真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 同時刻、紫は何をしていたか、という話です。


 ゆっくりご覧ください。


第百四話 対立

 「駄目ね」

 

 

 「どうしても?」

 

 

 永遠亭の一室。

 八雲紫が椅子に座り、紙束を手に持ち見下ろしてくる永琳に目を向ける。

 永琳は目を逸らす事なく、首を横に振る。

 

 

 「ええ。例え龍一の命に関わるとしてもね」

 

 

 ぐっ、と紫は手を強く握り締め、悔しそうに唇を噛み締める。

 そんな彼女を横目に、永琳は紙束に目を落とし、ペラペラとページをめくった。

 

 

 「わざわざ足を運んで貰って申し訳ないけど、何度も言うわ。龍一に対して不老不死の薬は提供しない。いえ、誰であろうと提供しないわ」

 

 

 「・・・どうして?」

 

 

 「死ぬ事はあらゆる生物に対して起きるの。それが誰であれ、本人の意思なくねじ曲げる事は許されない。そう思うからよ。一人生き返らせるなら、一人殺す、それぐらい必要なのよ」

 

 

 「なら、私「私が死ぬから薬を頂戴、なんて舐めた事言うと半殺しにするわよ。貴女何のためにここまでしたの?理想郷はもういいの?」それ、は・・・」

 

 

 押し黙り、俯く紫に対して、永琳は深いため息を吐いた。

 

 

 「目の前の欲のために夢を捨てるとはふざけた奴ね。龍一はなんでこんな奴選んだのかしら」

 

 

 「なら、貴女は良いの?」

 

 

 「何?」

 

 

 「龍一が、死んでもいいの?」

 

 

 きっ、と自身を睨み上げる紫の威圧感と殺気に、永琳はほんの少しだけ微笑み、それを上回る威圧感を放った。

 

 

 「ええ。構いやしないわ。・・・そんなチャチな威圧でなんとかなると思わないでくれるかしら」

 

 

 にこり、と永琳は微笑んだかと思うと、紙束を激しく机に叩きつけた。

 

 

 「龍一は人よ。分かってるの?」

 

 

 「元人間って事でしょ?そんなことわかってる」

 

 

 「違う。今も人間よ」

 

 

 「・・・どう言う意味よ」

 

 

 悔しそうに口を歪めながらも己の理解していない事は認める紫に対し、永琳はほんの少し評価を上げた。

 

 

 「根底が人間のままなのよ。だから人を殺せば罪悪感に苛まれるし、人を助ければ喜ぶ。あまりにも人間らしすぎて、そもそもその辺の神と思想が違うの。・・・龍一は不死なんて望まない。いつかは死にたいの」

 

 

 「それは・・・そうかもしれない。けど、だからって今死ぬのは」

 

 

 「ええまあ、今は死にたくないでしょうね。けどね、だからといって、再び不死身になるのは、もっと嫌なのよ」

 

 

 不死は片道切符なのよ。と永琳は首を横に振る。

 

 

 「今のところ、不老不死の薬の解毒剤はない。私はそれを作るためにこうしてるけど、いつ出来るかの保証もない。・・・私はね、そんな不確定な事象に賭けたくないし、龍一も飲んではくれるでしょうけど、望んではないでしょうね。不老不死が任意で消せないんだもの」

 

 

 「分かるの?」

 

 

 「なによ、ちょっと羨ましそうな顔して。・・・そりゃあアイツは私の一番の親友だもの。ある程度思考は読めるわよ」

 

 

 永琳は苦笑し、穏やかな表情で紫の前に座る。

 

 

 「龍一はね、貴女が理想郷を作りたいように、馬鹿らしいけど死にたい願望がある。まあ今こそ貴女と生きたいって望むでしょうけど、その先の話ね。置いてかれるのが嫌みたいなのよね」

 

 

 まあ、貴女の知った事ではないでしょうね。と永琳は少し意地悪そうに微笑んだ。

 紫は嘆息し、しょうがないわね。と笑った。

 

 

 「そうね。私だって龍一生きたまま置き去りにしたくないわ。今生き延びても結局龍一は後悔するんでしょ?それじゃあそんな薬飲ませられないってことよね。・・・確かにそうね」

 

 

 永琳は少し面食らったように瞬きをして、そして吹き出した。

 紫はそんな永琳を不思議そうに見つめると、永琳が目尻に涙を溜めながら口を開いた。

 

 

 「ふっ、ふふ・・・。ごめんなさい。正直貴女のこと、もっと癇癪起こす子供だと思ってたわ」

 

 

 「なっ・・・」

 

 

 「ああ気に障ったならごめんなさいね。そうね、なんと言えば良いのかしら。龍一がそう思うのはわかるけど、でも今すぐ別れるのは嫌。とかなんとかいって泣くと思ってたのよ。でも、そうね。貴女はそう思うところはあるんでしょうけど、龍一の触れて欲しくない、理解されることのない所には触れないでいる。・・・アイツに対して一番良い付き添い方なのよ、貴女のしてること」

 

 

 「・・・別に、私は相手の全部を理解できるとは思ってないもの。龍一だって私の思い出したくないことは私から掘り返した時だけ思い出したようにそのことについて話してくれるから。その、あんまり探るのも、嫌なのよ。龍一は今私の夢を応援してくれるなら、私も龍一の夢を応援・・・したくないけど、止めたくはないもの」

