ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
大阪基地から緊急発進したネクスト部隊。それと同時刻に太平洋上には護衛の為の空母機動部隊が展開していた。最新鋭イージス艦を多数擁する同艦隊は二隻の空母を旗艦としており、そこに積載されている航空機だけで、旧航空自衛隊の全作戦機を軽く凌駕する質と量を兼ね備えていた。
半径千キロメートル以上の距離に戦闘空中哨戒機を飛ばし、空中哨戒機が海面上を飛ぶ蜂一匹通さんとする様に警戒に当たっていた。
空中哨戒に当たっていたE2Dと呼ばれる航空機には500㎞以上もの距離から
この手の空中哨戒用レーダーは見通し線下に出来るレーダー不可視領域、俗に言うシャドーゾーンを無くすことによって、空母を狙う超音速巡行ミサイルが極低高度を飛んできたとしても簡単に捕捉できるよう調整されていた。
これは一重に、現代の巡航ミサイルの殆どがイージス艦のレーダーを避けて見通し線下の超低空を飛行する為であり、旧ソ連が持っていた巡航ミサイルの大体がその様な性格を持った巡航ミサイルである。
そして、その中には時速3000㎞以上の速度で飛んで来るモノも存在していた為、戦闘空中哨戒機は広大なエリアをカバーできるように進化していた。
だが、今回の艦載機の役目はあくまでも誘導であり、エスコート役に過ぎなかった。
戦争の場所が宇宙となると主役はあくまでも強力な索敵能力を持ったイージス艦になった。
搭載された最新鋭レーダーによって距離1100キロメートルの半球状のエリアを索敵する能力を持ち、搭載されたSM3-ブロックⅡA迎撃ミサイルの有効射高は2000キロメートルに及び、高ロフテッド軌道を描く中距離弾道弾のミッドコースを隈なくカバーできる迎撃能力を持っていた。
第二次世界大戦に存在した一般的な高角砲の約1400倍もの迎撃可能高度は、既に航空機処か地球周回軌道を回る衛星群を簡単に撃ち落とす能力を有している事を示していた。
しかし、今回の目標となる軌道要塞はGPS衛星と同じ高度を飛行しており、準静止衛星軌道である。この高度は地表から凡そ2万キロメートルから3万キロメートルの高度であった為、SPY6レーダーでの捕捉は困難であり、最新型SM-3の能力をもってしても到達できない高度に存在する目標物であった。
それでも捕捉する手段は簡単に見つかった。
捕捉、追跡が出来れば後はその距離まで届くミサイルが有ればいいわけであり、それらの物は既に企業軍の手に揃っていた為、彼等の動きに乱れは無かった。
静止衛星観測用レーダーを背負った輸送船の一隻である追跡艦、ユーリ・ガガーリンは背中に巨大なパラボラ型アレイを背負っていた。この船は旧冷戦時代に作られた船で在り、一度は破棄された船であったが国家解体戦争が終了した直後に企業軍に接収され再び復帰する事に成ったのだ。
「目標の動きは?」
「目標、再び移動を開始。本艦の頭上を通るコースに入ります。レーダー照射を確認。狙われていますね」
広々としたブリッジに鳴り響く警報音。
コロニー大阪を砲撃していた軌道要塞が目標を変えた証拠であったが、彼等は直ぐにそれに気が付いた。
「目標の衛星には人工知能が搭載されていると言う事であったが、やはりこの艦が標的になるか」
コロニー大阪に居たネクストを狩り損ねた人工知能は、次なる目標として自身を捕捉し続ける大型レーダーを搭載した船に狙いを付けた。それは戦術の基本である敵の目を破壊する為であるが、艦長はその迷いのない動きに思わず感服する。
「よもや、ここまで機械が正確に目標を選び出すとは。企業とやらは、毎回、とんでもない物を作ってくれるものだ」
「因果ですね、この船が宇宙を閉じようとする者に狙われるなんていうのは」
多目的ディスプレイに幾つもの光点が映り出すと小さなアラーム音。それと共に巨大なレーダーアレイが唸りを上げる。強力な電磁パルスは空気を揺らし、その揺らぎが音と成り艦を揺らしていた。
