ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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長らくおまたせしました。国家解体戦争編です。



落日の獅子
アフリカの赤い大地


 細い路地に無数のトタン板が張り付けられた簡素な住居が犇めく道路を猛スピードで走り抜ける装甲車。

 そのタイヤは人よりも大きく巨大であり、八つのホイールは鋼鉄で頑丈に補強されていた。

 そのタイヤに無数の火花。

 カマイタチの様に空を切る音共に飛んで来るのは弾丸。

 スラム街と化した街道脇に見える窓の中には所々人影が有り、その中からは武装した市民が銃器を撃ち放っていた。

 治安が悪化して市民が武装するようになって久しいアフリカでは、このような銃撃戦は日常茶飯事。

 そう鷹を括っていた装甲車内に乗る隊員達であったが、武装市民の中にテロリストが混じっていたらしく、護衛の戦車が撃破されたのだ。

 戦車を破壊出来るほどの高火力兵器を打ち込まれてはたまらないと、即座に負傷した戦車兵を回収して戦域の離脱を目指すが、敵の抵抗は組織立っていた。

 その証拠に、退路を断つように壊れた車をバリケードにしてゆく手を塞いでいた。

 

「クソ!戦車さえ生き残って居れば!」

 

 そう叫ぶ隊員の一人は旧自衛隊が使用していた89式ライフルを、身を乗り出したハッチから撃ち放つ。

 薬莢が装甲車の上を転がっていくと、遠心力によって地面へと転がり落ちていった。

 

「12方向RPG!側道へ入りこめ!」

 

 後方で上がる爆炎と共に急激な孤を描いて側道へ侵入した車両を待ち構えていたかの如く、軽トラックが行く手を阻む。

 その荷台には大型機関銃。紛争地帯での一般的な戦闘車両であるテクニカル系の兵器である。

 巨大な弾倉から弾丸を込めるべく、少年兵は撃鉄を起こす。

 眼に憎悪を宿し、有らん限りの怨嗟の言葉を吐きながら銃弾を放つが、即座に頭部が弾ける。

 糸の切れた人形の様に倒れ込むと、網に引っ掛かった魚の様に、ルーフフレームに手足を引っかけてこと切れた。

 

「石川!突っ込め!」

 

「了解!」

 

 装甲車は速度を上げ、全速力でテクニカルに突っ込む。

 豪快に吹き飛ばされた車両は道路脇に停車した。

 しかし、左右の屋根には無数の民兵達。

 彼らは袋のネズミと言わんばかりに装甲車に銃撃を浴びせかけた。

 

「一体どれだけ居るんですか!」

 

 そう怒鳴りつつ走り去る装甲車から銃弾を撃つ兵士。

 

 只の嫌がらせ的な攻撃なら良かった。

 だが、明らかに殺しに来ている。

 無数の戦場を渡って来た彼らには解った。 

 退路を断ちつつ、捕捉して火力で押し切る。

 殺す事を前提にした戦術、それは明確な彼らに対しての敵意であった。旧自衛隊の出身者が多く居た傭兵部隊では多くの兵士達が同じ疑問を懐いていた。今日は平和な一日に成る筈だったのに、何故こんな銃声に塗れなければならなくなったのか。

 解る事は一つ。それは彼らの戦いの最初の始まりは数時間前に始まったと言う事だった。 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 南スーダンの中にあるジュバ。多くの市民が暮らす巨大なコロニーであった。

 国家解体戦争での戦火を免れたこの場所は国家残党軍が根城にしている都市でもある。

 勿論、それは南スーダンを統治するサルバ大統領の命により、このコロニーが全面的に傭兵達を雇ったからだった。

 貴重な戦力である国家残党軍は彼らの協力を経てジュバに根城を構えた。

 旧自衛隊もその例外に漏れる事は無かった。

 第二次世界大恐慌の後に起こった日本のデフォルトは海外派兵されていた自衛隊の即日解体を意味していた。

 それでも食い詰めず生きる事が出来たのは一重に目の前に居た大統領のお陰と、旧自衛隊を含む国家残党軍の誰もが思っていた事だった。

 それもあってか、彼らの指揮は高かった。例え、企業が持ち出した新型兵器の噂を耳にしても。

 

「して、この写真は例の新兵器か?」

 

 大統領が手にしていたコーヒーを啜りながら言った。

 情報士官が齎した情報は幾つもの噂が飛び交っていたモノだった。

 

 曰く、その兵器に射撃武器は効かなかった。

 曰く、その兵器は目にもとまらぬ速度で視界から消えた。

 曰く、その兵器の巡航速度は戦闘機並みであると。

 

「はい。パックスの間でネクストと呼ばれているようですが。詳細は今の所不明でございます」

 

「しかし、こうも目撃情報が少ないとは…デマか何かの類じゃないのか?」

 

 明かに企業側が意図的に漏らしたリーク情報。どれも国家軍側の目撃者が居ない噂の域を出なかったが、情報士官はその手の目撃情報の少なさも(・・・・・)加味して結論を出す。

 

「ですが、大統領。企業が公開する情報は山ほどあるのに、交戦した情報が無いのはおかしな話なのです」

 

