真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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第百二十一話 必然殺し

 

 

 

 すっかり紅くなった空を、二人の少女は飛び抜けていく。

 そのうちの一人の金髪の少女は笑いながら、もう一人の黒髪の少女へと声をかけた。

 

 

 「今んとこ、大したやつは出て来てねえな。てっきりこの霧のせいでどいつもこいつも気性が荒くなってると思ってたぜ。さっきの相手、ルーミアだっけ?まあそいつも比較的おとなしかったしな」

 

 

 「そうね。思ったよりは被害がまだ少なめね・・・ってちょっとそこの人!何してるの!?」

 

 

 霊夢は魔理沙に返答し、口を開いたその最中、老年に近い男が歩いているのを視認し、下降した。

 男は霊夢達を見上げると、小さめに手を振った。

 

 

 「何人間が呑気に手振ってるのよ・・・人里で外出禁止の令が出てるの知らないの?」

 

 

 「何、そこまで事になっていたか。いやはや余計な心配をかけた。だが少し落とし物をな・・・」

 

 

 「落とし物?」

 

 

 「どこに落としたか分からんくなってな・・・やはり、諦めて向かった方が良いか?」

 

 

 霊夢は頭を抱え、魔理沙はそんな霊夢を励ますように苦笑し、男に声をかける。

 

 

 「あのな、じいさん。こいつは仕事上人間に怪我されると困るんだ。私も寝起きが悪くなるし、人里もすぐそこだ。異変が終わったら探し物くらい手伝うし、悪いこと言わないから避難しててもらえないか?」

 

 

 男は顎に手を当て、分かった。と頷いた。

 

 

 「これ以上余計な世話をかけさせるわけにはいかんな。ならば一人で帰っておく。それで大丈夫か?」

 

 

 「だとよ。一人で帰らせるか?」

 

 

 「・・・さっきまでの道には何も出なかったから、大丈夫でだと思うけど・・・いい!?この空が収まるまで人里から絶対出ちゃだめよ!?」

 

 

 霊夢が男に指を突きつけ、男は頷く。

 二人は顔を見合わせると、再び飛翔し、遥か先へ飛び去った。

 そしてそれを見上げていた男は、困ったように頭を掻いた。

 

 

 「あれが異変解決者か。良い人間の中では強いのは違いないが、思っていたより若いな・・・」

 

 

 やや役不足かもな。と男は右手で頭を掻きながら呟き、左手を横に広げた。

 すると左手に黒い霧が集まり、一本の長槍を創り上げた。

 

 

 「さて。あの二人には悪いが、もう少しここに居させてもらおうか。・・・奴を落とす必要があるからな」

 

 

 刹那。男は槍を霊夢達が来た方向の上空へ投げる。

 槍は加速し、軌道を曲げ、槍の軌道上に入った人影へと空気の破裂音を響かせながら迫った。

 しかし人影は槍を回避し、あまつさえ掴み、男へ同速で投げ返した。

 

 

 「ほう。落ちんか」

 

 

 寸分の狂いもない槍の投げ返し。このままいけば男の心臓を貫く筈だった槍は、しかし何故か軌道を歪め、空気を裂きながら隣の大地へ突き刺さった。

 上空の人影は、それより遅れて男の前に立った。

 

 

 「・・・いきなり挨拶だな。久しぶりだって言うのに感傷に浸る時間もねえじゃねえか」

 

 

 「何、こうでもせねばあの二人に追いつくだろう?時間稼ぎだ、時間稼ぎ」

 

 

 「・・・やっぱお前が仕込んだんだよな。オルゴイ」

 

 

 「なあに、少し試してみたかったのだよ、龍一。・・・【私は致命傷を負う運命から逃れる】」

 

 

 龍一と呼ばれた男は舌打ちすると、現れた拳銃をゆっくりと構えた。

 オルゴイと呼ばれた老年の男は、槍を軽く横に払った。

 

 

 「貴様の絶対と私の必然殺し、どちらが勝るだろうな」

 

 

 「邪魔くせえこと仕掛けんじゃねえよ」

 

 

 龍一は素早く拳銃の引き金を引き、オルゴイの周辺に散るよう弾丸を放った。

 オルゴイは微動だにせず、愉快そうに龍一を見据えていた。

 弾丸は直進することなく、オルゴイを追尾するように弾丸が進んだ。

 

 

 「ふむ」

 

 

 弾丸はオルゴイに迫り、確実に眉間を貫く軌道に入った瞬間、弾はねじ曲がり、オルゴイの右肩を掠めるに留まった。また、その傷も瞬く間に再生した。

 

 

 「やはり重症には至らんな」

 

 

 「当たれば死ぬからな」

 

 

 「次は、そうだな・・・【この槍は当たらない運命から逃れる】」

 

 