只の索敵用レーダーではない、明らかな超高出力電磁パルスは所謂
敵のアンテナアレイに強力な磁場を浴びせかける事によって物理的にアンテナの受信感度を減少させる極めて原始的な攻撃であったが、原始的であるがゆえに現代戦でも通用した。
最も、超大型船に搭載された重水素ジェネレーターと電波望遠鏡用の超大型指向性アンテナが組み合わさって初めて届く物であった。
艦長はその事を踏まえ、答える。
「狙われるだけの事はしている。やっこさん、この船の電磁波がよほど眩しかったんだろうな」
コロニー大阪を砲撃した巨大なレールガンは無数の侵徹体を吐き出す。
ユーリ・ガガーリンの超長距離レーダーがそのドップラーシフトを捉えると艦長は焦った様子もなく長いあごひげを撫でながら続ける。
「なに。見せて貰おうじゃないか。次なる戦争を作る者の力とやらを」
祖国を無くした憂いを感じさせない様子で嘯く。
「運命の女神とはずいぶんと気まぐれですね。一年と経たない内に戦いの主役を変えようとするなんて」
「戦争なんてそんな物さ――――――旧アメリカ艦隊に連絡しろ!いよいよパーティの始まりだ、とな!」
太平洋艦隊が迎撃ミサイルを発射してから数分。イージス艦が誇る迎撃システムは問題なく機能した。
それは一重に敵が何処を狙っているか明確であったからである。
空に輝く無数の火の玉は敵が放った再突入体RVの残骸であったが、それらは空母機動部隊の周囲に着水していく。
「トラックナンバー1230から1433まで撃墜!、目標さらに降下中!」
「VSL6番から12番まで発射!サルボー!」
垂直発射管VSLの脇にあるブローパネルが開くとそこから勢いよく炎が吹きあがる。
所謂ホットローンチと呼ばれる発射方法は発射管内部でミサイルモーターに点火する方法であった。その為
噴射炎を逃がす必要があったので、このような機構が備えられていたのだ。
垂直発射管を黒焦げにしながら直径53㎝もの巨大なミサイルが火を放ちながら飛び出す。
それは三段式のSM-3と呼ばれる最新鋭迎撃ミサイルであった。
同ミサイルは、SM-2よりもミサイル部の直径が太くなり推進剤の充填量が増えた為、更に射程が伸びていた。
推進剤の増加は加速性能の良し悪しにも関係しており、二段目の推力が増加した同ミサイルは発射から数秒で音速の壁を突破すると、雲の中に消えていった。
第一段目のロケットモーターを切り離すと、二段目に点火。
更に増速するミサイルは既に高度40㎞を超える辺りまで到達していた。
有人ロケットとは比べ物にならない加速度は、弾道弾迎撃というミッションが如何にミサイルの加速性能が重要であるか物語っていた。
二段目の燃焼を終了した同ミサイルは空になった個体燃料ブースターを切り離すと三段目に点火、更に増速していく。既に秒速6㎞程度まで加速していたミサイルは第一宇宙速度に到達しようとしていた。
「ミサイル、三段目のキックモーターの燃焼終了!KWを分離します!シーカーオープン!目標を捉えました!」
ブリッジにはミサイルの赤外線シーカーが目標を捉えた信号を受信していた。
しかし、その信号は余りにも多過ぎた。
「目標多数!数え切れません!」
「囮弾か!?それにしても数が多い!」
大陸間弾道弾には囮弾を搭載するタイプが殆どであったため、弾頭には赤外線放射熱の特徴分布から囮と本物の質量物を見分ける機能を持っていた。
だが、目標となる物体は
「全て本物だと!?なんて出鱈目な奴め!クソ!撃ちまくってやがる!」
「VLS、13番から18番まで発射!残りも射程内に入り次第撃て!」
最新型イージス艦であるアーレイバーク級には96基もの垂直発射管が備えられていた。
無論、これは仮想敵国であるロシアの巡航ミサイルの飽和攻撃に少しでも対処するための物であったが、それにしても迎撃すべき物体の速度は想定を超えていた。
