ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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ついカッとなって書いた。悔いはない。


Aggressor

 砂塵に塗れたアスファルトに照りつける灼熱の太陽。

 道路沿いに佇む朽ちた民家。屋根を対赤外線、電磁波吸収素材で出来た偽装ネットで覆った即席ハンガーには練習機を改造した戦闘機が鎮座していた。 

 無線機から流れる警報音。

 アフリカでは珍しい金髪を持つ男は、まるで午後の時報を聞くかの如く、短くなったタバコを灰皿に押し付ける。

 

「また、敵の奇襲か。懲りないな、連中も」

 

「訓練に来たっていうのに、今月で三回目だ」

 

 慌ただしい声が無線に混じり始めると、近くにあった有線電話が鳴り響く。

 

「どうやら今回もお呼びのようだ」 

 

 もう一人の黒髪の男はため息を付きながら電話機を取り上げた。

 その矢先、水平線の向こうで雷鳴の如き輝きが解き放たれると、一瞬にして二人の男の表情が強張った。

 

 会話の内容を聞くまでもないと椅子から立ち上がる金髪の男。近くに居た整備兵は直ぐに察すると、大急ぎで偽装ネットを被った戦闘機へ走っていく。

 

「ワーフのSAM陣地が攻撃を受けたそうだ。この様子だと飛行場の方も恐らく……」

 

 受話器を降ろした男がそう告げる。

 

「テクニカルライディングに降りていてい助かったな。相変わらず俺たちは運がいい」

 

「みたいだな――――早く上がろう。こういう時は碌でもない事が起こる」

 

 愛機へと飛び乗ると、即座にカーボンファイバー製のヘルメットを装着。

 バイザーを下ろすと、そこに機体のステータスが表示される。

 甲高いコンプレッサーの音に包まれながら操縦桿を傾けると主翼のフラッペロンとエレボンが素早く反応し、それを目視で確認。

 

『機体の状態は良さそうだな』

 

『こんな安物で何度も出撃させられるなんて、ツイてないな、レイ』

 

『案外、この機体も悪くないさ、ジェームズ』

 

『意外だな。本当はイーグルが恋しいんじゃないか?』

 

『慣れる物さ。それに低空を飛ぶのに鷲の翼はデカすぎる』

 

 いよいよコンプレッサーが始動開始圧力まで空気を圧縮し、ケロシンを燃焼室に放り込みだすと甲高い音に鈍い轟音が混じり始める。それを皮切りに整備兵がパイロットにエンジン始動の合図を送る。男はそれを横目で確認、ハンドサインで答える。

 

『まぁ、お前の場合、飛べりゃ何でもいいって口だもんな。その点、ホークの翼は丈夫で良い』

 

『飛べない翼に興味は無い―――――――シルフィード、タキシングを開始する』

 

『了解シルフィード、こっちも後に続く――――――Lady to takeoff』

 

 耳を劈く轟音が轟くと遂に機体が国道へと躍り出る。

 灼熱の太陽が白と黒、灰色のストライプカラーの機体を照らしつける。垂直尾翼にはコブラのマーク。

 砂漠に似合わぬその機体を見送る二番機は、追いかけるようにスロットルを開け、推力を上げる。

 換装されたばかりの新型エンジンは鋭い立ち上がりを見せる。

 蒼と水色、白の極東カラーの機体。その後方に巨大な陽炎、それを揺らす青白い光。

 再燃焼装置(リ・ヒート)が流し込んだ燃料が燃え上がった。

 

「とんだエンジンテストだな」

 

 弾むような声色、一人呟く男はスロットルを押し込む。

 それに康応して機体は滑らかに加速。鋭く尖った翼単から白い雲の帯を残し、軽々と浮き上がった。

 

 

 

