ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
夥しい数の装甲兵器の残骸から黒い煙が立ち上り、晴れやかな空に吸い込まれていくと、新たな轟音が轟く。
旧ロシア製の戦車の砲塔が空高く舞い上がると、首のなくなった車体からは灼熱の火柱が吹き上がっていた。
長距離射撃で一方的に討ち取られていく同胞の
『―――――3号車から各隊へ、ヘグリグ油田北側より敵車両多数。戦闘を継続しているが、敵の数が多い。至急、増援を求む』
旧式の戦車であるT-55の火器管制システムはレーザー測距装置を持たない旧式の光学装置であったため、距離1500メートルを超える距離では命中は期待できなかった。彼等の放つ砲弾はヘグリグ油田を防衛する戦車に命中することは殆どなかったが、そのうちの一発が運良く旧自衛隊の使っていた74式戦車の砲塔に命中する。
傾斜装甲に弱いBM8-APDS徹甲弾は装甲表面に食いつく事が出来ずに明後日の方向へ弾かれた。
お返しとばかりに発射された93式徹甲弾は爆炎と共に砲身から飛び出すと、目標へと吸い込まれる。
装填管を分離した侵徹体は文字通りの鏃の如く傾斜しただけの装甲板に食い付く。
塑性流動を起こした徹甲弾は滑ることなく装甲板を侵食するようにして突き進むとT55の砲塔部分を完全に撃ち抜いた。
剥離した装甲板と徹甲弾のスラグは車体内部の人員と砲弾をズタズタに引き裂く。
再び閃光と共にT55戦車の砲塔は空へと舞い上がった。
数多の損害を出すが、敵が後退する気配は一向にない。
『クソ!諦めが悪い奴らめ!』
正面の敵戦車部隊に気を取られていた旧自衛隊の戦車中隊は、側面からの奇襲を受ける。
だが、対戦車ミサイルを着弾前に発見した彼等は、煙幕を焚いて後退を開始する。
『――――こちら四号車!ヘグリグ油田北側からテクニカル多数!対戦車ミサイルの攻撃を受けつつあり!特科の連中は何やってるんだ!さっきから緊急支援射撃が全然来ていないじゃないか!』
本来であれば砲兵の弾幕の中、非装甲のテクニカルが通り抜けられる筈も無い。しかし、味方からの砲撃は一向に行われない。
何らかのトラブルが有ったのだろう事は誰の目にも明らかであったが、それを口にする余裕は既になく、戦場は遠距離の射撃戦から、血みどろの接近戦に様相を変えつつあった。
プラズマトーチを吐き出しながら巨大な人形兵器が砂漠を疾走する。舞い上がる土煙に紛れるようにして無数の影。玄武岩が露出する地面を巧みに駆け抜けていくその姿は、まるでサバンナを移動する狼の群れであった。
「こちらハウンド1-1、ハウンド2-2、ワーフの
ヘグリグ油田攻撃の報と砲兵部隊からの救援要請は同時。南スーダン側の傭兵部隊のSAMサイトのレーダーは所属不明機を確認していた。いつもであれば小規模な編隊であったが、その機影は単独。
『こちらハウンド2-2、ちゃんとデータリンクは来てますよ。エリトリア方面からボギー1。こいつ、何でしょうね』
「何時もの威力偵察にしては敵地上部隊の動きが妙だ。その割に敵の航空部隊がお粗末すぎる」
航空支援の無い攻勢は大概失敗する。火力支援を欠いた前衛部隊が如何に悲惨か、実戦慣れした傭兵達には痛い程良く分かっていた。
だからこそ、敵の動きの意図が読めなかったのだ。
『敵の砲兵部隊も撃ってこないし、何がしたいんでしょうね。まぁ、奇襲には成功したみたいですが』
「解らん。油断するな。例の件もある。ちゃんと電波管制しておけよ。敵のマングースに気づかれても面白くない。できるだけ引き付けてから戦端を開きたい」
埃臭いコックピット内にはジェネレーターとブースターが放つ轟音が流れ込む。
