今回はまだマシな速度で投稿できました。
ゆっくりご覧ください
「どこだクソ餓鬼!!」
ガン、とバケツと雑巾を持ちながら、幸夜が図書室の戸を蹴り開けた。
ぴっ。と小悪魔が飛び跳ね、幸夜から十メートル離れた所で銀髪の少女が隠れるように逃げ、パチュリーは煩そうに眉を潜めた。
小悪魔以外を幸夜は確認できなかったのか、飛び跳ねて硬直した小悪魔に凄まじい剣幕で詰め寄った。
「小悪魔、あの最近来た銀髪のガキ見なかったか」
「あ、あっち!あっちに逃げました!」
「ありがとさん。・・・捕まえて廊下掃除させてやる」
待てやコラァ!と叫びながら少女を追いかける幸夜を見送り、へなへなと小悪魔は尻餅をついた。パチュリーは嘆息した。
そして二分後、打って変わって上機嫌な幸夜に首根っこを掴まれて連行される少女を小悪魔は見る事になった。
青筋を立てていた幸夜に捕獲され、バケツの中に立つモップを一瞥し、少女は不審そうに呟いた。
「掃除は必要なの?」
「必要。お前個人の部屋の掃除ではないからな。これは仕事だ」
「そう」
少女は頷き、大人しくモップで長い廊下を拭き始めた。
幸夜は納得したように無言の少女を見下ろし、自身もモップをかけ始めた。
ある程度掃除を終えた頃、少女は口を開いた。
「ねえ」
「あん?」
「貴方は強い」
「お前よりはな」
「殺すつもりはないのは分かる、けど・・・それじゃあどうして、旦那様達を殺そうとしないの?」
幸夜の手が止まり、ゆっくりと少女を見る。
少女もまた手を止め、幸夜を見上げていた。
「なんもされてないからだな」
「・・・?」
「・・・お前は、旦那様達に危害加えられたか?」
少女は横に首を振った。
「でも、吸血鬼は殺すべき。そう言われた」
幸夜は嘆息し、まあ仕方ねえか。とモップを再度動かした。
「んじゃ、今はなんで殺してねえんだ?」
それは、と少し複雑そうに少女はいい淀み、呟いた。
「幸夜に殺すなと言われたから。私も旦那様達は嫌いではないけど殺すべきなのかなと思う。・・・よく、わからない」
「・・・そうか。そんじゃしばらくそのまま殺さないように。何故殺さないのか教えるには、まだちょいと勉強する必要があるだろうからな。ところで挨拶はちゃんとしてるか?」
「してる。おはようございますと、こんにちはと、こんばんは」
「えらいぞ。・・・よし、それじゃ掃除再開な。サボった分窓拭きもするからな」
少し嫌そうに頷く少女を見て、幸夜は苦笑した。
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「幸夜、コーヒー」
「ん、サンキュー」
三年の歳月が過ぎた頃。少女は少し背が伸び、身嗜みもかつての時よりも更に綺麗なものになっていた。
少女の置いたコーヒーを手に取り、幸夜は本を片手に一口飲んだ。
「ん。美味い。上手くなったな」
「ありがとう」
「ああ。・・・お嬢様達とは最近どうだ?」
「・・・言われた通り、幸夜の仕事と同じことをしてる。けど、敬語が難しい。おっしゃいます、と申し上げますが使い分けしにくい」
「まあ、慣れだな。ただしいつかはちゃんと完璧に使えるようにな」
「はい」
「んじゃ、午後からは掃除か?」
「ううん。休み」
「そうか。・・・そういや最近、お嬢様から名前貰ったんだってな。俺が呼ぶ時はお前呼びだったもんな。どんな名前貰ったんだ?」
少女は動きを止め、その時を想起するかのように天井を見上げ、つぶやくように答えた。
「咲夜。十六夜咲夜(いざよいさくや)」
「良い名前じゃねえか。日本名なんだな」
「幸夜と同じ国の名前」
「・・・日本生まれじゃねえんだけどな」
「どこ?」
「オランダ。母さんは日本生まれで、親父は中国生まれ」
「そう・・・?」
「よく分かってねえなさては」
「わからない」
「言い切るなよ」
やれやれ、世辞の一つも覚えさせにゃならんな。と幸夜は首を振り、本を置いて軽く伸びをした。
振り向く咲夜に外を指し示し、久しぶりにするか?と聞いた。
咲夜は頷き、幸夜は行くか。と外へと歩き始めた。
正門を通り抜けると、幸夜は立っていた美鈴に会釈をした。
「よう、お疲れ」
「お疲れ様、美鈴」
「あれ、幸夜さんに咲夜さんじゃないですか。お疲れ様です。・・・お出かけですか?」
「違う美鈴。幸夜と勝負」
咲夜が食い気味にそう答えると、美鈴は微笑みながら幸夜を向いた。
「またするんですか?」
「まあな。息抜きになってんだからいいだろ」
足首を回し、二度深呼吸をすると、幸夜は右人差し指を軽く切り、突き出して構えた。
「そんじゃ、互いに決定打になる一撃を叩き込んだらな。いつでも来ていいぜ」
「お願いします」
