ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
そういや、世間じゃあまり意識されませんが、今のイージス艦って普通に衛星撃墜できるんですよね…なんかサラッと現実世界の兵器がヤヴァイ事になってる。
極超長距離ミサイル迎撃システムであるGBIは複数個のデータ中継装置が無ければ機能しない物であった。
その為、非常にデータリンクに依存したシステムでもあったが、幸いアームズフォートの攻撃によって通信回線を遮断される前にGBIが目標を補足していた。
その情報は即座に太平洋艦隊を経由して付近の生き残った地上レピーター局に中継されて
「
「目標捕捉!毎秒12キロメートルで目標と交差します!」
巨大なミサイルは二段目のブースターを棄てると速度調整用の小型ブースターを搭載したモジュールを解放する。
そこから多数の運動エネルギー迎撃体を放つと役目を終えて静寂が支配する宇宙空間に消えていった。
「どういう事だ?何故奴は迎撃してこない?EKVの到達率は?」
「殆ど迎撃されて居ません!敵アームズフォートの迎撃率、5%台まで低下。更に迎撃率を下げています!」
本来であれば地表から上がって来る目標物は残らず迎撃される筈であった。現にこのアームズフォートの行動アルゴリズムは弾道弾迎撃用の物である。その為、それらと似た軌道を持つ惑星低軌道を飛行する物体を残らず迎撃すると言う暴挙に出ていたのだ。
だからこそ、今回の作戦でも囮としてGBIが使えると踏んで投入された。
しかし、敵のAIが導き出した答えは余りにも残酷であった。
「こっちの攻撃が大してダメージを与える物ではないと学習したか!」
高濃度プライマルアーマーに守られたアームズフォートに殺到する迎撃弾は火球を幾つも発生させるが、表面には小波が立つ程度で大したダメージを与える様子はない。
「目標!地表に向け更にレーザー照射を開始!太平洋艦隊の被害、更に拡大!!」
撃墜されていく友軍が出る度に戦術画面に表示されたマークが消えていく。
その度に指数倍数的に通信レートが低下していく様を歯噛みしながら見つめる指揮官。彼等は余りにもデータリンクシステムに頼り過ぎていた。最新鋭長距離兵器は全てデータリンク頼りであったから、彼等が何も出来なくなるのに大した時間は擁さなかった。
◇ ◇ ◇
見下ろすと言う状態には幾つかのメリットが有るが、事、レーダーと呼ばれるシステムにとっては深刻な障害が齎されることが有る。
それは地上からの反射波の増加である。
レーダーとは自らが電磁パルスを発信し、跳ね返ってきた信号を捉える事によって目標物を検出する仕組みである。
だから、自機と目標物の軸線上に地面が有ると、
これによってレーダーは500㎞を超える長距離での
それ以上の距離から探知するルックダウンレーダーはその殆どが偵察衛星などが持つ合成開口レーダーだ。これは高度400㎞メートルちょっとの高度を飛行する人工衛星であった。
電源の制約が多いのに何故それ程のルックダウンでの探知距離が優れているかと言うと、それはレーダーアレイ断面積がとてつもなく大きかったからである。
レーダーは、探知距離を二倍にしようとすると、照射出力を16倍にしなければならないが、レーダーアレイ面積を4倍にすれば事足りる。つまり、純粋に性能を向上させようと考えた場合、出力を上げるよりもアレイ断面積を増やす方がとても効率が良いのだ。
しかし、偵察衛星はロケットに搭載しなければならない。その為かなりの無理をした小型化を要求される。
だから
相手物体が止まっていると仮定、自身が移動しながら電波を同じ座標に照射する。この時の信号処理に時間軸と自身の移動距離を加える事によって、アレイ断面積を増やした事と同じ処理が可能なのだ。
