ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
そういえば、最近のF1人気ないのは何故だ…
F1遅いっていわれるけど、パワーパックの熱効率が50%行ってるのがどれだけ凄いか理解されないのが悲しい…
視界の端に自己診断プログラムが吐き出した機体損傷の警告ログが走っていく。
ステータス画面に映る機体の簡易表示が真っ赤に染まっているのが何とも痛々しい。
損傷部位の特定の為に走らせたアリスの指令は体中を駆け巡っていた。
彼女は一番危険なジェネレーターの損傷を、粒子圧縮比の変更と炉心の完全隔離によって回避しており、最低限の出力は確保できていた。
だが、メインカメラの損傷、これが一番痛かった。
今の彼女は盲目だった。
センサー類が死んだことによって彼女は現在地を確認する術を失った。
衛星測位システムのアンテナもお釈迦になった今、僕等は真っ暗な宇宙空間の何処を飛んでいるか解らない状態だ。
だけれど、光はあった。
それはリンクスであるパイロットの脳髄からの光である。
ペリスコープ越しに一条の光。その中に浮かぶ光の球体を見つめる。
遮光版によって直視可能なレベルにまで遮られたその星は、太陽系と呼ばれる惑星系の中心部であった。
その基準点を正確に観測する事は、現在地を知る為の第一歩であった。
「この位、か」
スラスターを微調整しながらコアを光の源へと向ける。
『基準点確認、慣性航行システムに座標軸を登録』
基準となる点が決まれば次に必要なのは帰る場所の方位である。
青き星を探すべく、スラスターを吹かすが、ネクスト二機、それに加え大型VOBの発生させる慣性はコントロールを難しくさせた。
下手に操作してダッチロールを起こしては命が無い。
リカバリーが効かない宇宙空間ではどんな些細な問題でも致命的となり得た。
だが、何とか青き星を見つけると視界の中心に捉えた。
『第二修正点、地平座標入力』
アリスがそう告げると視界に水平線が引かれる。
これが、太陽と地球を結ぶ線であり、この線と地球の赤道の線の傾きから自身の位置を割り出すのだ。
そしてこの線はアリスの司る慣性航行システム内に座標軸として保存されている。
だから、機体の向きを変えてもこの線だけは傾かないのだ。
「マヤ、聞こえてる?」
先程、漸く復旧した有線通信回線は、問題なく作動していた。
マヤの機体のタクティカルオーダーを漁って何とか通信用の回線に此方の機体の信号を潜り込ませることが出来たのが功を奏した。
糸電話みたいな原始的な通信回線であったが、無いよりはマシだ。
『聞こえるよ!鈴音君、凄いね!通信、治っちゃった!』
「直した訳じゃない。繋いだだけ」
スピーカーとスピーカーを繋ぎ、途中にアンプを接続した超原始的な有線通話である。
スピーカーと言う器官が電気を音にに変換する機械であるならば、その音を電気に変換するのもスピーカーである。だからこそ、入力された振動が電気を発生し、その電線の先で再び電気が振動になるわけであり、これによって音、電気、音、と言う流れが起こり、通話が可能となるのだ。
なぜ、通信回線を復旧させたかと言うと、それを使ってマヤの機体と連絡を取り、軌道調整を可能とするためだ。
メインエンジンとなるVOBが健全なのは彼女の機体だけであり、こっちのVOBはとっくに破棄してしまっていた。 主となる推進力は向こうのVOBである。
同じ質量の推進剤で巨大な推力を捻りだせるVOBが無ければ、残りの推進剤残量と睨めっこをしていた僕等はとっくの昔に地球帰還を諦めていただろう。だが、希望はあった。
「マヤ、そちらの準備は良い?」
軌道調整の為に彼女は自分の機体に戻っていた。
空調システムが死んだ機体では生命維持機能はパイロットスーツに頼る事になるだろうが、それでも一時間以上は船外活動が出来る計算だった為、問題ないと踏んだ訳だ。
『うん、起動準備完了したよ。後はAMSを接続するだけ』
若干緊張した様子であるマヤ。
大破した機体を再起動するのだからAMSから流れ込んで来る情報量は相当な量だろう。
リンクスに掛かる負荷は入力される情報量に比例し、文字通り生身の脳髄では裁く事が不可能な程の情報は、リンクスにとっては致命的となるため、彼女の緊張も当然である。文字通り命をかけるのだから。
