ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
設定集を一部追加しました。早くOGOTOを登場させたい…
雷鳴の如く鳴り響く轟音は強烈な閃光を放つ。
それは、夜の雲間を明るく照らし出すと幾つもの機影を浮かび上がらせると幾重にも分かれて海へと落ちていった。
それだけを切り取るとまるで世界を終わらせる隕石が幾つも地表に降り注いでいるかの如くであった。
重金属を多量に含んだ雲は通常の雲よりも多くの静電気を発生させていた為、この雷鳴の中には本物も幾つか混じっては居たが、アリスの感覚情報からはそれらの情報はオミットされていた。
恐らく脅威度が低いノイズとして処理されたのだろう。彼女達AIは割とこの手の情報の振るい分けを行う事が知られていた。自身に脅威の無い情報には余分なリソースを裂かないのだ。
それに不満はないが、航空兵でもない限り積乱雲の中を覗く機会に恵まれるのは稀である為、若干残念な気持ちになる。
だけれど、今はそれどころではないと言う事も解っていた。
そう考えつつAMSから齎される感覚情報に意識を集中させると、脳髄に直接アリスの声が聞こえてきた。
『太平洋艦隊の迎撃率低下。予想値30%以下。再突入体の接近を検知。熱圏に突入まであと30秒。回避を推奨』
GE社の誇る太平洋艦隊のイージス艦が放つ迎撃ミサイルのつるべ撃ちをすり抜けたアームズフォートの巨大電磁投射砲の再突入体が接近していた。
恐らくは彼等が展開している電子戦が思った以上に効果が上がっていないのだろう。
それを踏まえるとこのまま遊覧飛行を続けるわけにもいかない。
VOBの点火はコロニー大阪を汚染しない太平洋上を予定していたが、この際気にして居られない。
「予定より早いけど、ネクストの分離とVOBの点火をくり上げる。キャロル、そっちは問題ない?」
『問題だらけです。が、この際仕方ありません。VOB点火のタイミングを早める事を許可します。軌道調整は此方で行いますが、点火のタイミングは其方で決めて下さい。回避しながらの点火となりますが、後は鈴音、貴方の判断に任せます』
「解った。それより太平洋艦隊の電子戦部隊、どうなっている?まるで効果が無いみたいだけど」
そう言いつつ、空から降って来る再突入体の予想進路から機体航路を変更する。エクスシアを右にバンクさせると自然と進路が右へとズレる。
現在の機体速度はマッハ1.6程度。弾着まで数十秒は有る為、余裕で避けられるはずだ。勿論、それは無誘導兵器相手に限られるが。
そう思っているとキャロルが答える。
『GE社とレイセオン社の電子戦部隊が全力でジャミングを仕掛けていますが、どういう訳かまるで効果ありません。高度なECCM能力を持っているようです。しかし、此方のジャミングの出力から考えるとレーダーによる索敵は物理的に制限される筈ですが……』
電子戦部隊が照射している電波出力は相手のアンテナの利得を塗りつぶす、極めて原始的なECMであった。
強力な磁場を受けると例え違う周波数の電波帯域を使っているアンテナでも感度が下がる現象が起こる。
携帯電話の基地局の近くで阿保みたいにドローンが落ちるのがその証拠であったが、軍用のジャミングは携帯基地局よりも遥かに高出力な電磁波を送り込んでいた。
それこそ、静止衛星軌道上のロブスターが一瞬で茹で上がる位には高出力なエネルギーを照射しており、それを
「相手の手品の種は未だ解らない、か」
そう呟くと先ほどの懸念通り、落ちて来る再突入体は誘導機能を持っていた様だ。
アリスが警告を促す。
『警告、再突入体の進路変更を確認、弾着予想地点、此方の進路上。推奨、回避』
ま、それもそうか。距離が遠すぎて無誘導兵器じゃ船にだって命中させられないのだから、誘導機能を付けるのは当たり前の事。
そう割り切って考え、再び進路を変える。ミサイルの避け方と同じである。敵のミサイルに軌道修正を何度も強いてエネルギーを損耗させて振り切る。
しかし、戦闘機同士の戦いでは定石の手も今回は気休め程度にしかならない。何故なら落下物の運動エネルギーが桁違いであったからだ。
幾ら軌道変更しようとも秒速30㎞で落ちて来る物体のエネルギーは無くなりようが無かった。