「企業がホラを吹いたか。或いは、交戦した味方が一人残らず殺されたか」

 

 だが、企業が嘘をついているのなら国家解体戦争は成されなかったであろう事は彼らには解っていた。

 だからこそ、答えは自ずと一つに絞られた。

 

「正しくパックスの死神、だな。この国も年貢の納め時かもしれん」

 

 パックスの死神。それが正体不明の新型兵器への俗称だった。

 大統領やその配下の兵士達は面白半分に口走ったものだが、敗残兵である傭兵達は畏怖の念を込めてそう呼んでいた。

 そして、大統領と彼らの一番の懸念事項は、その死神がスーダン政府側に派遣される可能性が有ると言うことだった。

 

「ですが、希望はあります」

 

 そう呟く情報士官。

 希望、彼らの残された希望は、企業が欲しがる石油採掘所であった。

 彼らはそれを無傷で手に入れたかったのだ。

 だからこそ、それ盾に企業を脅そうとしたのだ。

 

「奪われる位なら、自らの手で破壊してしまう、か。どれも後ろ向きな選択ばかりだな、この国は」

 

 そう呟いた視線の先には一筋の煙。

 続いて爆轟音が轟くと、情報士官の無線がけたたましく鳴り響いた。

 

「また副大統領派のテロですか。凝りませんな、彼らも。どうせ企業に摺り潰されるだけだと言うのに」

 

「部隊を招集したまえ。鎮圧する」

 

 静かに敬礼を終えると士官は部屋を去っていく。

 残された大統領は窓の外に背を向け、シェルターへ移動していった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 南スーダン政府とスーダンは対立しており、その対立の火種となっていたのが石油採掘基地であった。

 莫大な利益をもたらす石油採掘基地は企業軍も目を付けており、そのあと押しもあってか、この手の資源採掘国周辺はテロの温床となるのは歴史が証明していたが、この場所もその例に漏れる事は無かった。

 そして、この場所は現在南スーダンが所有しており、その採掘権をスーダン政府側が狙っていた。

 元々はスーダンとの国境にあった町、アビエイに存在した石油採掘基地は幾度ものテロによって完全に破壊され、現在ではアビエイから遠く離れたワーフにその拠点を移していた。

 地下資源が国を跨いで存在する事は珍しくはなかったが、アビエイ側から採掘できる石油が限られた量しかないと解ってからスーダン側の態度は悪化した。

 数度にわたる国境を巡る戦闘を経て、南スーダン側に居る傭兵達に煮え湯を飲まされたスーダン政府は数多の犠牲を出して漸く実力行使による支配が不可能であると悟った。

 彼らは何とかしてワーフの街を実効支配したかったのだが、それが叶わぬと見るや、副大統領派へ武器を提供し、反政府ゲリラを下支えする手に出たのだ。

 その結果、ジュバの治安は急激に悪化。傭兵達は頻繁にテロ鎮圧に駆り出される羽目になったのだ。

 けたたましく鳴り響く銃弾が車体を叩く音が鳴り響く中、男は顔を顰めながら歯噛みした。

 

「石川!格納庫まであとどれ位だ!?」

 

「あの通りを過ぎたらグリーンゾーンです!そうすれば直ぐですよ!」

 

「クソ!緊急発進要請が来てるってのに間が悪い!」

 

 そう、間が悪い。

 旧自衛隊が根城にしていた基地格納庫から彼らが離れる度にテロに遭う。

 

「間が悪いんじゃなくて、情報が洩れてるんでしょう!深谷大佐!」

 

 考えたくは無かったと言う顔をしつつ、その言葉を噛み締める。この国に尽くしてきた彼らは、庇護していた市民らから増悪を向けられるとは思っても無かったのだ。

 道路を整備し、治療所を開設し学校も立てた。

 だが、恨みは消えなかった。だからこそ情報が漏れ続けた。

 多分、住民の一部が情報を漏らしているのだろうと大佐は思ったが、彼にはその恨みの根源は解らない。

 それでも戦わねばならない事だけは解った。

 その結果が壁の建設だった。住民を二つに分ける事、それがテロとの最初の戦い。

 まるで、イスラエルが作った壁みたいだな、と誰かが面白半分に言っていたのを彼は思い出した。

 その数日後、旧イスラエル国防軍と全く同じ戦火の洗礼を受けるなどと夢にも思わずに居た事を彼は後悔した。

 

「壁の門が開くぞ!突っ込め!」

 

 門の中に到着すると、装甲車から運び出される兵士達。

 無傷の者は誰一人おらず、皆何処かに銃創を負っていた。

 

「こちらブラボー2-2!負傷者多数!衛生兵を呼んでくれ!」

 

 既に息絶えた兵士達に素早く黒いタグを付けていく衛生兵。装甲車のボンネットにへばり付いた少年だった物を引きずり下ろす兵士を見ながら大佐と呼ばれる男は思った。

 

 

 ――――――これが戦争か

 

 

 それは、長らく彼らの祖国が見ようとしなかった血塗れの現実だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

