真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 非常に投稿が遅くなりました、申し訳ありません。
 まさか新学期になって、ここまで走りまわる時間が来るとは・・・


第百二十話 察知

 

 

 夏、太陽が強く地面を照らす季節。

 初めにソレに気がついたのは幻想郷の管理者ではなく、その隣にさも当然のようにいる龍神でもなく、ただ騙すことが得意な彼だった。彼は読みかけの本を閉じると、薄暗い部屋から外へと出た。

 日は傾き始めているものの、まだ夜更けには遠い、そんな時間。彼は伸びを一つして、目の前に果てしなく広がる花畑の中を歩き始めた。

 季節通り故か、身長よりも大きく育った向日葵の間をさも何もないかのように彼は通り抜け、目的地の向日葵を愛おしそうに撫でる女性の前で足を止める。

 

 

 「今年も、大きくなったねえ」

 

 

 声を聞き、彼女、風見幽香は夕陽を受けてもなお目立つ緑色の髪を揺らしながら、声の主へ返した。

 

 

 「そうね。・・・この子達の反応からするとまたすり抜けてきたのかしら?それに、用事はもう大丈夫?」

 

 

 「すり抜けないといつ油断して踏んじゃうか分かんないからねー。用事はもういいよ。夏場はあんまり細かく取り出すと腐るの早くなるし、今はそれどころじゃないっぽいし」

 

 

 「そう?・・・何かあるの?」

 

 

 「幽香もそろそろ分かるんじゃないかな。向日葵もあの子達もしばらく変な天気になるだろうから、より面倒見てあげたほうが良いかもね」

 

 

 彼、幻夜は幽香の花畑に水をやる人影達に手を振り、夕空を見上げながらほんの少し嬉しそうに頬を緩めた。

 その様子に幽香は不満げに小さく眉を顰めた。

 

 

 「何よー、分かってるなら言いなさいよ」

 

 

 「今回はダメでーす。喋ると後の楽しみが無くなるからね」

 

 

 一足先に見にいこうかな。と、頬を膨らませる幽香に背を向け、幻夜は誰に言うわけでもなく内心呟く。

 空の端が、少し紅く染まっていた。

 

 

 ____________________

 

 

 

 それから数日。あと一日で満月になる、そんな夜。

 ほんの少しだけ欠けた月が全て写るほど大きな窓を背後に、コウモリのような羽を生やした少女が言葉を紡いでいく。彼女の開いた口からは、鋭い牙が覗いていた。

 

 

 「全員・・・揃ってるわね。よし。・・・んんっ、貴女達、準備はいいかしら?」

 

 

 コクリ、と中華風の衣装に身を包んだ少女が頷く。

 メイド服の少女が、うやうやしく頭を下げる。

 紫髪の少女が面白そうに笑い、従事していた頭に小さな羽をつけた少女は、ややこわばったように頷く。

 宝石のような羽を持つ少女は、にっこりと笑い、頷いた。

 その他数十にもなるメイド服に身を包んだ小さな少女達も、まばらに頷いた。

 

 

 「良さそうね。・・・それじゃあ、異変を始めるわよ!」

 

 

 バッ、と少女が両手を激しく開き、それに呼応するように月がゆっくりと紅く染まり始めていく。

 それは明日になれば、きっと真っ赤に染まっている空と同じく、月全てを染めるような、そんな霧を放った。

 彼女らは満足げに頷き、それぞれが準備をするように動き出す。

 

 

 「・・・それで、幸夜、いる?」

 

 

 コウモリ羽の少女だけが動かず残る中、ふと天井の板が横に動き、逆さまに頭が降りて来た。

 

 

 「はいはいお嬢様、なんでしょう」

 

 

 「・・・もうお嬢様は良いわよ。と言うかなんで天井から?今びっくりしてちょっと固まっちゃったじゃない」

 

 

 「ああそりゃ失礼。いやちょっとトラップの最終確認の方をね?」

 

 

 「ああ・・・ってまだやってるの!?この前ちょっと触りますって言ってから一ヶ月は経ってるわよ!?」

 

 

 「俺の部屋を見る前に、ちょっと近場の湖から生活用水引いてたら時間かかって・・・」

 

 

 「え、待って、そんな事してたの?」

 

 

 「まあ先生に見つからないように自分らで引っ越したのもあって、館を土地から引っこ抜いて別の位置にポンってわけにゃ行かなかったんでね。飛び立つ鳥の最後の仕事ってことで。んで、なんだレミリア、要件は?」

 

 

 「ああ、要件ね。・・・私達も負けるつもりはないけど、それでも貴方が舞台に出た時、勝てそう?」

 

 

 「集めたデータに不足なく、相手が俺を知らなければ、な」

 

 

 幸夜は屋根から飛び降り、レミリアの前に立つ。

 彼の着る黒いロングコートからは、動くたびに金属が擦れる音がした。

 

 

 「そう、なら安心ね「どこ聞いてそう思ったよ」・・・ところでお父様は?」

 

 

 「それならここに。呼ばれてますよオルゴイさん」

 

 

 「なんだ、呼んだか?」

 

 

 「ちょっ・・・さも当然のように床から出てこないで?」

 

 

 「ハッハッハ、すまない。幸夜を手伝うのが存外面白くてな。・・・しかし、その分しっかりと仕込ませて貰ったからな。なあ、幸夜?」

 

 

 幸夜は顎に手を置き、しばらく思考したのち呟いた。

 

 

 「・・・まあ、龍神の片腕ってとこですかね、しっかり取れるのは」

 

 

 「ほう、そこまで行けるのか。楽しみだな」

 

 

 「龍神の片腕なんてトカゲの尻尾みたいなもんですよ?控えめに負けって言ってんです、負けって」

 

