真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 別段特殊な力も要らず、ただ一撃を放つのみ。


 ゆっくりご覧ください。


第百八話 会心の一撃

 

 龍一の言っていたことはこれか。と風魔は自嘲ぎみに笑い、目の前に迫る花弁を断つ。

 切り裂いた花弁は、ほとんど自身の剣速と同じ速度で迫ってきていた。

 それはまるで自身の放った攻撃がそのまま返ってきているようで、自身の切り札以外では、妖忌や紫に飛ぶ分を防ぐ事は中々に難しかった。

 切り札を使うたびに、爆音が耳を襲い、内臓が骨に押しやられ、骨が軋む。

 だがそれでもある程度の負荷ならなんとも思わない領域には達していたので、まだ暴れる事が出来ていた。

 

 

 「確かに、侵二や壊夢ならどうなっていたかわからんな。つまるところ自身の最高火力を直接放てば最高火力が帰ってくるのだからな」

 

 

 成る程、龍一の考えは正しいなと風魔は思った。

 もし壊夢ならば、拳を放つたびにそれと同じ拳が飛んでくるだろう。

 侵二がなんでも喰い荒らす羽を幹に突き立てれば、同じく向こうも全てを喰い荒らそうと迫るだろう。

 幻夜がどれだけ幻術を使おうが、それを無い物にされてしまい、いともたやすく殺すだろう。

 よって、特に特殊な技もなく、ただ刀を振り下ろすだけの、自身に力をぶち当てる事で切り札を使う自分にとっては、西行妖は都合が良い相手だった。

 

 

 目を閉じ、自身の周りに小さく、しかし強烈な風を纏い、移動する。

 そして刀を振れば、鈍い音と共に紫と妖忌の前に迫る花弁は消え失せた。

 

 

 「無事か」

 

 

 「・・・ええ、ひやっとしたけど、ありがとう」

 

 

 「助成、感謝致します・・・が、貴方こそ、それは大丈夫なのですか?」

 

 

 妖忌に指を指された所に、風魔が手を当てる。

 赤い液体が風魔の手に当たり、それは口から零れ出ていた。

 鈍い音はこれか、と風魔は自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

 「ん・・・大丈夫だ。ただの自爆技の副作用だ。それより警戒しろ、とんでもない一撃が来る」

 

 

 風魔が龍一を睨むと、龍一は目の前に数百にも連なる防壁をぎっちりと一箇所に収束させ、未だに薄くはあるものの、拳程度のサイズに防壁が展開されていた。

 龍一が足を一歩突き出し、右拳を構える。

 西行妖もそれから身を守るように、再び枝と根を壁のように構える。

 

 

 龍一が地面を蹴る。

 それを追うように流線型の物体も龍一の前に飛び出し、レーザーで円を描いた。

 円の先の風景は、ほぼ無防備な西行妖の幹が晒されていた。

 龍一は今まで使っていなかった転送を自身にかけて行った。

 

 

 龍一と西行妖の間には、何もなくなった。

 

 

 ____________________

 

 

 現状、龍一が西行妖の保有する能力に関して、大半を未来視により理解していた。

 一つ、西行妖の行う攻撃は全てが狙った対象に対してのみではあるが、即死である。

 二つ、西行妖に直接危害を与える系統の能力、攻撃は、全く同じ出力で返される。

 三つ、西行妖が危険だと指定した能力は、殺される。つまり、無効化される。

 以上の点を見れば、一見何をしてこようがカウンターで返し、即死攻撃は無効化され、向こうの攻撃は全て即死だと言う事になる。

 ただし、それぞれ欠点はあった。

 

 

 龍一が今まで転送を使わずに戦闘をしていたのは、その理由の一つ。

 西行妖は視認して自己に危機を与えると判断した危険技しか殺せない事。

 事実西行妖は龍一の隠していた転送が何であるかを理解出来ず、転送に対して対処が遅れた。

 防壁を大量に重複させていたのも、それ自体の攻撃力は皆無なため。

 西行妖からすれば、ただ盾を必死に一列に並べていたようにしか見えなかった。いざとなれば防壁を無効化してやろうと思っていた。

 故に、

 

 

 「くったばれえぇ!!」

 

 

 防壁を押し込む拳は西行妖に当たった。

 防壁と拳、同時に二つの攻撃は無効化出来なかったのだ。

 そのため、龍一の血と銃弾の破壊力の二つを織り交ぜた弾丸は防げず。風魔と妖忌の技量という能力外のものは消せず。紫の能力も龍一が優先されたため無効化出来ず。

 龍一に防壁を圧縮した鈍器で殴られるほかなかった。

 

 

 「折れろおおおぉ!!」

 

 

 枝を防ぎ切る硬度の防壁がねじ込まれたため、西行妖の幹に突き刺さり、そして龍一の拳によって放たれた破壊力以外は十分の素早い一撃により貫かれた。

 相手を殺すために防壁を消すか、攻撃を止めるために拳を無い物にするか。

 片方さえ殺せば致死に至る筈がなかったのに、どちらを殺すか数瞬迷った西行妖の、初めて戦闘を行なったが故の判断力の遅さが敗因となった。

 そのまま龍一は拳を横に引き、西行妖の根本を半分ほど砕き、小さな魂のようなものを抜き取った。

 