一般的なロシアの超音速ミサイルが時速3000㎞に対して、大気圏を降下する物体は秒速30㎞、つまり時速百二十万キロメートルにも及ぶ速度で飛翔している。
これは一般的な拳銃弾の百倍の速度である。が、それでも弾道弾としての落下速度としてはある程度速い部類に留まる。
つまり、航空機としては規格外に速くても、弾道弾としては
撃墜出来れば後は何方が先に弾切れに陥るかの我慢比べになる事は歴史が証明していた。
だからこそ、旧アメリカ海軍は数十隻にも及ぶイージス艦を大量生産したのだ。それらが艦隊を組み、旧ロシアの持つ超音速巡航ミサイルの飽和攻撃を文字通りつるべ撃ちにし、空母を守る為に。
つまるところ、単独のアームズフォートに勝ち目は無かった。
迎撃率100%のイージスシステムには手を出すことが出来ない。
その筈であった。
―――――――――迎撃システムが機能して居れさえすれば
やられて一番嫌な事を思いつく者は、戦争と言うアルゴリズムを一早く理解する事が出来る。
アームズフォートに搭載されたAIが、その答えに至るまで大した時間を必要としなかった。
SM-3の射程距離はイージス艦に搭載されていた最新型レーダーの可視距離を上回っていた為、性能をフルに発揮するには前線に展開する友軍レーダーから情報を貰う必要があった。
それらはデータリンクから齎されたが、生憎と通信用電波は水平線下に居る友軍には届かない物が殆どであった。
データリンク16などはVHF電波帯を使う為、ある程度の見通し線以降の場所にいる友軍艦隊に情報を提供できたが、波長が長いため通信帯域が狭く通信速度が遅かった。その為、通信衛星の大部分を落とされたGE社では艦載機に情報中継を任せ、大量の情報通信を行っていたのだ。
E2Dに代表される偵察用機体がそれらの中継を担ったが、F35などの戦闘機にもそれらの一部のタスクは任されていた。
単独で戦うアームズフォートにないシステムであり、数多の艦船はまるで一つのキリングマシーンの様に駆動した。いうなれば太平洋艦隊それ自体が巨大なアームズフォートの様な物であり、一つ一つの艦艇がそれぞれの駆動部品と成り敵の砲弾を跳ね返していた。その中での通信用電波は彼等にとっての神経線維その物であった。各部品の受信情報を中枢神経系へと伝え、中枢神経系で決定された情報を再び各部品へと送り届ける。
そんな重要部品でありながら目には見えなかった。故に、多くの場合はその重要性に気が付く事が無かった。
だが、人工知能は違った。情報生命体でもある彼女達はそれらの重要性を産まれた時から理解していた。神経が死んだ部品は駆動する事のない肉である。それは生物として死んでいると言っていい状態である。
だからこそそこを狙った。正しく弱点であるその場所を。
データリンクの異常は突如襲った。
高い迎撃率は前線に展開するイージス艦から齎されるレーダー情報があってこそである。
それが無くなればどうなるか。
火を見るよりも明らかであった。
「ホークアイが撃墜された!ライトニング3-3、どうなっている!?」
「解りません!突然空から光が降ってきて――――!」
空母ジェラルドフォード内にあるCIC。
そこには戦場の全ての情報が集まっていた。
だが、既に情報を送ってくるはずの通信網が寸断され始めていた。
レーダーに映るブリップが消えていくたびに生きていた回線が死んでいく。
まるで一本ずつ神経線維が途切れていくように、友軍との情報通信は緩慢になっていた。
先程まで飛行していたE2D偵察機も既に海中に没し、高いステルス性を持つF35すらも衛星軌道上から狙われる事態に至っていた。
「クソ!奴はどうやってステルス機を捉えている!?」
また一つ、レーダーから友軍反応が消えると遂に、拮抗していた迎撃率と再突入体の均衡が破られ始めた。
