ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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評価ありがとうございます。遅くなりました。続きです。


マッサワ港急襲作戦2

 ガントリークレーンが積み木のように岸壁に物資を積み上げていく。その前を横切る長い列は蛇のように続いていた。警備部隊として派遣された人形兵器の足元で寝そべる男が湿りきったタバコに火を付けると、耳障りなノイズを撒き散らしていたラジオから放送が流れ始めた。

 

「遂に始まったな」

 

「お前は帰らないのか?」

 

 いつの間にか隣に座っていた男がライフルをスリングベルトに預け、ポケットから酒を取り出す。

 

「俺はまだこの国に用事があるからな」

 

「この国、か。そう思っているヤツが居たなんて驚きだ。ここも、もう直お開きだ。企業の連中が本気になったからな。次の戦場をまた探さにゃならん」

 

 面倒だ、とボヤくと男は安酒を煽る。

 

「まだ終わっちゃいないさ」

 

 湿気たタバコの煙をゆっくりと吐き出しながらつぶやく男をさも面白そうに眺めるライフルを持った男。彼は忠告にしてはふざけた調子で言った。

 

「諦めが悪いな。早死するぞ」

 

「それ位しか取り柄が無いものでね」

 

 そう言いつつ湿気たタバコを地面に投げ捨てると、それを見計らったかのようにして、隣りに座った男は安酒を仕舞うと、紙束を取り出した。

 

「これが頼まれていた物だ。確認しといてくれ」

 

「ウクライナ船籍か。よく捕まえられたな」

 

 見慣れないキリル文字が羅列された紙束。それらを手早く確認すると男は胸ポケットから旧国家で流通していた紙幣を取り出す。

 

「手数料はいらないよ。ちょっとしたコネがあってね。それより、その紙幣ドルか?もう潰れちまった国の紙幣なんか出すなよ。お互い、周りに足元見られちまう」

 

 慌ててしまおうとする男はふと、紙幣に目をやる。

 

「つい数週間前までは使えたんだがなぁ……」

 

「そりゃ、残念だったな。最も、国が発行している通貨で使える物と言えばそんなに残っちゃいないがな。いい加減、こっちにしろよ、傭兵」

 

 男はそう言うとカードを取り出す。そこには企業のロゴマーク。

 

「キャッシュカードは好かん」

 

「企業嫌いも程々にしておけよ。何時か、これを使う日が来るのだから」

 

 そう吐き捨て、立ち去る男の背中を見送る傭兵。

 彼はその先に並ぶ長蛇の列を眺めると、沈みゆく夕日は既に水平線に隠れようとしていた。

 

「俺はまだ戦える―――…」

 

 呟く男は宵の光に包まれ始めた港に背を向けるとその場を後にした。

 

 

 大型貨物を釣り上げるクレーン。布に包まれたその積み荷はゆっくりと降ろされていく。

 抱えるようにして受け取ったのは巨大な人型。

 足元には無数の砲弾。サイズは対人用の小型の物から、人間大の物まで多数が揃えられていた。

 

「これで、奴に勝てますかね」

 

「勝つさ。その為の装備だからな……」

 

 二人の男の真横を大型トレーラーが通り過ぎる。積み込まれたスナイパーキャノンの重量によって撓んだサスペンションからギシギシと言う音を立てながら走り去っていく。

 

「そういえば、例の新型、また出たらしいですよ。今度はオーストラリアみたいですね」

 

「さながら俺たちは時代遅れの理念に縋る旧型って訳か」

 

「汎用型AIに無人機、それに新型AC。目まぐるしく変わりますね」

 

「そりゃそうさ。企業の製品の半分以上が今や人工知能が設計する時代だからな。ヤツ等は休むって事を知らない。人間の俺たちが一歩進む間に三歩も進んでやがる。寝なくていい分、人間より活動できる時間が長い。俺たち人間に勝ち目はないさ」

 

 二本目の煙草を吸い終わり、投げ捨てると濡れた地面に吸い込まれる。

 

「僕等に残されたのは汚れ仕事(ウェットワーク)……ですか」

 

「“殺人のライセンスをAIに与えてはならない”――――何処かのお偉い軍人さんが残した言葉だが、お陰で俺たちは職にあぶれる事無く今に至るって訳だ。ま、正しいっちゃ正しいんだがな」

 

 深谷大佐はそう言いつつ、数年前に日本で起きた大惨事を思い出す。

 

