真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 そろそろ全権と全責任を持つ神様の話も終わりになります。


 ゆっくりご覧下さい。


第百十話 理想郷

 「はい、紫の分ね」

 

 

 「ありがと。・・・その様子だと全然不便そうじゃないわね」

 

 

 「そうねえ。体もぜーんぜん軽くなったしね」

 

 

 幽々子の出した湯呑みを、紫は受け取って口をつける。

 龍一が左腕を吹き飛ばして倒れている間に、幽々子は復活。と言うよりは、魂が肉体の上に戻っていた。

 本来ならば西行妖に吸われていたはずの魂は、龍一が西行妖を引き裂いたときに解放されたようだった。

 

 

 「私にとっても龍一さんは恩人になったわねえ」

 

 

 「そうね」

 

 

 「お似合いだと思うわよ?」

 

 

 「ありがと」

 

 

 幽々子は期待通りの反応が来なかった事に少し瞠目し、しかし話を変えるように、ところで。と口を開いた。

 

 

 「あれ、いつ終わるのかしらねえ」

 

 

 「・・・木刀が折れるまでだそうよ。そろそろじゃないかしら」

 

 

 二人の目の前では、話題の人物龍一と、風魔が木刀で斬り合っていた。

 しかしただ斬り合うだけでなく、隙さえあればぶん殴り、投げ飛ばし、蹴り上げるような、ほとんど喧嘩状態で勝負していた。

 

 

 「妖忌も混ざる?」

 

 

 「幽々子様。それは冗談が過ぎます。確かに剣術のみなら立ち会えはしますが、アレは無理です」

 

 

 「それもそうね。流石に妖忌があれに参戦できたら私も驚くわ」

 

 龍一の膝蹴りが風魔の鳩尾に刺さり、風魔は怯んだ頭をそのまま龍一の頭にぶつける。

 互いに後方に飛び退がり、第二ラウンドと言わんばかりに大振りの一撃を互いに振り下ろす。

 そして当然、二本の木刀はへし折れた。

 

 

 「げ」

 

 

 「む」

 

 

 数瞬のうちにアイコンタクトが風魔と龍一の間で行われ、再度拳を構えて互いに殴りかかる。

 拳が互いの顔を捉え、ぶつかる直前。彼等は謎の裂け目に吸い込まれ、紫と幽々子の横に落ちた。

 

 

 「おや」

 

 

 「おっと」

 

 

 殴り合いが中断され、紫が嘆息して首を横に振る。

 

 

 「なんであそこで『やっぱ殴るわ』『私もだ』で止まらず殴ろうとするのよ。折れたら終わりじゃなかったの?」

 

 

 「いや、『殴るぞ』『来いよ風魔』だからな今回は」

 

 

 「逆でもなんでもいいのよ。なら尚更やめなさいよ。大体まだ左手ないのに何してるの?風魔さんも伊織に言いつけるわよ?」

 

 

 「悪かった」

 

 

 「はい。それじゃあお茶にしましょ。二人の分淹れてくるわね」

 

 

 「私もおかわり」

 

 

 「分かったわよ、妖忌は?」

 

 

 「私はまだあるので結構です」

 

 

 「はーい」

 

 

 お茶を淹れるために席を離れる紫。

 そんな彼女が遠くに行くのを確認してか、風魔が小声で囁いた。

 

 

 「貴様の扱いが上手くなってないか?」

 

 

 「知るか。急に何言い始めんだお前は」

 

 

 「いや何、揃って逞しくなったなと」

 

 

 「俺は別になんだがな。強いて言えば俺より上を見たせいか」

 

 

 「・・・そう言えばど直球に鏡を前に未来視を発動させろと言った奴がいたらしいが、そいつか?」

 

 

 「そうだな。俺より一回り上の権限持ちだとよ」

 

 

 「冗談にしては笑えないな。そんな吐き気のする奴がいるのか」

 

 

 「更に上もいるとか」

 

 

 「・・・クソか?」

 

 

 風魔が如何にも不思議そうに罵声を吐いていると、紫が湯呑みを置いてくれた。

 

 

 「何がクソなの?」

 

 

 「こっちの話。上には上がいるんだなあって事をな」

 

 

 「龍一より?」

 

 

 「・・・さてはちょっと聞いてたなお前。そうさ、俺より上がいるんだとよ」

 

 

 「どんな人?」

 

 

 「語尾が『じゃ』の特徴のない、それこそ弱体化した俺みたいな奴」

 

 

 「ただの歳とった人間だなそれは」

 

 

 「そうね」

 

 

 「ど辛辣だなお前ら。多分上で笑われてるぞ」

 

 

 「笑っているなら別にいいだろう。・・・さて、妖忌。私は今さっきの消化不良で非常に誰かを倒したい。前のように石段前で付き合え」

 

 

 「・・・幽々子様、構いませんか?」

 

 

 「いいじゃない。私も見に行こうかしら」

 

 

 「従者が倒される所をか?」

 

 

 「あら、それはどうかしら」

 

 

 幽々子と風魔の間に異様な空気が走り、幽々子は微笑んだまま、風魔は口元が吊り上がったまま立ち上がった。

 

 

 「行くわよ妖忌。私も混ざるわ。見てたら久しぶりに動きたくなっちゃったわ」

 

 

 「・・・は?」

 

 

 「風魔さん、私は弾幕しか出来ないけれど、いいかしら?」

 

 

 「それは楽しみだ。弾幕もそこの二人の相手をするのにも飽きたのでな。二対一とはまあなんとも、負けそうではないか」

 

 

