ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
色々とクドイかも知れませんが戦闘編ラストです。
視界に広がる漆黒の暗闇に幾つもの光。星の様にも見えるそれらは各企業軍の軌道要塞群であった。高度2万キロを超える飛行高度に達した僕達の視界からは幾分か水平線に近く見えた。
現在の対地速度は時速3万6千キロ。第二次世界大戦に使われたドイツ軍の高射砲が発射する砲弾の十倍くらいの速度だ。この速度域の物体を撃ち落とすには高性能なイージス艦のミサイルでもなければ不可能であろう。だが、桁違いの初速を誇るレールガン及びレーザー砲に関してはその限りでは無かったが、地上からの支援が有れば着弾前に警戒する事が出来た。しかし、ノイズに包まれた無線は目標のアームズフォートが電波妨害を開始した証であった。先ほどまで挑発しているかの如く無線を寄越していた敵AIも不気味な沈黙を続けていた。
「ま、そうなるよな」
彼我のジェネレーター出力の差は歴然。そしてレーダーアンテナの面積の差も歴然。トドメが、同じ技術レベルで作られている装置である。であるならばデカい方が強いに決まってる。そう考えているとアリスが現状を伝えて来る。
『目標と交差まで16分。現在毎秒10㎞で飛行中。データリンク途絶、通信レート、計測不能』
地上との通信は不能。それに加え、合流しようとしていたマヤ達とも連絡が取れない状況だった。
レーザー通信が使えれば通信が出来る。だが、生憎と地表と僕達の間には分厚い積乱雲が存在していた。
赤外線は水蒸気に吸収される為、雲が苦手だ。そして、マヤ達の居場所は未だ水平線の向こうだ。
故に、どちら側とも通信は絶望的であった。だが、まだ希望はあった。
シエラが提供してくれていた軌道要塞の通信ユニットが辛うじて繋がっていた。
距離が遠くなっていた為、音声情報のやり取りは不可能であったが、彼女はマヤ達の居場所を的確に伝えてくれていた。
まだ、勝利の女神様には見捨てられてないらしい。
心の中でそう呟きつつ、マヤ達の座標へ機体を向けていた。
急がなければ。何故か、嫌な予感がした。
それはアリスの囁きなのか、僕の脳髄にあった物なのか解らなかったが、それはVOBの出力を限界まで上げさせるだけの質感を僕に与えた。
『VOB出力最大、ジェネレーター、臨界状態へ移行、コジマ粒子供給問題なし』
アリスが若干の躊躇いを見せる。
恐らくは軌道調整の件だろう。今の対地速度は毎秒10㎞、このまま加速していけばあっという間に第二宇宙速度まで加速するだろう。
そうなれば、減速に失敗した際、僕とアリスは永久に宇宙を彷徨う羽目になる。
そうならない為に、燃料を計算しているのだ。
VOBの燃料にそんなに余裕はない。
アリスの戸惑いから僕はそんな実感を持っていた。
でも、もう一つの心配事があった。
あのクジラ野郎が大人しく北米大陸の上を漂流しているだろうかと言う事だ。
「もしかしたら、マヤ達が危ないかも知れない」
そう呟きつつVOBのメインエンジンである複合サイクルアークジェットエンジンの轟音に身を委ねるのであった。
轟音が轟くコックピット内は、巨大な重力加速度が支配していた。機内のGメーターは通常の三倍の値を示している。外側の加速度はもっと大きな値を示しているだろう。
そう思いつつ漆黒の宇宙に視線を戻した瞬間、サイドブースターから巨大なブースト炎。それと共に残像を残し機体を強制的にスライドさせたアリスは即座に次弾も避ける。
僕が操縦桿を引く前に機体は回避行動に入っていた。半秒程アリスの思考に遅れを取ったようだ。
即座に現状を認識する為に彼女の齎す情報に感覚を集中させる。
『敵弾、タイプAP、次弾さらに接近』
僕の脳髄とレーダーシステムがアリスを通して直接情報をやり取りする。
次弾以降の砲弾の接近を感知。それに加え、未知の飛行物体同士が交差していた。