  砲撃による爆音が徐々にその間隔を伸ばしていく。

 先程まで撒き散らされていた銃弾の嵐は既になく、あるのは戦場が過ぎ去った後に訪れる静けさだけが其処を支配した。

 焼けた兵士、焼けた戦車、そこから転がり落ちて燃えた兵士達。

 旧自衛隊が持ち込んだ装備類の防護性能の低さは、隊員達から密かに問題視されていた。

 だが、ここに来てテロの応酬が始まると途端に問題が表面化した。

 まず第一、敵が使う7.62mm弾に耐えられない。

 これは彼らが使う装甲車の防護能力を大きく超えた貫通力を持っていた。

 無数に穿たれた穴と、装甲車の車内に居た殆どの隊員達が銃弾を受けた事を考えると早急に対処しなければならなかったが、幸い傭兵部隊にはかつての国家軍が放棄した装備類が豊富に存在したため、それを融通してもらっていた。

 だが、それも全ての部隊に行きわたっていた訳では無かった。

 敵もそれを見て、殺せる相手にだけ銃を向けて来た。

 

「また、自衛隊だけ狙われたのか…今月だけでもう6回目だぞ」

 

 そう恨みがましく吐き捨てる深谷大佐は、破壊された戦車を直す整備兵を見つめていた。

 

「そりゃ、陸戦の王様がこんなに簡単に破壊されるんじゃ、敵に舐められますよ。王様弱けりゃ国弱いっていいますしね。それにしても大佐のAC、今回も穴だらけですね。直すの大変なのでいい加減被弾しないように戦う事を覚えて下さいよ」

 

 後ろにそびえる巨大な人型兵器を見つめながら大佐と呼ばれる男は頭を掻いた。

 

「そんな事言われても、機動力は防御力の代わりにはならんのだ。整備兵のお前さんは、秒速数キロで発射される弾丸を避けるって事がどんだけ難しいか解らんだろうが」

 

 整備兵はめんどくさそうに返す。

 

「知りませんよ、そんなの。兵器の設計思想が機動防御なんですから、避けるのが兵士の仕事でしょう。全く、なんで日本の兵器は修理し難いんでしょうね…ドイツ側の整備チーム、いっつも俺たちよりも先に休んでやがるし…」

 

 整備兵は愚痴を盛大に零しつつドイツ側ハンガーを見つめていた。

 成程、確かに整備兵達は破損したノーマルACの修理を終えていた。

 対して旧自衛隊側のACは未だに足回りの修理に手こずっており、兵器としての設計思想の違いを示していた。

 たかがテロリスト相手の戦闘でこの有様、と頭を抱える男。

 その様子を尻目に整備兵は続けて言う。

 

「それより大佐、こんな所で油売ってて良いんですか?基地司令が呼んでましたよ??パックスの新兵器の件じゃないですか?」

 

「ばかっ!そんな大事な事はもっと早く言え!」

 

 そう言って走り去っていく男。

 整備兵は静かにぼやく。

 

「はぁ。油圧シリンダー、全部穴空いてるし。今日は徹夜だな……」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 基地司令がイエメン政府の降伏を知ったのは数時間前。

 世界的に情報インフラが寸断されている中届いた知らせは傭兵部隊を動揺させるに足るものだった。

 それは一重にイエメン政府が多数の旧アメリカ軍の軍人を擁する巨大な軍事国家だったからだ。

 その巨大な軍事国家を企業は屈服させたのだ。

 そして問題は企業がイエメン政府を屈服させるのに費やした時間だった。

 

「たったの12時間!!?彼らはたったの12時間で降伏したのですか!?」

 

「ああ、そうだ。戦端を開いてから丁度12時間で彼らは降伏した」

 

 有り得ない、と深谷大佐は思った。

 イエメン国境から首都まで直線で進んで丁度その位の時間だった筈であり、実戦で地上兵力と対峙しながら進軍するとなるとその数十倍は掛かる筈である。

 まるで、イエメン政府軍が全く抵抗しなかったかのようだった。

 

「イエメン政府側の傭兵部隊の損害は!?彼らは何処かに撤退したのですか?」

 

 重々しい沈黙。

 彼ら傭兵部隊が戦力温存の為、敢えて敵主戦力と交戦せず首都を明け渡したのなら半日という短い時間での降伏は有り得る。

 そう思った大佐の耳には信じられない事実が付きつけられる。

 

「いや、壊滅した。2個師団を含む旧アメリカ、イギリス連合部隊は死者行方不明者含め計1万8千名以上もの人員を失った。民間人の死者を入れると数十万人は下らないだろう。これは信頼できる情報筋から得られたものだ」

 

 文字通り言葉を失った。

 それは、どう考えても真面な戦争じゃなかった。一方的な虐殺だ。

 沈黙を続ける大佐に変わって基地司令が続ける。

 

「君には企業側の新兵器への対応策を協議してもらいたい。我々も既に他人ごとではなくなっているからな」

 

 そう言いつつ、新聞の記事をテーブルに置く。

 そこには“企業軍、遂に南スーダンに軍事介入か!?”との文字が躍っていた。

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