ゆっくりご覧下さい。
___???周辺
三台の大きな馬車が、砂利道を走っていた。
一台目には鎧を着こみ、武装した男達が談笑しながら馬車を走らせていた。
二台目は戦闘には向かないような衣服を着こんだ、老若男女問わず様々な者たちが、子供や赤ん坊をあやしながら、馬車を走らせていた。
三台目には誰もおらず、大量の衣服や食料が積まれており、二台目の馬車と繋がっていた。
二台目に乗っていた物腰の柔らかそうな男が、同じ馬車に乗っているが、一人だけ身なりの違う男に声をかけた。
「旅の人、本当に付いてくるのかい?我々は流浪の民故、定着しないよ?」
「構わない。元から俺も元の場所には帰る気はないんでな」
問いかけられ、答えた男は、編笠・・・虚無僧傘のようなものをかぶっており、表情は見えない。着流しのようなものを着用しており、馬車の壁にもたれていた。腰には打刀が据えられていた。
「そうか・・・しかし、ここいらでは見ない格好だね。どこから来たんだい?」
着流しの男は、東を指差した。
「・・・海を越えた、東の国から」
「え!おじさん、向こうの国に行ったことあるの!?」
着流しの男の言葉に、一人の子供が目を輝かせる。
「・・・ああ、あるとも。向こうは私の故郷だ」
「じゃ、じゃあ、いっぱいお話聞かせて!」
「おや、私も気になるね。・・・旅の人、少し話してくれるかい?」
「・・・いいとも」
着流しの男はもたれていた背を上げると、語り始めた。
東の地には八首の大蛇がいたこと、それを見事神が成敗した事。
とてつもなく文明の進んだ地が、昔はあったという事。
鬼と呼ばれる、正直かつ喧嘩好きな妖怪がいること。
「・・・これぐらいかね」
いつしか馬車は止まり、男の周りには、馬車に乗っていた人々が集まり、拍手喝采が起きていた。
「・・・凄いな!しかもまるで君がその場で見たような言いぶりで、よりドキドキしたよ!君は詩人か何かかい?」
「・・・いいや、単なる旅人さ」
「おじちゃん、凄い!」
先ほど目を輝かせていた子供は、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「そうかい?ありがとうよ」
着流しの男は笑うと、再び馬車にもたれかかった。
「・・・そういえば、名を聞いていなかったね。私は張(ちゃん)、君は?」
「・・・絶影(ぜつえい)」
絶影と名乗った男は、横になると、眠り始めた。
再び馬車が動き始めた。
____________________
暫くして、絶影が目を覚ました。
「おお、起きたんだね」
周囲でも何人かは寝ており、張も少し眠そうだった。
「ああ、少し・・・」
絶影がそう言うと張は微笑み、そして重い顔になった。
「・・・して、絶影君、四凶はご存知かね?」
「・・・分からない。何なんだ?」
張は周りを見渡すと、小さな声で絶影に囁いた。
「・・・この国で最近最も恐れられ、恨まれている悪神さ」
張は手で四を表すと、ゆっくりと語り始めた。
「奴らは四人いる。混沌(こんとん)、檮杌(とうこつ)、窮奇(きゅうき)、饕餮(とうてつ)の四人・・・いや、四匹だね。彼らは四匹で行動し、数百の軍勢も、数人の精鋭も狂わせ、潰し、切り刻み、食い千切る。・・・此処じゃ死神と同じ扱いさ」
「ほう・・・」
絶影は僅かに檮杌という言葉に反応したが、張は気が付かなかった。
「だから会った時のために一番前に精鋭の傭兵たち五十人を雇って・・・」
ガタン、と一番前の馬車が止まった。
「・・・ごめん、この話はまた後だ。どうした!?」
張は話を切り上げ、止まった馬車の方へ絶影と向かった。
そこには、
「おい!何して・・・」
惨殺された馬と、
「あれ、あれれれれれれれれ????」
泡を吹きながら首がねじ曲がったまま奇声を上げ、血の付いた刀を持った傭兵の一人がいた。
「おい!しっかりしろ!」
泡を吹いている傭兵の知り合いか、別の傭兵がその男を揺すると、
「あ・・・が・・・???」
泡を吹いていた男は突然離れ、踊りながら絶命した。
「どうなって・・・」
どうなっていやがる、そう言おうと口を開いた傭兵の首が飛んだ。
「んなっ・・・!?」
周囲の傭兵が戦闘態勢に移る。が、風が吹くたびに一人ずつ傭兵が切られてゆく。
張は何かを決心したのか、二台目の馬車に向かって叫ぶ。
「皆!!逃げろ!!」
途端に大勢の人間が馬車から出るが、悪手だった。
「ぬんっ!!」
気のこもった叫び声とともに、長身の男が飛び降りてきた。さらに男が着地したときに拳を地面に叩きつけ、地面に崖を作った。
「うわあっ!」
「いやあっ!?」
十名ほどが崖に落ち、五名ほどが崖にしがみつく。混乱に陥った者たちは、何かに操られたように、三台目のまだ無事な馬車の中へと逃げた。
「くっ・・・!?」
図られたと言わんばかりの表情をした張は、次に顔を恐怖に歪めた。
コツコツと軽快に響く足音、ややバリトン声の鼻歌、整った人の好さそうな顔が、こちらに向かっていた。一つだけ異様な点を挙げれば、
「おお、結構餌かかりましたね」
彼の右肩から不気味な翼のようなものが生えている点だろう。
「あ・・・あぁ・・・!」
張はその場にへたり込み、呆然と翼の生えた男を見ていた。