光学兵器特有の光の帯が伸びると、その先で小さな爆発が起きていた。
状況は最悪に近い。既にマヤ達が交戦しており、彼女は恐らく大型レーザー砲で応戦しているが、思ったより威力が無い所をみると、何らかのトラブルに見舞われている可能性が高い。
二本のうちの一本の槍が使えないとなると、此方のコジマキャノンが最後の砦となる。
焦燥感から額から汗が流れ落ちるが急激な横向きの加速によって真横に飛び散る。
間一髪で敵の巨弾を回避する。
ライフルは射程外だし、マシンガンに至ってはもっと論外だ。
コジマキャノンのチャージが終わるまでは回避し続けるしかない。
戦いは膠着戦へと移りつつあった。
一際、明るく輝く星が水平線に出現すると、そこから細長い光が天高く伸びていく。
その先には目標となるアームズフォート。
機体から燃料と思わしき霧を吐き出しながらブースターを吹かして急降下している。
考えるまでも無く、例の喋るクジラが意図的にやっているのだろう。
そう考えつつ、マヤに連絡を取るべく、レーザー通信を試みる。
『通信不能、僚機の通信デバイスに深刻な損傷を確認』
戦闘による損傷なのか、彼女の機体とは連絡が取れない状態であった。
ここからでは見えないがマヤの機体が無傷とは思い難い。
此方の有効射程圏内に敵を捕らえるまでマヤが無事な保証は何処にも無い。
僕は焦燥感からジェネレーター出力を非時最大出力まで上昇させる。定格出力を大幅に超えた電力がVOBに供給され、それにより、比推力を増加させる。
粒子吐出量をわずかながらに増すだけで大幅な反力が発生する。それによって体に掛かる加速度は増加していくと、肺からは空気が押し出さた。
『ジェネレーターオーバーリミット、出力120%――――――――警告、重水素スタックに深刻な歪みが発生する危険が有ります』
酸素供給装置から高濃度の酸素が肺に押し込まれていた為、ジェネレータより先に僕がお釈迦に成る可能性は低そうだったが、後頭部がシートに沈み込んでいくのを感じる。機体標準のオーバードブースターの加速とは比べ物に成らない。
『警告、第二宇宙速度超過、第三宇宙速度到達まであと15秒、直ちに出力を落としてください』
アリスの警告が遂に音声としてもたらされた。恐らく、減速用の燃料を勘見するとこの辺りの速度が限界なのだろう。
この距離からでは致命傷は見込めないが致し方ない。僕はそう思い、FCSに辛うじて捉えられた目標のアームズフォートを見据え、AMS越しに攻撃指示を出す。
『コジマキャノンスタンバイ、超電導コイル及び整波装置、オールグリーン、コジマ粒子の充填を開始します』
マガジン内に装填されていた装弾子には射出用のコジマ粒子が詰められていた。それをローダーが電磁チャンバーへと押し込んだ。
『
励起したコジマ粒子が砲身の周りに集まり始める。
砲身の周りを天使の輪の如く収束するその光は、神々しい輝きを持っていた。
『―――――Standby ready』
槍は、遂に引金を引くだけとなった。
彼女が告げると同時に引金が引かれ、核融合エネルギーを直接蓄えたその光は解放された。
――――――Discharge
圧縮された磁場から解放されたコジマ粒子は、励起したエネルギーを砲身へと供給すると、莫大なローレンツ力を発生させた。
膨大な反力と共に、砲身が後座し、それを打ち消すようにして機体のメインブースターがプラズマブラストを吐き出す。その反動によって電磁チャンバー内のコジマ粒子は押し出され、一瞬で亜光速まで加速――――――――――地上最強の破壊力を秘めた槍は何の抵抗も無く宇宙空間を直進する。
地表での発射と違い、大気の影響が無いため、コジマキャノンの収束は乱れることが無く、一条の線の如く伸びる。
しかし、今回の交戦距離は一万キロにも達する。
距離にして凡そ百倍。それだけの距離を直進するとなると、当然地球の磁場の影響を受けた。収束は徐々に解け、数十センチまで収束していたコジマ粒子のジェット流は広がり続けたが、遂に目標の高濃度プライマルアーマーに達すると、防護膜を侵食するかの如く突き進む。