「敵弾、此方の迎撃ラインを抜けます!高度30㎞以下に到達するまであと20秒!」
その時、艦を揺らす鈍い振動がCICを駆け抜ける。
まるで高周波で直接船体を切り刻んでいるような音である。
高音部分は鉄に吸収され、伝わって来るのは低音部分だけだった。
「なん、の音だ?」
その声と同時に艦内に警告音が鳴り響く。
「ブリッジから報告です!甲板にレーザー照射を受けています!」
じりじりと甲板装甲を焼き切っていく極光は空母と言う巨体からすれば針の如き細さ。
だが、確かに、着実に深部を抉っていく様子を只じっと見つめるクルー達。
その中に居た作戦指揮官が何かに気が付いたように叫ぶ。
「マズイ!格納庫からクルーを避難させろ!」
「しかし、格納庫周囲の装甲は百ミリ位は有りますし、その下にはもっと分厚い装甲板が配置されています。それに、あの程度の穴ではこの船が沈むとは思えませんが……」
彼の言う事は最もだった。
数十万トンの排水量を誇る超巨大空母は膨大な予備浮力を持っており、それに加え防水区画も無数に備えていた為、数十センチの穴が船底に空いたところで船が沈没するような浸水は起こらない。
しかし、作戦指揮官は直観で悟る。
敵の攻撃が只の穴をあける行為以上であると。
奇しくもそれは当っていた。
彼はその懸念に漸く形を与える事が出来た。
「ちがう!あの下には原子炉が有る!奴はそこを狙ってやがる!」
その叫びと共に何かが甲板に空いた穴から噴き出した。
間欠泉の様に噴出した液体は空気に触れると即座に煙を噴き上げた。
それは原子炉の冷却水であり、相当な熱を帯びていた為冷たい大気に触れると水蒸気を放って落ちていった。
曇り空から覗く月夜の光に照らされた水と水蒸気の柱は、ジェラルドフォードから一キロ程離れた位置を航行していたアーレイバーク級イージス艦、カーティスウィルバーの艦橋からも見えた。
「空母が攻撃を受けている!CIC!どうなっている!?敵の射撃管制用レーダーは封じているんじゃなかったのか!?」
「解りません!此方のジャミングは届いている筈です!」
「なら、何で三万キロの距離からステルス機が探知できるんだ!?しかも――――――――」
その次の言葉を言うことなくブリッジは警告音に包まれる。
「艦長!周辺に放射線反応!」
「クソ!あの煙は原子炉の一次冷却水か!直ちに甲板のクルーを退避!艦の進路を空母の風上へ!」
炉心内の一次冷却水は核燃料から放射される中性子を受け、放射能を持った水であり、これらに暴露する事は非常に危険であった。
それを大量に噴き上げる空母はダーティーボムと何ら変わりなかった為、艦長は即座に距離を取ったのだ。
進路を変えたイージス艦の真横に巨大な水しぶきが上がる。
その余波を受けて船は大きく傾くが、周囲には水柱が幾つも上がっていた。
艦の損傷はないように見えたが、艦橋内には幾つもの損傷を示す情報が上がってきていた。
「敵弾着水!至近弾です!」
「被害を報告しろ!」
「メインエンジン及び操舵装置損傷!第三区画及び、第四区画との連絡が取れません!負傷者多数!ミサイル誘導システムに深刻な障害が発生しています!」
外れたように見えた砲弾であったが、落下する直前に無数に分裂した侵徹体が船体をズタズタに引き裂いていた。電源系統に異常が発生していた艦は既に攻撃能力の殆どを失っていた。
つまりは敵の砲弾を撃ち落とす為の目を失ったに等しい。現代の戦場で目の見えなくなった兵器に待つ運命は一つだけであった。
「次弾、来ます!」
「―――――――こちらの負け、か」
その声と共に最新鋭イージス艦は巨大な水柱に包まれると、海中に没する。
太平洋艦隊の主力艦は徐々に押されつつあった。
それは強力な電子妨害を物ともしない目標照準能力によるものであった。
未だそのシステムの概要は見えず、彼等の損害は増え続けていた。
