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主上と離れてから、私はふらふらと山や川を訪ねていた。
今も私は新しい山・・・と言っても前々から目をつけていた山に登っていた。川などは無いが、木々が鬱蒼と茂り、心地よい風を吹かせている。特に私からすれば高いわけでも無かったので、楽に崖から登ることが出来た。道中巨大な岩はあったものの、切り捨てた。
頂上は少し平たくなっており、山頂の景色を一望できた。あらゆる所から獣の声が聞こえ、自然を感じられる。
「・・・斬るのも良いが、こう言ったものも良いものだな」
などと考えていると、近くに妖の気配を感じた。上手く人間に化けているようではあるが、どことなく人間では無いように感じられる。
相手は一人。殺るかと物騒な思考が真っ先に出るが、何となく話してみようと思い、そっと気配を消して近づいた。
念の為大太刀はその場に捨て置き、登山時に切り出しておいた岩の破片を構え・・・
「動くな。動けば喉をぶった斬る」
「ひっ!?」
対象の背後に回って優しく無力化する。女か。
「・・・あ、貴方は何者ですか?」
「旅の人間だ。何となくこの山の景色を見に来た」
呼吸するように嘘を吐く。すると対象の彼女は少しだけ力を抜いた。
「貴方もですか。私もこの景色を見に来たんですよ。・・・あの、私も人間なので下ろしてもらえますか?」
「・・・すまんな」
ここで貴様妖の癖に嘘をつくななどと言って叩き斬るのも気が引けたので仕方なく岩の破片を捨てた。
「ふぅ・・・ありがとうございます。ここにはよく来るんですか?」
「いや、今回が初めてだな。・・・いつも来るのか?」
「はい!ここは私が悩んだ時によく訪れる場所ですから」
異様な高さを誇る山である上に途中の岩を無視している時点で人間かは疑わしいし、よく来ると言ったワードで私は妖ですと自白しているようなものだが、コイツさてはアホなのではと思ったので余計な心配をやめる。
「そうか。・・・私はカザマ。お前は?」
「えっと・・・い・・・シオリです」
詰まっている時点で偽名だろうがと突っ込みたくなるが、再び抑えて私も微笑み、彼女を眺める。何せ私も偽名だからな。
外見は17歳程度だろうか、背も平均的で顔も幻夜の愛娘並みに良い。黒い長髪が目立つ女性だ・・・と思いながら、さては天狗とやらかと勝手に邪推する。
「そうか。先程は申し訳無かった。怪我は?」
「大丈夫です。・・・えっと、その、良ければ案内しましょうか?」
「良いのか?」
「はい。・・・その代わりと言っては何ですけど、後でお話を聞いていただければ幸いです」
「その程度ならいくらでも問題ない」
「では、案内しますね!」
飛翔の予備動作を行いそうになって、ハッとしたのか躓いたふりをして歩いているのを半目で眺めながらシオリに着いて行く。コイツさてはアホだな(二度目)
「今の躓きは飛ぶ気か?」
「ま、まっさかぁー」
断定、アホだ。
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「この辺りが一番綺麗ですよ!・・・滝は枯れちゃってますけどね」
シオリが紹介してくれたのは、岩の切り立つ崖の上だった。丁度山の外と、山の森林を同時に見られる場所だった。
「・・・いつから滝が枯れたんだ?」
「にじゅ・・・二年前です」
隠す気ないのかコイツは?
「・・・やはり滝はあった方が良いか?」
「そうですね・・・あの時の方が綺麗でしたね。でも、今後ろにある岩のせいでちょっと・・・」
「なら壊せば良いんだな?」
「そうですね・・・へ?」
抜刀、人間よりやや上の筋力をつけ、跳躍する。
「セアッ!」
縦一閃。岩はズルリと縦に割れ、ガラガラと崩れ落ちる。
「これで直るだろう」
「いや、え?ええ!?」
「・・・どうした?人間なら誰にでも出来るはずだな?」
「そ、そうですよね!「そんな訳ないだろうが天狗」へ!?」
シオリは私を見て何故分かったのか分からないような驚愕の表情を見せる。
「アホか。間抜けすぎて丸わかりも甚だしい。私が岩を切れたのは元々そういった仕事、まあ石工をしていただけで、一般の人間には無理だ。人間のフリをするならもっとまともにやれ」
「てへへ・・・ばれちゃいましたか。でも何で斬らなかったんですか?」
「・・・元々妖怪だろうが何だろうが気にせんクチでな。単なるアホと認識していた」
「そうですか・・・って、誰がアホですか!」
「フッ」
何ですかその笑い方ー!と、シオリが俺を蹴る。全く痛くない。
「で、俺をどうする気だシオリ。喰うのか?やめとけ腹を壊すぞ」
「た、食べませんよ!・・・ちょっと人間と仲良くなりたかったんです」
「で、俺を見つけて背後を取られて見破られると。散々だな」
「うぅ・・・」
「・・・まあ、友人になるなら良かろう。よろしくな」
「へ?い、良いんですか!?」
私は呆れて息を吐く。
「嫌ならとっくにバッサリ斬ってるぞ。俺の知り合いの妖怪ならお前は今頃頭からボリボリ喰われ終わってるだろうがな。今は骨も残ってないな」
「ぼ、ボリボリ・・・嫌です」
遠くから失礼な、そんないきなり食べませんし、モグモグですよと声が聞こえた気がするが幻聴だろう。いきなりじゃなければ食べるのか。
「ところで・・・お前はいくつだ?」
「女の子に年を聞くんですか?顔が良い割には失礼な人ですね「抜刀」すいません許してください170歳です」
「何だ、まだ小娘か」
「こ、小娘って、人間に言われたくないですよ!「私の知り合いに億を超えた奴がいるが?」・・・それ誰の事ですか?」
「ふむ・・・かの有名な元凶悪犯罪者、絶影だな」
「ぜ、絶影って、あの四人の妖怪と暴れまくった人ですか!?」
「そうだ。性格の一致で知り合った。・・・今は犯罪容疑も無し、ゆったりと山にでも籠っているだろう」
そうですか、とシオリは引きつった笑顔を見せた。・・・まずかったか?