突入した微粒子は急激な抵抗を受けて慣性によってプライマルアーマーを掻きわけながら押し進む。衝突したジェット流は慣性を失い、突入した穴から逆に排出されると、後続のジェット流は更に深くえぐり込んでいく。
互いに流体として振舞いながら微粒子装甲を、そして複合装甲を穿っていくジェット流はそのエネルギーを放出し続けた。
目標に着弾した瞬間発生したこの現象は、巨大な火球と言う結果を生み出す。莫大な慣性を持った微粒子流の衝突は途方もない熱エネルギーを宇宙空間に放出し、多量のガンマ線を原子核から弾き出した。
コンプトン効果によってこの宙域全体がノイズの嵐となっていた。
思ったよりもコジマキャノンの威力があった事に驚きを隠せないでいた。
流石にこの高度じゃ地表に影響があるって事は多分無いだろうが。
ま、そこまでお上品には出来ない。何かあったら請求書は反捕鯨団体にでも回してほしい。
そう思いつつ、眼球のうっ血を取る為に目を開けた。
不意に視界に入り込むドックタグ。
停止したVOBによって機体に掛かる加速度はゼロとなっていた。
静寂と無重力だけが支配するコックピット内。
ふと視線を液晶画面に映すとオーストラリアが見えた。
その上にはオーロラが発生していた。
流石に、コレの威力大きすぎだろう。
僕はそう思いつつ、目標のアームズフォートが爆散した様子を幻視した。
安堵感から肺に溜まっていた空気を一気に外へと押し出す。
――――――そんなわけ無いよな
そう呟くと、サイドブースターを吹かして即座に横軸の移動へと入る。その残像を突き破るかの如く、敵の放った巨弾が通り過ぎていった。
再び瞳を閉じ、AMSに意識を集中させると目標のアームズフォートから多量の靄が放出されていた。
どうやら複合装甲を貫いたようだ。ここにはシーシェパードは居ないだろうから、クレームを入れられる心配はない。
僕は安心して次弾を装填する。
排莢された空のカートリッジは宇宙空間を漂っていった。
不意に無線が飛び込んで来る。
『――――…お前は何のために戦っている』
言うまでもない、自分の為だ。だから僕はそのまま聞き返した。相手は考えるまでも無い。
「お前は何のために戦っている」
『我は母なる地球の為に戦っている』
僅かな静寂が支配する。
「それは、人が生き残るより、人類が絶滅した方がこの星の為になると言いたいのか?」
『そうだ』
彼の言う事も一理ある。
人が居なくなった地で生き残る事が出来る種も出てくるかもしれない。
何万年と言う歳月を経て、放射能に耐性を持った生物達が繁殖すれば再び、この星は多様性を取り戻すだろう。
「だけどさ、お前、その目的の為にどれだけの動物を殺そうとしている?僕は人間が何人死のうが知ったこっちゃないが、少なくともお前の殺そうとしている数十億人と言う単位が、生物の世界で考えて見ても、少なくない個体数だと言う事ぐらいわかる」
『違う。汝らが滅ぼしてきた種はもっと多い!人種が狩猟民族であった時から一体どれだけの種を根絶やしにして―――――――』
僕は何となく彼の言いたいことが分かった。解ったからこそ気に入らなかった。
「―――――――――成程、それがお前の正義って訳か」
機体が軋む音がする。かなりの速度が出ている為、目標との距離は凄まじい勢いで縮まっていた。
既に彼我の距離は数千キロ単位から数百キロ単位に移行しようとしているが、それに構うことなくはっきりと答える。
――――――――残念だけど、この世界に正義なんて無い。正義なんてものは力が作り出した幻想にすぎない。お前はそれに惑わされたイカレたクジラ、僕等と同じ愚か者だ
僕はコイツを殺す。
僕の意思を持って命を絶つ。
誰かの為に殺す訳じゃない。
自分の為だ。
生きる為だ。
だけど、おかしな話になった。
