真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 生きて、前を見たい。


 ゆっくりご覧ください。


第百話 振り返らずに

 「あ、あの、龍一?」

 

 

 「ん?」

 

 

 「その、急に、どうしたの?」

 

 

 紫と密着したまま人里を歩く中、奇異と恐らくではあるが・・・羨望の目で見られる中、紫がまだ少し照れた様子のまま俺に聞いてきた。

 

 

 「あのその、嫌なんじゃなくてね?・・・今まで、龍一からしてくる事なんて無かったから、どうしたのかな、って」

 

 

 「あー・・・そうだな。まあ色々あるが、ようやく自分にちょっと自信がついたって言うか。・・・このままだと後悔するなって思ったから、な」

 

 

 俺を見上げる紫の髪を軽く撫でる。

 触れた瞬間は声を出したものの、払い除けることもなく、目を細めていた。

 

 

 「んっ・・・自分が凄いってようやく分かったの?」

 

 

 「いや・・・いや、うん、まあ、そうだな」

 

 

 「・・・自分の顔、ちゃんと鏡で見てる?」

 

 

 「見てない」

 

 

 「なんでよ!?」

 

 

 「龍神は髪が乱れる事はおろか、皮膚の劣化もねえんだよ。だから身嗜みを整えるために鏡見る必要がねえの」

 

 

 「だからあの家、鏡が無かったのね・・・」

 

 

 やれやれと言わんばかりのため息を紫が吐く。

 仕方ないだろ、と言う言葉は飲み込み、悪かったよ、と笑う。

 

 

 「まあこれからも善処はしないが・・・お」

 

 

 「ちょっとはしなさいよって、どうしたの?」

 

 

 俺の背後からは見えないので、しばらく飛び跳ね、やがて何故か俺の背中に飛び乗り、俺の見ていたものを見た。

 

 

 「おい、なんで乗るんだよ」

 

 

 「貴方で見えないからでしょ。・・・花?」

 

 

 「ああ。家の窓際にでも、と思ってな」

 

 

 「ふーん・・・」

 

 

 「意外か?」

 

 

 「ううん、そうでも無いわ。・・・何がいいの?」

 

 

 紫の質問に、俺は顎に手を置いて考える。

 しばらく考えたのち、三つほどに絞られていた。

 

 

 「梅か桜、後はフジの花かな。・・・お、コレとかどうだ?」

 

 

 俺は花瓶に入った藤の花を指差す。

 しかし紫は不思議そうにしていた。

 

 

 「藤の花、好きだった?」

 

 

 「・・・ああ、前は桜とか言ってたかもな。ああそうだ、お前の名前に似てるか・・・ら・・・」

 

 

 「・・・似てる、から?」

 

 

 「・・・好きになったんだろうな。コレにするか」

 

 

 「ええ」

 

 

 ほんの少しぎこちなくなったものの、俺は買った藤の花を受け取り、先に家に置いておいた。

 しばらく歩き回り、少し人里から離れた丘に二人で座り込んだ。

 日は傾き始め、ほんの少し空は茜色に染まり始めていた。

 

 

 「いやあ歩いた歩いた。滅茶苦茶広いじゃねえか」

 

 

 「気に入ってくれた?」

 

 

 「ああ。今まで見た中で一番いい場所だよ。半分くらいデートみたいになっちまったがな」

 

 

 「!?そ、そうね・・・」

 

 

 「・・・悪い、軽率だったわ」

 

 

 「べ、別に気にしてないのよ?・・・けど、その、ほんとに変わったなって・・・」

 

 

 「かもな。・・・なにせ」

 

 

 死ぬからな、と言いかけて俺は口を塞いだ。

 

 

 「死ぬからな、かしら?」

 

 

 「っー!?ばっ、よせよそんな冗談!」

 

 

 紫の横からの発言に、慌てて笑おうとするが、笑えなかった。

 紫の顔は真剣そのもので、冗談を言ったとしてもすぐに冗談だとバレそうな程に目が据わっていた。

 

 

 「本当に、冗談?」

 

 

 「あ・・・いや、その」

 

 

 「本当に?」

 

 

 「・・・」

 

 

 俺が無言になると、そう。と言って紫は悲しそうな顔になった。

 

