ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
T72本国モデルVSチャレンジャー1&2です。
M1出してないけど、連合軍側が一ミリたりとも慢心していない事が武器の性能から伺える…
慢心、駄目ゼッタイ
巨大な翼を大空に広げるその姿は白い白鳥のようであり、天使の様でもあった。
その腹の中にあるのはパックスの死神。それに搭乗していたセーラ・アンジェリックはコックピット越しに荒涼とした砂漠を眺めていた。
『クライアントから正式に連絡が有りました。南スーダン政府軍、残党を討伐して欲しいとの事です』
半日前の戦闘でかなりの損害を出していた政府軍。しかし、企業軍側も無傷と言う訳にはいかず、地上、及び航空部隊の損耗が激しかった。そのため、痺れを切らした彼らは遂にネクストによる
「どうしてまだ諦めないのかしら。もう、勝ち目がないって解っている筈なのに」
『セーラ、私達はその分からず屋達に引導を渡すのが仕事なの。その先は考えては駄目よ』
放棄された街の上を飛び越える超大型輸送機。その周囲を護衛戦闘機が取り囲む姿は鳥の群れのようであった。
その影が荒廃しきった町並みに映り込む。
かつて繁栄を栄えた街が、スラムに飲み込まれ、そのスラム街さえも数多の戦乱に撃ち抜かれ、もぬけの殻となって果てた。
残滓がかすかに残る街、その上を飛ぶ航空機の影は死体に群がる鴉のごとく群生の空を埋めていた。その影を見つめながらセーラは言った。
「軍人ってもう少し賢いと思っていたけれど……戦火を長引かせれば世界が荒廃してしまうって思わないのかな」
『彼等には彼らなりの正義があるのです。それに、彼等は高度な軍事訓練を受けてきた戦争のプロなのです。ネクストの優位性があるといって、油断できる相手では在りません』
「古い兵器が新たな兵器に駆逐される。これって歴史が証明してきた事じゃない。今更その流れが変わるわけないわ」
何度かノーマル同士の戦いを見てきたミドには彼女の危うさが解っていた。
戦場で見かける下克上は陸戦に置いては割と存在した。
惜しむらくはセーラにその歴史を知る機会が無かった事だった。
少女としての幼さと危うさを目の当たりにして深いため息をつくとミド・アウリエルはそれ以上彼女に伝えるべき言葉を失う。
『―――――友軍、交戦を開始。セーラ、準備して』
「わかったわ」
眼下に広がる無数の光。それはストロボのように巨大な翼を照らす。装薬が放つ光から放たれた曳光弾がオレンジ色の線を引いていくその先には一際大きな光。巨鳥はその光を浴びながら、その腹を開けた。
◇ ◇ ◇
加熱した砲身からもうもうと煙が上がる。
その先には燃え盛る鉄塊。
転がる死体、その横を鋼鉄の履帯が地面を踏みしめる。38リッターのディーゼルエンジンが唸りを上げて黒煙を吐き出した。
『敵火点沈黙!次弾、HEAT!』
砲塔下部に並んだ砲弾が円を描くように回転。その内の一つが垂直に立ち上がると、薬室に叩き込まれた。
『HEAT装填!』
無煙火薬が吐き出した白い煙を、勢いよく掻き分けて巨大なお椀をさかさまにしたような戦車が姿を現すと、見計らったかの如く、対戦車ミサイルが突き刺さった。
ミサイルの弾頭の爆発と装甲表面のERAが発生させた爆発が重なり、灼熱の火球を発生させる。しかし、内部に仕込まれた無数の鉄板とゴムタイルの積層構造によってメタルジェットは偏向され散らされてしまう。エネルギーを分散させられたメタルジェットは重厚な厚さを誇るバックプレートに阻まれた。
鋼鉄の猛獣は復讐を果たすべく索敵を開始する。その獣を支配する機械は岩影に潜む熱エネルギーを見つけ出すと、その砲身をそちらに向けた。
