真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 前回と間が空き過ぎに加え、いつにも増しての低クオリティです。
 
 ゆっくりご覧ください。


第百十一話 お久しぶり

 

 

 「でね、その時龍一が・・・」

 

 

 「紫さん」

 

 

 「あ、なあに?」

 

 

 「なんでまた急に俺を話し相手にしてるんです?」

 

 

 霧に包まれたロンドンの街の中、幸夜自身がそうツッコむ。

 ツッコまれた相手、紫は申し訳なさそうにスキマから顔を覗かせ、微笑んだ。

 

 

 「その、また追い払われちゃって」

 

 

 「でしょうね」

 

 

 やれやれと幸夜は嘆息し、まあ仕方ないかもしれないですね、と言った。

 

 

 「あの先生が正直になったんですからね。聞くのが片手間になりますけどどうぞ」

 

 

 「・・・いいの?」

 

 

 「ま、気持ちも分からなくはないですからね」

 

 

 ポケットから指抜きを取り出し、右手人差し指に嵌め込んだ。

 指抜きからは細い糸が伸びており、街灯に照らされ、時折輝いていた。

 

 

 「んで、今はどうしてるんです?」

 

 

 「なんと言ったらいいのかしら。・・・そうね、二人で人里から離れた所で過ごしてるわよ。龍一もすぐに周りに打ち解けたし、ある程度慕われてるみたいよ」

 

 

 「そりゃ何よりです。・・・あ、ちょい耳塞いどいて下さいね」

 

 

 くい、と幸夜が指抜きから伸びていた細い糸を引いた。

 直後背後の建築物は爆散し、ある程度の爆風と轟音が紫と幸夜を襲った。

 

 

 「・・・今のは?」

 

 

 耳を押さえ、やや控えめに紫が幸夜に問う。

 幸夜は足早に歩きながら紫に返答する。

 

 

 「アリスやオルゴイさんの所に押し掛けてくる奴らへの仕返しですよ。それにこうするとヘイト管理にもなりますしね」

 

 

 幸夜は背後の人影に視認することなくナイフを投擲する。

 何かに刺さった音と呻き声がすると、幸夜は駆け出した。

 そんな幸夜の横を追走するように、紫は幸夜以外には見えないように空を飛んで追いかける。

 

 

 「こっちに逃げる?走らなくて済むわよ?」

 

 

 「いや、あんまり追われてなさそうなのでいいです。それに今からが楽しいんですよ」

 

 

 幸夜のコートの右袖からアンカーが射出され、ロンドンの住宅街の屋根に引っかかる。

 幸夜は右腕でアンカーに繋がるワイヤーを巻き取りながら、灰色の霧に包まれる街を見下ろした。

 

 

 「そう言えば紫さん、この後も暇ですか?」

 

 

 「え?ええ。今日は特に何もないわよ」

 

 

 「なら折角なので、このまま俺の部屋に来ます?コーヒー御馳走しますよ」

 

 

 「・・・そうね、お願いしようかしら」

 

 

 「仰せのままに」

 

 

 幸夜は家の屋根に辿り着くと更に跳躍し、夜空に紙片をばら撒く。

 それらは規則正しく真っ直ぐ飛ぶと、幸夜の目の前に、まるで道を作るように空に浮いたまま固まった。

 

 

 「・・・また上手くなった?」

 

 

 「触れたらなんでも出来るようになってきましたね。なんもないとこからは流石に無理ですけど」

 

 

 おかげで体が重いのなんのって、と幸夜は苦笑し、夜空へ駆けて消えていった。

 

 

 

 ____________________

 

 

 「はい、コーヒーですけどどうぞ」

 

 

 「ありがと。・・・なんか、随分本が多いのね」

 

 

 「確かに増えたかもですね」

 

 

 三つ置かれたコーヒーカップのうち一つに口をつけ、一息ついた幸夜が軽く息を吐く。

 紫もきょろきょろと部屋を見回し、机の上に積まれた本を一冊開き、そして目を見開いた。

 

 

 「これ、確か龍一の・・・」

 

 

 「そうですね、銃のパーツの図説です。まだそんなに出回ってないので、先生やら親父やら経由してます。未来の本もあるので持ち出し禁止にしといてくださいね」

 

 

 「へえ・・・こっちは?」

 

 

 「そっちは魔道書です。血液を使う種類しかないんで偏ってますけどね。それはここの魔法使いのパチュリーから借りてます」

 

 

 「へえ・・・」

 

 

 物珍しげに部屋を見回し、紫もコーヒーに口をつけた。

 

 

 「・・・ま、それはともかく。最近どうです?」

 

 

 「そうね、龍一はよく笑うようになったし、よく泣くようにもなったし、よく愚痴も言うようになったわね。人間だった頃の話とかも、時々するようになったしね。私はこの前龍一の故郷に行ったのよ。まだ龍一が生まれるより、およそ百年も前の場所だったけれどね」

 

 