 

 「私には、言えない?」

 

 

 やめてくれ、そんな顔で見るな。

 紫の少し潤んだ瞳、それでいて引き締められた口許を見て、まるで胸がナイフで刺されたように痛んだ。

 声も掠れそうになり、呼吸も荒くなる。

 そしてまた隠していた恐怖が溢れ出した。

 

 

 「おれ、は、死にたく、ない」

 

 

 やめろ、耐えろ。

 意識は拒否を起こしているはずなのに、色々なものが溢れ出していた。勝手に口が動いていた。

 

 

 「まだ、紫、といたい」

 

 

 紫の手が俺の頬に置かれる。

 その瞬間、耐えようとしていた俺の意識は拒否できなくなった。

 

 

 「死にたくない・・・っ!」

 

 

 ついさっき。一人で嘆き、叫んでいたよりも更にひどく、激しく、苦しいものが吐き出されていった。

 それを紫は全て受けて、優しく頭を撫でてくれていた。

 そして、それに甘えるように、俺もずっと叫び続けた。

 

 

 

 叫び終わる頃には日が暮れ、茜色の空に闇色が混じっていた。

 俺は紫の膝枕の上で、呆然と空を眺めていた。

 そんな俺に気がついたのか、紫はクスリと笑い、俺の頭を撫でた。

 

 

 「少しは、良くなった?」

 

 

 その言葉に再度溢れそうになるが、やっとの事で堪えて首を縦に振った。

 紫は再び微笑み、ごめんなさい。と言った。

 

 

 「聞いちゃったの。貴方が死にたくないって、寝言で呟いてたのを」

 

 

 「・・・いつ頃?」

 

 

 「今日のことよ。・・・どうして笑ってるの?」

 

 

 「いや、流石にバレるの早いなあ、と」

 

 

 俺は力なく微笑み、視線を横にする。

 日は更に地平線に吸い込まれていき、俺は息を吐いた。

 

 

 「幻滅したか?」

 

 

 「ううん。・・・龍一も生き物なのねって、安心したわ」

 

 

 「・・・なんか弱み握られたみたいで嫌だな、それ」

 

 

 「実際そうじゃないの?」

 

 

 「そうだな。・・・だからさ、俺、いつか死ぬかもしれないけどさ。大丈夫か?」

 

 

 「なにが?」

 

 

 「いつか会えなくなるからさ。それも、割と早いうちに」

 

 

 

 「だから何が?」

 

 

 「・・・お前の隣に居続けるのが、だよ」

 

 

 「良いわよ、別に。貴方は?」

 

 

 「俺?・・・正直に言うと、最後まで看取って欲しいかな」

 

 

 「・・・なら、確定ね」

 

 

 「だな」

 

 

 紫の微笑みに俺は再度上を向いて微笑み返す。

 ただでさえ美人の紫が、いつも以上に綺麗な気がした。

 

 

 「・・・綺麗だな」

 

 

 「え?何か言った?」

 

 

 俺が聞こえないように言った呟きは、当然紫に聞こえることなく、紫は耳を俺の顔に近づけた。

 だから、紫の顔を掴み、正面に向けて、

 

 

 「お前が綺麗だって言ったんだよ」

 

 

 思いっきり引き寄せて、唇を合わせた。

 口を離した頃には、紫の顔と空の色が見分けられなかった。

 

 

 「・・・予備動作も、準備もなしにやったのは、初めてだな」

 

 

 俺が悪戯っぽく笑うと、紫は両手で口許を押さえてポロポロと涙を流したまま、笑った。

 

 

 「もう、馬鹿・・・」

 

 

 さてどう返そうかと内心でニヤついていると、ふと目の前の光景が、視えてしまった未来のワンシーンと同じであることに気がついた。

 

 

 「・・・なんだ、コレじゃないのか」

 

 

 安心からか、また一筋だけ涙が溢れ出した。

 そんな俺を不思議そうに見つめる紫に、なんでもないよ、と初めてスッキリした顔のまま答えることができた。

 

 

 ____________________

 

 

 「なんてことがあってさあ!いやあクッソドキドキしたわ!てかバレるもんだな!隠し事!」

 

 

