真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

122 / 126
第百二十二話 紅魔の門番

 「流石に入り口からは変わってねえか。・・・よう美鈴」

 

 

 「あ、龍一さん、お久しぶりです」

 

 

 オルゴイと離れて二十分後。龍一は紅魔館の門前に降り立つと、見知った姿に会釈した。

 会釈された相手も会釈を返し、そしてそれが当然であるように彼女は、紅美鈴は拳を構えた。

 

 

 「・・・さっき見た感じ霊夢と魔理沙には負けて通らせてるっぽいし、ついでの保護者枠で俺を何もせず通してくれるってのは」

 

 

 「無いですね。「だよなあー・・・」それに、龍一さんならわざわざ門を通ってくる必要なんてないはずでは?この館の中に一瞬で行くくらい、造作もないですよね?それに龍一さんの事です、もう少し早く来れましたよね」

 

 

 「あー・・・流石に不躾だと思ったからってのと、ああそう、道!道に迷ったんだよ・・・いやこれ無理あるな」

 

 

 「・・・質問するのも失礼かも知れませんが、最初からそのつもりでしたよね。龍一さん」

 

 

 バレたか。と龍一は笑う。

 その笑みは申し訳なさから来るものではなく、今から起こりうる現象への隠しきれない期待だった。

 美鈴が横へと歩き、森を背に拳を構えた。龍一は残念だという台詞を吐き続け、美鈴に向けて一歩足を踏み込む。

 

 

 「このまま通り抜けると霊夢達より先に着いちまうし、それはオルゴイは望んでねえし・・・しょうがねえよなあ?」

 

 

 「そうですね」

 

 

 空気が破裂したような音とともに、龍一は美鈴へと接近し、右手を突き出した。

 美鈴は全身に気を込め、龍一の右拳を回すように受け流した。

 直後龍一の突き出した掌底は背後の木へと直撃し、木は拳の直撃した裏側が破裂し、木屑を飛び散らせながら音を立てて倒れた。

 美鈴は受け流した龍一の右腕に自分の手を絡めて引き寄せると、龍一の頭部へと蹴りを突き出した。

 それに対して龍一は大袈裟に音を立てながら右腕の関節と背骨を外し、絡められた手をすり抜けて上体を折り、背後へと飛び退いた。しかしわずかに蹴りが頬を掠め、傷口から血が滲んでいた。

 

 

 「おーおー、やるじゃないの」

 

 

 本来噛み合うはずのない歯車を無理やり噛み合わせるときのような音を鳴らしながら、龍一は右手の関節と背骨をはめ直す。

 人の形をしているだけで人の動きをしない龍一に、美鈴は呆れたように笑った。

 

 

 「相変わらず無茶苦茶なことをしますね。無茶な点では師匠そっくりです」

 

 

 「一緒にするなあんなのと。・・・これで行くか」

 

 

 人間ならば脱力しきったポーズから龍一は飛び出し、脱力しきった左右の腕を鞭のように振り回し、美鈴の払おうとする腕を逆に避け、叩き返した。

 骨が抜けたようにしなる龍一の腕を受けた美鈴は、強く顔を顰め、しかしゆらゆらと揺れる龍一を拳圧で遠くへと弾き出した。龍一の手が叩きつけられた箇所は、妖怪であり頑強な体を持つ筈の美鈴の皮膚を赤く腫らし、痣を作り出していた。

 

 

 「流石・・・ですね」

 

 

 「伊達に歳食ってねえからな。時間だけがあったのよ」

 

 

 再び龍一は美鈴へと迫り、同様に体ごと叩きつけるように左手を不規則に振り回す。

 しかし今度は見切られたかのように美鈴へ当たらず、また美鈴も龍一の不規則な軌道を予測し始め、左手による横への薙ぎ払いを避けた。

 直後、龍一は左手の勢いに振り回されたかのように反時計回りに身を捻ったが、突如加速し左足を軸に一回転、浮いていた右足を地面に叩きつけ、そのまま最初に放った拳の倍の勢いはある一撃を放った。

 

 

 「・・・そこっ!」

 

 

 だが、相手は紅美鈴。彼女は紅魔館の門番を務める妖怪で、何より龍一すら凌駕する格闘技術を持つ壊夢と手合わせし、更に気に入られた事のある存在。

 故に力任せの一撃は、彼女からすれば単に壊夢の下位互換に過ぎず、龍一の一撃を衝撃を逃しながら完全に受け止め切った。

 龍一は暫しその事に目を見開いたが、一転。先程までとは違い、行動の一手一手が加速し始めた。

 岩を砕く一撃が岩を貫く一発に、鞭のようにしなる一撃が空気を裂く一閃に。

 

 

 「・・・いやあ、失礼な話だが油断してたわ。そういや壊夢の技を目の前で見てんだから、あんな中途半端な一撃止められるわな」

 

 

 「全然中途半端とか呼べる技じゃなかったですし、今されてる事は全く見たこと無いですけどね!?ほとんど斬撃じゃないですか!」

 

 