それが現代の戦場で合成開口レーダーと呼ばれる物の正体であった。しかし、この方式の信号処理では高速移動する物体には無力である。なので現代の最新型の航空機搭載型レーダーはこの機構と、通常のドップラーシフトを拾う複合システムである場合が殆どであった。
つまり、敵のアームズフォートは、合成開口レーダーを用いている可能性はゼロであった。
「まぁ、何というか――――――高度3万キロメートルから飛行物体を追跡とかチート過ぎるよな」
『味方の被害、更に拡大しています!航空部隊の90%が墜落!』
アリスが寄越してくる情報によればそれらの落下物は此方の進路上にコースを合わしているらしかった。
確認するまでも無く正確にこちらを追跡していた。恐らく、試せる機会はあと一回くらいだ。それで相手の手品の種を見破れなければ僕は死ぬだろう。
死神の鳴らす音が途切れることなくコックピット内に響き続ける。
この音が途切れることが無いと言う事は敵が此方を捉え続けていると言う事と同じ――――つまり、このままだと砲弾は必ず僕等を貫くだろう。
『警告―――――曳航型デコイの損傷を確認。次弾接近。推奨、回避』
対抗するために展開していたECMデバイスは先ほどの散弾タイプの砲弾にケーブルを破壊された為、曳航型デコイはもう使えない。ならば使える手はあと一つ。
『次!くるわ!避けて!』
キャロルの声を聴くまでも無く実行に移すべくAMS越しに命令する。
『チャフ、最適周波数にセット』
アルミ箔のリボンが切断されていく音がかすかに聞こえる。
アリスが即席の囮を作成している音だ。
敵が使うレーダーに最適化されたチャフは即座に射出機にセットされる。
『―――――ready』
僕は機体を大きく傾けるイメージを作る――――――そのコンマ二秒前にAMSを介してアリスが意図を読み取り人工筋肉に指令を発する。
機体に張り巡らされた人工筋肉が収縮し、羽の空力特性を変化させると同時にチャフディスペンサーがアルミ箔のリボンが詰まったカートリッジを無数に吐き出した。
機体の電子戦システムが発する妨害電波はまるで鏡の様にそれらのアルミ箔に反射した。いわば、巨大なノイズの雲の中に入ったかの如く、敵のレーダーにはノイズの嵐が吹き荒れている筈だ。
しかし――――――これは既に第二次世界大戦初期に使い古されたいわば枯れた手品だ。直ぐに敵はドップラーシフトの違う僕とアリスの機体を検知するだろう。
これで駄目なら―――――
そう心の中で呟きながら、さらに翼の迎え角を大きくすると翼面の上面に巨大な低圧部分が生まれ、それが機体を急激に減速させた。
機体の速度が落ちると共に、丁度チャフカートリッジが機体を追い越していくと、失速寸前の機体は機首を空に向けていた。
凡そ殆どの航空機のRCSは正面が一番低い。この機体もその例に漏れない為、この状態が一番、敵レーダーに帰っていく此方のエコーが少なくなっている筈だ。
だが、そんな考えを打ち砕くかの如く、敵の砲弾は此方の急減速に追随するかの様に砲弾を軌道修正する。
死神の鎌がアリスの足を切り取ろうとした瞬間、彼女は即座にメインブースターの
長大なプラズマトーチを真下に吹き出して強制的に機体をスライドさせた。
衝撃波が機体を叩く音と共に再び鋭い警告音。
『もう一発!?レーダーには映っていなかった筈!』
考える間もなくクイックブーストを起動し、再び死神の鎌から逃れる。
『ぎゃはは、二度ある事は三度ある!』
主任が何を伝えたかったのか今一分からなかったキャロルが問うまも無くクイックブーストを連発した。
アリスは僕の命令を的確に機体の制御機構に伝え、超高精度なブースト制御を行っていた。
長大なプラズマトーチは通常の数倍の大きさであり、それに比例して推力も桁違いであった。
熟練のリンクスが二段QBと呼ぶそれを難なく連発していく有様に、何時もながら畏敬の念を抱きつつ、正面から来る敵の砲弾を捉える。
「連続で発射してレーダー反射波を誤魔化したか!だけど―――――」
――――――――――お前の手品はもう見えた!