全ての神経細胞を量子パーセプトロンに置き換えた人間でも無ければそれらを本当の意味で精査し、捌く事は不可能だ。かつてはそういった試みもされてきたが、超電導素子の一種である量子チップの維持には途方もないエネルギーを消費する為、
人の構成素材を機械にする試みは潰えたが、ある意味、真逆からのアプローチは成功してしまったのだけれど。そう考えているとアリスからAMSを介して声が届く。
『月重力圏に接近中、減速スイングバイ開始地点到達まで残り90秒』
「こっちが合図したらVOBを点火、もう一度合図するまでそのまま最大出力をキープして欲しい」
『了解。でも、帰りの分の燃料は無かった筈なのに、何で節約できるようになったの?』
「減速スイングバイ。惑星の重力を使って速度を落としつつ、軌道を変える。50年位前にあった宇宙航行技術の一つだよ」
今は廃れた、とは付け加えなかった。
『げんそくすいんぐばい?凄いぎじゅつだね~!』
読み方がおかしい気がしたが気にしないでおこう。
『でも、GPSも使えなかったのに、どうやって現在地を見つけたの?』
「マヤは潜水艦って知ってる?」
『ええと、鉄のクジラみたいな乗り物?』
どことなく要領を得ない様子であった。一般人が見てもそれが軍艦であると判らないくらい地味な見た目だったから、そこら辺、疎そうなマヤのことだ。一度見ただけじゃそれが何なのか解らなかっただろう。
「そう。クジラ。海洋性の大型哺乳類は皆、音で対象との距離を図るんだ。それは現代の潜水艦と同じ。彼らは目標が出す音の方位変化率と
『へぇ、そ、そうなんだ!』
正確には地球、太陽間の方位角変化率から地球軌道を割り出して、そこから自身の移動方向も予測しようと言う試みなのだけれど、マヤにそれを正確に伝えようとしたら、僕等は太陽系を放り出されるまで動けなくなるだろう。
勿論、僕もマヤもそれを望んでいる訳ではない。
なので。理解と言う言葉を太陽系の彼方まで吹き飛ばされた彼女を放り出して機体の方向を変えることにした。
減速スイングバイに入った機体は月の方向を向いていた。
重水素ジェネレーターが発生させるギガワットクラスのエネルギーを吸い込み、コジマ粒子を亜光速まで加速させる。
最大出力での運転と違い、体に掛かる加速度はそうでもなかった。
だが、比推力を上げる、その一言に内包される苦労は計り知れない。
熱エネルギーを回生してくれるコジマ粒子自体を削るのだ。
それだけで、燃焼室温度は飛躍的に上昇する。
高温にさらされた金属は簡単に溶着する。
タービンブレード、電磁ポンプ、超電導コイル、どれが損傷してもVOBは即座に爆散するだろう。
つまり、今、マヤが一挙にになっている機関出力の安定という作業は計り知れない程緻密で繊細な作業だ。
だが、彼女はVOBの構造すらも知らないだろう。
大抵の人が自身の体の構造や、エネルギー生成方法を知らないのと同じように。
だけれど、自身の体と言うのは思うだけで動かせてしまう。
それが、
だからこそ、アリスとマヤの機体を動かすイメージはとても近いだろうけれど、旧来の意味のリンクスでは無い僕には計り知れないことであった。
あくまでも、僕が繋がっているのはアリスとであって、機体その物ではないからだ。
『減速終了まであと――――――』
アリスがAMSで音声を送って来る。
全て人間用の信号に置き換えられた電気信号だ。
危険が無い様調整、いや、消毒された情報だ。
それが意味する事に落胆する事は今まで何度もあったし、全てを任せるもどかしさを何度も味わってきた。
だけど、その度にアリスは僕に伝えてきた気がする。
僕が出来る事は他にある、と。
解っている。
戦う事だけがリンクスの仕事じゃない。
考えなければならない。
人を超越したAIが僕に何を求めているのかはわからなかったけれど、少なくとも僕はそれに答える義務があるのだから。
◇ ◇ ◇
作戦会議室では目標のアームズフォートとの戦闘が映し出されていた。
先程、レーダー上から敵性反応が消失し、見事目標が破壊された事が知らされると会議室には歓声が沸き上がった。
しかし、それを良しとしない集団が居た。
それはアームズフォートの製造元であるGE社である。
