龍一がパチュリーと戦闘を始めてから少し。
霊夢と魔理沙は目の前のメイド、十六夜咲夜を相手に、攻めきれ沙いる、さらに悪く言えば苦戦していた。
と言うのも、咲夜の特技はナイフ投げ。それに目をつけた幸夜が、彼女のナイフ投げに軽い手を加えたのだ。
「ただのナイフならまだマシだったかもしれないが、避けても邪魔だぜこのナイフ!」
魔理沙が床に突き刺さったナイフに一瞥をくれる。
ナイフは持ち手の部分に細いワイヤーらしきものが繋ぎ止められており、床に刺さったナイフのワイヤーは、同じく壁に刺さったナイフに繋がり、飛行や跳躍の妨害の為の即席の格子になっていた。
ただ妨害になるだけならばまだ良かったのかもしれないが、咲夜自身はワイヤーを最大限に活用して来る。
投擲したナイフのワイヤーを掴み、途中で止めて薙ぎ払う。ワイヤーを足場にして相手の弾幕を躱し、自分のナイフをワイヤーに当てて跳ねさせて軌道を変える。自分自身への攻撃はワイヤーの網で受け止める。
キレのある弾幕に加えられたそれは、異変解決においての実力者である二人の動きを止めるのに、十二分に役割を果たしていた。
「ほんっと、鬱陶しいわね!」
「避けられない弾幕を打ってるわけじゃ無いってのが、また巧いとこ突いてるよな。さっき掠ったぜ」
「褒めてもらって光栄ね。・・・最も、褒められるだけなら聞き飽きたのだけれど?」
「言うじゃない。だったらそれだけじゃないようにしてやるわよっ!!」
「それに関しては同感だな!」
咲夜には異端の技を持つ師がいた。ただ、それは対峙する霊夢にも同じことが言える。
霊夢の放った幾つもの陰陽玉、そのうち二つが異様な軌道を描き、咲夜の左右に飛ぶ。
龍神から技を教わった霊夢に対抗する為、自らの研究と鍛錬の末新たな技を得た魔理沙も同様に、彼女の放つビーム状の弾幕がヒビ割れ、放射状にばら撒かれる。
「へえ?」
咲夜は笑みを漏らすと、放射状に飛んでくる弾幕を上空や地面に張ったワイヤーを飛び移るようにして回避し、次に攻撃してくるであろう左右の陰陽玉に目を向ける。
おそらく同時に攻撃してくるか、弾幕を放つと想定してナイフを向けた瞬間、彼女は瞠目した。
「あんまりすると疲れるんだけど、ね!」
陰陽玉は弾幕を放つことも、自ら攻撃することもなく。更に一回り小さな陰陽玉を吐き出した。
それもその数、合わせて二十。
咲夜の周囲をほぼ完全に覆うそれらの陰陽玉が、一気に光線を放った。
「チッ!」
計二十の光線、更に上下の逃げ道を塞ぐ放射弾幕。
咲夜は舌打ちを一つ。予定通りナイフを投擲、大元の陰陽玉二つを弾き飛ばし、能力を使用した。
故に次の瞬間、霊夢と魔理沙は突然咲夜が背後に移動したように見えた。
「はあ!?」
「・・・おいおい、マジかよ」
霊夢と魔理沙は再度驚愕の念に襲われる。しかし先ほどと違うのは、咲夜も同じ状況だと言うことだ。
咲夜は未だ余裕そうに、しかし先程よりは緊張の見える顔で霊夢達に微笑みながら能力を行使しつつナイフを投擲していく。
霊夢と魔理沙は視線を合わせると、一先ず弾幕に対抗するように左右に分かれて飛んだ。
互いに攻め手に欠け、このまま手札の出し合いが続くかと思われた頃。
「・・・なあ霊夢。三秒だけ咲夜の動き、止めてくれるか?」
「何?さっきの瞬間移動の対策でも閃いた?」
「まあな。霊夢が言う勘、私の推理が当たってりゃ、多分ガッツリ効くぜ」
霊夢はそう。と短く答えると、先程咲夜を能力行使まで追い詰めた陰陽玉を五つ展開した。
「二秒よ。流石にそれ以上は面倒」
「仕方ねえな、それで良いぜ」
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同時刻、大図書館内。
早々に龍一の膨大な弾幕にやられ、目を回している小悪魔を横にパチュリーはカードを翳した。
「火符【アグニシャイン】!」
パチュリーのスペルカード宣言と共に炎の渦が周囲へ拡散、龍一へと迫る。
龍一は明らかに嫌そうな顔で指を鳴らした。
「・・・邪魔くせえなあ。無明【深度八千の海の底】」
ぞろり、と龍一の背後から、まるで闇を切り取ったような暗い色をした水球が現れ、炎の渦を消さんがために殺到した。
水球は炎の渦に当たるたびに、唸り声に似た、やけに脳に響くを鳴らしながら蒸発、炎の渦ごと消滅した。
