「風魔」
「なんだ」
月見桜と洒落込み、冥界に咲く桜達を縁側に座り、眺めながら飲んでいた。
俺の呼び声に対してすぐに現れた風魔は、その横に座った。
「お前から私を呼ぶのは大抵惚気か真面目な話だが、どっちだ?」
「真面目な方」
「そうか、聞こう」
俺は風魔に対して器を差し出したが、風魔は珍しく受け取らなかった。
風魔なりに真面目に聞くという意思表示なんだろうが、少し寂しい。
「飲めよ、こんな桜滅多に見れねえぞ」
「いい」
「頼むよ、最後なんだから・・・あ」
はっとして口を塞ぐが、時すでに遅く。
風魔は俺から器をぶん取ると、酒をつげと言うように突き出した。
「・・・で、あの桜か」
風魔の問いに頷き、酒を注ぎながら遙か先の桜を見やる。
「・・・多分な」
「そうか。そうか、あの桜がな・・・」
どう死ぬ?と風魔が聞いてくる。なので、鮮明に見え始めた未来視を遺憾なく発揮して事のあらましを説明する。
「ここの冥界の今の管理人はあくまでも幽々子なんだが、何処から狂ったのか、あの桜、歴代の管理人の・・・魂を吸った事になってんのか。今こそ幽々子が冥界の管理人だが、あの桜はその次の管理人という立ち位置になっている。それであの桜は幽々子の魂を吸い始めてる」
「つまりなんだ、幽々子が侵食されており、しばらくすると冥界の管理人があの桜になると?」
「そうらしい。で、そうなる場合・・・アレだな、いつものメンバーだとお前しか役に立たないな」
「私がか?」
「なんかその辺はよく見えないんだが、お前以外を連れて行くと余計に大惨事になる」
「・・・ふざけた事を言うな、お前は。幻夜のような天性の才能もなく、侵二のような凶悪な能力もなく、壊夢のような強靭な肉体のない私がか?」
「その代わり莫大な知識と技量で補い、肉体は気力で補っている。・・・あれ、違う?」
「否定はしない、が。私を使うべきではないと分かる筈だが?」
いや、と俺が言葉を区切ると、風魔が面食らったように眉を顰めた。
「なんか、こう、うまく言えないんだけどな?・・・壊夢連れて行ったらな。アイツ、怪我するんだよ」
「・・・何?」
「幻夜が出ても攻撃が当たる。侵二が出ると侵二含めて他への被害が広がる。・・・なんかこう、偏った奴連れて行くと大惨事になる未来しか見えてないんだよな」
「・・・それで?」
「だから、お前が適役かなと。・・・俺が死ぬ事真っ先に見抜いた奴だし、・・・死んだ後の紫のフォローも、一番上手いかなと」
俺が最後の言葉を消えるように呟くと、風魔は苦笑し、激しく肩を叩いてきた。
それはいつものような冗談の軽い叩き方ではなく、力強い叩きだった。
「馬鹿が。最初から死ぬつもりで動いて、未来が良い方に傾くわけがないだろうが。お前が死んだ後もこの世界は続くんだ。・・・いいか、ここで冗談を言ってやろう。お前は死なずに紫に頬を叩かれる。そして私にぶん殴られる。・・・これが終われば四凶の中で一番中途半端な奴扱いしたことに対して殴らせてもらう。死ぬなよ」
「・・・わかったよ、生きるよ」
風魔に向けて苦笑し、小指を突き出す。
「・・・なんだ、女々しいな。そう言うのは紫が言うのであって、お前がするべきではないと思うがな」
「うるせえ、割と怖えんだよこの状態。縋らせてくれ」
「強いのか弱いのか分からんなお前は」
「メンタル面は弱いって言ってんだろ。今までよくもってるよ」
「そうだな。・・・で、この話は広げるのか?」
「・・・いや。他言無用にしといてくれ。あんまり長い間この話を考えたくないし、確証もない話だからな。無闇に不安を煽りたくない」
風魔は呆れたように笑い、頷いた。
「良いだろう。酒の席の戯言として受け取っておく」
「すまんな」
「まあ、貸し一つだ」
「ありがとな」
「酒の席で礼を言うな。素面で言え馬鹿」
そうして二人で乾杯をして、再度酒を煽る。
またこうして飲みたいと、珍しいことを考えてしまった。
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それから二日後。