「しかし、友と言ってもどうすれば良い?」
「えっと・・・お話を聞かせて頂ければ、それで良いです。私、この山と向こうの山以外、出た事がなくて・・・」
「・・・なら、好きなだけ聞かせてやろう。・・・何なら、案内してやるから山を出るか?」
「口説いてるんですか?「そうかもな」へ!?」
別に悪くはないだろうと思いながら、結局どうなんだと聞く。
「いえ・・・そうしたい気持ちは山々なんですけど、私、そろそろ嫁ぐんです。他の山の天狗と・・・」
「ふむ・・・なら良いではないか、良かったな。口説き損ねた」
「そう・・・ですね」
シオリが顔を俯かせる。
「嫌か?」
「・・・でも、お仕事ですから。相手の顔も見たことありませんし、どんな人かも知りませんけど・・・」
・・・何故か分からんが、胸糞が悪くなった。
「・・・決めた、貴様を奪い取る。口説き損ねたから実力行使だ」
「へ!?い、いきなりにゃにを!?」
「奪い取って様々な場所を見せる、貴様の隣にいてやる。貴様を嫁にする」
「よ、嫁ーっ!?・・・い、いや、確かに見た感じ良い人ですけど、無理なんです!天狗は天狗か、それより上位の者としか結婚できないんです!・・・特に、私は良いとこで育ったせいで、嫁取りをするなら私の山の天魔様を倒さないとダメなんです!・・・カザマさんが上位の妖怪なら喜んでましたけど・・・人間ですし」
「・・・倒せば良いと?」
「そうですけど!天魔様は風魔と呼ばれる化け物を倒したそうですよ!流石に人間なのでカザマも無理です!」
ほんの少しガラにもなくキレそうになるが、しっかりと抑えてシオリに微笑む。
「案ずるな。貴様が嫌でないなら奪い取る。斬って奪る。・・・私は風魔を知っている。と言うか一番奴のことを知っているかもな」
「お友達なんですか?」
「いや・・・まあ、特別だな」
私は大太刀を改めて背負い直し、首をコキリと鳴らす。さて、すると天魔は倒したと嘘を言っていた奴が知った状態で嫁をもらいに来るとやって来るのか。最悪の場面だな。
「か、カザマ・・・」
「何、私は嘘吐きでな。保証はせんぞ」
腕を回し、手足もゆっくりと回す。煙管を咥え、すっと雲を作り上げる。
「・・・申し訳ないが、案内を頼む」
「・・・はい」
私はシオリに連れられ、別の山へと降り立った。
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「・・・ここです、あの、今からでも逃げて「聞け!天狗共!侵入してやったぞ!」えーっ!?ちょっと!」
瞬く間に犬の様な耳の生えた天狗に囲まれる。
「来たか。・・・では、せいぜい天魔が出るまで釣り餌になって貰おうか!」
大太刀を構え、高速で峰側でぶん殴る。周囲の木々丸ごと吹き飛び、相変わらず地面が抉れ飛ぶ。
「な、何だアイツは!?急いで上に連絡しろ!」
「ちょっとカザマ!何してるんですか!?」
「聞け貴様らァ!「カザマ!?」私は女を貰いに来たァ!話がしたい!天魔を出せッ!さもなくば皆殺しだッ!」
伊織を横に抱え、山を駆け上がる。道中の羽の生えた天狗を蹴り上げ、犬の様な天狗を吹き飛ばし、道中の滝を止めて壁走り、崖を粉砕して登り、川を割って駆け抜け、森の隙間を縫って走り去る。
「出て来い天魔ァ!その首寄越せえッ!」
次回へ続く
翼でモグモグは蛇が卵を飲み込むようなイメージだと考えて下さい。なお食べられるのは人間の様子。
次回もお楽しみに。