「試作型コジマキャノンがこれほどの威力を持つとはな」
極長距離から放たれたコジマ粒子の奔流は700mm以上もの厚さを誇る複合装甲に守られたアームズフォートのバイタルパートを見事撃ち抜いていた。
鋭すぎた槍は貫通後の破壊を最小限にとどめてしまうと言う副作用をもたらしていたが、それでもGE社が誇る防護システムをいとも簡単に突破した同兵器は彼等を驚かせるには十分であった。
「凄まじい貫通力だな。高濃度プライマルアーマーと複合装甲がまるでトタン板の様だ」
「それに、初速も脅威的ですな。自動回避が間に合っていない。やはり、アームズフォートに高出力エネルギー兵器を搭載できなかったのは失敗だった」
「やはり、腐ってもコジマ兵器を世界で初めて開発した企業、ですな」
ネクストを利用した攻撃は功を奏し、それを制圧する為に生まれたアームズフォートは返り討ちに遭ってしまった。だから、彼等はそれに対抗する手段を模索し、一つの答えにたどり着く。
「アームズフォートに全てを託すのは時期尚早だったと言う事か。我らが擁するリンクスは少ない。早急にそろえる必要があるな」
「案ずるな、当てはある」
彼等のなりふり構わない姿勢が、後のアナトリアの傭兵誕生へと繋がるのはもう少し後の事であった。
◇ ◇ ◇
GE側の作戦会議室とは別に、もう一つの部屋があった。
秘匿情報のやり取りを円滑に行うと言う名目のもと、分けられた部屋は分断されたパックスエコノミカを象徴する物でもあった。
例え同じ目的を持っていたとしても互いの腹の内は違い、それ故、伝えたくない情報と言うのはそう言った壁の中で行われていた。
「シエラ、あの二人を追跡できているか?」
燈子と呼ばれる女性が画面に向かって話しかける。
「はい。キャンサー、ヴェネラ両機は現在月の重力圏に突入しており、ブースターの熱反応と思われる発光を確認しています。恐らく、パワードスイングバイを行っていると思われます」
「相変わらず通信には応答しないか?」
「交信を試みていますが、応答が有りません。先ほどの戦闘で被弾、損傷していると思われます。単純な減速を試みない所を鑑みても深刻な損傷を被っている可能性が高いかと思われます」
「となると、どうやって帰還させるか、だが……」
そう言って見つめる先にはレイセオングループの研究員達が居た。
彼等は皆各々にペンを走らせていた。
レイセオングループのオペレーターが振り向いて答える。
「問題は機内の生命維持機能が保てるかどうかでしょう。帰ってくるまでの数日間、文字通り機内の設備だけで生き残らなければならないのですから」
各々に課せられた使命は機体に搭載された生命維持装置が帰還する日まで機能するかどうか計算することである。
彼等が出した答えは一機につき一人搭乗、であれば可能であると言う物であった。
『キャロリン、心配なの?ルーキーなら大丈夫、これ位の事で諦めるてるなら訓練で死んでるって!ギャハハハハ!』
「まぁ、それもそうですが。機内の酸素生成装置、搭載された水、それに再突入時の機体加熱、どれをとっても今のあの二人の機体では……」
通信が途絶える直前の機体データを見る限り、ネクストの損傷は非常に重かった。
生命維持装置や、その他の通信機器が軒並みダメージを受けている事は既に地上ステーションでは確認されていた為、彼等の生還は危ぶまれていた。
『しかし、あのお二人の動きを見る限り、諦めた素振りは有りません。地球に戻ってこれる確率は低くはない筈です。減速に成功すれば凡そ、四日ほどで大気圏に突入するはずです』
「それに我々に出来る事はまだある。あいつ等が帰ってきた時の為に各企業に通達を出さなきゃならん。衛星軌道からネクストが降って来るなんざ、どの企業にとっても悪夢みたいな物だろうからな」
『なになに?軌道要塞に撃墜される心配?それも良いんじゃないの?丁度いい
衛星軌道からのネクストの降下など、前代未聞である。
企業本社に直接殴り込めるメリットは途方もなく大きい。
現に、その恐怖から企業は衛星軌道を要塞群で埋め尽くしたのだ。
しかし、ネクストに搭載されたAIにより、それらを無効化された事を知れば、再び恐怖の時代がやって来るのは誰の目にも明らかであった。
時代は再びネクストに傾きつつあった。
少なくとも、この時までは。