そして、その余波はコロニー大阪を離陸したネクスト部隊にも波及しようとしていた。
◇ ◇ ◇
それらの音が示す事は一つ。
機体が急旋回を行っていると言う事であった。
『警告、機体に掛かる負荷が許容値をオーバーしています。直ちに旋回率を落としてください』
アリスは極めて冷静に告げる。が、彼女も僕もそれが叶わない事は知っていた。
ギシギシとエクスシアの羽が悲鳴を上げる。
まるで壊れかけた鉄扉を開くかの如くの音は、構造材の収縮によって継ぎ手が擦れる音だ。
この機体は想像以上に丈夫であったが、それ以上に慣性制御コックピットの恩恵は大きかった。
出なければ今頃首の骨が折れているであろう事はGリミッターの表示からも明らかであった。
『太平洋艦隊の損害、更に増加!再突入体が迎撃ラインを抜けます!来るわ!避けて!』
肺が遠心力によって押しつぶされていた為、ロクに喋る事も出来ない。
だが、やるべき事は解っていた。
それは北米大陸から飛んでくるGBIの目標到達までマヤ達を守る事だ。
それまではこのイカレタチキンレースを辞める訳にはいかない。
そう考えていると視界の隅に一瞬、輝きが見える。
それが何か考える間もなく、機体をクイックブーストでグライドさせると、エクスシアは空力学を無視した挙動で横へと移動。
刹那、機体があった場所を巨大な鉄柱が通り抜けていく。
轟音と共に衝撃波が機体を包み込む。
隕石と同じ速度の物体は途轍もない超音速衝撃波を生み出し、それは最早凶器と言えた。
叩きつけられるエネルギーに辛うじて耐えるエクスシアの主翼。
張り巡らされた人工筋肉の翼はそれを受け流すが、それでも高分子ポリマーで出来た筋肉の一部は断裂した。
AMS越しに機体ステータスが表示される。
引き裂かれた筋繊維の部位が幾つも表示されると共に鈍い痛みが流れ込んで来る。
幻肢痛にも似たそれは、本来なら存在しない筈の翼と言う器官が損傷した事を示していた。
『もうGBIが目標に到達します!これを耐えきれば―――――!』
強烈な遠心力に耐えながらそんなにうまく行くわけないと思っていた自分が居た。
だけれど、嫌な予想は存外に当たる物である。
一射目を避けられたのは純粋にアリスの扱うECMが功を奏した。
それ位は理解出来た。
なら、二射目はどうだろう。
ドップラーシフトを騙す疑似目標反射波はさながらピントの合わないレンズで目標を狙うような質感だろうか。
敵は此方の手品の種をもう理解しただろう。
百戦錬磨の兵士も見えなければ当てることは出来ない。
―――――であれば、見えにくい原因を取り除いたらいい。
つまりはそう言う事。
『再突入体、分離!これは!?』
キャロルの声と共にAMSからレーダー解析情報が入り込んで来る。
それによると分離した棒状の物体は数千以上。
普通に考えれば質量が低下した分だけ空気抵抗で減速し、運動エネルギーは低下する。
だが、解析情報からはその質量物がどうやらタングステン系の重金属で出来ている事を示す特徴を幾つも見出していた。
「面制圧用の重金属キャニスター弾か。やってくれるじゃないか」
的確にこちらのECM兵器の弱点を突く敵に悪態を付く。
最新鋭兵器同士の戦いはパイロットがどうこう出来るレベルを遥かに上回っている世界である事は知っていた。
だからこそ、
それを踏まえ戦場と言う場所で生き残るために僕等がやるべき事は敵を電子戦で欺き続ける事。
そして敵がやるべき事は、此方の電波妨害兵器を無力化する事。
つまり重金属キャニスターは機体を破壊するのではなく、曳航型デコイのケーブルを切断する為の物。
本命は第三射以降の砲弾だろう。
だからこそ、謙虚に、尚且つ確実に石橋をたたいて渡る事にした。
AMS越しにアリスに此方の意図を伝えると、即座に彼女の的確な答えが返って来る。
『チャフ、及びEMP、スタンバイ―――――』
しかし機体ステータスをモニターしていたキャロルは僕の意図を測りかねて疑問を呈す。