「京都駅前ナノマシンテロ、そういや首謀者はまだ捕まって無かったんでしたっけ?」

 

「いや、実行犯は捕まってる。犯人と言っていいか解らんが」

 

「汎用型人工知能、AGIでしたっけ? 噂だと協力者が居たって話じゃないですか」

 

「知らんよ。破滅願望のあるAGIに手を貸す人間が居た、なんて考えたくもねえ」  

 

 煙草を銜えた深谷大佐はぶるりと身を震わせた。

 

「京都駅周辺は今でも除染が進んでいないらしいじゃないですか。怖いですね。そんな凶悪な微細兵器(ナノマシン)を簡単に自作してしまうAGIが存在するなんて」

 

 何時の間にか深谷大佐のACはメインコンピューターの換装の為、胸部装甲を外されていた。

 新型の制御システムに乾燥するための作業は着々と進んでいく。胸部に内蔵されていたソレは、一見すると無数の血管が繋がった人の臓器のようであった。それを眺めながら、大佐は答える。

 

「人間の神経細胞は電気信号をやり取りする機械なんだ。そりゃあスイッチング速度が鬼のように遅いが、それでも俺たちは苦労していない。つまり、それだけデザインが優れているってわけだ。それを機械に置き換えたんだからヤバイに決まってる。人間を超えちまうなんて当たり前のことなんだよ」

 

「そうじゃなきゃ人形兵器が立ち上がったり出来るわけ無いですよね」

 

「フライ・バイ・ワイヤシステムの応用。行き着く先は完全無人化。世知辛い世の中だな、全く」

 

 戦術データ・リンクに、火器管制装置、索敵レーダー。姿勢制御装置に、戦況分析装置と、どんどん人の手を離れていく機械に対して諦めのため息をつく。

 

「人の死なない戦争が実現するなんて良いじゃないですか。ある意味、究極の政治交渉(・・・・・・・)ですよ」

 

「或いは、究極の経済活動としての戦争、か。スクラップアンドビルドとはよく言ったものだが、経済の効率化によって、最終的にスクラップにされるのが人間じゃないことを祈るよ」

 

「その前にパックスの死神にスクラップにされないようにしないと」

 

「解ってるさ。ま、完全機械化されていないのであれば人間である俺たちにも付け入る隙きはあるさ」

 

「搭載する中央演算処理装置の換装もその一環ですか?」

 

 部下である石川は、換装されつつある中央演算処理装置を見ながら言った。

 

「そうだ。レイセオングループ製だよ。何でも猿の脳髄を模倣した深層学習装置(ディープラーニングマシン)らしいぞ」

 

 そう言いつつ、大佐は部下の石川に新型AIの性能が示された端末を渡す。彼は目を見開く。

 

「射撃安定性、スピード、ジャンプ力、エネルギー変換効率、どれも元の数倍は有りますよ。頭を変えただけでこんなに化ける物なんですかね―――って肩武器の構え動作無しでの作動を保証?すげぇや」

 

「変わるさ、そりゃ。空自のF4ファントムだってレーダーと火器管制装置(FC)変えただけでイーグルキラーに変わるんだ。ACだって同じさ」

 

「でも、前の物も同じ様なディープラーニングマシンだったじゃないですか。何が違うんでしょうか」

 

「プログラミングした奴が違う。前のは人間がプログラムした物、と言うよりはティーチングしたというべきか―――それが、レイセオングループじゃ人間ではなくAIが(・・・・)行う。それでこれだけの性能差が出来る」

 

「そう言えば、囲碁の世界チャンピオンを破った人工知能も自己対局で強くなったんでしたっけ?」

 

「いや、アレは違う。チャンピオンを破ったのは人間がティーチングしたヤツだ。そんでもってそのAIを破ったAIが自己対局でティーチングされて作られた物だ。特化型AIだがな」

 

「特化型AI、昔は散々バカにされてましたが。今じゃ立場が逆転しそうですからね」

 

「今も昔も物事の本質が見えない奴は居るもんさ。特化型人工知能の普及、その先に何が待っているのか、そいつらには判らんのさ」

 

汎用型人工知能(AGI)――――ですか」

 

 大佐と呼ばれた男は首を振る。

 

「解ってないな、お前は。人の仕事を特化型AIが少しずつ取って代わった。それら、全てを置き換える事と人の脳髄を模倣する事は等価だが、同質ではない。お前の言っているAGIは全脳アーキテクチャだ。俺が言っているのは全脳エミュレーション型AGIだ」

