一回くらい悪役のこいつやるな、みたいなセリフ、言ってみたいですよね。
ドン引きされますけどね。
ゆっくりご覧ください。
「天魔ァ!」
風魔は峰打ちとは言え大太刀を振り回し、崖を文字通り粉砕して舗装しながら高速で駆け、天魔の家だとシオリから聞いていた屋敷に突っ込んだ。
「頼もーッ!天魔!許可を求める!許可せねば首貰い受けるッ!」
蹴破られる引き戸、腕の中で気絶するシオリ、風魔の過ぎ去った、まるで舗装された様に伸びる道、そしてギラギラと目を光らせる風魔。側から見ても何があったか分からない。
「拙僧カザマと申す、ここにいるはずの天魔を出せ」
「痴れ者が!この場で消え去れ!」
一人の鴉天狗が風魔に刃を向ける。
「ここの奴らは暴力で会話するのか?」
しかし風魔は気怠そうな声で一瞥し、シオリを右手で抱えたまま左手の手刀で刃を受け流し、腕を掴んで引き寄せ、肋骨の継ぎ目に膝蹴りをねじ込んだ。鴉天狗は崩れ落ちた。
「天魔を出せ」
シオリを揺すって起こしながら、相変わらずの気怠そうな空気を纏って屋敷の中を歩き始めた。とりあえず引き戸を直せ。
「・・・だんまりか。仕方ない、表へ出ろ!さもなくば、こちらで預かっている天狗の娘をここで斬る!「え!?ちょっと、聞いてないですよ!?」・・・十数える、出ろッ!・・・いーち、にーい、さーん、しーい、・・・飽きた、十」
瞬間風魔はシオリごと暴風に吹き飛ばされた。
「・・・この私にまだ挑むと言うか、痴れ者が。どこの妖怪かもわからぬ奴に、私の道具はやらん」
風魔は瓦礫から無傷のシオリを下ろし、血混じりの唾を吐き、暴風を起こした男を睨みつけた。
「ならせめて被害を最小限に抑えろ、後道具を乱暴に扱うな。馬鹿が」
「ふん。・・・しかし、私の道具である女を貰うと言っていたが・・・伊織(いおり)の事であったか。尚更やらん」
「伊織・・・?シオリ、貴様偽名なのは分かっていたが、伊織と言うのか「何で分かってたんですか!?」気にするな。・・・ところで天魔だったか、貴様、風魔と呼ばれる妖怪を倒したとか」
天魔はさも誇らしげに笑った。
「そうよ、この我があの風魔を倒したのだ。今更真実と知って怖気付いたか?」
「いや、貴様を殺す必要が出来た」
風魔は苦笑すると、大太刀を一度鞘に収め、構えた。
「で、どうだ天魔とやら、私は貴様を知らんし、負けた記憶もないが、再戦する感想は」
「どう言う意味だ?」
「つまり・・・本来なら風魔は貴様と面識がなかったのだが、いつのまにか貴様に倒された事になっており、疑問を抱いたまま・・・今ここにいるんだ。分かったか?」
さっと天魔の顔が青く染まる。
「ば、馬鹿を言え!まさか、貴様がそんなはずは・・・」
「拙僧、カザマ改め、風魔と申す。で、再度問おう。私は貴様を知らない。再戦の感想はどうだ?」
天魔は首筋に刃物を突きつけられたような殺意を向けられ、動けなくなる。
「あ・・・う・・・」
風魔は苦笑し、更に殺意を向けた。
「もういい、見たところ肩透かしなのは染みるほど分かった。それに貴様が天魔なら、貴様を討って伊織を貰う」
風魔は天魔の首を掴み、微笑んだ。
「肉片も残さずに塵となって死ね」
風魔の姿が揺らぎ、次の瞬間天魔は空で塵になっていた。
「へ?」
呆ける伊織の隣でいつのまにか風魔は立っていた。
「さて、伊織、騙していたが私が風魔だ」
「いやいやいや!それも大変ですけど!!それ以前に大変な事ですよ!?天魔様が亡くなったらどうしたら良いんですか!?」
「お前か私が天魔になれば良い。そしてどちらにしろ私がお前を貰う。・・・問題あるか?」
「い、いや・・・無い・・・のかな?いやでも・・・やっぱり無いのかな?」
風魔に言いくるめられているのか、それとも事実だから仕方ないのかわからないまま、伊織は頷いた。
「そら見ろ無いではないか。・・・では伊織、私はお前のアホさと純粋さを一目見て気に入った。お前が良ければお前を貰う。どうだ?」
「・・・よ、よろしくお願いします・・・?にへへ・・・」
伊織は困惑しながらもこくりと頷いた。良いのかそれで。
周囲も大困惑とツッコミ待った無しだが、誰一人止めに向かうものはいなかった。と言うか止めたら斬られていたのは間違いない。皆が本能レベルで危険を察知していた。事実二人に近づいた羽虫がいつのまにか惨殺された。
「ところで・・・遺体を細切れにして焼いたから何が起きたか分からんかっただろうが、知り合いが死んだ感想は?やはり嫌だったか?」
「・・・あの人は確かに私の育て親でしたけど、生みの親を殺して奪ったそうですし、あんまり良い思い出もありませんでした。・・・でも、供養だけはします。育ての親なのは間違いないですから」
「そうするならそうすれば良い。止めん。・・・ところで、なぜ私で良かったんだ?」