閃光と砲炎。
吐き出される死。それは寸分たがわず数キロ離れた地面に伏せる兵士達に叩きつけられた。
人の眼では捉えきれないほどの距離であったが、機械の目は誤魔化せなかった。
吹き荒れた死が収まると、散らばった生き物だった物の放つ熱すら捉えるその目は、次なる目標を探す。
『砂丘の奥に熱反応!APFSDS装填!』
『チャレンジャー1だ!貧乏人め!骨董品を使いやがって!』
再び砲炎と共に砲弾が吐き出された。
それは旧式の傾斜した正面装甲を持つ戦車に突き刺さると侵徹を開始した。
3BM46、通称スヴィーニツと呼ばれる砲弾は1991年に開発されたロシア製の劣化ウラン合金製の砲弾だった。
タングステン製徹甲弾に比べて高い剛性を持つ劣化ウランの侵徹体は、鞘の部分が薄い為、断面積あたりの質量が高く、これによって極めて高いエネルギー収束率を実現できた。この為、侵徹は滑らかに進行した。
先端部のキャップが複合装甲のセラミックに亀裂を入れ拡張して、メインの侵徹体が最大効率でセラミックの割れ目に慣性エネルギーを集中できる構造を持ったモノリシックウラン合金の塊は、バターにナイフを入れるかの如くセラミックインゴットを切り裂いた。
2㎞先の650mmの鉄板を撃ち抜く力を持った砲弾は、7.4メガジュールのエネルギーを砲塔内部に解放する。
金属に比べ引っ張り強度が極めて低いセラミックは、いとも簡単に切り裂かれた。破壊されたバルクの一部が破られたバックプレートの巨大な穴から室内に侵入すると、車内のアラユル物を引き裂き、砲塔後部の砲弾を誘爆させた。
『タダのセラミックじゃ劣化ウラン弾は防げねぇぜ!ははは!』
車体弾薬庫に引火し、チャレンジャーⅠの車体から砲塔が吹き飛んだ。
その爆炎の横から新たな影。
『オイ!もう一台居やがった!』
重なる砲炎。侵徹体が交差した。
先に着弾したのはCHARM3劣化ウラン徹甲弾であった。
旧イギリス製の侵徹体は
本来であれば横方向の応力によって侵徹体をへし折る仕組みであったが、これはイギリス主力戦車の複合装甲にも取り入れられた仕組みであり、これを射抜ける槍を開発するのは道理であった。
2㎞先の740mmの鉄板を貫通できる侵徹体は一瞬にして戦車の弾薬を誘爆させ、砲塔を明後日の方向へ吹き飛ばした。
間髪入れず3BM46劣化ウラン弾が砲塔正面に着弾する。
非爆発性反応装甲部分をあっさりと貫いた砲弾はセラミックバルクも叩き割るとチャレンジャーⅠの複合装甲の物とは異なる部分に遭遇した。
鉄よりも遥かに重く硬い、尚且つセラミックバルクよりも極めて高い引っ張り強度を持った金属層である。
ユゴニオ弾性限界を超えることのないタングステン合金の層は、一気に劣化ウラン弾の弾芯をエロ―ジョンさせ、侵徹体を急減速させる。減速により歪みを生じた劣化ウランの芯は折損、侵徹能力を失った。
ついに侵徹体はバックプレートに運動エネルギーを吸収されてしまった。
『タダの劣化ウランじゃドーチェスター2は破れねぇぜ』
再び砲炎が轟くと、その先に爆炎と共に砲塔が飛び上がる。
第二世代チョバムアーマーに守られたチャレンジャーⅡは完全にT72を圧倒していた。
装甲と貫通力その両方に劣った存在。それは生存競争に負け、肉となる草食獣と同じであった。
◇ ◇ ◇
無数の黒煙が上がる砂漠の上からゆっくりと降下するネクストに揺られながらセーラは目標を探しては引金を引いていた。
『旧式の戦車が主力みたいですね。早く片付けてしまいましょう』
「わかってるわ」
彼女の操るブルーネクストは再び光を放つ。
数十ギガワットオーダーの出力を連続で放っていくと、セラミックとタングステンの塊はいとも簡単に蒸発した。
