真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 ゆっくりご覧ください。


第百十三話 刺客

 

 満月が三百ほど顔を出した頃、幸夜は武装するように言われ、オルゴイに呼び出されていた。

 幸夜がオルゴイの部屋へ向かう間にも既に、外で騒ぎが起こっているのをなんとなしに感じていた。

 オルゴイの部屋に到着すると、彼は愉快そうに外を眺めながら、幸夜に声をかけた。

 

 

 「さて。・・・幸夜。お前が呼ばれた理由は分かるな?」

 

 

 「・・・あの例のレミリアお嬢様が視たっていう未来の話でしょう?外ほったらかしていっていいんです?」

 

 

 ガシガシと頭を掻き、仕え始めた頃よりも素がはっきりと出た幸夜にオルゴイは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 「何。行く、ではない。外の彼らがそうなのだ。迎え撃て」

 

 

 「ああ・・・了解。これ終わったら有給取ってアリスのとこ行きますからね」

 

 

 二つ返事で了承し、幸夜はオルゴイの横を走り抜け、窓ガラスを自身が通る瞬間のみ砂に変換し、再度ガラスへと戻して外へ飛び降りた。

 

 

 遅れてきた風圧で髪を揺らしながら、オルゴイはニヤリと口角を上げた。

 

 

 「・・・やるではないか」

 

 

 当の幸夜が飛び降りた先では、既に何十人かの人間を葬り去ったのか軽く息の上がった美鈴が拳を構えていた。

 周囲には頭部を潰された、または頭から地面に埋まり、動かない人間が数十体は転がり、奥には美鈴の勢いに怯んだのか更に数十人が後退りをしていた。

 

 

 「悪い、遅れた。調子はどうだ?」

 

 

 美鈴は頬についた血を拭うと、闘気を放ったまま、にっこりと笑った。

 

 

 「近接は倒しましたが、やっぱり遠距離は苦手です。・・・後、奥の子が少し厄介で。この通りちょっとやられちゃいました」

 

 

 美鈴が数カ所の刺し傷が見える右腕を幸夜に見せると、幸夜は少し顔を顰め、そしてニヤリと笑った。

 

 

 「・・・交代だ、美鈴。いくら即再生するからって言ってもあれだからな」

 

 

 「良いんですか?」

 

 

 「コレは俺の客らしいし、どうせ遠距離しか残ってねえんだ。楽しくもない泥沼合戦も嫌だろ?あとは任せとけよ。それとも俺じゃ不足か?」

 

 

 幸夜の軽口に、美鈴は苦笑した。

 

 

 「まさか。有り余る援軍です、ありがとうございます。有り難く先に上がりますね。・・・それと、幸夜さん。あの女の子、何か特殊な能力を使うようですので、お気をつけて」

 

 

 美鈴が示す先には、明らかに目立った銀髪の少女がいた。

 

 

 「おうよ。・・・絶対あいつなんだよなあ」

 

 

 さて、と幸夜は呟くと、目の前に立つ数十人の男女に貴族式の礼をした。

 

 

 「挨拶が遅れ申し訳ございません。・・・ご機嫌よう、皆様方。ただ今より門番に変わりまして、ただの使用人の私がお相手致します。・・・で、何の入り用だ?」

 

 

 幸夜が目立った武器を持っていないと踏んだのか、拳銃を構えた男が幸夜に銃口を突きつけ、ニヤリと笑った。

 

 

 「お前もここがどこか知っていて仕えているなら、理由は決まっているだろう?」

 

 

 「まあそうだが。・・・後悔すんなよ」

 

 

 ガチャリ、と幸夜は灰のコートの両袖からライトマシンガンを取り出した。

 そして地面を蹴り、茂みに飛び込んだ。

 男は幸夜が銃を構える頃には拳銃を放っていたが、コートを掠めるに留まった。

 

 

 「まあまあってとこか。しかしほんとに世間一般的に拳銃が普及するんだな。恐ろしい世の中になったもんだ」

 

 

 幸夜は木を背にして弾丸を塞ぎながら、右人差し指を噛み、血を滲ませた。

 それをコートの内側にぶら下げていたガラス瓶に流し込み、血の入った瓶に栓をした。

 

 

 「そらよ!」

 

 

 木から飛び出し、瓶を男達の上に投げる。咄嗟に第二射を男達は放とうとするが、それより早く幸夜が瓶を左手のマシンガンで打ち抜いた。瓶は爆散し、男達の上には幸夜の血が飛び散った。

 そしてそれらは弾丸へと変形し、たっぷりと幸夜の血に含まれる水銀が変質した。

 男達の上空から放たれる水銀製の弾丸の嵐。なす術なく肉の塊と化し、奇跡的に掠めるだけで済んだとしても、毒が体を容赦なく壊す。

 

 

 「おのれっ!」

 

 

 男達の更に背後にいた者は、一斉に何かの術式を唱えて火炎弾や電撃弾を飛び出した幸夜に打ち出した。

 しかし幸夜は左手のマシンガンを投げ捨てると、一発の電撃弾を掴んだ。

 ジュウ、と幸夜の掌が焼ける音と焦げたような匂いがするが、すぐにそれはかき消された。

 

 

 「返品だ。持って帰ってくれ」

 

 

 幸夜により投げ返された電撃弾は打ち出された時よりも十倍程の大きさへと膨れ上がり、他の火炎弾や打ち出した者達を巻き込んで、地面に着弾した。

 

 

 「さて、と」

 

 

 投球フォームのまま固まった幸夜は、その硬直を狙っていたかのように眉間に放たれたナイフを焼け焦げた左手の甲で受けると、血のついたナイフを引き抜いた。

 

 

 「・・・やっぱりお前だよなあ」

 

 

