ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
雨音が何かに遮られる音が木霊している。
バチバチという放電音がガラスの破片みたいに、僕の聴覚野に突き刺さる。
高音質スピーカーで再生される音楽の高音域が耳に刺さる感じに似ている。
でも、雨のお陰で肉の焼ける臭いは消えてくれた。
今は雨の匂い。
少しだけ煤けた臭いも混じっていたが。
この新型兵器の寄越してくる情報は毎度の事、肉体で感じる物より解像度が高い。
それだけ情報量が多いと言う事だったが、アリスに言わせると、人間の脳の情報処理能力が低いだけだそうだ。
僕はアリス越しにしかネクストの凄さが解らなかった。
だがネクスト自体、彼女の体なのだから人間の認識能力などその程度と言う事なのだろう。
そりゃ第七世代のボトムアップ型戦闘用AIに比べれば人間なんか、人間とネズミ位の認識能力の差があるのだろうけどさ。
そう思いつつ、敵電波情報を収集する。
雨音に混じって敵の交信が入って来る、と言ってもデジタル情報なので、人と人が喋っている訳じゃない。
敵側の機械と機械がお喋りしている声を盗み聞きしている訳だ。
これらの情報にアリスは手早くタグを張り付けていく。
勿論、敵性情報の個体認識の為だ。
機械にも個性がある。
それぞれに通信プロトコルと言う言語があり、それぞれの通信機器内部の集積回路は、人でいう所の国みたいな物だ。
その国独自の価値観があって、その国独自の言語があって、その国独自のルールがある。
そう言う訳で、それらが寄り集まった連合国みたいな物が、敵である
それらの文化や言語に精通しているアリスなら、その情報を丸ごと掬い上げるのは造作も無い事だった。
だけど僕は生憎と人間であり、
聞いたところで只のノイズにしか聞こえないだろう。
だって、僕の耳は音を拾う為の物であってデジタル信号を翻訳したり、一昔前の機械が百億年掛かっても解けない暗号を一ミリ秒で破る為にあるわけじゃない。
だけど、AMSを介してなら彼女達の言葉が一部だけど僕にも解る。
だからこそリンクスと言う名を僕らネクストのパイロットは持っているわけだ。
「有り難うアリス、助かるよ」
そう言いつつ、敵情報を更新した彼女に呟く。
勿論、いつも通りスルーされる。
でも、それでいい。
僕と彼女の間にはAMSがある。
それが僕が孤独じゃない証であり、彼女もまた孤独じゃない証だった。
僕はアリスが傍受した情報によってもたらされた敵の動きを確認するべく、脳内の仮想メモリ―にアクセスする。
アリスによると、敵は琵琶湖の周辺に再展開しており、二個師団が陣地を構えているようだ。
その中には例の高出力レーザーも含まれており、流石にその情報はアリスが気を利かせて企業側に上げたようだ。
だからだろうか、企業は迅速に動いた。
彼女によれば、敵の布陣に康応して、大阪湾周辺に展開していた企業軍が大阪市に上陸、市内に展開を済ませていた。
大阪湾の写真にはGE社直轄のネクスト専用輸送タンカーが三隻見える。
どれも巨大なタンカーを改造した物だったが、重油の代わりにネクストと大量の修理部品や、その他地上支援機器を積み込んだ船は、かつてアメリカが誇った巨大空母より大きかった。
「GEの最新型が二機、AGEのユーロネクストが一機。勢揃いだな、こりゃ」
投影された映像を見ながら呟く。船には律儀に社名が浮かんでいる。
僕の乗っている
こんな小さな面積の島に三機のネクストを追加で寄越すなんて、そうそうお目に掛かれる事態じゃない。 企業が本気になった証だ。
いよいよ引導を渡す時が来たのだと僕は悟った。
と言う事はこのチキンレースもそろそろお開きかな。
そう思っていると、案の定、データログ上段に本社通信と出てきた。
要は電話に出ろや、と言う事らしい。
僕は渋々通信回線を開くのであった。
大型の垂直離着陸機が遥か彼方に見える。
丁度MV22オスプレイを巨大化させたみたいな見た目の奴だ。
メインカメラの高解像度では大型機のエンジンから吐き出される揺らぎまで見える。
それは丁度朝日を背にして向かってくると、丁度僕の真上でホバリングし始めた。
『T2データリンク正常、システム、AI管制モードに移行します』
アリスの甲高い声が聞こえる。それに答える男性の声。
恐らく空母から垂直離着陸機を遠隔操作しているオペレーターの声だろう
『データリンク確認した。コントロール権移譲、
アリスが再びそれに答える。データログにアリスが正常に離着陸機を操作している事を告げる文字が出て来る。
『
アリスは冷静に機体の降下率を僕の脳内に送ってきた。
相変わらず乗り物の操縦が上手い。
何時も通りの完璧なホバリングで僕の頭上6メートルに輸送機を持ってくる。
紐で吊るされているかのようなピタリと静止したホバリングは、人間のパイロットには到底出来ない芸当だろう。
軍のヘリパイロットが大量に失業したと言う話は本当かも知れない。
僕はそう思いつつ、ネクストの腕部に格納されていた補助アームを展開すると、アリスがハンガー内のガントリーにマシンガンとライフルを引っ掛けてくれた。
補助アームの操作をアリスに任せ、僕はハンガー内に設置してあるハンドルを握り、ネクストを懸垂の要領でハンガー内に仕舞い込む。
機体は一瞬グラリ、と揺れる物の、直ぐに推力を調整してホバリングを続ける。
僕が操縦していたなら今ので絶対墜落していただろう。
そう思っていると、ハンガーの巨大な扉が閉まっていく。
観音開きの扉が完全に閉じると機内は漆黒に包まれた。
漸くセーフティーゾーンに帰れると言う安堵感で欠伸が出そうになる。
「相変わらず人間泣かせな腕だね、アリス」
そう呟いて、彼女の操縦する機体のハンガーに身を委ねるのであった。