真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

37 / 126
姿があって滅茶苦茶強い奴が喰い殺しにくるのと、姿が無くて何をしてくるかわからない奴が殺しにくるのって、どっちが怖いんですかね。

ゆっくりご覧ください。


第三十七話 戦いましょう

幽香と付き合って一週間、前と同じように朝ご飯を作っていると、幽香が僕に言った。

 

 

「幻夜、勝負してみましょう」

 

 

「えぇ・・・」

 

 

僕は断ろうとしたけれど、幽香が元から戦闘好きだったらしく、引き下がってくれなかった。

・・・だから花畑行くって言った時に人間はやめとけって言ったんだね。

まあ気にすることはねーだろ。

君は黙ってて。勝手に話したことまだ許してないからね?

・・・チッ、悪かったよ。

 

 

「じゃ、ご飯食べてからやろっか」

 

 

二人で和やかに食事をして、一度紅茶を飲んで落ち着いて・・・

 

「さーてと、ここで良いかな?」

 

 

さて勝負だ。挑まれたからには負ける気は無い。

けど、怪我させるのもなぁ・・・

 

「ここなら良いわね。さてと、どっちかが気絶、又は降参までするわよ良い?」

 

 

「もー、しょーがないな・・・いいよ。その代わり怒らないでよ?」

 

 

幽香は僕に笑った。

 

 

「勝負の勝ち負けで怒らないわよ」

 

 

「オッケー。じゃ、行こっか」

 

 

因みにだけれど、僕等四凶には転変という能力がある。人間の姿に加え、獣の姿に変わることが出来る。おぞましいけど。

例えば、壊夢は人間の顔をして、猪の牙を生やした虎、風魔は背中にハリネズミの針が生えた翼のある虎、侵二は・・・人間の目のない顔と爪、虎みたいな牙、頭に生えた曲がった角、羊みたいな体、脇についた目、そして顔についてる青銅の画面。人間みたいに器用には動けなくなるけど、力が増す感じ、かな?

因みに僕は体にあるはずの穴のない犬。目も鼻も耳もない。おまけに尻尾咥えてグルグル回ることしか出来ない。

見たら頭おかしくなって狂死するみたいだけど。要は使い物にならない。

 

 

それは置いておいて、幽香が日傘を振り上げて突っ込んで来た。

・・・いやいや、そっち系!?幻惑させて不意打ちじゃなくて、力押し!?その日傘鈍器!?

ボケ!騒いでねえでトラップ!

 

 

「ッ!」

 

 

左足を踏みならし、地面を凍結させる。幽香の足元も一瞬凍りつき、体制が僅かに揺らぐ。その隙にダッシュで幽香に接近する。

足裏に氷の刃物を展開して滑る。地面を滑走して幽香の周りを回って攻撃を躱す。時折幽香がその華奢な体のどこから撃ってるのか分からない光線を撃ってくるけれど、僕は氷を前に置いて屈折させて避ける。

そして回りながら時々接近し、幽香に霧をばらまく。

じわじわと霧は幽香を取り囲み、やがて周囲が霧で見えなくなる。

 

 

「よーし、出来たかな」

 

 

____________________

 

 

幻夜に行動を抑えられ、霧に囲まれてしまった。おおよその位置は分かるものの、視界が効かない。なのに幻夜の声、氷を滑走する音が聞こえる。

そう考えると、ほんの少しだけ背中に何かが這い上る気がした。

どこから来るか分からない、怖い。何があるのか分からない、怖い。寒い。怖い。寂しい。怖い。だれかたすけて。

 

 

ひざがふるえる、なにもみえない、こえもきこえない、こわい。

 

「・・・落ち着いて、殺さないから」

 

 

こえがする、こわい。

 

 

「ダメだって、震えないで、大丈夫だから」

 

 

さむい。

 

 

「ごめんよ、ちょっと目を覚ましてね」

 

 

みみもとになにかがちかづいて、ふうといきをはいた。

 

 

「・・・っ!?」

 

 

・・・何、今までのは。

ぼんやりとしていた意識から目が覚めたけれど、やはり何も見えない。

何度も戦いをやり続けたのに、こんな気分は初めてだ。

本能的な恐怖。徐々に何を相手しているか、わからなくなってきた。幻夜が相手なのは間違いない。なのに、今いるのは幻夜では無いような気がして仕方がない。

蛇に囲まれているような寒気、氷を滑走する音が蛇の鳴き声にも聞こえる。

怖い。今すぐに叫びたい、なのに声が出ない。

 

 

「・・・降参する?」

 

 

ふと聞こえた優しい声が、天使の声のように聞こえた。

私は、頷いた。

 

 

____________________

 

 