核融合反応のエネルギーを間接的に利用したレーザーは正に太陽の如く、高熱を放つ。
激しいアブレーションは複合装甲に侵徹体の衝突以上の衝撃を与えてセラミックを粉砕。
拘束されたセラミックバルクはそのまま爆散し、砲塔内部の弾薬もろとも粉々になった。
「撃っても無駄なのに」
発射されたCHARM3劣化ウラン徹甲弾がプライマルアーマーに直撃すると、励起した微粒子が電位ポテンシャルを解き放つ。
侵徹体に大電流が流れ込むと、ジュール熱によって一瞬にしてプラズマ化する侵徹体。辛うじて溶け残った部分はローレンツ力によって左右に引き裂かれた。
質量を散らされた侵徹体の成れの果ては空気抵抗によって運動エネルギーを消失、装甲にすら届くことはなかった。
セーラは短い嘆息と共に引金を引くイメージを作り出す。
ネクストの操縦システムは素早く反応、核融合反応が作り出した電気エネルギーを熱エネルギーに変換、銃身内に存在したプラズマレンズが数キロ離れたチャレンジャー2の砲塔正面装甲にピントを合わせると、熱エネルギーの奔流は第二世代チョバムを水飴の如く溶かし切った。
吹き飛ばされた戦車の残骸から伸びる黒煙が幾重にも増えていく空。ブルーネクストは壊すべき目標が居なくなった事を確認するように戦場の空を旋回した。
「全ての目標を破壊、ミド、迎えを寄越して頂戴」
大してダメージを負う事の無かった彼女の機体は新品そのものであった。だが、AMSから流れ込む情報量は生身の脳髄に少なくない負荷をかけていた。彼女は無意識に汗を拭う。
『本社より通信です。南スーダン政府軍の空港襲撃部隊が激しい抵抗にあっているようです。侵攻部隊と共闘し、空港を制圧してほしいとのことです』
「まだ、居るのね。でも、纏めて叩けると思えば有難いのかしら」
『相当数のレイヴンの存在が報告されています。気を抜かないでセーラ、戦いはまだ終わって居なわ』
ネクストが吐き出すプラズマトーチが白い翼を照らし出す。
三重フラップを命一杯に伸ばした超大型輸送機は、再び腹の中にネクストを収納した。
セーラは閉じられていく扉の向こうにちらりと顔を覗かせた戦車の残骸を見て呟いた。
「解ってるわ」
――――けど、
無数の装甲兵器の残骸を飲み込んだ戦場、そこにはかつて最新鋭兵器と謳われた物達の成れの果てが横たわっていた。
◇ ◇ ◇
滑走路脇にある無数のハンガーは殆どが火に包まれていた。
『畜生!巡航ミサイルがまた刺さったぞ!SAM部隊は何をやっているんだ!?』
『小型ドローンの襲撃にあったようです!』
『数十億円の兵器が数万円のおもちゃでぶっ壊されるなんてひでぇ話だぜ!クソッタレ!』
殆ど機能を成さなくなった地対空ミサイルが火に包まれる。
装薬に引火したミサイルはねずみ花火のようにクルクルと回りながら空の彼方に飛んでいく。
四脚型ACが装備した30mmガトリング砲が巡航ミサイルを捉えると、菱形の翼をもぎ取った。
滑走路脇の草むらに墜落した巡航ミサイルは何も無い地面の上に灼熱の火球を作り上げた。
数万ものストロボが輝いたかの如く辺り一面が照らし出される。
草むらに潜んでいた六輪式の地上走行型ドローンが、背中に搭載された飛行型自立兵器を飛び立たせた。
蜂の羽のような音で軽やかに浮かび上がると、六枚の回転翼を使い、防空部隊であるACへと突入していった。
腹に抱えた2㎏のC4爆薬は速やかにACの弱点に届けられた。
炸裂音と共に、迎撃に当たっていたACの30mmガトリングが折れ曲がる。
『気を付けろ!草むらに何か居やがる!』
攻撃を受けたACのパイロットは即座にリコンを放ち、スキャンモードに切り替えると草むらを隈なく調べる。
コックピットの画面に自走型自立兵器が映し出された。
『こんな所にまで来やがって!』