これが地対空ミサイルなら空気抵抗の大きい超低空に逃げ込むと言う手段が使えたのだが、致し方ない。
「アリス、曳航型デコイを展開。電子用意」
AMSでアリスに命じる。彼女は直ぐに意図を悟る。
エクスシアに搭載されたポッドから長いひものような物が機体後方に伸びていくと丁度その先端には安定翼が突き出たアンテナユニットが格納された膨らみがあった。
そこから敵アームズフォートが照射している照準用レーダーのエコーを真似た電波を発信する。
これによって敵はエクスシアから帰って来るレーダー反射波をノイズと勘違いして、デコイの方へ再突入体を誘導する羽目になる訳だ。
航空戦では十八番の欺瞞装置であったが、まさかPAを持つネクストがそれを使う羽目になるとは思いもしなかった。そう思いつつAMS越しにアリスの仕事を見守る。と言っても目は閉じていたが。
『了解。電子戦用意。ECM、ECCM起動』
アリスは素早く敵レーダー波が来るタイミングとデコイのアンテナユニットから発信される電波をシンクロさせる。実際には電子戦オペレーター数人がやる作業を一人でこなしていた。
彼女の持つ膨大な知識と今までの電子戦での経験が合わさって初めて可能となる物だ。
一人の
『鈴音、3分後に北米大陸から発射された
視覚野に映し出される遠隔画像には無数に上がっていく巨大なミサイルが見えた。
「了解。それにしても――――――――
弾頭部には秒速7㎞以上で目標と衝突する大気圏外迎撃体が搭載されている筈であったが、迎撃手段の運び手が弾道弾と言う所が何とも言えない。
『今、現存する全ての戦略級弾道弾を投入しました。お陰で初速が稼げないタイプの物も混じっていますが、陽動には十分です。相手がプライマルアーマーを使っている以上、核による破壊は難しいでしょう。おまけに軌道上での核爆発は大規模な停電を世界中に引き起こすかもしれない。ですので今回のGBIも通常型弾頭に換装してあります。何とかこれで乗り切って』
「成程、企業も形振り構っていられないと言う訳か。或いは、用済みになった核ミサイルを一斉処分しているのか」
相手の国の人間を一瞬で焼き尽くす核ミサイルが世界から消えて、平和になりました、となれば物語としては綺麗なのだろうが。
生憎とそうはならないだろう。
二回目の大戦を終結させたのは紛れもない核兵器であった。
それが無ければアメリカとロシアは直接戦争をしていたであろう。
だからこそ、その後に訪れた東西冷戦は互いの核を恐れて直接戦争を避ける形で行われた間接的な戦争であったのだ。
人は戦いに恐れをなすことで平和を求る。
現に、今まで三度目の大戦が起きなかったのがその証拠であった。
互いに世界を何度も滅ぼせる力を持ちつつ、その力に畏怖し、その結果として核保有国同士の直接戦争を避けるようになった。
その結果、長きにわたる大戦の悪夢から人々は解放された。
けれど、用済みになった核ミサイルは、その平和の終わりを象徴しているようであった。
キャロルもそれに気が付いたのか暫くの沈黙を続けるが再び口を開く。
『核の使用も提案しましたが、却下されました。企業側はやはり事の露見に敏感になっています。アレが落ちてくれば人も企業も破滅すると言うのに呑気な物ですね』
彼女にしては珍しく感情をあらわにした様子に若干の驚きを隠せなかった。思う所は色々有るのだろう。
「どうせ、空気が無いんだ。爆発したってエネルギーを伝える手段がない。精々、放射線をばら撒いて終わりだろう。プライマルアーマーには中性子を遮蔽する効果があるから大したダメージも期待できないんだ。仕方ない」
そう言いつつネクストに接続されているエクスシアの神経系に高度を上げるよう命令を入力する。
複合サイクルアークジェットが甲高い音を奏でて巨大なプラズマトーチを吐き出すと急激に機体が加速していく。
レーダー警戒機の警告音が断続的な物から連続的な物に変化する。
恐らく最終調整に入ったのだろう。いよいよ正念場である。
『生き残って、鈴音――――』
珍しく感傷的なキャロルの声を聴きつつ、僚機であるマヤに連絡を入れる。
『こちらキャンサー1、各機、距離を取れ―――――――――第二ラウンド開始だ』
警告音がけたたましく鳴り響く中、機体の軋む音が体に響いて来る。
始まり、か。
静かにそう心の中で呟くと全神経をAMSに集中させた。