 

 

 「・・・貴女が龍一の隣にいて良かったわ。そうね、確かに龍一が貴女に好意を持つのもおかしくない。成る程ね、貴女たち似てるのね」

 

 

 「私が・・・?」

 

 

 「ええ、やりたい事見つけると馬鹿正直に走り抜けるタイプ。一見自分しか見てないように見えて、そのくせ夢の為に踏みにじった他人を忘れず、悔やみ続ける。自分が死ぬのも他人と理想のためならよしとして、他人が死を躊躇う理由になる。ただのバカよ、バカ」

 

 

 永琳は嘆息すると、小さな液体の入った小瓶を紫に突きつけた。

 

 

 「まあ、私はそんな馬鹿を見るとほっとけない馬鹿なんだけどね。不老不死はあげないけど、これならあげるわ」

 

 

 「ありがとう・・・」

 

 

 「・・・感謝の前に薬の中身聞きなさいよ「あ、えっと、中身は?」説明しましょう。即死以外の死に対して耐性のつく薬よ。とは言え龍神補正の前には効かないかもしれないけど、何もしないよりマシでしょ?要は気休めよ気休め」

 

 

 小瓶の中の液体は鈍く輝き、ゆっくりと波をたてていた。

 紫は小瓶をそっと握り締めると、永琳に頭を下げた。

 

 

 「その、ごめんなさい。ホントなら最初に見せた態度でつまみ出されても仕方なかったのに、その、ここまでしてもらって・・・」

 

 

 「あんなの気にしないで頂戴。・・・それにナメないでくれるかしら?あの程度じゃ私は怯まないわよ、脅して薬を取るなら侵二さんでも連れてきて殺しなさいよ。それでもあげないけど。なにせ不死身だから」

 

 

 永琳はニヤリと笑うと、また来なさい。と手を振った。

 紫はそんな永琳にぱっと笑顔を見せると、スキマをくぐって消えていった。

 残された永琳はそんな彼女の消えた姿を見て、何もない空間に嘆息した。

 

 

 「そりゃ、龍一もあの子を好きになるわね・・・」

 

 

 何よ最後の顔。と呟き、永琳は微笑して紙束を手に取った。

 

 

 「さて、仕事仕事」

 

 

____________________

 

 

 スキマから飛び出すように紫が現れた先では、龍一が一人座椅子に座り、本を開いていた。

 龍一は気配に気がついたのか、おかえり。と微笑んだ。

 

 

 「ただいま、龍一」

 

 

 龍一はそれ以降追求する事はなく、静かに本のページをめくった。

 紫は深呼吸をすると、龍一に声をかけた。

 

 

 「あのね、永琳に薬を貰いに行ったの」

 

 

 龍一は手を止め、紫の方を向いた。

 その顔には申し訳なさが少し浮かんでおり、それで?と呟いた。

 

 

 「不老不死の薬、貰ってこようと思ったんだけどね。でも、それじゃあダメなのは永琳から聞いて、それで・・・」

 

 

 コレを。と紫は龍一に小さな小瓶を差し出した。

 龍一はそれを受け取ると、何も言わずに飲み干した。

 

 

 「え、あ、ちょっ、飲むの!?なんの薬か言ってないのに!?」

 

 

 龍一は飲み終えると、にっと笑った。

 

 

 「お前が持ってきたんだから、そりゃ飲むよ。すまんな、色々心配かけて。俺が薬もらって不死になりゃいい話なんだがな・・・ってやめろその顔。わかったよ、今の嘘。・・・ありがとな、紫」

 

 

 「どういたしまして。龍一」

 

 

 それで、何読んでるの?と紫が龍一の手元の本を覗き込んだ。

 タイトルは分からなかったが、地獄について語っているような本だった。

 

 

 「地獄についての本。とりあえず死んでもさっさと帰ってくればなんとかなるんじゃねえかと思って、予習をな」

 

 

 「参考になるの?それ」

 

 

 「分かんねえけどとりあえずな。・・・まあ今んとこ、知らねえ空見てその上でお前が俺の顔覗き込んでるとこまでしか見えなくなってるな。変な死に方じゃねえからなんとかなる気はしてきた」

 

 

 紫は龍一の奇妙な言い回しに苦笑し、隣に座った。

 

 

 「だったら良いわね」

 

 

 ああ。と小さく龍一は呟き、重いため息を吐いた。

 そんな龍一に何か思うところがあったのか、紫は閃いたように口を開いた。

 

 

 「あ、そうだ、龍一」

 

 

 「ん?」

 

 

 「ちょっと来て欲しい所があるんだけど、行く?」

 

 

 「なんだそりゃ、デートか?」

 

 

 「半分くらい、そうなるわね」

 

 

 次回へ続く





 この世界線の永琳は、輝夜や妹紅を不老不死にした事に罪悪感を感じてはいます。が、だからといってその話を聞いた第三者にどうこう言われて謝罪するか黙っている気はさらさらありません。
 自分でやらかしたんだから罪を償うために治す薬作ってんだよ文句あんのか。と言うスタンスで生きてます。


 次回もお楽しみに。
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