 

 西行妖は最後の抵抗と言わんばかりに、龍一へと防壁と同出力の枝を飛ばす。

 しかし、防壁の硬度だけ、拳の速度だけのどちらかのみを跳ね返した枝は、最早龍一を傷つけるには不十分、ましてやレーザーの壁を潜り抜けるのは不可能だった。

 

 

 龍一は嘆息すると、風魔達に振り返り。

 

 

 「勝ったぞ」

 

 

 親指を立てた。

 龍一の姿を見て、紫は安堵の溜息を吐いた。

 そして、自身の上からひらひらと落ちてくる、一枚の美しい桜の花弁を見上げた。

 

 

 

 

 

 あるはずが無い桜の花弁を。

 

 

 

 

 

 「・・・しまっ」

 

 

 花弁は当然形を変え、道連れで紫の心臓を刺し貫かんと言わんばかりの鋭利な刃へと変貌し、加速する。

 風魔が対応しようとするが、折れかけの西行寺が再度根を伸ばす。

 既に自身の掌の上に落ちてきそうなほどの距離にいたため、妖忌はともかく、当然紫が反応するのは難しく。風魔は桜を刈るために龍一の背後へ動き。

 唯一自由に動いた龍一の左腕だけがそれを庇った。

 

 

 「いっ・・・」

 

 

 「龍一!?」

 

 

 左手甲に深々と食い込んだ花弁は、しかしそれだけに留まらず。

 誰の心臓でも構わないのか、心臓めがけて左腕の中を貫き、心臓に迫っていた。

 咄嗟に龍一の左肘を抑える紫だったが、抵抗虚しく皮膚の下を泳ぐように花弁は左肩まで迫る。

 龍一は脂汗を流しながら、しかしニヤリと笑う。そして突然紫を突き飛ばし、右手人差し指を上から下へ向けた。

 直後、上空から現れた弾丸が速度を保ったまま龍一の左肩を貫き、左肩を胴から吹き飛ばした。

 左腕が飛び、それを跡形もなく砕くように弾丸が貫き暴れ回る。

 やがて弾丸の先端に貫いた桜の花弁をつけた弾丸は、花弁を下に地面へと、穴だらけの左腕と共に落ちた。

 そして風魔の斬撃により、完全に西行妖は沈黙した。

 

 

 「バカめ、弾丸を殺せばただの血だったのにな。ど素人」

 

 

 ぐらり、と龍一が膝をつき、左肩から滴り落ちる血が地面を紅く染める。

 西行妖の攻撃は基本即死であり、紫を狙った一撃だったので、龍一がまだ生きていた。それはほぼ偶然に近かった。

 

 

 そのまま仰向けに倒れそうな龍一を、紫はそっと抱き抱え、しかし顔は血の気を失い、呆然としていた。

 龍一が視た未来と同じ光景だった。

 

 

 「・・・龍、一」

 

 

 「・・・あ?左の方持つなよ、血で汚れる」

 

 

 「そんなの、今はどうだって・・・」

 

 

 「なんだよ、それ洗うの誰だと思ってんだ」

 

 

 いいじゃない。と言おうとした紫は、龍一の呟いた言葉にはっとして笑った。

 

 

 「・・・そうね。貴方よね」

 

 

 「だろ?だからやめてくれ、流石にこの量の血は困る」

 

 

 龍一が苦笑していると、風魔が龍一の顔を覗き込んだ。

 

 

 「斬ったぞ」

 

 

 「ああご苦労。怪我は?」

 

 

 「肋骨が二本」

 

 

 「お互い大怪我だな」

 

 

 「何、貴様には負ける」

 

 

 風魔が呆れたように笑い、そして少しだけ真面目な顔に戻る。

 

 

 「どうだ、気分は」

 

 

 「最悪だな。今にも気を失いそうで、頭が回らずろくに目も見えん。だがまだ死ねない。死なない。違うか?」

 

 

 「それだけ言葉をすらすらと吐けるようなら大丈夫そうだな」

 

 

 「眠いけどな。・・・あ、そうだ。妖忌」

 

 

 「・・・は」

 

 

 「神妙そうに答えるのやめろ。さっき西行妖を砕いた時にな。見覚えがあるの掴んで、外に出しといたんだよ。・・・ちょっとあの部屋見てきた方がいいんじゃねえかな」

 

 

 「それ、は・・・」

 

 

 「まあここで言ってもあれだし、見てこいよ。ほら、紫も。・・・ちょっと俺は気絶する。死ぬんじゃないからな?気絶だからな?その辺の土に埋めるなよ?遺骨を海に撒くなよ?」

 

 

 「埋めるわけない・・・って、聞いてないわよね」

 

 

 埋めるわけないでしょ。ともう一度紫は呟き、気を失い、眠っている龍一に笑った。

 

 

 

 次回へ続く

 




 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。
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