やがて一つだけ残った水球は自然消滅し、大型の水で出来た音の主、鯨がゆっくりと飛び出すと、一気に炎の渦へとのしかかり、炎の痕跡は勿論、水の痕跡すら消し去った。
「・・・流石幸夜の先生ね。スペルカード一つでもこんなに疲れるなんて」
「狙ってるわけじゃあねえんだけどな。・・・まあ、完璧な龍神に成ろうとしてた時に作ったカードだから、ある程度は歪んでるだろうな」
次、と龍一はスペルカードを翳し、宣言した。
「理想【完成された演算式】」
電子音が鳴り響き、パチュリーを囲うように数字型の弾幕が展開される。
弾幕の形は8。直線的にしか飛ばない弾幕は中央のパチュリー目掛けて突進するたびに形を変え、数は減少し、やがて1になる。
パチュリーは難なく弾幕を相殺、回避していたが、カウントが1になったその直後。全ての1がパチュリーの方向へ向き、一斉に先程とは比較にならない速度で襲いかかった。
「ッー!?日符【ロイヤルフレア】っ!!」
それに対し、中央から外へと円状に弾幕を放つスペルカードで受けようとするパチュリー。
目論見通り弾幕は1を正確に正面から弾き、上手く受けることに成功していた。
が、1は終わりではなく、0へと変化した。
「あっ・・・!!」
1から0へ。中央に大きな穴を拵えた弾幕は、パチュリーの弾幕をその穴で何事もなく通過させ、中央でスペルカードを構えていたパチュリーへと襲いかかる。
観念したように嘆息するパチュリーだったが、突如感じた冷気と共に、自身の放ったものも含め、全ての弾幕の動きが固まった。
それもただ固まったのではなく、凍りついているのだと目前まで迫った0から漂う冷気で勘づいた。
己の熱量を持つ弾幕すら凍らされたと言う事実まで理解が及んだ彼女は、自然と言葉が漏れ出ていた。
「・・・なに、が、起きたの?」
それに答えたわけでは無かったが、結果的に龍一の絞り出した、呆れと緊張の混じった声が彼女への回答になった。
「あーあー、最高にめんどくさいのが来た。・・・一応聞くが、テメエいつから沸いた?」
再度、冷たい風がパチュリーの横を通り抜ける。
次に聞こえたのは、先程までの空気に合わない、やけに気楽な声だった。
「そりゃあ、龍一が正面入り口で美鈴と戦ってた時からさ。よーく見てたよ。・・・いやはや、我が息子がこちらを視認しているかもしれない。って想像をしてくれたおかげで見つけるのは楽だったね。ところで沸いたって失礼じゃない?蟲じゃないんだけど?」
「その因果捻じ曲げるクソふざけた能力を知れば沸いたって言いたくなるだろうがよ。帰ってくれりゃ助かるんだが?」
幻夜と呼ばれた男は顎に手を置き、少し唸ったのち、首を横に振った。
「うーん・・・ダメだね。そのセリフを言う前に「幻夜が龍一の邪魔をしに来た」「幻夜がパチュリーを助けた」って認識が入ってきた。だからその通りに動くとしよう」
「んじゃ、早々に負けるって俺が考えりゃ、負けてくれるんだな?」
「いや、それはないね。特大の認識が僕を覆ってる」
巨大な氷の結晶を背後にいくつも浮かべながら、幻夜は龍一に笑う。
「僕が滅多に負けないって、僕の大切な人達が信じてるから」
周辺一帯が、凍土となった。
次回へ続く
無明【深度八千の海の底】
龍一の所有するスペルカードの一つ。計十個の大型水球を放ち、そこから噴き出す小型水球が対象を追尾する。どんな弾幕でも大型水球に命中した場合、大型水球は霧散する。ただし一つでもスペルカード終了直前に残っていた場合、鯨が出現、周辺一帯を押し潰す。
発動中鳴り響くのは鯨の鳴き声。
龍神たれと己を殺し、先へと進んでいたが、誰にも辿り着くべき先が分からないと言うことを知ってしまった龍一の精神状態と、先の見えない深海とが混在したカードになっている。
理想【完璧な演算式】
龍一の所有するスペルカード。8の形をした弾幕が対象を囲むように出現、数発が対象へ直進するが、直進するたびに数字は7、6と減少する。カウントが1になった瞬間一斉に対象へ直進。直後に0へと形を変える。
8から始まるのは、龍一が龍神たれと自己を完璧なものにしたかったが、理想の8割程度にしかなれなかった、という皮肉から。
龍一は「龍神に成ろうとしていた時」と「龍一で在ろうと決めた時」の二種の精神状態でそれぞれスペルカードを制作した。そのため陰鬱な弾幕と軽快な弾幕の二種が存在する。
精神上、「龍神に成ろうとしていた時」のスペルカードの方が攻撃性が高い。