 

「よく解りませんね、何が違うんでしょう」

 

「そうだな―――――今日から一日、一つずつお前の脳細胞をトランジスタユニットに置き換えたとする。お前の意識は何日後に機械に変わると思うか?」

 

 石川は頭を悩ませる。事故によって脳神経の一部を切除して日常生活を送る兵士を見たことが有った彼は、その様子が以前と変わりなかったので、細胞一つずつであればもっと変化が無いだろうと思う。

 だが―――同時に彼は思う。一体どれだけの量の細胞を変えられれば自分が機械化されたと感じるのだろうか、と。

 

「哲学的過ぎます。自分には解りません」

 

「俺はこう思う。恐らく全ての人類は自分の脳が機械に変わった事を認知できないだろうってな」

 

 石川は自身の脳細胞がトランジスタに変わったという意味が今一ピンとこないのか首をかしげる。だが、彼は同時に得体のしれない気味の悪さを覚えた。

 

「人間の神経細胞とトランジスタは基本的な動作アルゴリズムがとても良く似ている。トランジスタは、ベースに一定以上の電流が流れると、エミッタ・コレクタが導通し電流を増幅する。人間の神経細胞も同じだ。一定以上の電流を樹状突起に受けるとLSTと呼ばれている発火現象、つまり流れてきた電流以上の電気を軸索に流す。人と機械は細胞(パーツ)単位で似てるんだよ。構造的にな」

 

「ですが、機械は無機物ですし、集積回路(IC)に命は宿りません」

 

「そうだな。それが一般的な人間の関心なんだろう。だが、これだけ技術が進歩しても相変わらず科学ってやつは人の魂を肯定してくれない」

 

「しかし、今ここにある、感じる、みたいな物が機械にあるとは思えません」

 

「でも、そうなると――――いや、何でもない」

 

 深谷大佐はそれ以上言葉を紡ぐことを辞めた。しかし、彼は思う。部下の言う事ももっともだが、それだと人間と機械の違いは感じる、と言うプログラムだけと言う事になる。

 

「――――それにしても、どうして新型AIのチップには名前が付いているんだろうな」

 

 

 Chara、Linna、Marie――――

 

 建造された擬装タンカーに積替えられていくACのコックピットにはその全てにチップ固有の名前が表示されていた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ネクスト襲撃から半日後、つかの間の休息を得ることが出来た彼等は南スーダンの首都、ジュバで休養を取っていた。ハンガーに戻されたACは次なる作戦の為に幾つかの改修を受けていた。まず、問題となったのはノーマルACの水中作戦遂行能力だ。

 通常、ACは水中戦闘はしない。それは戦車やヘリと同じ空間を共有する戦闘ユニットであるからだ。しかし、タンカーから出撃する際、どうしても水中を抜けなければならない。その為、水中移動能力を付与させる必要があった。

 

「んで、こいつが新型か?随分と骨抜きになったみたいだが……」

 

 炭素繊維の縫い目がむき出しになったフレームには、同じく炭素繊維で強化された装甲板が付けられていた。

 流線形の形状は水中での抵抗を減らす役割を果たすようであったが、炭素繊維自体の防弾性は余り期待できない。なので、大佐は愛機が中量級と名ばかりの軽量機になった事を悟った。

 

「ええ。大佐の機体を含め、作戦機体には大幅な改造を施しました。二脚型はシュノーケル装備。四脚型のタイプはフロートに改造してあります」

 

 ズラリと並ぶ機体にはどれも見たことも無いパーツが付いていた。フロート型と呼ばれた脚部の物は、明らかに地上では使えない形状をしていた。

 

「完全に水上戦用も物も混じってるじゃねぇか。帰りはどうすんだ、これ」

 

「マグリブ解放戦線が陸路から部隊を寄越すらしいですよ。フロート型は水上から撤退中の味方機を援護するってことじゃないですか?」

 

「まぁ、敵の水上艦の射撃を掻い潜って生き残れる気がしないし、水上の敵は倒すしかないか」

 

 整備兵の一人は大佐に図面を見せると得意げに語り出した。

 

「水上専用だけあってこの脚部凄いんですよ。内臓してある追加ジェネレーターの出力が81メガワットあるんです。最大巡航速力が70ノット以上。もうミサイル艇も置いてけぼりですよ!」

 