 「・・・珍しく今日の後に酒に誘われたと思ったらそれか、龍一」

 

 

 「まあまあ。良いじゃないですか」

 

 

 「俺は酒が飲めるから、龍一の惚気でも歓迎じゃがな!」

 

 

 通称妖怪の山、風魔宅。

 龍一と幻夜を除く四凶が、久方振りに酒盛りをしていた。

 特に龍一が多量の酒を飲み、頬が紅潮していた。

 

 

 「まあ、恋愛クソザコ大明神の主上には良い転機なんじゃないですか?」

 

 

 「違いねえぜな、それにしては積極的になりすぎとる気もするがな。盛った猿ぜよか?」

 

 

 「相変わらず恋愛沙汰になると口が悪くなるな貴様らは。ここぞとばかりに上から見下ろすな」

 

 

 侵二と壊夢の暴言に風魔は苦笑し、当の龍一は笑ったままだった。

 

 

 「良いんだよ風魔、事実言われてるだけなんだから。・・・で、とりあえず惚気はここまで」

 

 

 「急に落ち着くな」

 

 

 「それどうにかなんねえぜよ?」

 

 

 「温度変化おかしいんですよ」

 

 

 「いっぺんに罵声吐くないっぺんに。・・・そのさ、俺が死んだら、お前らどうするんだ?一応俺の配下だから言う事聞いてくれたと思ってるんだが、あのまま理想郷に残るのか気になってさ。・・・残ってくれるなら、壊さないでほしい」

 

 

 龍一の顔は真剣なものだったが、侵二達は吹き出した。

 

 

 「・・・アホですか貴方は。そんな事しませんよ」

 

 

 「同感ぜな」

 

 

 風魔も無言で頷き、侵二が言葉を続ける。

 

 

 「私らは従ってるんじゃあないですよ。私達も場所は違えど理想郷に魅入られたんですよ。だから、言われたからとかじゃなく、居場所見つけたからいるんです。今更何言われようが残りますよ。・・・逆に滅ぼせと言われれば、貴方を殺すくらいはね」

 

 

 「そう、か」

 

 

 「・・・ってのは私は半分ですね。まあ、なんです。私個人としては、主上にはお世話になったのでね。ろくな恩返しじゃあ無いですが、私の目が黒いうちはなんとかしますよ」

 

 

 「俺もまあ、地上は知らんが地底はどーにかしといてやるぜよ」

 

 

 ほら見ろ。と知っていたかのように、風魔は杯の中の酒を一気に飲み干した。

 

 

 「だから言っただろう。好きに生きろと。残りの時間は今までのように長くはない。まあ急かされながら生きるんだな」

 

 

 「急かされるのは、散々慣れてるよ・・・っと!」

 

 

 龍一は酔いを覚ますように自分の頬を叩き、ニヤリと笑った。

 

 

 「んじゃ、今日はもうちょい飲むか。ツマミ持ってきたんだぜ」

 

 

 「お、なんですかなんですか」

 

 

 「紫の作ったチーズリゾット」

 

 

 龍一が米櫃に入れて持ってきた物に、三人は顔を暗くした。

 

 

 「いや、ちょっとそれは・・・ね?」

 

 

 「ちと酒と合わんから、なあ?」

 

 

 「上機嫌で持ってくるなそんな物。米櫃に入れるな」

 

 

 「お、なんだお前ら、知らんのか?めっちゃ料理上手くなってんだぞ」

 

 

 笑顔のままリゾットを口に入れる龍一を前に、半信半疑のまま三人はそっとリゾットを口にした。

 

 

 「「「!?」」」

 

 

 「な?」

 

 

 その後、珍しく酔った龍一は、空になった米櫃を脇に抱え、ほんの少し誇らしげに帰宅するのだった。

 

 

 

 次回へ続く。




 「だからそこ!なんで野菜炒めそんな強火でやるんです!」
 「やっちゃダメなの?」
 「強火でやったって時間短縮になんないんですよ!ああほら米がスープ吸ってますよ!スープ足して!」
 「あ、はい!・・・あ、幸夜、このスパイス借りていい?」
 「ろくに作れもしねえのにアレンジしてどうするんですか!」

 なんて事があったり無かったり。


 次回もお楽しみに。
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