ゆっくりご覧ください。
「さあ、止めて頂けますかね?」
そう言いながら翼を蠢かせる姿はまさに・・・化け物。
俺はゆっくりと義眼を外し、黒色と藍色・・・重力操作とベクトル操作に変える。
「さて・・・行きましょうか」
饕餮は自分の背後のぬかるみ始めた地面に翼を押し付け、バネの様に反発させて俺に襲いかかって来る。
俺は気休め程度に五発拳銃を放ったが、全て翼に塞がれ、取り込まれる。
「だよなぁ!?」
やはり見たことがある。それも碌な思い出じゃない。・・・あの高澤を貫いた謎の生き物とほぼ性質が近い筈だ。事実饕餮は一枚しか翼が見えない。
「そりゃそうでしょう。そんな武器では致命傷は受けるでしょうが、当たらないので倒せませんよ」
そう言いながら饕餮は翼を地面に突き刺し、ブレーキをかけながら俺の胸に吸い込まれる様に蹴りをねじ込んだ。
「ゴッ・・・!?とはならんのよ」
俺は受け身を取って構え直し、饕餮に直接拳銃を放とうと近づく。
「近距離・・・まあ守備圏内ですね」
饕餮は翼を地面に突き刺し、岩を掘り出し、翼で投げつけてきた。
「お前、岩は雑すぎるだろ・・・!?」
「雑も何も・・・殺せりゃ良いんですよ」
そうして殺意全開で襲いかかって来る。正直翼が第三の腕のようになっており、本物の腕の手刀との乱撃が上手い。俺は岩を殴って粉砕し、饕餮の乱撃に備えた。
手を躱せば翼が、翼を躱せば手刀が襲いかかってくる。
「しっかし・・・驚いてる割にはよく躱せますね?」
「・・・以前似たようなのと戦ったんでな」
それを聞いた途端に饕餮は一度下がり、俺を殺すような目つきで睨んだ。
「貴様、今なんと?」
「見たことがある。倒したら青銅の破片が出てきたぞ「貴様ァッ!!」いやいや理不尽!」
饕餮の乱撃がより熾烈になる。中には噛み付くという攻撃や、飲み込もうとする即死技が混ざり始めた。
「貴様もか!!貴様も・・・彼等を・・・!」
何か盛大に勘違いされてる気がする・・・!!
「ちょ、待てよ!俺は見た事あるだけでお前みたいな人型とは戦った事ねーよ!「口を閉じろッ!!」・・・話聞けやボケナス!!」
もうダメだ、キレるわ。話ぐらい聞けや・・・!
俺は饕餮を蹴り飛ばし、八岐の剣を構える。
「そっちがその気なら・・・こっちだって遊んでんじゃねーんだよ」
饕餮の妖気が、殺意が、さらに増し始める。
「・・・チッ、やはり貴方も神ですか・・・殺す」
饕餮は以前以上の速度で飛びかかってくる。が、
「なっ・・・!?」
今は雨、ぬかるんだ地面が饕餮の速度を緩める。
「馬鹿め!俺の雨男スキルを舐めてんじゃねーぞ!!」
八岐の剣の効果で第六感が劇的に上がり、更に速度の下がった饕餮を俺はバッティングの要領で吹き飛ばす。尚雨が降ったのは饕餮の力でもなく、偶然。強いて言えば、俺が雨男だから。
「んなっ・・・!?」
不意を突かれたような表情をしたまま、饕餮は瓦礫を作りながら地面に激突した。
「・・・はぁ、とんでもない化け物だな・・・「まだだ・・・!」・・・うっそだろお前!?」
終わったかと思ったが、八岐の剣の打撃を食らって尚、饕餮は瓦礫を翼で持ち上げ、立ち上がった。
「終わるわけには・・・行かないんですよ・・・!」
しかし饕餮はその場に座り込んだ。翼は瓦礫を支えており、動けない。
「なあ、これで終わり・・・とは言わないが、一度話し合わないか・・・?」
俺は饕餮に近寄り、ゆっくりと語りかけるように話す。饕餮は頷いた。
「ええ・・・とりあえず終戦は受け入れましょう。流石にあれをもう一度は目的を果たせずに死にますから・・・」
「・・・成立だな」
俺は饕餮の手を取り、
「まあお返しはしますよ」
取った手から出た黒い物に刺し貫かれた。
「・・・!」
翼だった。俺は瓦礫を確認するが、そこにはちゃんと翼があった。
「あー・・・理解が追いついていない様子。簡単ですよ?
誰がコレが一つだけだと言いました?」
図られた。コイツはずっとこの瞬間を狙っていた・・・?