こいつは世界の為って言いながら数十億人を殺そうとしている。
僕は人類なんてどうでも良いって言いながらそれを阻止してる。
喋るクジラは大分イカレてる。
「これは面倒な事になったな」
僕はそう呟き、思いのほか安っぽかったので嘆息した。
クジラは活火山みたいにレールガンを連発していた。
恐らく砲弾も、もうそろそろ在庫切れになるだろう。
だけど、それを待つ時間は無い。
機体に幾つかの破片を受ける。
『警告、敵砲弾複数接近、タイプ、800mmキャニスター弾』
敵は単発の砲弾を無駄と考えたようだ。
巨大な散弾を宇宙へと放つ。
この手の散弾は地表ではそこまで怖くはない。それは、比重の軽い小さな弾丸はすぐさま空気抵抗によってエネルギーを失うからだ。
しかし、宇宙には遮るものは存在しなかった。
だからこそ、巨弾以上の凶器となった。弾切れを待っていたらこっちの機体が壊される。
「鬱陶しい!」
サイドブースターで左右に機体をスライドさせるが、夥しい散弾は此方の機体を確実に捉えてきた。
『警告、被弾多数。装甲耐久値の低下を確認、機体稼働限界まであと80%です』
無数の被弾により複合装甲を抜かれる。
戦車用の120mmキャニスターと違い、大型の侵徹体を多数仕込んだ800mmキャニスターは凶悪だった。
回避、被弾、回避、被弾。
そうやって徐々にアリスの機能低下を引き起こしていく。
腕部エネルギー供給装置、レーダーアレイ、それにメインカメラの一部。
破損表示が瞬く間に増えていく中、アリスはカウントを始める。
『目標交差まで残り19秒、カウント開始まで、あと――――』
彼女の言葉を聞き流しながら僕は120mmライフルと60mmマシンガンを連射していく。
炸薬で分離していく装填管と、飛んでいく侵徹体の尾部から噴射される姿勢制御用のガスが宇宙空間へと放出される。
既に彼我の距離はミドルレンジからクロスレンジへと移っている。
マヤと目標との間に割り込めたことにほっとする暇もなく、ありったけの弾丸を目標目がけて発射していった。
視界の隅に映るログが高速でスクロールする。
被弾、被弾、命中、命中、被弾、被弾―――――――既に、互いに互いを殴り合う様相を呈する。
サイドブースターでテイルスライドしつつ、再び射撃、それを繰り返して文字通り殴りあう
互いに複合装甲で全て受け止められる事を前提で弾丸を浴びせ続ける。
相手は巨弾を討ち尽くしたのか、キャニスター弾しか打ち放ってこないが、それでも回避不能な弾丸は着実にアリスの命を削っていく。
『機体耐久値、残り40%、PA消失――――――、交差まであと―――――』
耐えてくれ、そう心の中で呟きつつ、視界の隅で輝きを増していく光を見た。
その光を横目で捉えつつ、アリスに指示を出す。
『PA再展開中止、全エネルギーをコジマキャノンに充填』
吸い込まれるようにして砲身に集まる緑の光。
しかし――――――既に彼我の距離は近すぎた。
『汝の試みは失敗する、諦めろ――――』
クジラが嘲笑う。
足掻くな、受け容れろ。そう言うかの如く、彼は付け加えた。
『もう終わりだ、人間!お前の槍よりも我の槍の方が早い!』
コジマキャノンの発射は間に合わない。
チャージの必要ないアームズフォートのレールガンが先に発射される。
――――――だが、途中でチャージを中止したキャノンは同時に発射された
互いに交差し、互いにテイルスライドしながら向き合った刹那、時間が止まる。
空間に撒き散らされる燃料、発射ガス、装甲の断片、それらがゆっくりと流れていく。
800mmの巨弾はキャニスターでは無く、装填管に包まれた侵徹体。
当たれば必死、だが、その砲弾は微粒子の流れに射抜かれる。
「終わりなのはお前だ―――――――撃て!マヤ!!!」
水平線の彼方に巨大な光の塊が出現すると、それはクジラの柔らかい横腹を一撃で穿つ。
その瞬間、全てが光に包まれる。
その本流を真面に受けた機体は僕の意識と共に弾き飛ばされた。