『いったい何をする気!?こんな遠距離でEMPを使った所で―――――――』
『―――――キャロリンは頭硬いなぁ。ルーキーがそんな初歩的な事知らない訳ないでしょうが。ま、どうせこっからじゃ出来る事は殆ど何もないんだ。見せて貰おうじゃあないか、何をするつもりなのかをさ』
神は天にいまし、世は事も無し。
数多の銃声と爆風に塗れ、主任は何時も通り。
僕は静かにキリスト教の祝詞を思い浮かべると空から降って来る死と破壊に意識を集中させた。
◇ ◇ ◇
空からの砲撃は一番高度の高かった機体に集中していた。
その為、マヤの機体は敵の照準から逃れることが出来ていた。
だが、戦場での経験が浅かった彼女は何故彼が囮を買って出たのか理解できていなかった為、闇雲に高度を上げてしまう。
それを咎めるようにしてユキが止めに入る。
『ばかッ!マヤっち!高度が高い!』
『このままじゃ鈴音君が!』
彼女の機体内にレーダー照射を警告する音が木霊する。
目標のアームズフォートのAIが新しい脅威を探知した証拠であった。
『あんたは自分の機体が兄ぃやんよりどれだけ重いか知っとる!?囮を引き受けても簡単に撃墜されるのが落ちや!今は太平洋艦隊の攻撃が入るまで我慢!』
彼女は自身の機体が重量級ベースの大型機である事に気が付いて我に返る。
物体の大きさが二倍になれば体積は八倍になる。
つまり、ほんの少しの機体サイズの違いが巨大な質量差に成る事は物理的に当然の事であった。
そして彼女の機体は対レーザー用の重金属系の装甲板を身にまとっていた。
ただでさえ重い装甲板を、レイセオン系の機体よりも大きなサイズにそれを張り巡らしているのだ。
重くならない方がおかしい。
それに加え、彼女が保持している巨大な砲身も重さの原因の一つであった。
敵アームズフォートの主装甲を超遠距離で溶かしきる高エネルギーを撃ちだす事の出来る武器は、規格外の大きさと重さを持っていた。
幾ら高機動性を持っていようとも敵のバイタルゾーンを射抜く武器を持っていなければ意味がない。
戦場で常に防御性能よりも攻撃性能が追及されたのは歴史が証明している。つまり彼女の持つ武器が、過剰な貫通力と破壊力を持っていた事実はその延長線上であった。閉口するマヤを差し置いてユキが続ける。
『まやっちの仕事は宇宙を飛んどるアームズフォートをぶっ壊す事や!それを忘れたらあかんで!その為にはVOBに点火して地球の反対側まですっとばなあかん。水平線に隠れさえすればアイツも撃ってこれへん』
アメリカ大陸の上空を飛ぶ目標の射角外に逃げるべく彼等の進路はヨーロッパ上空に向けて設定されていた。
宇宙と言えども地平線に隠れてしまえば攻撃はままならないからだ。
その状態にさえ持ちこめれば後は速度と高度を上げて目標と交差する軌道に乗るだけであった。
そうすれば弾速が桁違いに早いヒュージレーザーのメリットを最大限に生かした攻撃が可能だった。
敵側の対ネクスト兵器である800mm電磁投射砲も初速の関係、届くまでにレーザーに比べ膨大な時間がかかる。
双方の攻撃が双方の主装甲を撃ち抜くとしたら勝敗を分ける要因は弾着までの時間差と言う事に成り、それは彼女にとって幸いなことに、熟練のパイロットが持ち合わせている経験や勘といった要素が排除された物であった。
だからこそ、彼女達の勝ち目である宇宙空間での遠距離戦を挑むべく、彼女はVOBの最終チェックへと移行する。
『わ、解った―――――――こちらヴェネラ1-1、発射シークエス起動、カウント開始!』
操縦桿を強く握りしめるとマヤは第五世代型AIに全てを託した。
丁度その時、AMSから北米大陸から発射されたGBIが誘導を始めた事を示すレーダー情報が入力されると、彼女のマップ情報に幾つもの光点が現れる。
それらは大気圏外迎撃体と呼ばれる物であり、音速の十倍近い速度で大気圏を離脱しつつあった。