多目的ディスプレイに表示されたデータリンク画面には敵性ユニットの赤い表示。味方の地対空ミサイルの射程に入るギリギリで、光点は二つに分裂するとすぐさま消える。
『レーダーからボギー消失。匍匐飛行に移りましたね』
「ああ。此方でも確認した。恐らく何かを投下したのだろう。だが……」
砲兵陣地には地対空ミサイルが配備されており、航空機の侵入は困難を極める。
航空作戦の一番槍である
しかし、今回はそれが見当たらない。
勿論、先行して超低空を飛行している可能性も有ったが何かが引っかかる。
そう―――――戦場で長生きできる傭兵だけが備える勘がそう告げていた。
「偵察にしては無謀が過ぎる。ただの蛮勇か、或いは――――――――」
その先の言葉を告げることなく、彼の僚機が答える。
『前方に閃光が見えます!あれは……砲兵陣地から』
遅れてやってくる衝撃波。
それと共に曳光弾が空に登っていく。
「友軍が交戦してやがる!ハウンド各機、戦闘開始!所属不明機を撃破する!」
深谷大佐と呼ばれた男は機体をAIによる自動操縦に切り替えると、素早く戦術ディスプレイに指示を打ち込む。
「ハウンド2-2、お前はポイントデルタから所属不明機を牽制、スネーク3-3及びその僚機はポイントブラボーから長距離射撃、ハウンド2-2に食いついた敵の頭を押さえろ」
プラズマトーチと共に重装型四脚ACは、玄武岩が露出した小高い丘を目指す。砲兵陣地の前に存在する丘を見下ろす事の出来るその場所は、追ってきた敵を待ち伏せるには絶好の場所であった。
時速数百キロにも達する速度で丘に到達すると、急制動を掛ける。四脚型ACはアンカーを降ろすと、240mmスナイパーキャノンを展開した。
その視線の先には濛々と立ち込める土煙。ハウンド隊は一斉にリコンを投げ始めた。マイクロフォンが格納された偵察機材はロケットモーターを点火し、数キロ先まで飛んでいく。
それは小高い丘を飛び越えると砲兵陣地へと消えていった。
『ハウンド2-2、リコン散布完了』
『スネーク3-3、感度良好―――――――リコン24からコンタクト、聞きなれないタービンブレードの音だな』
『スネーク4-4、コッチのリコンは銃声ばかり拾ってやがる。こりゃ乱戦だぜ』
相変わらず丘の向こうからは閃光が迸る。
その度に衝撃波が数秒後に到達し、曳光弾が撃ちあがる。
何かが戦っている事は間違いなかった。
だが、それが解らない。
出来れば永遠に解らないでほしい、大佐と呼ばれた男はそう思っていた。
「パックスの死神でなければ良いのだが……」
彼の思い問は裏腹に、彼等の先には巨大な雷鳴が轟き続けた。
徐々に見えて来るヘスコ防壁に囲まれた砲兵陣地。
155mm榴弾砲が置かれた場所をグルリと取り囲むコンクリート製の壁は猛獣の檻の様に無数に存在した。
曵火射撃にも耐えうる屋根を備えた砲台は見るも無残に破壊されていた。
まるで、巨大な獣の爪痕の様に溶け堕ちていた。
黒煙が燻ぶる中、ソレは存在した。
人型兵器、アーマードコア。
彼等がそう呼ぶ巨人は通常兵器と同様に本来であれば複数機で運用するのが基本。
――――――だが、その巨人はたった一機
それが、その異質さを示していた。
無数に飛来するミサイルを物ともせず、淡々と砲台を破壊していく姿は正しく破壊神であった。
かつて、戦車が戦場を蹂躙したように、抗う術を持たない兵士達を文字通り踏み躙っていく。
戦車砲を機関銃の如く乱射し、その射線に捉えられた物体を軒並み粉砕していく。
戦車も人も装甲車も、そして人型兵器、アーマードコアすらもその例外では無かった。
『クソ!ミサイルが効かない!』
『撃て!撃ちまくれ!』
中距離地対空ミサイルは音速の2.5倍の速さで突き進む。
向かう先は半透明の膜につつまれた巨人。
疾駆するミサイルは、道半ばにして爆散する。
一呼吸遅れて蜘蛛の糸の様な光が貫く。