 高度1000フィート。荒涼とした砂漠の上を疾駆する影。

 ワーフのSAM陣地を襲った企業の部隊は別動隊の陽動として働いていた。

 コロニーエレトリアの航空作戦部隊は南スーダンの大統領暗殺を目的としていた。

 求心力が衰えたとはいえ、未だに傭兵部隊やその他の部族をまとめ上げている彼が居る限りは実効支配はままならない。

 スーダン側を支援し、反政府軍を幾ら支援したところで一向に支配権を奪えない事に業を煮やしていた彼等にとって、企業の介入はまたとない好機だった。

 

『こちらストライクツー、ストライクスリー高度が高い。レーダーに捉えられるぞ』

 

『もう直ぐ鉄塔が見えて来る。余り高度が低いと送電線に引っ掛かるぞ』

 

 訓練を終えたばかりの兵士達は皆一様に緊張していた。地対空ミサイルが空を見張る中、超低空を侵入するミッションでは一瞬の操作ミスが墜落へとつながる。それが無意識に高度を上げるという選択を選ばせた。

 だが、それによって敵防空網に引っ掛かる恐れがあったのだが、その行為を戒めるには彼等のスキルが足りなさ過ぎたのだ。唯一の実戦経験を持った隊長機は舌打ちしつつ、その危険な行為を見逃すほかなかった。

 

 

 しかし、空を警戒する目は他にあった。それは、同じ戦闘ユニットである戦闘機だった。

 離陸を終えた二機のホークのレーダーにはデータリンクには無かった敵性ユニットの表示。

 

『二時方向、距離120㎞、ボギー8。報告にあった大型輸送機とは違う奴だ。どうする?』

 

『護衛機か。レーダー波は出していないが、念のため敵機の後方から接近する。進路、1-3-3、高度120フィート。鉄塔の下を潜り抜ける。頭をぶつけるなよ』

 

 特高圧の電線の下を通り抜ける軽戦闘機は時速1100㎞の速度で飛行する。亜音速の機体から放たれる轟音は土埃を巻き上げた。

 その時、丁度敵戦闘機のレーダーが作動する。同時に、レーダー警戒装置(RWR)から警戒音。

 

『敵レーダー波を識別、AN/APG-63(イーグルアイ)

 

『F15か。因縁だな、レイ』

 

『ベストセラー戦闘機だからな。仕方ないさ』

 

『それより、もたもたしていると探知される―――――――シーカーオープン、派手にぶちかまそう』

 

『始めよう――――シルフィード、フォックス・スリー』

 

 AIM120(スマラー)を翼から切り離し、点火。無煙火薬が超高圧のガスを噴出させてミサイルを時速3000㎞まで加速させていく。尾を引かないミサイルはあっという間に群生の空に消えていった。

 

 操縦特性が良く、機体サイズの小さいホーク200は、接近しつつある敵機を見上げる形で有った為、背景ノイズが少なく、レーダーの性能を最大限に発揮できた。それに比べ、見下ろす形になっていたF15側のレーダーは背景ノイズによって有効距離が減じられていた。

 凡そ30%程の性能低下であったが、機体のレーダー波反射率(RCS)がF15に比べホーク200は十分の一程度。つまり、同高度でのヘッドオンでのレーダー非探知距離はそれだけで1.2倍近く差が出る事になる。これらの要因により、敵側の戦闘機のレーダーに彼等が映る事は無かった。結果、敵側のパイロットは完全な奇襲を受けることとなる。

 

 F15CのコックピットにはRWRの警戒音が鳴り響く。連続的なその音は、敵性レーダーが火器管制モードになっている事を示していた。

 

『イーグル3!ロックオンされている!ブレイク!ブレイク!』

 

 必死に高度を下げるF15は敵性レーダーから水平線の下に隠れるようにして回避機動を行う。

 危険な亜音速での低空飛行は賭けであった。

 だが、単純な機動で飛んでくるスパローミサイルと違い、スマラーは空気抵抗の少ない高高度を飛んできていた為、彼等が幾ら低空に逃げ込もうがミサイルの目から隠れる事は出来なかった。