「お前、まさかコレを・・・!?」
「ええ、狙ってましたよ。・・・まあ効いてなさそうですので万策尽きて降参ですね。後四枚ありましたが正直今では倒せません」
そう言って翼は俺から引き抜かれる。相変わらずこの見たことのある黒いのは再生を阻害するらしい。まあ臓器がここに無いので無意味なのだが。
そう考えていると雨は止んだ。
「やれやれ・・・とんだ化け物並の神と対峙したもんです」
「まー、いずれやられただろうし?そろそろ切り替えても良かったんじゃない?・・・一般人殺すの飽きたし」
「確かに、お前と違ってこっちは闘争を求めてるんでな、そろそろ手応えが欲しい」
「それ以前に俺らは負けたんぜよから、さっさと従事するぜよ」
そう彼らは言うと、膝をその場に折った。
「我ら四凶、貴方に従い」
「余裕があれば裏切り」
「理不尽な命には逆らい」
「勝手気ままにやらせてもらいまーす」
「よって我ら、貴方にテキトーについていきます」
清々しい程心のこもっていない誓約だった。
「へーい。了承。四凶に所有妖力の一割を配布」
俺も詠唱は苦手なので軽く了承する。
「・・・おお!急に力が溜まった感じぜよ!」
「これが主上の力、か・・・ますます裏切るのが楽しみになってきた」
「怖い事言うなよ・・・じゃあ名前付けるから一列に並イェ゛ァ゛!?」
自分でも訳の分からない奇声を上げながら後頭部に何か直撃した。
青銅の塊だった。
「まさかこれからのマスターは厄病神かな?」
「クソが・・・!どうせこれまた手紙だろ・・・!」
案の定青銅の塊は崩れ、手紙が現れた。
中には名前リストと書かれた手紙と、定番の訳の分からない事が書かれた感謝状らしきものが入っていた。
「えー・・・混沌は幻夜(げんや)、檮杌が壊夢(かいむ)、窮奇が風魔(ふうま)、饕餮が侵二(しんじ)・・・って誰だこれ送ったの?」
「んー・・・幻夜っての悪くないかなー」
「壊夢・・・か、良いぜよな!」
「変わった名を付けたな?だが風魔か、気に入った」
「侵二ですか・・・良い名前ですね」
満足してるようなので何よりだが・・・俺が鉄の塊をぶつけられたことにはノーコメントか。
「まいっか・・・じゃ、それで名前決定。後は・・・これ持ってくれ」
俺は四人にそれぞれ違った色の首飾りを渡す。それぞれ緑色、白、紅、黒で刀を象ったデザインのものだ。
「何ですか?これは?」
侵二が黒の首飾りを眺めながら質問する。
「お前らのこれからの武器・・・の元。握りしめてみろ」
しばらく無言で振り回していた幻夜が初めに握りしめると、首飾りが発光し、長さが二メートル半程の青白い槍になった。
「はえ〜」
気の抜けた返事をしながら幻夜が振ると、周囲の地面が凍りついた。
「おひ〜」
「お、じゃあ次は俺ぜよ!」
壊夢が潰しそうな握力で首飾りを握りしめると、首飾りが音を立てて割れた後発光し、手甲に変化した。案の定それを装着した壊夢が拳骨を地面に叩き込むと、周囲の地面が爆散した。
「おー」
「次は私か・・・」
風魔が首飾りを握りしめると、刃長一メートル程の長い日本刀に変化した。風魔が無造作にそれを振ると、暴風が巻き起こった。
「不足無しだな」
「じゃ、私ですかね・・・っと」
侵二が首飾りを握りしめると、ごく一般的な細剣が現れた。唯、一般的でないとすれば・・・
「じゃ、振りますね」
振った瞬間に周囲一帯に黒い雷が落ちるぐらいだふざけんな。
「まー・・・殺しきれそうなんで良いですね」
侵二は細剣を鞘にしまうと、俺の方を向いた。
「さて、・・・貴方は一体何の神なんですか?」
「龍神。神谷で通るか?」
「成る程、龍神でしたか・・・ん?」
侵二は一度納得した表情をしたが、事のおかしさに気がついたのか俺に近づいた。
「いやいや、龍神ってのはちょっとご冗談が過ぎませんか?「・・・諦めろ。さっき調べたら神谷ってのは龍神の兄の名字だ」・・・それ本気で言ってます?」
風魔がどこから盗んできたのか、やけに煌びやかな辞書らしきものを捨てると、俺に溜息をついた。
「しかしまあ貴方がかの有名な拳骨神とは・・・壊夢が勝てんわけだ」
「え?マジ?これからの上司拳骨神なの?」
「拳骨神言うな」
俺は高そうな辞書らしきものを掴み、俺のページを開き・・・よく見れば龍華の事も細やかに書いてあったので・・・破り捨てた。
「・・・こんなもんどっから持ってきたんだよ・・・」
俺は思考を変える為首を横に振り、四凶の方を向いた。
「まあ良いか。・・・何か未練とかある?」
「あ、私良いですか?」
侵二が手を挙げた。
「・・・長く戻らないとすれば、殺すつもりだった相手が居るんですが・・・今、主上によって増やされた妖力がある状態なら間違いなく、すぐに殺せます。行かせて頂けますか?」
初手殺害協力かよ。まあ長くフラフラしてたせいで全く戦闘意欲が満たされていないから上等なのだが。
「殺るんだな、侵二?」
「ええ、とうとう殺せるんですよ・・・」
「よく分かんないけど遊べそうだねー」
「要はぶっ殺せばええぜよな?」
「血気盛んなのは良いが、何を殺るんだ?」
侵二は微笑んだのち、右手を握りしめた。
「麒麟」
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・・・余談だが、割れた青銅の中の手紙にはこう書かれていた。
お疲れ様です。さて、四凶の名前を推薦します。
幻夜、壊夢、風魔、侵二。この四つです。誰に何を付けるかはお任せします。
・・・よくもまあ一人で無茶な事やりましたね。お疲れ様です。
_____こちらもやり直しが効き始め、あと半分程、それで・・・
いや、言うのは不粋ですね。いずれ改めてお話しましょう。 貴方の旅に騒乱あれ、また会える事を楽しみにしています_____
・・・コイツらは一体何者なのだろうか。コイツらは口を揃えてやり直しがどうだと言う。何をやり直しているか、それも分かっていない。
いつか分かるのだろうか?
次回へ続く
ありがとうございました。
もう少しこのくだりのストーリーは続きます。
次回もお楽しみに。