 「ああ、見たんですね。どうでした?」

 

 

 「龍一の言う通り、私の作った幻想郷・・・あ、理想郷の事ね?幻想郷とはかけ離れてたわ。私が作ろうと思い立った時代より、人がせわしなくて、妖怪なんて出る幕もなくて。・・・とてもではないけれど、龍一がつまらないって言うのも少し納得しちゃったの」

 

 

 紫は嘆息し、続けた。

 

 

 「・・・あの場所を見てからなら、私も理想郷なんて無理じゃないかって諦めてたかもしれない。龍一が最初に無理だって否定したのも、ようやく納得が行った」

 

 

 「ま、地獄っちゃ地獄ですからね。簡単に指一つで人が死ぬ時代になりましたから」

 

 

 「それで・・・最近思ったことがあってね?」

 

 

 「なんです?」

 

 

 「私の理想郷の中では、きっとあんな事は起きない。・・・けど、幻想郷に連れてこれる人って限られてるじゃない?・・・不平等かなって」

 

 

 「ああ成る程。理想郷に全員連れてこないと不平等じゃないかと。考えるまでもなく馬鹿ですね」

 

 

 「結構真面目に聞いてるのよ?」

 

 

 「長く生きてない俺だってわかりますよこんな事。紫さんは神様ですか?」

 

 

 コン、と幸夜はコーヒーカップを机に置き、紫の目をやけに冷たい目で見据える。

 紫は息を呑み、いいえ、と呟いた。

 それに幸夜は頷くと、父親の面影がはっきりと浮かぶ笑顔を口元に刻んだ。

 

 

 「なら質問ですけど。世の神様が一度でも過去未来現代、全ての人間を助けたことがあります?ああいや聞くまでもなかったですね。ありません」

 

 

 先生ですら救えない。と両手を開き、刻まれた笑みを更に吊り上げる。

 

 

 「それを?神ですらない妖怪の貴女が成し遂げる?・・・寝言はいけませんよ紫さん。そんなに手で掬えるものは多くないんですよ」

 

 

 俺だってそうです。と幸夜は首を横に振る。

 

 

 「人は誰しも救える量に限界がきっとあるんです。手元の人を救わずに、はるか先まで見るのは、まあ賢いとは言えませんよね。きっと先生も紫さんもそんなに掬えない人なんじゃないです?もうそれは正直、掬える人に掬って貰った方がいいですよ。んでいつか全てを救えた人が手伝ってくれって言われた時、幻想郷に全ての人を連れてくる。・・・それでいいんじゃないです?」

 

 

 俺は十人くらいが限界ですね。と幸夜は刻まれたような笑みを消し、弱々しく笑う。

 紫は暫し目を閉じてていたが、やがて頷き、笑った。

 

 

 「そうね。私が考えるには役不足な話ね」

 

 

 「そう言う事です。理想郷は理想から程遠い人間が夢見てこそ理想郷になるんですから。完成させたからそこで完結なんです。あんまりその先気にしちゃダメですよ。理想郷が消えることになりますから」

 

 

 幸夜はカップに残ったコーヒーを飲み干し、再び息を吐いた。

 既に残った一つのコーヒーカップからは湯気が消えていた。

 

 

 「うん・・・そうね。龍一の性格が移っちゃったのかもね」

 

 

 「そうかもしれないですね」

 

 

 「まあ、こんな事年下に教えられてどうするんだって感じだけどね。ごめんね、変な時間取らせて」

 

 

 スウ、とスキマを開き、紫はその中へと体を入れた。

 

 

 「いえいえ、俺も世話になってますからね。いつでも歓迎しますよ」

 

 

 紫が完全にスキマへと入り込み、幸夜以外の姿が見られなくなった頃。

 へっ。と幸夜は笑い、一つ余っていたコーヒーカップのフチを軽く指で弾いた。

 するとコーヒーから再び湯気が立ち昇り、一人でに浮き上がった。

 

 

 「いつまで姿消してるんです。もう帰られましたよ」

 

 

 「・・・お前、親父に似てきたな」

 

 

 その声に反応したかのように、ゆっくりとコーヒーカップを持ち上げていた存在の姿が浮かび上がる。

 浮かび上がった存在はコーヒーを啜ると、やや嬉しそうに口の端を吊り上げていた。

 

 

 「概ね先生の予想通りの悩みようでしたね。なんで先生もですけどああいう思想になるんです?」

 

 

 「馬鹿だからだな」

 

 

 「なるほど」

 

 

 「少なくとも侵二達はそうは考えねえだろうしな」

 

 

 「先生はまだ全部救えると思ってるんですか?」

 

 

 ああ?と龍一は苦笑し、首を横に振った。

 

 

 「全く思ってない。俺が救えるのは紫と、紫が大事にするもんだけだな」

 

 

 「前まで全然だったのに言うようになりましたね」

 

 

 「ほっとけ」

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。
 
 次回もお楽しみに。
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