 大佐は鼻息の荒い部下から視線を外し、そのフロート型とやらに視線を向ける。脚部に取り付けられていた複雑な形状の羽。それを見て漸く悟った。

 

「水中翼付きフロート、それに無理やりガスタービンを搭載してるのか。通りで阿保みたいに早い筈だ。んでも、水中で動けるんだろうな?流石にタンカーから出られなかった、なんて洒落にならん」

 

「心配には及びません。内臓バッテリーで推進できるように電動機を駆動軸に取り付けてあります。ノーマルACのDCアークジェットに比べたら駆動効率段違いに良いので、二脚型の機体にもポッド型電動機を取り付けました」

 

 スタビライザーに見えた部品はどうやら電動推進器だったらしい。大佐は、愛機に取り付けられた楕円形のポッドに目を向けた。

 

「ちゃんと、投棄できるようにしといてくれよ。こんな物、陸に上がったら死重量にしかならんからな」

 

「投棄は出来ますよ?でも、大佐、これ無くなったら泳げなくなりますよ?」

 

「わ、解ってるよ」

 

 金槌である大佐は水中でのベイルアウトを想像してブルりと身震いする。

 

「それよりも、肝心の物は出来てるんだろうな?アレが無いと始まらない。ネクストに歯向かうんだ、せめてヤツに通じる兵器が要る」

 

「重フッ化レーザー。完成してますよ。ただ、物が物だけに扱いは慎重に行ってください。落として壊しでもしたら大事ですよ」

 

「まぁ、高純度フッ素をぶちまけるようなことはしないさ。撃たれたらしらんがな、ハハハ!」

 

「くわばらくわばら。この基地の周辺で使う事にならないよう祈りますよ」

 

「んで、肝心の出力の方は?死神の腸を焼ける位はあるんだろうな?」

 

「1.2GW(ギガワット)です。泣いても笑ってもこれ以上の出力では超電導コイルが溶けます。因みに、この数字は理論値ですからね」

 

「解ってるよ。ったく、せっかく熱に強いプラズマレンズを採用してるってのに、肝心のそれを保持する為のコイルが焼けるんじゃ意味ねーよな」

 

「何言ってるんですか。今までのガラスレンズであれば一瞬で蒸発している出力ですよ。このパワーを秒単位で照射し続けられるなんて、数年前じゃ考えられない事なんですよ」

 

 話していた二人の後ろに巨大なトレーラーが停車する。荷台には黒光りする電柱のような物が載せられていた。

 

「ん?ひょっとしてあれ、戦車砲ですか?それにしてはやけにデカい様な……肩武器にするにはめんどくさそうですが」

 

「ありゃ予備さ。レーザーが使えなかった時の為のな」

 

「いっちゃなんですが、ネクストに通常兵器が効くとは思えないのですが」

 

「通常兵器がプライマルアーマーを抜いたのは二度目撃されている。一度目はイエメン戦での戦艦ミズーリが放った砲弾だ。ビデオで見た限りでは豪快にPAを貫いて死神のスタビライザーをぶっ壊していた」

 

「戦艦ミズーリ、40cm砲弾ですか。流石にノーマルに積載するのは無理そうだ。やっぱ死神の名は伊達じゃないのか」

 

「―――――――いや、もう一つある。それも、こいつは俺たちノーマルの放った弾丸だ」

 

「え?それはどのタイプの物ですか?」

 

「125mmHEAT弾、ロシア製の奴だ」

 

「流石にそれはないでしょう。ノーマルの標準兵装ですよ、それ」

 

「俺の目の前で奴の装甲表面に届いた。問題はその砲弾が地面に跳弾して減速されていた事だ。推測だが、あのプライマルアーマーは、戦車でいう所のアクティブAPSみたいに飛来する物体の初速によって動作を変えるのかも知れん」

 

「電磁装甲でしょう?そんな事が出来るんですかね」

 

「これも推測の域をでないが、地面との干渉を防ぐ目的かも知れん。あのPAとやらは地面や建物との接触で反応している様子は無かった。反応すると不味いのか、もしくは発生させる機構の関係で制約があるのか、或いは――――」

 

 その言葉を続けようとした時、サイレンが鳴り響く。

 

「空襲警報!?急いでACを起こせ!」

 

 西の空に無数の機影。

 その日、マッサワ港襲撃部隊の長い一日が再び始まろうとしていた。




ここまで読んで頂き有り難うございます。
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