そう叫んだその瞬間、アリスがチャフディスペンサーから超高温のフレアを放出した。
数千度の温度で燃え盛る火の玉はまるで天使の羽の如く、機体を中心に広がっていく。その中に、光らないチャフも混じって落下してく。
所謂、低温フレアと言う奴だ。これが機体の黒体放射を真似るのであるが、どちらが効果的だったのかはわからなかった。
だが、死神の鎌の切っ先は明かにふらついた。
先程まで此方の芯を捉えていた筈が、機体の後方を突っ切っていった。
『警告、機体が失速しています。直ちに迎え角を戻してください』
失速し始めた機体は、重力に負け遂に垂直に落下し始める。
だけれど、
何も無い筈の宇宙空間を漂うそれは、歪な菱形をした何かであった。
視覚野に投影されていた映像にロックオンマーカーが表示されるが、その表示は一次ロックを示す一重の物であった。
二次ロックに持ち込むには一度正確な距離情報を取得する必要があった為、即座にアリスがレーダー波を照射するが、反射波は返ってこなかった。
測距方法をレーダーからレーザー測距装置に切り替えた彼女は即座に答える。
『惑星低軌道にボギー、IFF応答なし』
小石サイズのレーダー反射断面積の機体を、ルックダウン状態で数百キロ先にて探知する事が可能なアリスの目をごまかす事が出来るステルス性を有する衛星は記憶の限りは存在しない筈であった。
勿論、戦闘機やミサイルなどの目立つ兵器よりも、秘匿性が重要な偵察用衛星の情報は回ってこないのが通例であるから、特段驚くべき事ではない。
しかし、目標のアームズフォートの射角内で無事な未確認衛星。しかも、敵のアームズフォートは此方のECMを物ともしない目標捕捉能力を持っていた。
その事が指し示す事実はただ一つ―――――――
「キャロル、この付近の宙域に友軍の偵察衛星が飛んでいるか確認して」
彼女は即座に答える。
『作戦空域内の低軌道衛星は全て撃墜されています!恐らく、目標と何らかの関連が有る物でしょう。破壊してしまいましょう』
「―――――――言われるまでもない」
そう呟き、AMSに指令を送る――――――その前にアリスは僕の意図を読み取った。
『メイン兵装を起動、コジマキャノンスタンバイ。ジェネレーター最大出力。臨界状態へ移行』
重水素ジェネレーターが共鳴音を増していくと、大量のコジマ粒子が機体周囲に放出され始める。
折りたたまれたコジマキャノンが展開すると、整波装置からはじき出される筈の微粒子は、黒光りする巨大な槍に吸い込まれていく。
鈍い輝きを先端に灯し始めた砲身は、天高く掲げられた槍の様に漆黒の暗闇を見据える。
狙うべくは敵の目。
全てを見通すプロビデンスの目に向けられた輝きを敵のAIは即座に悟る。
反撃とばかりに放たれたレーザー光は此方のメインカメラを破壊せんと迫るが、防護用シャッターを即座に展開したアリスによってその意図は簡単に挫かれた。
しかし、此方の赤外線射撃管制システムの中枢であるメインカメラを閉じた事によって、コジマキャノンの照準が不可能になった。
だけど、それでいい。
あちらに無くてこちらにある物。
それはただ一つだけ。
アリスは即座にそれを悟った。
『レーダー起動。モード、バイスタティック』
先程までは何のエコーも帰ってこなかった漆黒の暗闇からは、微弱な電波が帰ってきていた。
それによって表示されたレーダーマーカーに驚いたキャロルが思わず声を上げる。
『どうして!?』
「現代のステルス技術は完璧じゃない。電波は吸収しているのではなくて乱反射させているだけ。だから違う方向から向かってきたレーダーパルスならアリスの目にも見える」
人の作った物に完璧な物は存在しなかった。
ステルス機然り、ネクスト然り。