とん、と咲夜が地面を蹴り、後ろに飛び退いた。
すかさず感知できない間に数十のナイフが出現、幸夜に向かって飛来する。
幸夜は右人差し指で円を描くと、零れた血が指を追うように線を引き、指から途切れると肥大化し、鎖に変化した。
幸夜はその鎖を掴むと、数本は急所を逸らしたのを良しとして自身に突き刺さるのを見逃し、遠くにあるナイフを叩き落とした。
その下から、咲夜は飛び出した。
「おっと!?」
咲夜の突き出したナイフは幸夜の右脇腹に突き刺さる。
幸夜は咲夜の手を掴もうとしたが、背後に飛び退いた。
「・・・っ!?」
しかし、飛び退いた後から動かなかった。否、動けなかった。
咲夜の手にはいつかのように黒い煙が巻き付き、凄まじい力で下に引っ張られていた。
「また・・・!?」
「ま、お前の能力じゃ防御不可だからな。はいこれで負け。刺したつもりな。敗因は筋力不足」
ペシ、と自身の肩から引き抜いたナイフを拭い、腹の部分で咲夜の頭を叩いた。
咲夜は残念そうに嘆息し、ナイフから手を離した。
ナイフは黒い煙に包まれ、地面に吸われるように落下してカランと音を立てた。
「お疲れ様です。・・・そういえば幸夜さんの使ってた黒い煙ってなんなんです?」
「ああ、これか?」
ゾゾ、と地面から蛇が鎌首をもたげるように、黒い煙が立ち昇り、咲夜と労いの言葉をかけてきた美鈴に近づいた。
恐る恐ると言ったように咲夜がそれを触ると、ざらりとした感触だった。
「砂?」
「それじゃあ私も・・・ん?これ、砂鉄ですか?」
「正解。足から触れた地面を起点に砂鉄を吸い上げて、武器として動かしてる。・・・多少は手から離れても扱えるようになったから割と重宝してるんだよな。俺は自傷技が多いからな。貧血にならないこれは重宝するんだよ」
「はあー・・・砂鉄なら大半の地面に埋まってますからね」
「ま、そう言う事。本来活かすべき方向じゃねえんだけどな。実際人間の子供くらいしか押さえられねえし」
使う気もさらさらねえけど。と幸夜は苦笑し、咲夜の背を押して屋形の中へと歩き始めた。
「んじゃ、俺掃除してくるわ。おつかれ」
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それから幸夜と咲夜は館の中を巡り、外を見れば既に日は完全に傾いていた。
「掃除終了。・・・なんだが。いつまで俺の事見てるんだ?」
「・・・別に、殺そうとかじゃない」
「たりめーだろアホ。・・・なんだ、この手が気になるのか?」
「うん。どうなってるの?私と同じような、変わった力?」
幸夜が自身の掌を咲夜に広げて見せると、咲夜は頷いた。
幸夜は納得したように頷き、自身の手の説明を始めた。
「そうだな。俺は見せたように手で触れたものを武器にできる。関連性さえあればほぼなんでも、な。まあメチャクチャな能力だな。実際強い」
ただし、と幸夜はおもむろに木製のモップを掴み、案山子に変えた。
「まあこれを人間だと思ってくれ。・・・んで、こう」
案山子の頭を幸夜が掴む。
すると案山子の形を作っていた木が爆発したかのようにささくれ立ち、とても人型だったとは思えないような無残な形になっていた。
「すげえだろ。人間も化け物も触れたら即死だ。・・・そんなわけで、お前が考えてるようにやろうと思えば旦那様だってお嬢様だって殺せる。語る間も無くお前も殺せた」
けどなあ、とどこか幸夜は気が抜けたように笑い、血の気が僅かに引いていた咲夜の頭を撫でた。
「せっかく話が合う奴殺すのも寂しいだろ?・・・過ぎたる力は自らを滅ぼす。人を愛せないものは自らを愛せず、人に愛されることはない。・・・なんか遠回しだな。あー、要は自分がどんだけ強くても、無闇矢鱈に殺すのはやめようって事だな」
「・・・初めて、そんな事言われた」
「だろうな。だが俺に負けてここにいる間はそれを守るようにな。自分が楽しいからって理由で他者を傷つけたりするとバチが当たるぞ」
「バチ?」
「ああ、本物の神様が手下を連れてやって来る」
「神様・・・」
「咲夜の前の上司達の知る神様じゃあないけどな。その神様達と同じように俺達を視てる。・・・なんてな。この後も暇だろ?掃除終わってるから飯行くぞ」
「うん」
「後勘違いしてるかもしれんが、俺より旦那様のが強いぞ」
「・・・本当?」
「疑うのは結構だが、戦わせようとすんなよ。死ぬからな、俺が」
「お嬢様と妹様・・・後、パチュリー様は?」
「だから死ぬって。万能だと思うなよ」
「・・・嘘っぽい」
んな訳あるかよ、と幸夜は笑い、身を翻して廊下の奥へと歩き去っていく。
咲夜は幸夜の背中を眺めながら、それを追いかけた。
次回へ続く
ありがとうございました。
次回もお楽しみに。