 静かに突き刺さるミサイル。一見すると突然戦闘機が内側から爆発したかのようにF15は四散した。

 必中距離から放たれたミサイルを避ける術は無い。

 それは物理的に不可能であった。

 パイロットに出来る事は只、操縦桿を引っ張り続けて祈るだけであった。

 

『クソッタレ!』

 

 重力の8倍もの遠心力が掛かる。機体が軋み、視界が狭くなる。RWRはスマラーのレーダーシーカーが作動した事を伝える。新たな警告音がコックピットに鳴り響くと同時に自動音声がミサイルの紫外線放射を捉えた。

 

『《ミサイル、6時方向から接近》』

 

 左右に切り返すパイロット。

 だが、それも虚しく丁度真上、太陽の中からミサイルが垂直に落ちて来る。

 未だに燃焼を終えていないミサイルの運動性能は戦闘機の回避機動を軽く上回る。

 

『イーグル3!被弾した!』

 

 エンジンをもぎ取られた物の、辛うじて電気系統が生き残っていた為、即墜落を免れたF15――――しかし、目の前に現れた切り立った崖に激突した。

 

 

 奇襲を受けたF15側は既に6機を撃ち落とされていた。だが、その内の一機が遂にホーク200をレーダーで捉え、AIM-7(スパロー)を発射。

 

『シルフィード、敵のミサイル接近。スマラーでトドメを刺す』

 

『ブーマー、了解、援護する、フォックス・スリー』

 

 更に2発のスマラーを発射する。敵のミサイルと交差すると白煙が途中で千切れる。

 

『白煙が凄い。やっこさん、古いミサイルを使っているな』

 

『敵は旧式のFCレーダー、恐らくスパローだろう。母機を叩けば無力化出来る』

 

 母機からの電波照射を頼りに誘導されるセミアクティブホーミングミサイルは母機からの電波が途絶えると誘導が止まる。

 だが、アクティブレーダーホーミングミサイルはミサイル本体に小型のレーダーが内蔵されており、レーダーシーカーが作動し、敵機のエコーを捉えさえすれば後は自動で誘導されるのだ。

 無論、敵機のエコーを捉えられなくても一定の捜索パターンを描いて飛び回る為、遥かに厄介なミサイルであった。つまり、遠距離での最終的な勝敗はミサイルの性能で決まるのである。

 

 遂に、目標に命中するスマラー。寸前まで迫っていたスパローは虚しく明後日の方向へ飛んでいった。

 幾つもの黒煙が上がる中、岩山の間から一瞬見える機影、それを目ざとく発見するパイロット。

 

『敵機撃墜――――ん?三時方向、大型機』

 

『例の大型輸送機だ。さっさと狩ろう』

 

 クイ、と操縦桿を引くと、鋭くロールする機体はヴェイパーを引きながら進路を大型輸送機へと変える。

 食らいつく蛇のように機体を後方へ付けると火器管制レーダーが自動で測距、未来位置をヘッドアップディスプレイに表示。それを、大型輸送機に重ね合わせると短く射撃。30mmリヴォルヴァーカノンが火を噴いた。

 吐き出された弾丸は輸送機の二重反転ローターとエンジンブロックをもぎ取ると、大型輸送機を死の谷へと突き落とした。搭載されていた航空機燃料が地面に広がり一気に燃え上がると辺り一面を火の海に変えた。

 黒煙が上がる中、残骸を確認するように旋回する二機の航空機。

 

『積み荷は確認できない。もう降ろした後か』

 

『例の新型AC―――かもしれんな。レイ、さっさと離脱しよう。噂が本当なら戦闘機じゃ歯が立たない』

 

『未知の防護シールドか。御伽噺にも程がある』

 

『噂じゃ戦術核兵器を防いだって話だぜ』

 

『戦車並みの防御力に航空機並みの機動性―――――そんな兵器、有り得ない』

 

