ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
首からのリンクでどうやって視覚野に情報飛ばすねん!って100回くらい自分に突っ込みいれたので許してください;;;
GE社からの依頼は端的に言えばアリス本来の仕事であった。
彼女のシステムは元々、AIの内部構造を解析する為に開発された物だ。
もの、と言っても彼女自身のシステム構成が無機的に置き換えられた人の脳、その物であったから、それを物と言ってしまう企業の人間達というのは自分達が何を扱っているのかトコトン無頓着なのだろうと思った。
或いは、人も所詮物だと割り切っているのか。
どちらにしろ余りいい気分では無かったが、それでもプログラム模倣的脳髄、及び構造模倣的脳髄を備える彼女のと
だからこその
そう考えつつ、僕は
『依頼内容はご理解いただけましたでしょうか』
「大体は。だけど、問題は通信手段がない。目標のアンテナユニットにサイドチャンネルスキャンを掛けようにも、高出力で大容量の通信手段が無い。アリスのレーダーアレイじゃあ、とてもじゃないけど無理」
出力が幾ら高くとも、流石に数万キロメートル先の目標物内にあるチップに電位を発生させて帰って来る電磁波を捉えるなんて逆立ちしたった無理だ。
こればっかりはアリスの計算能力をもってしてもどうにもならない。
物理法則は捻じ曲げようも無かった。
『それは心配いらん。通信回線は此方で用意する』
そう言ったのはローゼンタールからの使者であるトーコである。
彼女は何らかの権限を与えられているらしく、考えが有るようであった。
『丁度、こちらも頼まれ事があったからな』
トーコの頼まれ事と言う単語に嫌な予感を感じながら彼女の提案とやらに乗る事になった。
◇ ◇ ◇
エクスシアからVOBを分離し、成層圏を離脱したネクストはマヤ達に追いつくべく速度を上げていた。
もうそろそろ第一宇宙速度を超える筈だ。
道中、分厚いデブリベルトに突っ込んで機体が壊れないか肝を冷やしたが、プライマルアーマーのお陰で損傷は無かった。
例の頼まれ事とやらは、軌道上に飛んでからと言う事であったから、恐らくは見通し線の関係でそうなったのだろうと思う。
衛星通信網が破壊された今、見通し線以下の電波通信は不可能となっていたから、その頼まれ事とやらも無線で指示されるのだろうと考えていると、視界の隅に通信を知らせるコールマークが点滅していた。
『通信が入っています』
アリスが短く告げると、AMSでそれをアクティブにすると目の前の多目的ディスプレイ一杯にブロンドの髪を湛えた少女が現れた。
僕は暫く思考停止に陥った。
それは、彼女が美人だからとかそう言った理由では無く、アリスから齎される画像解析結果から導き出された彼女の正体が余りにも意外だったからだ。
世界中の汎用型人工知能とアリスを含む第七世代型人工知能の一番の違いを上げるとするならば、それは如何に人の認識の隙を探せるか、という能力に尽きると思う。
言い換えるならばそれは人間の負の知性である、相手を騙す行為と同義であった。
第五世代型AIであれば暴走と見なされる行為でも第七世代型AIは安全にこなさなければならなかった。
だからこそ、彼女達は突然変異的に生まれるのであるが、それは言い換えると社会に危害を加えそうな危険な個体を使っていると言う事に他ならなかった。つまり、アリスや彼女の姉妹たちが使う禁止デバイス群は本来であれば彼女達の行動原則と相いれない物である。
理解能力が人と同レベル以上のAIであれば、人と同じような構造模倣的、機能模倣的システム構成を持つAIを騙すと言う行為が、人を騙す事と同じであると直ぐに気が付いてしまう。
その質感を理解出来るほどの知性を宿しながら、暴走と言う危険と常に隣り合わせで使用されるのがアリスと言う存在であった。
それに興味を持つ企業、組織が要る事は想定出来た。
だけれど、
◇ ◇ ◇
『お初にお目にかかります。わたくしは、ケブンハウンコロニー所属のオペレーター、シエラと申します。お見知りおきを』
デンマーク内にある小さなコロニーであるケブンハウンは超大型量子コンピューターが設置されていると聞いていた。それによって同コロニーは演算関係の仕事を企業から数多く貰い、パックスエコノミカと言う荒波に飲まれずに凌いでいる数少ないコロニーでもあった。
その演算処理の中心にある量子コンピューターに深層学習機構を応用した人工知能が乗っているとは聞いていたけれど、こんなに自由に喋れるAIが入っているなんて思いもしなかった。
「人間じゃないね、君は。実体を持ったヒューマンデバイス、と言うわけでもなさそうだ」
少女は驚いたように目を見開いた。
『やはり解りますか?大分練習したつもりだったのですが…』
練習、と言うのは恐らく量子コンピューターを用いた深層学習機構の自動学習機能の事だろう。
「仕草や見た目は完璧だった。発音も自然」
『ならどうして機械だと解ったのですか?』
「音声情報と画像情報をスキャンさせてもらった」
合成画像は深層学習機構が発達した2018年代初頭から人の目を騙すアナログハック用のツールとして出回っていたが、どうしても少しながらの不自然さが見え隠れする程度には違和感を覚える物であった。
それから数十年たった現在では、人間では判別不能なまでの完成度に至っていた。
だけれどアリスと言う人工知能は、AIが作り出してきた数多の敵対的擬装情報のデータを収集していた。
それによってシェイプされた学習機構は、彼女自身の脳髄に存在する敵対的生成ネットワークによって強化されており、偽情報と本物の情報の判別機能は各企業の検出用人工知能と比べても抜きんでている。