 オルゴイは再び槍を生み出し、踏み込みもなく紙飛行機を飛ばすように龍一に投げた。

 やんわりと、しかししっかりとした軌道で宙を舞った槍は、突如加速して龍一を貫いた。

 龍一は腹部を貫かれたが、眉一つ動かす事なく槍を引き抜き、投げ返した。

 同様に加速し、当たらない事が無い槍は、オルゴイの目の前で捻じ曲がり、槍とは呼べないものになり、地に落ちた。

 

 

 「これは・・・つまらんな」

 

 

 「馬鹿野郎が。最初から火を見るよりも明らかだったろうが。先行くからな」

 

 

 「ううむ・・・」

 

 

 少し残念そうにオルゴイは唸ったが、すぐに言葉を吐き出した。

 その言葉を言い終える頃には、龍一は何処からか現れた鎖でその場に繋ぎ止められた。

 

 

 「【龍一が十分間、先に進む運命から逃れる】」

 

 

 「おい」

 

 

 「仕方あるまい。このままならお前は無視して通るだろう」

 

 

 「そりゃ好んで特点がお互い絶対に入らないクソ試合する奴いねえだろうよ」

 

 

 「だから勝負はやめとして、少し話さんか?」

 

 

 「・・・お前それ、問答無用で拘束した奴に言う?」

 

 

 「ダメか?」

 

 

 「ダメもクソもあるか。解け」

 

 

 「なんと言ったか忘れた」

 

 

 「コイツ・・・まあいい、分かったよ」

 

 

 どうせ動けんし、ちょっとだけな。と龍一は鎖に絡め取られたまま、その場に器用に座り込むと、大きな溜息を吐き出した。

 オルゴイも微笑むと、ゆっくりと地面に座った。

 

 

 「で?」

 

 

 「何、少し明るくなったと思ってな」

 

 

 「何が?」

 

 

 お前の事だ。とオルゴイは首を傾げる龍一を指差した。

 龍一は少し空を眺め、納得したようにそうか。と呟いた。

 

 

 「幻想郷に根を降ろしてから会わなくなったもんな。確かにちょっとばかし変わったよ、俺は」

 

 

 「その様だ。ミス八雲も元気か?」

 

 

 「なんだその呼称。忙しくはなったが、元気は有り余ってるな」

 

 

 「そうらしいな。・・・楽しいか?」

 

 

 「変なこと聞くなぁ。頭でも打ったか?」

 

 

 「いや、気がかりでな」

 

 

 「・・・そうだなぁ」

 

 

 なかなか楽しいぞ?と龍一はカラカラと笑う。

 

 

 「そのようだ。・・・変わったな」

 

 

 「ああ。それともう一つ言うなら・・・ちょっと力を入れればお前の能力に縛られなくなった。この通りな」

 

 

 ジャラジャラと龍一を押さえ込んでいた鎖が解け、龍一から離れるように飛んでいく。

 少し驚いたように目を見開くオルゴイに、龍一は笑った。

 

 

 「もう解かれたのか。【神矢龍一は一時間この場から動けな「おい」・・・冗談だ。これは私の負けだな」

 

 

 「いんや、解くには時間がかかる。俺相手に二分は大きいだろ。ま、どっちにしろ後八分は動かんけどな」

 

 

 約束だし、と龍一は片目、銀色の瞳を光らせると、瞳から光が伸び、地面に映像を映し出した。

 そこには奇妙な雰囲気を放つ館と、少し上気した二人の少女がその館の門を開けるところまで映り込んでいた。

 

 

 「ふむ、予定通りだな」

 

 

 オルゴイがそう呟くと、龍一は無言で映像に手を当てた。

 すると映像は少し巻き戻され、霊夢と魔理沙を相手に弾幕を徒手で叩き落とす、壁を蹴って弾幕の間をすり抜けるなど、一般的な妖怪では有り得難い体術を活かして立ち回る美鈴の姿を映し出した。

 

 

 「・・・おい待て、前より強くねえかあの子」

 

 

 「美鈴か?彼女も相当にうちの使用人と鍛錬はしていたからな。・・・それと彼女への命令は「異変中、私以外の館の出入りを禁止」だ」

 

 

 「そうか。なにがなんでも使用人と霊夢達をぶつけてえんだな」

 

 

 「ああ」

 

 

 手を月に翳し、オルゴイは口を吊り上げる。

 

 

 「見たいからな。我が館、自慢の使用人の最後の舞台をな」

 

 

 「ろくな事しないと思うがな」

 

 

 残りの八分が経過した頃。そろそろ行くわ。と龍一が立ち上がり、瞳の映像を切る。

 オルゴイも頷き、ゆらりと立ち上がる。

 

 

 「私はあの二人と約束をしたのでな。少し、人の営みを見に行くとしよう」

 

 

 「人里見てくるってスッと言え。厨二病か?」

 

 

 「吸血鬼なぞそんなものだろう?」

 

 

 聞きたくなかったわ。と龍一は笑い、飛び去る。

 オルゴイはそれを見送り、やや早足に人里へと歩いていった。

 それからしばらくして、子供や幼い妖怪に懐かれる老人が時折人里で見られるようになったのは、また別の話。

 

 

 

 次回へ続く

 

 





 ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。
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