男は張に近づくと、優しい声をかけた。
「・・・そんなに怯えずとも、金や食料は取りませんよ」
男は張の手を取り、優しく微笑んだ。
「・・・美 味 し く 頂 く だ け で す か ら。・・・ね?」
突然男の翼が巨大な顎のように開き、張を飲み込んだ。
「・・・うーむ、そこそこですね。混沌!」
翼の男が叫ぶと、薄目の男が現れた。
「うーい、何ー?」
混沌と呼ばれた男は、さも気怠そうに言った。
「いつもの処分を」
「いえっさー」
翼の男が何か指示をすると、混沌と呼ばれた男は、崖にしがみついた男女に近づき始めた。
「ねー、助かりたい?」
男は崖の傍にしゃがみ込むと、落ちまいとする男に問いかけた。
「ああ・・・!頼む!何でもするから上げてくれ・・・!」
「いいよー」
混沌と呼ばれた男は、崖際の男を掴み上げた。
「助かった・・・!ありがとう・・・!」
「んーん、いいよー・・・じゃ、お願いするね」
薄目だった男は目を開くと、狂気を感じる笑顔を浮かべた。
「んー・・・
落ちてもらうね」
「え?」
混沌と呼ばれた男は持ち上げた男を崖に落とした。持ち上げられた男は信じられないという表情で落ちていった。
「何でも。なんて言うからじゃん?」
ケラケラと男は笑うと、他の者たちにも聞き始めた。
「助かりたいー?」
「ああ!頼む!」
「お願い!助けて!」
混沌と呼ばれた男は、微笑んだ後、四人全員に近づいて言った。
「やだ」
男はしがみついていた八本の手を全て蹴り落とした。
「元から助けるわけないじゃーん」
再びケラケラと笑い始めた。
「お見事。・・・窮奇」
「心得た」
窮奇と呼ばれた髪の長い男は、斬られて瀕死の傭兵たちに近づくと、何も言わずにトドメを刺し始めた。
「浅ましきかな。その程度で傭兵ができるものか。・・・死んで出直せ」
男は残酷な笑みを浮かべながら、虚ろな目をした最後の傭兵の喉笛を搔き切った。
「相変わらずですね・・・檮杌?」
「応!」
檮杌と呼ばれた巨大な男は、三台目の馬車の壁を、ゆっくりと壊し始めた。
「ほれ、逃げんと死んじまうぜよよ」
そう言いながらニヤニヤと巨大な男は笑う。等々馬車は丸裸になり、怯える子供や赤ん坊を守る女や傷を負った男の姿などが見えた。
「こっから交代ぜよ、饕餮」
「どうも、お疲れ様です」
饕餮と呼ばれた、翼の生えた男はニヤリと笑うと、一人の赤ん坊を翼で掴み上げた。
「・・・この子には罪はありませんが・・・一族郎党皆殺しなのでね。頂きます」
母親の制止する間もなく、赤ん坊は翼に飲み込まれた。
「うわー・・・心痛いなー」
「ほざけ、笑っているぞ」
「あ、いけね」
「まああんま見てて気持ちいいもんじゃねえぜよな」
「そりゃそうですよ。・・・じゃ、絶望して頂いたところで、
全 部 喰 い ま し ょ う か !」
翼が布のように広がったかと思うと、馬車の残骸ごと残っていた人間を飲み込んだ。勿論、絶影の話を聞いていた子供も。
「あー・・・不味い」
「だろうな」
「ぜーったい赤ん坊とか食べたく無いわー」
「・・・こちとら仕方なく食ってんのにそれは無いでしょう」
「まあまあ、んな事言っとる暇があるなら・・・」
ふっ、と長身の男が消え、傍観していた絶影に高速で殴りかかる。が、絶影は片手で長身の男の拳を弾いた。
「このよう分からん奴倒す方が先ぜよ!」
「よく分からん奴とは失礼な・・・」
絶影が文句を言おうとするが、頭部に浴びせられた斬撃で中断される。
「今回は檮杌の意見に賛成だ。どう考えても倒さねばマズイ」
「そだね、別にそこの人は気味悪いとか感じないけどさ、なんか・・・殺されそうだよね」
「そこまで言うなら潰しましょうか。・・・絶影、と仰いましたね。何か遺言はありますか?」
絶影は首を捻り、思い出したように答えた。
「じゃあ二つ。1個目は勝負して、万が一俺が勝ったら全員部下になってくれ」
窮奇が噴き出した。
「クッ・・・ハハハハハ!とんだ狂人だ!我らを悪神と知った上でそれか!・・・どうだ饕餮、貴様にも目的はあるだろうが、万が一この狂人が我々より強ければ変わるぞ?」
「窮奇・・・いいでしょう。乗らせて頂きましょう。他二人は?」
「どっちでもー」
「喧嘩できる方がいいぜよ!」
「・・・はぁ、では乗ります。二つ目は?」
絶影は虚無僧笠を脱ぎ捨てると、ニヤリと笑った。
絶影の片目は山吹色に光っていた。
「ファンなんとか、ご存知ないか?」
この言葉には饕餮が反応した。
「・・・ファンロン、とすれば、何故その名を?」
「たまたま道すがら聞いた。檮杌の事も聞いてる」
饕餮は背の翼を撫でながら言った。
「どうやら狂人でもないようですね・・・これは我々が一人ずつ丁寧に刃を向けるべき相手、そう捉えましょう。混沌!」
「いや、なんで僕から?」
「文句なし、さっさと行って下さい」
「うーわ、鬼だ・・・」
混沌はブツブツと言いながら、絶影に敵意を向けた。
「まいっか。・・・こっちも色々あるから消えてもらおっかな・・・まあ、ちゃっちゃと行こうか」
ニヤリと笑った混沌が指を鳴らすと、数百の槍が現れ、一斉に絶影に射出された。
次回へ続く
ありがとうございました。
次回、混沌戦です。
ゆっくりご覧ください。