無論、アームズフォートであってもその例に漏れる事は無い。
超火力に強力無比な装甲、それに機動性。
どれをとっても単騎で国家軍を圧倒出来るほどの性能である。
だが、それを生かすにはたった一つ、この戦場と言う場所で一番重要な要素が抜けてはならなかった。
「お前も、生まれた瞬間から全てを詰め込まれすぎたんだ。どんなに頑強な装甲と主砲を持ったところで、それを活かす為の目が無ければただの鉄の棺桶だ」
アームズフォートは言ってしまえば現代に蘇った戦艦だった。
重厚長大な主砲と装甲を持ち、相手をアウトレンジから撃ち抜く思想を持ったそれは、正しく大艦巨砲主義の極みであった。
『コジマキャノン、フルチャージ、―――――――standby、lady』
敵の目を射抜く槍の準備が終わった事を告げる声が聞こえる。
巨大な緑銅の渦となった槍は、禍々しい歪みを放つ。
「もう一度、時代遅れにして―――――やるよ!」
引金を引くイメージを作り出すと、巨大な槍の先端に収束していたコジマ粒子の励起エネルギーは一気に解放される。
それと同時に莫大な電流が砲身に流れ込み、微粒子をローレンツ力によって亜光速まで加速させていくと、コジマ粒子の質量エネルギーは直径数十センチ程度まで凝縮された。
それと同時に作用反作用の法則で数百トンクラスの反動エネルギーが発生、巨大な砲身が後座するが、殺しきれなかった反動は機体を叩きつけるように揺さぶった。
侵徹体の如く細長く成形され、イオン化された微粒子はメタルジェットの如く空間を切り裂いて飛翔する。
本来であれば空気抵抗を受けて急激に運動エネルギーを失ってしまう筈であったが、コジマ粒子の特性によって空気抵抗を激減させおり、そのお陰で同種の兵器であるプラズマキャノンに比べ、コジマキャノンは圧倒的な長射程を誇っていた。
しかし、対流圏内部に存在する微細な水蒸気によってコジマ粒子の運動エネルギーは削られていく。
丁度、装甲材内部に入り込んだ侵徹体の如くエロ―ジョンを起こし、先端部がマッシュルーム状に広がっていくと、輝きを失った微粒子は舞い散るようにして先端から剥がれ落ちていった。
だが、圧倒的な長さを誇るコジマ粒子の流れはそれでは止まらない。遂に対流圏を撃ち抜くと、惑星低軌道の目標物を貫いた。
レーダー警戒機から流れていた警告が消え、全てが止まったかのような静寂が訪れる。
空には亜光速で駆け抜けた微粒子流が残した円形状の雲が幾つも連なって見える。
断熱圧縮によって空気中の水蒸気が形を変えたそれは直ぐに消えていった。
『敵、FCSレーダー停止。目標沈黙』
目標が放った残りの砲弾は静かに海に落ちていくのを確認しつつアリスの報告を聞く。
どうやら賭けは成功だったようだ。
『やるじゃないか、ルーキー。ま、ちょっと危なかったけどさ!』
主任の声を聴きつつ、味方の被害状況を確認する。C4Iから入って来る情報に目を通していくと、味方艦艇の半数以上が轟沈、もしくは大破、漂流と言う惨憺たる状態であったが、幸いマヤ達は全員無事であった。
データリンクからはマヤ達が海の反対側まですっ飛んでいったことを示すマーカーが点滅していた。
早々に成層圏を超えて宇宙まで行ったようだ。この様子だと既にカーマンラインを超えているだろう。
僕は張り詰めていた緊張を吐き出すようにしてため息をついた。
漸く休める。そう思ったのもつかの間、キャロルから通信。
『GE社から通信が入っています。追加の依頼みたいだけど、一旦そちらに繋ぐわ。受けるか受けないかは貴方の判断に任せます。主任には一応話は通してあるから』
彼女はそう言って手早く通信画面が切り替えた。
まだGE社は僕等をこき使おうとしているらしい。
僕は辟易しながらその通信画面の向こうの男に意識を集中させた。