寒さと恐怖で震える幽香の手を取り、ゆっくりと暖かい場所に座らせる。

戦わずして勝つを体現化した、相手が一瞬でも恐怖を感じると発生する僕の技。

発動条件は簡単、霧を相手に吸わせる事。霧は相手のこうなるんじゃないか、という負の予想を倍加して幻覚として見せる。

お察しの通り、恐怖心のない奴、ネガティブな思考が微塵もないバカには効かない。壊夢とか効いた試しがない。

幻覚は様々で、それぞれ一番起きると嫌な事が起きるらしい。

幽香は思考の停滞、寒さ、見えないという恐怖だったみたいだね。

本来ならここで止まった相手をグサッとやる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

ゆっくり幽香の手を取ろうとするけれど、幽香が驚いて飛び跳ねる。

 

 

「っ!?」

 

 

「ごめんね、こうなるからあんまり戦いたく無かったんだけど・・・」

 

 

幽香がジワリと目元を潤ませる。ヤバイ、泣かせた・・・!

うーわ、泣かせてやんの、最低だな。

煩いな、じゃあどうすれば良かったのさ、日傘で殴られたら流石に飛んで行くんだけど?

・・・それもそうか。まーいーや、責任取れよ。

 

 

「えっと、その、ごめん!」

 

 

僕が頭を下げると、突然幽香に抱きつかれた。慌てて声が出そうになるが、震えているのに気がついて、ゆっくりと抱きしめ返す。

 

 

「・・・怖かった?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「ごめんね?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「どうしたら許してもらえる?」

 

 

「・・・今日は泊まって。幻夜がいなくなりそうで怖い、隣で寝て」

 

「分かった。・・・うん?」

 

 

うん?ねえ、おかしくない?

良かったな、朝チュンチャンスだぞお前。さっさと寝ろ。

どっから仕入れてんのさその知識!?

 

 

「ね、ねえ、流石にそれはマズイと思うんだけど・・・?」

 

 

「嫌、幻夜がいないと怖い・・・」

 

 

お前、これまだ術解けてないんじゃねえの?

あっるえー?おかしいな・・・?

 

 

とは言いつつも、幽香が震えているので仕方ない。別に嬉しいとかそんな下心はない。多分。決して滅茶苦茶嬉しくない。おそらく。

てか、ホントにまだ解けてないのかな・・・?

 

 

「幻夜、だっこ」

 

 

「おかしいよね!?ねえホントに解けてないの!?」

 

 

「・・・さむい」

 

 

「あーもー!分かったよ、行くよ!」

 

 

「ふふふ、やった」

 

 

おい、幻夜、ひょっとして幽香の奴とっくに解けてんじゃねえの?

うるさい、幽香が解けてないなら解けてないの!

 

 

この後事あるごとに僕に何かを要求し、断ろうとすると寒いと怖いで封殺された。

ほら、やっぱ解けてんじゃん。

うるさい、別に良いの。

 

 

____________________

 

 

夜、幽香のベッドに乗せられ、程のいい抱き枕にされていた。

 

 

「ねえ、幽香」

 

 

「何?」

 

 

「もう寒くないでしょ?」

 

 

「・・・さむい「もういいから」・・・分かってたのね」

 

 

幽香は諦めたように僕を離し、僕の背中にピタリと張り付いた。

 

「でも、怖かったのは本当よ。・・・初めて泣くかと思ったわ」

 

 

まだ少し、幽香の手が震えている。

 

 

「そんなに?」

 

 

「ええ・・・自分が何を相手しているか分からなくなって、ここが何処か分からなくなって、自分が何を考えているか分からなくなって・・・凍えそうだった。このまま一人で死ぬのかも・・・って思っちゃった」

 

 

幽香の微かな嗚咽が聞こえてきた。僕は幽香に向き直り、しっかりと抱きしめる。

 

 

「ごめん。ホントにごめん。・・・大丈夫、僕が絶対一人にさせないから・・・」

 

 

「うん・・・ありがと・・・」

 

 

結局幽香は僕にしがみついたまま寝てしまった。

・・・改めて、僕が異形の化け物だということを認識した。

霧一つで、こんなにも心を蝕めるのは僕だけだろう。

悪神。呼ばれ慣れてはいたけれど、こんなにも恐怖の代名詞になるとは思わなかった。

 

 

「ねえ、裏」

 

あん?

 

 

「僕ってやっぱりおかしいのかな」

 

 

受け取る奴次第だろ。少なくとも俺からするとお前は普通に悩む妖怪だぜ。

 

 

「ありがと」

 

いーから寝ろ。

ん、お休み・・・

 

 

翌日の朝、誰もが期待してるような朝チュンは無かったよ!残念でした!まあ元から期待してないか!

でもなんで朝起きたらちょっとだるかったのと、幽香がツヤツヤしてたんだろ?

・・・知らない方が良いぞ。幻夜。

えー、そうなの?

そんなもんだ。

 

 

まだ分かんないことも多いね。

 

 

次回へ続く

 

 

 

 




特に身体能力が高くない幻夜があのメンバーにいるのは、この技で大半が死ぬからです。
体術は自前。誰も見ていない時、こっそり努力しているのです。


次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。