「え?・・・その、ひ、一目惚れでしゅ・・・」
風魔はそうかと嬉しそうに笑い、そう言えば貴様の婚約予定相手は別の山の天狗かと呟き、叫ぶ。
「この山の天狗共!おそらく状況は把握しただろう! 私に喧嘩を売る気がないなら集え!嫌なら逃げろ!」
風魔が大太刀を地面に突き刺し、腕を組む。暫くの後、風魔の前には数百の天狗たちが揃っていた。
「ふむ、やはり何百人かは逃げたか。・・・さて問おう、ついさっき私は天魔を殺した貴様らの仇であり、貴様らの恐怖する悪神の風魔だ。確定事項として、私は伊織を貰う。・・・それとしてだ、天魔に誰がなるか・・・何だ貴様らそのあなたがやってくださいみたいな目は。それで良いのか、私は天狗じゃないぞ?」
その場にいた如何にも高齢な鴉天狗が声を出して微笑んだ。
「・・・昔、天魔を討ち取ったものが新たな天魔になるという決まりがありました、あのお方もそうでしたので、面倒なのでそれで行きませぬか?別に風魔様なら文句を言う者も居ますまい」
「面倒!?暴れまくった側から言うと変だが、それで良いのか!?」
周り全てが頷く。
「そもそもそういったのを受け付けないお堅いお偉いさんは逃げてますぜ、天魔様」
若い鴉天狗がニヤリと笑う。
「天狗は仲間意識の強い、他の妖怪をあまり受け入れない誇り高い奴等だと聞いていたんだがな・・・「誇りは高いかもしれませんけど、それどこの冗談ですか?」・・・お前まで言うならここは別例なんだろうな」
風魔は笑いながら溜息を吐き、真面目な顔になる。
「では、これより私が天魔だ。改めて問うが、文句はないんだな?文句があるなら出てきてもらって構わんのだぞ?」
誰一人前に出なかったので、風魔は苦笑した。
「飲み込みの早い良い奴らだ。では受付を締め切る。これより私、風魔がこの山を仕切る。よろしく頼む。・・・では手始めに山の舗装から始める。すでに道は敷いておいたから、そこを綺麗にして行こう。その次は伊織の婚約者の山を潰す」
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と言ったものの、そこそこ山は酷い有様だった。叩き切った岩を筆頭に大量の岩石、流れのない川、滅茶苦茶に生えた木々。殺した先代は才能なしかと馬鹿にしながら、今は何人かの鴉天狗に囲まれていた。なぜ女ばかりなんだ。と風魔は疑問に思う。
「天魔様はあの風魔なんですよね!他の絶影さん達は何処にいらっしゃるんですか?」
「まずマイペース馬鹿の幻夜は娘と生活「娘!?」義理だ義理。暴力馬鹿の壊夢は里帰り。主人の絶影と大食いの侵二は散歩だ」
「風魔様は何をされていたんですか?」
「前までは主上と共に喧嘩三昧だったな。つい最近は山の上の景色を見るためにのんびりとしていたな」
私は手が空いたので、キセルを口に咥え、火をつけようとする。するといつのまにか隣にいた伊織が火をつけてくれた。
「どうぞ」
「あ、ああ・・・ありがとう。・・・ん?お前、さっきまでいなかったんじゃないか?」
伊織は何故か不機嫌そうに私の目を見る。
「さっき来ました」
「・・・そうか。・・・何か怒っているのか?」
「ちーがーいーまーすー。無理矢理私なんかを妻にしてくれた旦那様が構ってくれなくて妬いてるんですー」
私はむせた。言ってるではないか。
「ゲホッ!・・・お前、まだそんなに離れてないだろうが。そもそも無理矢理嫁にしたのに、嫌ならわざわざ甘えに来る必要は無いんだぞ?」
伊織はやけに不機嫌そうに俺にしがみつく。・・・全く分からん。
「嫌ならお受けしていませんー。私も嬉しかったんですー」
「・・・どういう意味だ?」
「だからですねー、・・・あのですね、その、あの・・・私も風魔の事、良いなぁーって思ってました。一目惚れだと言いましたけど、本当になるとは思ってなくて、ほんとはもっと甘えたいんれすー」
「大事なところで噛むな」
「う、うるさいです!」
「・・・面倒な奴を嫁にしてしまったな。やれやれ・・・」
私は話を聞きに来ていた天狗達に謝り、すまないが話を聞きたければ日を改めてくれ、今は嫁がうるさいと伝える。数名は気分を損ねたのか、舌打ちや惜しかったと呟きながら去っていった。・・・申し訳ないな。
「・・・伊織、なんのつもりだ?」
「ただのマーキングです。風魔はもう私の旦那様です」
「はあ・・・」
若い男衆から、「この辺りは我々が何とかするんで、惚気はあの屋敷でやってて下さい」と言われたので、仕方なくベッタリの伊織を抱えて天魔の屋敷へと帰った。
「ふーうーまー・・・ふふふ」
「まさかこんな奴だったとはな・・・」
次回へ続く
次回もお楽しみに。
・・・ところで、北海道滅茶苦茶揺れてましたね。
私の中学時代の先生のご両親も北海道在住だとか。
北海道の皆様の無事と、早くの復興を願います。