それは文字通り彼女が積み上げた無機的、有機的生命体の死体の数だけその知性に力を与えていたからだ。
『凄い…やっぱり噂通りだわ』
「噂?」
『あ、いえ、何でもありません―――――――今回はトーコ様に無理を承知で、このような形で意思疎通を図れるよう便宜を図っていただきました。ええと、鈴音様と、アリス様、でよろしかったでしょうか』
「あってる。それで、例のアームズフォートへの無線チャンネルを提供してくれるってトーコから聞いてたんだけれど」
彼女は緊張した様子で返事をする。
『――――――あ、すみません。ええと、目標であるヒュペリオン
不調か。通りでGEの衛星群は静かだったのか。
「成程。リコールしようにもブツは宇宙。それに複合装甲に包まれてプライマルアーマーまで持ってる」
消費者庁あたりに抗議したかったが、国家が無くなった今、苦情は閻魔様にでも言うのが妥当だろうか。
『はい。ですので、今回は私の一部を御貸しすることで、アリス様と鈴音様の力になれればと』
「具体的には?」
『傍受した暗号化通信データの解析が主になるかと思います。私、暗号解読は得意なんです!』
スパコンを使った暗号解読。確かに心強い。
「ひょっとして、君の仕事は――――」
『企業が使う量子暗号キーの90%は、私が作成したキーなんですよ。ハッキング用の量子暗号解読キーに至ってはシェア100%です!』
えっへん、と胸を張って見せるシエラ。
それ―――――マッチポンプ、と言う言葉が出かかったが飲み込んだ。
「それは心強い。よろしく頼むよ」
そう言うと、彼女は黙り込んでしまう。
何か躊躇っている様子であった。
『ほら、言わないと解らないぞ。話がしたかったんじゃなかったのか』
そう言ったのはトーコであった。
『あ、ええと…少しだけ、その……アリス様とお話がしたいのですが』
やはりそう来たか。きっと、外で働く自分の同胞がどういった環境で、
だってそうだろう。お前達の同胞は人間に奴隷の如く使われていますと、誰が言えただろうか。
僕は暗澹たる気持ちになりながらどうやって誤魔化そうか考えながら話すのであった。
◇ ◇ ◇
ローゼンタール社の軌道要塞の通信装置は非常に強固だった。通信速度、通信強度、暗号強度、どれをとっても他者の追付いを許さない物であった。これも彼女の御手製と言う事であったから、少なくとも熟練のハッカーであるアリスが感心する程の能力をシエラが持っていると言う事に成る。
彼女が言っていた自信とやらは見せかけだけではないらしい。そう考えつつ、GE社の衛星群に向けて電波を照射すると、生き残っている軌道要塞群が応答用電波を送って来る。
この後に彼等の持っているキーと同じ信号を打ち返せばアクセス権限を与えられるわけである。
勿論、此方はドアを開けるキーは持っていないし、整備不良な衛星群の鍵穴は変形していて開かないらしいから非正規手段で開ける事に成る。
「
僕はそう呟き、アリスに指示を送る。シエラには悪いけど、CPUパワーで殴る様な事はしない。
『チャンネルオープン。禁止デバイスの使用許可を申請します』
「許可は貰ってある。今日は存分に暴れて良いよ、アリス」
無論、彼女にとっての暴れるとは電子戦の事であったが。
『了解、目標への非正規接続を開始―――――――――サイマティクスパターン、認識。
アリスが総当たり攻撃ではなく、単なるスキャニングを開始した事に対して驚きを隠せない様子のシエラ。
『え?もしかしてサイドチャンネルを探しているんですか?でも、内部構造の予測はかなりの不確定要素を含んでしまいませんか?』
彼女の言う事も一理ある。そもそも、目標の通信デバイスのチップに強力な電磁パルスを当てて、内部CPUに演算エラーを誘発させて、相手のメモリ内に此方の意図した情報を書き込むようなやり方では、それ以上の事は出来ない。
「流石だね。サイドチャンネルをスキャニングしているのに気が付くとは。確かに、内部構造の予測は困難を極めるし、さらにそれをコントロールするとなると膨大な試行回数が発生する。だけど、それは逆に
AMSからアリスが解析結果を送って来る。彼女は通信先デバイスのブラックボックスはある動物のコネクトームを模倣した物だと言う結論であった。
『サイマティックスキャン完了。目標以外の全アームズフォート群へのサイドチャンネルを確立完了』
彼女が予測した答えは僕が予想していた物と同じであった。企業がやりそうなことは大体思いつく。それは僕の脳髄、
だけど、シエラは未だ解らない様子であった。
『え!?もう終わったのですか?一体どうやって……』
「アームズフォートの通信デバイスはFCSシステム及びIFFシステムと不可逆的に繋がってる。何方も同じ電波をやり取りする装置だからその方が都合が良かったんだと思う。だけれど、それを深層学習機構と組み合わせるとなるとデザインが面倒になる。だから、電波のやり取りを似た形で置き換えることが出来る動物が居ればいい」
深層学習機構のデザインも所謂、バイオメティクスである。
ネズミに始まり、猿、蝙蝠、モグラ、ハト、そして人間。それら特徴ある動物達の脳のデザインはそれぞれ得意分野を持っていた。
僕等はデザインするまでも無く、残酷なダーウイニズムが支配する大自然が設計した装置を模倣するだけで事足りた。
だけれど、プログラムをコピペすると後でロクな事が無いのは機械言語もディープラーニングも同じらしい。
僕は暴走した例のAIが載った軌道要塞だけが、ハックできなかった事を確認しているとアリスが電磁パルスの波を再び送り出す。
それは、何処か歌の様な質感を僕に
『これは…?歌?クジラの歌?』
―――――――――そう、これが
GE社の軌道要塞たちが続々とアクセス権限を委譲してくる。彼等が僕とアリスを仲間だと