 幸夜の目の前には、美鈴が指を指していたのと同じ、透き通るような銀髪に、ルビーのような赤い瞳の十歳ほどの少女がいた。

 身なりはお世辞にもまともとは言えず、ボロを着ているようだった。

 

 

 少女は無言のままに右腕を再生させる幸夜に走り寄ると、幸夜の視界から消えた。

 

 

 「あ?」

 

 

 直後全身への衝撃に幸夜は瞠目した。

 見れば体のあらゆる所にナイフが突き刺さり、また首筋はナイフで斬られていた。鮮血が噴き出し、幸夜は膝をつく。

 少女はいつの間にか幸夜の背後に移動し、警戒を続けるかのように幸夜にナイフを向けていた。

 

 

 「お、こりゃ、また・・・」

 

 

 震える右手で幸夜は致命傷を負った自分の首筋を抑え、左手を地面につく。

 すると吹き出していた血は止まり、地面に落ちた分も体内へと戻り始めた。

 また、ナイフも皮膚から押し出されるように抜け落ちて行き、抜けた所には傷は残っていなかった。

 

 

 「厄介な奴だな」

 

 

 「・・・!?」

 

 

 「悪いな。俺はそのサイズの刃物じゃ死なない」

 

 

 再度少女は姿を消した。

 しかし今度は幸夜は地面に手を置いていた。

 直後、甲高い金属音とともに、幸夜の周囲の地面にナイフが突き刺さった。

 よく見れば、幸夜の周囲一帯には黒い粉が飛び回り、地に落ちたナイフにも大量に付着していた。

 少女が構えていたナイフにも付着していたのか、幸夜の手に握られていた。

 

 

 「親父以外の奴の二回目は通用しないぜ。残念だったな」

 

 

 「何、を」

 

 

 「あ?聞きたいか?・・・残念ながら教えませーん。今この状態でバラす程舐めたことも出来ねえんでな」

 

 

 幸夜が浮遊したかと思うと、少女は組み伏せられていた。

 抵抗しようとするが、幸夜が組み伏せる重さ以外にもなんらかの重さがのしかかり、少女の指先一つ動かなかった。

 

 

 「はい、確保。動かねえとこを見ると、時間か空間干渉系だな、お前の能力」

 

 

 ぴくり、と少女が僅かに反応した気がして、幸夜は長い息を吐いた。

 

 

 「当たりっぽいな。・・・いやあ風魔並みの能力持ちかと思ってヒヤヒヤしたが、アレなら組み伏せるのも察知するだろうし・・・そもそもこの程度の拘束で動けねえ訳がねえからな」

 

 

 馬鹿な、と少し離れたところで声がする。

 幸夜が振り返ると、銃痕だらけの男が、苦しそうに呻いていた。

 

 

 「何故だ、そいつの能力を持ってしても・・・!?」

 

 

 「答えは単純。コイツ以外の能力が軒並み低いんだよ。全員この子レベルに上げてから来りゃよかったな。・・・お前だけアンデッドみたいだが・・・まあ俺の血には水銀がたっぷり混じってるから、コレで終わりだな」

 

 

 少女の近くに落ちていたナイフを拾い、おもむろに左肩にナイフを突き刺した。

 べっとりと血のついたナイフは男に突き刺さり、男は崩れるように絶命した。

 幸夜は暫し目を閉じると、少女の頭を掴み上げた。

 

 

 「んで。どーするよ、お前。お仲間全滅だが、まだやるか?」

 

 

 ギッ、と動けないままではあるものの、殺意の溢れる目を幸夜に向けた。

 幸夜は溜息を吐くと、少女を地面に置き、軽い手刀を少女の頭に落とした。

 

 

 「そんな顔するな」

 

 

 幸夜の叱責に、少女は困惑した。

 今まで叱られた事もなかった上に、怒られた理由が分からなかった。

 きょとんとした顔で幸夜を見上げると、幸夜は軽く笑った。

 

 

 「なんで怒られた。みたいな顔してるな。そりゃお前その年でそんな顔したら怒るに決まってんだろ。どんな世の中だ。・・・とりあえずウチに来い。さっきはどうするか聞いたが、そもそも選択肢がなかったんでな。・・・まあ痛いことはしねえよ。ちょっとばかし面倒なことはさせるがな」

 

 

 幸夜はそう言い、少女を立ち上がらせた。

 そして、困惑して立ちすくむ少女の手を取ると、館の中へと連れて行った。

 

 

 ____________________

 

 

 「ッー!!」

 

 

 「はい外れ。そろそろ話聞けって」

 

 

 それから数分後、気を取り直した少女の投擲したナイフが空を切り、幸夜の背後の壁へと突き刺さる。

 幸夜は呆れたかのようにナイフを壁から抜き、液体へと変質させた。

 

 

 「やれやれ。もう一回言うが、何もお前をぶっ殺そうって訳じゃないし、そのナイフを俺に向けないなら何もしねえ。まあこの部屋に居座るならコレを一通りやってもらう必要はあるけどさ」

 

 

 ひょい、と幸夜は未だ敵意を向ける少女の前に多数の本を投げた。

 それは子供が読むような絵本であり、少女からすれば見たことのないものだった。

 

 

 「・・・なに、これ」

 

 

 「本だ。館の主曰く、お前にはここにいてもらう事になりそうでな。・・・俺がその年に何読んだかは覚えてないが、とりあえず持ってきた。借り物だから破るなよ?俺が怒られるんだから」

 

 

 「・・・あなたは、だれ」

 

 

 ほんの少しだけ殺意の薄れた睨みを受け、幸夜は苦笑する。

 

 

 「幸夜。ここの館の召使いだ。そっちの仕事してるなら聞いたことあるだろ?」

 

 

 

 次回へ続く





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。
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