幽々子が少し体調を崩し、妖忌と、そして何故か風魔が幽々子の面倒を見るために忙しなく動いていた。
妖忌曰く、客人に世話をさせるわけにはいかないとの事だったが、風魔に「敗者がほざくな」と言われ、渋々風魔のみ手伝いを承諾したらしい。本当に意地の悪い奴だ。
そしてその結果、紫と俺は特にすることもなく、ぼんやりと縁側でお茶を飲むはめになった。
「幽々子、大丈夫かしら」
「どうだろうな。あんまり冥界で人が調子悪くなるなんて話聞いたことねえからなあ」
「そうね。・・・そう言えば、幽々子と会った話、龍一にしたっけ」
「全然?そういや俺、お前の昔の話聞いた事ないな」
「そう?・・・えっとね、幽々子は龍一と会う前に会ってたのよ」
「ほう?」
紫はその事を想起したのか、さも懐かしげに目を閉じ、すらすらと語り始めた。
「私、初めの頃は普通に人間とか食べる妖怪で、よく襲ったりもしてたんだけどあてもなくフラフラしてた時に幽々子と会ってね?最初はいつも通り襲おうとしたんだけど、私の姿見て笑ったのよ?」
「・・・それで?」
「『ご機嫌よう』って言ったのよ。私もなんかそれで気が抜けちゃって。ちょっと喋ったらあの子外の事なんにも知らなくて、だから私が時折話しに来てたら、今みたいになったのよ。・・・だから幽々子が私にとって初めての妖怪以外の友達だったの。それ以来、きっと幽々子みたいに誰にでもこんな事があるのかなって思うようになって、その、恥ずかしいんだけど、理想郷の話に続くの・・・」
「成る程。そんなに付き合い長かったのか。・・・ま、理想郷の話は所々失敗してはいるけどさ、お前と幽々子みたいな出会いはあるだろうな」
「そう、かな」
「ああ。お前がその話を持ち込んだから、幽夜の酒場の奴らは知り合った。壊夢が帰ってきて茜と巡り合った。侵二が藍と顔を合わせた。俺がお前と会った。・・・作る前からこんな事が起きてるんだ。さぞ今から楽しくなるだろうよ」
「そう、・・・そうよね!きっとそうなるわよね!」
「ああ。きっとな」
そっか、と紫は淡く笑い、そして悲しそうな顔になった。
「・・・龍一は、そこにいてくれる?」
「・・・どうだろうな。何をしてももうじき死ぬって未来は、変わってないからな」
そうよね。と紫は呟き、俺の服の裾を掴んだ。
やはりというか、その手は震えていた。
俺はそんな紫の手を、初めて強く握り返した。
「龍、一?」
紫も予想外だったのか、目を大きく開いてこちらを見た。
その目尻には涙が溜まっていたが、俺はそれを拭い、いつも通り、やる気のない顔で笑った。
「だがな?死ぬと思うから死ぬんだとよ。風魔のやつ適当な事言うよな。・・・要は、死なないって信じてれば死なないって事だ。と言うわけでだ、俺は死なない」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「約束してくれる?」
「何すりゃいい?」
「指切り」
「よし来た」
紫が突き出した細く白い子指に、俺の子指を絡ませて指切りをする。
「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら・・・どうする?」
「えっとね・・・侵二さんと幻夜さんと壊夢さんと風魔さんが一発ずつなーぐる!指切った!」
「壊夢で死ぬんだよなあそれ」
「だから死なないんでしょ?」
「あー、そうだな。んじゃ死ななかったらどうする?」
「んー・・・あ!」
「ん?」
「龍一が昔住んでた場所、知りたいかな」
「いや別にいいけど、人柄が壊滅的に悪いぞ?」
「そんなに?」
「石器時代のがよっぽどいいな」
紫は目を点にしていたが、やがて気を取り直したのか首を横に振った。
「でも、やっぱり気になる」
「・・・分かったよ。ただその時は一人でうろつくなよ」
「それってデート?」
「最近それしか言わねえな。そん時はそうだな」
それも約束だな。と俺は笑い、紫と指を絡ませた。
次回に続く
この話の中で風魔は四凶で一番中途半端だと述べていますが、一対一で戦闘した場合、風魔は幻夜に、幻夜は侵二に、侵二は壊夢に、壊夢は風魔に対して有利です。
次回もお楽しみに。