120mmショットガンが発射されると無数のダーツ状の侵徹体がバラまかれる。それは小型の自走兵器を粉々にした。
爆炎が夜空を照らす。
その雲間から無数の輸送機が顔を出す。
『上空に敵機!』
『敵AC多数降下中!迎撃しろ!』
ノーマルACに装備された地対空ミサイルが熱源を捉えて飛んでいく。
狙われた輸送機は無数のフレアをばら撒くと、天使の羽の如く広がった。
しかし、物体の黒体放射とそれを捉え、画像認識するシーカー内臓の認知メカニズムを騙すには足りなかった。
ミサイルは輸送機に迫るが―――――それを光が貫いた。
『なんだ!?』
『撃て!撃ちまくれ!』
緩やかに下降する一機のAC。殺到するミサイルが作り出す火球が流線形のフレームを照らす。
『下が賑やかだわ。ミド、予定変更。ノーマル部隊が制圧する前に此方で片付ける。彼等に任せていては時間が幾らあっても足りないわ』
ブルーネクストは大型のレーザーライフルを構える。
『前に出過ぎよ、セーラ。作戦通り動きなさい』
『あまり時間を使いたくないの。戦いを長引かせれば人も、物も無駄に失うわ』
励起したガスに大電流が流れ込むと、はじき出された電子が銃口から吐き出された。
複合装甲に包まれたキャノピーもギガワットクラスのエネルギーを受けてはひとたまりもない。
一瞬で爆散するノーマルACを流し見る彼女は次なる目標を次々と撃ち抜いていく。あっという間に滑走路は燃え盛る残骸で埋め尽くされた。
『降下地点確保。西側に敵反応、そちらの掃討に移る』
『―――――解ったわ』
彼女は深いため息と共に、次の行先を戦術データリンクに反映させた。
滑走路西側に展開していた戦車部隊の生き残りは、湖を背にして最後の抵抗を試みる。
『敵降下部隊、更に増加!滑走路は完全に制圧されました!』
『例の新型は!?どこに行った!?』
旋回式のサーマルスコープを覗くとそこには見たことも無い形のシルエットを持ったAC。
『正面に居ます!』
『砲手!APFSDS装填!撃て!』
装填管が離脱し、剥き出しになった侵徹体がプライマルアーマーに直撃するとプラズマ化した火球が出来上がる。
『クソ!かすり傷さえ付いていないとは!次弾装填!撃て!』
再び砲炎。しかし、何度繰り返しても防護膜を破る事は叶わず、虚しく火球を作り上げるだけであった。
『800mmの鉄板を撃ち抜ける砲弾を防ぐだと!?―――――』
『いったいどんな――――』
次の言葉を告げる前に、サーマルサイトに命一杯映り込んだ機体が、巨大な熱の塊を腕から発生させていた。
プラズマ化した重金属を磁場で収束させ回転させたブレードは、熱と微粒子で複合装甲を瞬時に切断、タレットリングよりも上の部分を粉々に引き裂いた。
『西側を制圧、ミド、基地の殆どを掌握したわ』
『解った。取り合えずお疲れ様。もう少しで迎えが行くわ』
燃え盛る鋼鉄の猛獣は、今や動かぬ鉄の棺桶と化していた。
炎に浮かび上がるシルエットには陽炎の如く防護膜の輪郭が映っていた。
◇ ◇ ◇
湖畔から潜望鏡を覗かせるAC。
『まるでプロミネンスだな。ったく、肝が冷えるぜ』
『間一髪でしたね。我々は運がいい』
『どうだろうな。地獄に行く順番が遅いだけかもしれんぞ』
深谷大佐は戦術データリンク画面を操作しながら続ける。
『各機、状況を報告しろ』
『ハウンド1-1、異常なし』
『ハウンド2-2、異常なし』
『ハウンド3-3、異常なし』
『こちらスネーク1-1、こっちも死に損ないました。どうやら地獄は定員オーバーらしい』
『――――ハハハ、何を言っている。地獄はここにあるさ―――――――さぁ、リターンマッチの始まりだ』
湖面の下に潜む巨人の群れは静かにその時を待っていた。