 「そりゃあの火力バカがこんな技覚えたらもういよいよ終わるぞ。・・・んで、見た事ないって言う割には避けてるんだが?」

 

 

 「無論、ここを守る門番ですからね!」

 

 

 「要塞かよ・・・いや、そうだな」

 

 

 会話の通り、龍一の刃物と化した素手の連撃。それを美鈴は数発掠めるのに留まり、致命に至る一撃は必ず受け流し、躱している。

 

 

 「・・・アレ行くか」

 

 

 龍一の斬撃が止み、美鈴はその瞬間龍一へと右拳を放つ。

 それを飛び退いて躱し、龍一は右拳を構えた。

 両者共に構えつつも距離を取り、隙を見計らっていた。

 

 

 「次のでラストな。これ受けて立ってられたら帰るしかねえわ。受け止められたら、な」

 

 

 「なら、受け止めましょう!」

 

 

 構えを解かない龍一の拳の前に、薄いガラスのような小さな壁が展開されていく。

 それは数十枚にもなり、やがて龍一の拳の前には数十層の壁で作られた盾が完成する。

 美鈴も全身に気を巡らせ、先程以上の闘気を放ちながら、構え続ける。

 

 

 ふと、龍一が動いた。

 踏み込む事なく行われた縮地により、まるで龍一は美鈴の目の前に瞬間移動したかのように第三者がいたならば見えた事だろう。

 そして右拳を下から突き出し、美鈴はそれを顔の前で受け止めた。

 直後、一発。ではなく、二発。

 打突の一撃とその衝撃に合わせるように防壁が激しく割れる。それにより放たれた衝撃波が一撃。

 ズレた二撃により、美鈴は脳が強く揺らされる事になった。

 

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 

 辛うじて構えを維持して立つ、が龍一は一撃を放った反動で背後に跳ね、何故か空中に貼り付けられたように停滞している木屑を蹴り、再度同じ構えをして迫っている。更に先程の衝撃で割れた防壁は一枚。

 受けて立っていられたら帰る、がそもそもこの連撃を受けさせる布石だった事に気がつき、美鈴は苦笑と共に手を下ろす。

 

 

 「降参です、流石に何度もは受け止められません」

 

 

 「そりゃあ助かった」

 

 

 美鈴の横を龍一が通り過ぎ、右拳を地面へと押し付ける。

 すると防壁が割れる音が何度も鳴り響き、拳の置かれていた場所は泥のように地面が軟化していた。

 

 

 「・・・まあ、ほとんど門番って立場のお前を利用した俺の反則勝ちなわけだが」

 

 

 「いえ、連撃ではなく一撃だと思った私のミスです。確かに受け止めたら帰る、は意地悪な言い方でしたが・・・やっぱり壊夢さんの主人ですね」

 

 

 「もうとっくに体力の全盛期過ぎてるんだがな。あいつらまだついてくる気でいやがる」

 

 

 「性格の方ですよ?」

 

 

 「おっと喧嘩をお売りか?この俺を優柔不断のクソカスと?」

 

 

 「そこまで言ってませんが!?」

 

 

 「冗談冗談。性格が悪いってのは百も承知よ。また壊夢に顔見せてやってくれ。・・・それじゃ、入らせてもら」

 

 

 龍一が閉ざされた格子の門へ手をかけた刹那、地面から人間一人を容易く挟み込めるような巨大なトラバサミが地面から飛び出し、龍一へ襲いかかった。

 門にかけた手を残してトラバサミの中へ消える龍一、何が起こったか理解していない美鈴。

 ほぼ反射的な反応として、美鈴は叫んだ。

 

 

 「りゅ、龍一さんっ!?」

 

 

 ギギ、とトラバサミが軋み始め、中からこじ開けた龍一があからさまに怒りの表情を携えて現れる。

 

 

 「もらいたかったんだが・・・こんなダメージも期待できないしょうもない古風な罠を、よくもまああの小僧は」

 

 

 やってくれるじゃねえか、と恐らく何も知らなかったであろう美鈴に微笑み、再度門に手をかける。

 

 

 「あっ、あの、私こんなとんでもないの仕掛けられてるの知らなくて・・・」

 

 

 「分かってるよ。どうやらあの弟子は俺専用の罠を他の誰にも知られずにいくつか仕込んでるらしい。あいつの事だろうから俺じゃないと反応しないようにしてるだろうけど、美鈴も気をつけてな」

 

 

 そんじゃ、改めてありがとよ。と龍一は言い残すと、今度こそ門を開く。

 そして唐突に高圧電撃の流れる館の扉を怒声と共に蹴り開け、龍一は館の中へと消えていった。

 それを見送り、美鈴はこじ開けられたトラバサミに目をやる。それはどう考えても美鈴でも、場合によっては大妖怪でも大怪我を負う規模のものであり、更に毒が塗られている。しょうもない罠と一蹴した龍一の事を思い出し、やはり壊夢さんの主人なんだな、と小さく苦笑する。

 

 

 ふと、やけに冷たい氷のような風が吹いたが、誰も気がつくことは無かった。

 

 

 

 次回へ続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。