 「・・・しかし、風魔殿「桜を刈ってやっただろう」・・・意地の悪い人ですね。幽々子様も今回限りですからね」

 

 

 妖忌は嘆息し、しかし立ち上がった。

 

 

 「・・・それでこそだ。行くぞ」

 

 

 龍一と紫を置いて、三人は歩いて行ってしまった。

 龍一はそんな彼女らを見送り、そして苦笑した。

 

 

 「幽々子、元気そうだな」

 

 

 「・・・ええ」

 

 

 「そういやさ。俺、どれくらい寝てたんだ?」

 

 

 「丸一日よ」

 

 

 「マジかあ。啖呵切った割には死にかけてんだよなあ」

 

 

 恥ずかしそうに頭を掻く龍一に、紫は小指を突き出した。

 

 

 「でも、生きてるでしょ?」

 

 

 「・・・まあな?そりゃ死にたくなかったからな。誰がこんな幸せな状態で死ぬかよ」

 

 

 「ふふ、何よそれ」

 

 

 「言葉通りの意味だな。肩の荷も余計に背負ってただけだったからなあ。・・・程のいい抜け殻になっちまったな。前まではやりたい事が欠けてたのに、次はすべき事が欠けてる」

 

 

 「いい休憩になってるんじゃないの?」

 

 

 「だな。死ぬ前の約束はともかく、これからどうするかな」

 

 

 「そうね・・・」

 

 

 バン、と石段の方角へと雷が落ちる。

 更にその場所にのみ豪雨が吹き荒れ、紫と龍一は顔を合わせて苦笑した。

 そして、ふとしたように龍一が口を開いた。

 

 

 「・・・あ、そうだ。紫」

 

 

 「何?」

 

 

 「ちょっと前に話した、理想郷の名前の話なんだが」

 

 

 「うん」

 

 

 「幻想郷っての、どうだ?」

 

 

 「幻想郷?」

 

 

 「ああ、その、なんというか、特に意味はないんだけどさ。似合うかなって」

 

 

 「・・・悪くないわね」

 

 

 「なら良かった。・・・紫?」

 

 

 少し照れ臭そうに微笑む龍一に、紫がそっと肩を寄せる。

 龍一が驚いたように紫に顔を向けると、少ししおらしく、恥ずかしそうに口を開いた。

 

 

 「私の事、好き?」

 

 

 龍一はほんの少し瞠目し、そして照れる動作もなくにこりと笑った。

 

 

 「好きだよ」

 

 

 この一言を言うために、何年馬鹿なことしてたんだろうな、と龍一は心の中で苦笑する。

 紫はその言葉を受けて固まり、そして嬉しそうに微笑み、目から一筋の涙を流した。

 

 

 「いや、悪かったからさ・・・泣くなよ」

 

 

 「悲しくて泣いてるんじゃないからいいでしょ?」

 

 

 「そうか。どっちにしろ、えらく待たせたな」

 

 

 「そうよ。ちゃんと責任取ってよね」

 

 

 「どこまで?」

 

 

 「えっ、どっ、何処まで・・・?」

 

 

 恥ずかしさと真面目な思考が混ざり合い、複雑な顔をしてぶつぶつと呟く紫。

 そんな彼女を愛おしそうに龍一は眺め、紫の方を右手で引き、より密着するように肩を合わせた。

 紫は驚いたように龍一を見るが、龍一の顔を見た途端、再びにこりと微笑み、龍一の肩に頭を乗せた。

 

 

 「龍一」

 

 

 「ん?」

 

 

 「今までありがとう。・・・その、これからもよろしく、ね?」

 

 

 「・・・こちらこそ。今までありがとう。これからもよろしくな」

 

 

 ____________________

 

 

 それから一時間程が過ぎると、所々煤に塗れてはいるものの、ほぼ無傷の風魔達が石段を登り、龍一達のいる縁側へと帰ってきた。

 

 

 「強かったわねえ風魔さん」

 

 

 「あれほどの剣劇を行いながら、あれほどの弾幕を張るとは。やはり私はまだまだのようですね」

 

 

 「何、中々骨のある勝負だった。しかし幽々子がそこまで弾幕が上手いとはな」

 

 

 「昔に紫から教えて貰ってたもの。私も好きよ、これ」

 

 

 「そうか。・・・む」

 

 

 和気藹々と話す風魔達。

 しかし風魔が龍一に声をかけようとして、足を止めた。

 

 

 「あら?どうしたの?」

 

 

 「何かありましたか?・・・おや、これは。幽々子様、あそこです」

 

 

 不思議そうに同じく足を止める二人だったが、妖忌も気がついたのか微笑んだ。

 

 

 「なあに?・・・あらあら。仲良しねえ」

 

 

 風魔が足を止めた前には、紫が龍一の肩に頭を乗せ、手を繋ぎあったまま、静かに微笑みながら眠る二人の姿があった。

 深く眠りについているのか、起きる様子は少しもなかった。

 

 「・・・起こすのも気の毒だ。離れておくか」

 

 

 「なら奥の部屋が空いておりますので、そちらにしましょう」

 

 

 「・・・つついてもいいかしら」

 

 

 「幽々子様。駄目ですよ」

 

 

 「分かってるわよお」

 

 

 風魔達が龍一に背を向けるのを確認し、幽々子が振り返る。

 すると、紫が片目を開き、にこりと笑っていた。

 二人は互いに口に人差し指を立てると、面白くなったのか、幽々子はクスクスと微笑んだ。

 

 

 

 次回へ続く




 これにて、この世界に対しての全権と全責任を持つ龍神の話はおしまいです。
 これからは弱く、人間くさい龍神の話となります。


 次回もお楽しみに。
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