームへと向かう。

 答える気のないと思っていた主任は静かに囁く。

 

 

 

 ―――――――ま、なんていうかさ。シュミレーターやれば判る事だから。楽しみは後に残しておいた方が楽しいだろう?

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