『迎撃してやがる!』
その中の幸運な一発が辛うじて機体を捉えるが、半透明な膜に阻まれて本体に損傷を与えることは叶わない。
神々しい輝きと共にその膜の表面にさざ波が起こると全ての攻撃は無効化されてしまう。
その様子を呆然と眺める兵士達。
彼等は失意のうちに炎に包まれた。
陣地内に有った弾薬庫が引火、一気に爆音と共に燃え広がる火は瞬く間に全てを飲み込んでいった。
そこに漸く到着した増援部隊。
「これは―――――」
絶句する。
視線の先には半狂乱になったように砲弾を放ち続ける巨人。
流線形の丸みを帯びたフォルムは既存のACのパーツに無いデザイン。
「新型AC――――――――――パックスの死神か!」
即座に引金を絞る。125mmバトルライフルから成形炸薬弾が発射されると、巨人に迫る。
自動迎撃が始まるも、連続で発射された砲弾を迎撃する事は叶わず、命中を許す。
だが――――――メタルジェットの輝きは全て防護膜が防ぎきってしまう。
その新型ACはそこで漸く自らに歯向かう存在を認知したのか、ライフルを構える。
バトルライフルの数倍の発射レートで吐き出される砲弾。
低圧砲であるバトルライフルとは違う、超高初速の鏃が迫りくる。
明らかにフルサイズの運動エネルギー系徹甲弾のそれは、一瞬でACの肩部を貫く。
AIが自動で損傷を評価、無機質な音声がコックピット内に流れる。
「クソ!なんて出鱈目な発射レートだ!」
再び引金を絞ると、成形炸薬弾は目標へと迫るが――――――敵影は一瞬で消え失せる。
巨大なプラズマブラストはACのメインブースターを遥かにしのぐサイズの熱量を持って砂塵を巻き上げた。
一瞬で間合いを詰める新型ACの手には巨大なブレード。
迫りくるバトルライフルの弾丸を薙ぐと、あっけなく爆散。
圧倒的熱量を持つその刀身に触れた物体は跡形もなく消え失せた。
反射的に機体を後退させると同時――――――返す刃で切り伏せんとする敵。
辛うじて避けた物の、バトルライフルを切り落とされる。
『右腕兵装、パージします』
即座に投棄――――――その瞬間、機体に衝撃。
『脚部損傷――――――』
一瞬にして切り落とされた足、それを庇うようにして膝をつく巨体。
もう脅威ではないと悟ったのか新型ACはそれを眺めるようにして佇む。
左腕に装備されたマシンガンを構えようとするが、二の腕から先が無い。
虚しく突き出たフレームがむき出しの配線と共に火花を散らしていた。
――――――両腕を切りやがった
回避する間もなく切られる様は正しく雑草、そう彼は感じた。
目の前の巨人に降り注ぐ砲弾の嵐は全て膜に防がれる。
僚機が放つスナイパーキャノンの砲弾も防護膜に当たる度に砕け散る。
現在の編成で最も高い火力を誇るそれを、そよ風の如く受け流す姿は神の如くであった。
しかし、彼は次の瞬間信じられない光景を目撃する。
放たれたバトルライフルの成形炸薬弾が地面に当たり不発を起こすと、そのまま跳弾となる。
その砲弾は回転しながら新型ACの装甲表面に当たると明後日の方向へ飛んでいった。
「なん、だ?」
その疑問符を打ち消すようにして機体の周囲には重砲の砲弾が降り注ぎ始めた。
巻き上げる砂塵。
155mm砲弾の弾殻がその合間をカマイタチの様に飛び交う。
弾殻は膜に当たると弾けるようにして砕けた。
『―――――…!』
アンテナユニットの損傷によって無線からは友軍からの通信が音にならずに流れ続ける。
大佐と呼ばれた男は再び迸るレーザーブレードを見るや、今度こそ死を覚悟した。
だが、忽然と敵ACは姿を消す。
「撤退、した?」
辛うじて生き残っていたデータリンク画面からは、凄まじい勢いで遠ざかっていく敵反応が映っていた。
丁度三分、新型敵ACの攻撃はそれっきりだった。