 

 無理無理、と言いながらも、未だ策を練り続けているのか、常に口角の上がった幸夜にオルゴイは苦笑する。

 

 

 「最高で、どうだ?」

 

 

 「・・・四凶を十としたら、八を確殺、九を片腕と差し違え、くらいですかね。今は。ただ今回じゃ無理です。仕込みが後百は要る」

 

 

 それに、そんなんいても困りますけどね。と幸夜は笑う。

 レミリアは幼い頃から住み込みで働いていた彼を相応に信頼し、だからこそこういった場面で嘘はつかないと知っていた。

 故に、淡々と冗談にしか聞こえない戦果予想を述べる幸夜の事も、しっかりと信頼していた。

 またそれに応えるように、幸夜もレミリアへ微笑んだ。

 

 

 「・・・あ。ところで幸夜、いい?」

 

 

 「なんだ?」

 

 

 「お父さんと探してる子には会えた?」

 

 

 「・・・いんや、親父には多分視認されたが両方ともにまだ会ってない。ただ、なんとなしにそれらしい話は聞いたし、いる場所がわかった気がするから、これが終われば行ってみようかと」

 

 

 「そう。探してる子は元気そうだった?」

 

 

 「・・・話を聞いてる感じは、な。あいも変わらず人間達と関わってるらしい。バカだなあアイツ」

 

 

 幸夜は優しい表情を浮かべ、窓の外、その遥か先を眺めて、目を細めた。

 レミリアはそんな幸夜に苦笑し、先に会いに行ってもいいのよ?と揶揄い半分に言う。幸夜は首を横に振った。

 

 

 「お断り。まだいると分かったわけじゃあねえですし、何より仕事が残ってますんで」

 

 

 「真面目ね」

 

 

 「仕事なんでね。・・・それに、どこまで届くか見定めたいんだよな」

 

 

 幸夜は表情を硬くし、レミリアに膝をついた。

 

 

 「では、ここいらで失礼。願わくば勝利後にお会いしましょうや」

 

 

 「ええ、よろしく」

 

 

 ____________________

 

 

 博麗霊夢が明らかな異常に気がついたのは、遥か先で行われた会話から一時間程経った頃だった。

 ここ数日から空が紅く染まりつつはいたものの、月すらも染め上げられた今この時は、ただ紅いだけではなかった。濃密な妖気が織り交ぜられ、なんの力も持たない常人なら激しい倦怠感に襲われるような重苦しさを持っていた。

 

 

 彼女の友人、霧雨魔理沙も同じく異変に気がついたのか、身支度をする霊夢を縁側で待っていた。

 ふとそんな二人に、一人の男が声をかけた。

 

 

 「よ。・・・珍しくもないが夜更かしか?」

 

 

 「流石にこんなに空が紅くちゃ寝るもんも寝れない。だからサクッと解決してぐっすり寝るつもりだぜ」

 

 

 「お待たせ。・・・龍一さんも分かってて聞いてるでしょ?」

 

 

 「ん、まあな。こうも目に悪いと流石にな」

 

 

 「それだけってのもあれだが、確かに悪趣味な色だぜ」

 

 

 龍一の意見を肯定するように魔理沙は頷き、龍一は微笑する。

 そしていつも通り縁側に腰掛けると、息を吐いた。

 

 

 「まあ、気張りすぎんなよ。いつも通り行ってこい」

 

 

 龍一の言葉に二人の少女は頷き、各々の方法で空へと飛んでいく。

 それを見えなくなるまで見送ると、彼は屋根の上で気配を消していた男を呼んだ。

 

 

 「・・・そんで、お前は?まさか楽しそうだから異変解決に行くなんて言うなよ。お前が出たら一分もたたずに解決しちまう」

 

 

 男、風魔は一つ押し殺した笑い声を出すと、龍一の前にいつの間にやら立っていた。

 そして龍一の横に座ると、いや。と返答した。

 

 

 「見知った吸血鬼、知り合いの息子と斬り合っても、なんら面白くない。やり飽きた。・・・それに、私が行く前にお前が行くだろうよ」

 

 

 「まああいつらとは飽きるほどやってたからなお前は。んで、俺が行く?そりゃ笑える話だな」

 

 

 まさか。と龍一は笑い、首を横に振る。

 風魔も笑みを崩さず、わざとらしく何かを思い出すかのように腕を組んだ。

 

 

 「碁を打っていた時に相手から聞いた噂だが、例の館の主人は吸血鬼ではないらしい」

 

 

 「・・・うん?」

 

 

 「更に奇妙な話、先日館を使用人の男に譲ったらしい。それもなんと、ここ一ヶ月の間のみ、と言ったなんとも不思議な譲り方をしてな」

 

 

 ところで、と風魔は続ける。

 

 

 「紫とお前が奴らと約束した話では、館の主人が異変の首謀者になる、だったらしいな。と言う事はその譲られた小僧が首謀者になる訳だな?」

 

 

 短い舌打ちが風魔への返答となり、龍一はゆっくりと立ち上がる。

 周囲の音が消え、それまで穏やかさを残していた周囲の空気が鋭くなり、龍神が口を開いた。

 

 

 「・・・悪いが少し席を離れる。紫には聞かれたら言っといてくれ」

 

 

 「良いだろう。・・・さぞアイツも楽しみにしているだろう」

 

 

 「だろうな。全くめんどくせえ。・・・ぶちのめして来る」

 

 

 龍一が大地を蹴り、斜め上へと跳躍する。

 その動作に重さはなく、そのまま空を走るようにして消え去った。

 

 

 

 次回へ続く

 





 ありがとうございました。

 次回もお楽しみに。
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