 有り得ない、そう言った矢先、機体のセンサーがミサイルのロケットモーターが発する紫外線をキャッチ、コックピット内に警告音が鳴り響く。

 

『ブーマー!6時方向にミサイル!』

 

 互いに超低空に居たため、超至近距離でのヘッドオンとなる。

 対するは最後の生き残り。

 イーグルが発射したAIM9(サイドワインダー)

 食らいつくミサイル。鋭い切り返しで岩場の影に入り込むと同時にフレアを放出。天使の羽の如く舞い落ちる。熱画像から戦闘機を見失ったミサイルはフレアに突っ込むと、地面に激突して爆炎を上げた。

 

『まだ居やがった!後方に1機!シルフィード!食らいつかれているぞ!』

 

 コブラのマークを掠める20mmの弾丸。

 毎秒数十発以上で吐き出された弾の嵐は地面を削り取っていく。

 

『狙いが―――――甘い!』

 

 後方から狙われている中、機首を上げるのは自殺行為。

 だが、彼は操縦桿を引くと思いきり機首を上げた。急激な減速。機体には重力の9倍もの力。

 機首上げにラダーペダルを操作、瞬間的に錐揉み機動を描く―――――が即座に復旧させる。

 

 敵パイロットと彼の視線は一瞬交差する。

 

『なんて――――奴だ!』

 

 F15のパイロットは異常とも思えるマニューバーを目撃した。

 一瞬にしてオーバーシュートをしてしまった彼が後悔する間もなく無数の弾丸が飛来する。

 機体と共に四散するパイロットは確かに目撃した。

 翼に描かれた国旗を。

 

『――――日の丸』

 

 燃料と共に地面に落下する残骸が燃え上がる。

 撃墜された残骸をフライパスする二機の戦闘機。

 

『――――――流石は元飛行教導隊だな、レイ』

 

『今回は運が良かっただけだよ、元ローデシア空軍のエースパイロット殿』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 企業の誇る新型ACのパイロットであるリンクスは歯噛みしていた。

 何しろ帰りの足である輸送機をやられてしまったのだ。

 今までノーマルと散々嘲笑った相手に、である。

 

「クソ!クソ、クソ!」

 

 悔しさのあまり、シートに拳を何度も叩きつける。

 

『予測稼働限界まで残り30分を切っています。直ちに戦線を離脱してください。繰り返します――――――』

 

 オペレーターの声に苛立った気持ちを再び拳に込めるリンクス。

 

「劣等種族相手に吾輩が撤退だと!?ふざけるな!」

 

『敵のノーマル部隊の練度が此方の予想を大きく上回っています。通常戦力が押し切られた状態で戦うのはリスクが大きすぎます』

 

「せめて蠅位は潰しても文句はあるまい」

 

 統合制御装置から流れ込んで来る情報に先ほど輸送機を落とした戦闘機が放つエコー。

 視覚情報に変換されたレーダーシステムには遠距離に高速移動物体が表示されていた。

 追いつけない速度では無い、と彼は考えた。

 

『危険過ぎます。戦闘機の速度は平均1000㎞ちょっと。今の貴方の機体では持って30分。追撃するには速度差が余りにも少なすぎる』

 

 統合制御装置からも彼女の危惧が伝わる。追撃に費やした時間は、そのまま稼働限界に至るまでの時間と同じ。つまり、帰りはAMS接続を使った機体操作が出来ない可能性が高かった。

 リンクスで居られなくなるという事、それは死を意味した。

 プライマルアーマーが展開できなければ、クイックブーストが使えなければ、戦場で生き残れる確率は極めて低くなるだろう。

 それに、今は通常部隊が敵側のノーマルに押されているのだ。

 その状態で孤立すればどうなるか、火を見るより明かであった。

 

「時間さえあれば――――――」

 

 怨嗟の籠った呟き。

 それはネクストの宿命を宿す呟きでもあった。

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