ゆっくりご覧ください。
侵二と山を離れ、適当に借りた家で駄弁っていると、侵二が変な話を持ち出してきた。
「そう言えば・・・最近、人間と妖怪が共存できる理想郷を作ろうとする妖怪がいるそうですよ」
「ふーん」
「興味無さそうですね」
侵二が面食らった表情をするので、俺は横になりながら答える。
「だってよ、無理だろ。俺の力を持てば楽に出来上がるさ、それも半日もかかりゃしねえ。・・・だが、それは本当に理想郷か?共存は互いに認め合って、やっと成り立つものだろ?それを俺が力で圧して作ったとする。それは単なる独裁国だ。多分完璧に望み過ぎてるんだろうが、果たしてそれを理想郷と言うのか」
「・・・要は、何かをして作るのではなく、理想郷は自然に作るものであると?」
「んー・・・ま、そうだな」
他人にメスを直接入れて、創り上げるのは俺は理想郷だとは思わない。
成してきた事、それが寄せ集まって出来上がるもの。それが理想郷だと俺は思っている。
まあ、アホな理想家だな。
「人為的に作るのが悪いとは言ってねえよ?ただ、間違いなく理想郷を作ろうと思えば、障害になる生物や人がいる。果たしてそれを打ち砕いてでも全て平等の理想郷なのか。って事だな」
「他人の犠牲のもとに成り立つのは理想郷にあらずと」
「まあな。・・・って言っても、俺が作りたくないだけなんだがな」
「何故です?」
「怖いからさ。あたりめーだろ?理想郷を作るための土地、人、生き物、それら集めていざ作って失敗しましたごめんなさいなんて、俺は無責任過ぎて言えない。・・・成そうとする奴は、相当な馬鹿だろうよ。色んな意味でな」
「・・・では、会わせた方が良いですかね」
「は?」
侵二が空間を開き、何かを掴む。
「ついこの前誘拐されかけまして。あまりにもド下手な誘拐だったので、食べようとしたら女の子だったのでそのまま優しく話聞いてあげたら、今主上の言った面白い理想を持ってたので、狙ってました。話します?」
「話します?ってお前な・・・もう掴んでんだろ」
「まあそうなんですけど。んじゃ紫(ゆかり)殿、どうぞー」
侵二が腕をしならせて放り投げると、俺の目の前に15くらいの女の子が突っ込んできた。
「やめろや」
俺は飛んできた奴を掴み、布団にぶん投げる。
「何しやがるボケ。疲れるだろうが」
「申し訳ない」
「ちょっとは私の心配をしないの!?」
「おー?」
聞き慣れない声が聞こえたので、面倒だが視線を当てる。
「そもそも、誰が私を・・・ヒイッ!?饕餮ッ!?」
「お前怖がられてるぞ」
「そりゃまあ骨まで食べるぞって脅しましたけど」
「酷えな。・・・おい、紫って言ったか?」
「へ?あ、はい!」
「初めまして。龍神の龍一だ」
「は、初めまして、紫(ゆかり)です・・・って、りゅ、龍一・・・!?」
「あ、そう言うの良いから。後いきなりで悪いけど・・・早めに理想郷作るの諦めろ、人格破綻するぞ」
「なっ・・・!?」
「やめろ。作るな」
「どうしてよ!?」
「無理だから。それ以上もそれ以下もあるか?」
紫は俺を睨み、親の仇を見るような目を向けた。
「何なのよ・・・っ!」
「龍神。絵に描いた餅を喉に詰まらせる様な事言ってんじゃねえよ」
「いきなり何なのよ!急に連れ出して、「連れ出したの侵二な」・・・理想郷を作るのをやめろ!?ふざけないでよ!私がどんな気持ちで作ろうと思ってるか分かるの「理不尽さを救いたい」っ!」
「ある日人間と仲良くなったのに、妖怪だとバレるとすぐに殺されそうになる。逆に人間は妖怪の餌。どうして共存しないの?どうして手を取り合わないの・・・っ!とでも考えてるんだろ。アホか、古代人がマンモス狩るのと同じ事だぞ」
俺はそんな事をさせないように中指を立てる。
「永久に不可だ。それは焼いた魚に泳げと言うようなもの。分かったらその理想を実現しようとするな。大人しく妖怪国家でも作れ。・・・もし嫌なら・・・」
俺は突き立てた中指を地面に向ける。
「俺を監視すれば良い。無理な事を証明してやる」
「・・・最っ、底!」
「聞こえませんなぁお嬢さん?何もやめろとは言ったが、やめさせはしねえし、ここで俺の目にかかるのも面白い。呼べば助けてやろう。そして己の無力さを知り、理想を抱いて溺れろ」
紫は俺を殺そうとせんばかりに睨んでくるが、生憎生まれて100を過ぎた程度、強能力持ちの妖怪如きに負けはしないし、既に侵二が一撃で仕留められる位置についた。向こうもそれを分かっているのか、動かない。
「一個だけしつこく言う。人と妖怪が互いにしっかりと手を取り合うのは不可だ。そして出来上がったとしても、その下には数多の死骸が積み重なり、死骸の分、憎悪と絶望と悲しみがある。・・・そんな事、誰も知らなくて良いし、体験して欲しくない。・・・尚作りたいなら、勝手にしろ」
「まさか、貴方・・・」
「さあな、俺はお前の事は面白いと思うし、別に嫌いじゃないかもしれんが、その理想は大っ嫌いだ。クソ女」
「・・・私は貴方のことがとても嫌いになったわ、ゴミ男さん」
「言うじゃねえか。理想以外は気に入ったぜ、年増」
「なっ・・・ジジイ!」
「fuck you」
「ふ、ふぁ・・・?ッ、屑ッ!」
紫は吐き捨てると、自分で空間を開いたのか、去っていった。
「うわ、予想以上に荒れましたね」
「お前わざとだろ」
「ええ。そりゃあもう」
「はぁ・・・無理なんだよ」
「理想郷が、ですか?」
「ったりめえだろ。人間ですら内で騙しあって刃物刺し合うんだぜ?それ飛ばして妖怪と、とか無理無理。・・・俺が何もせずに数百億年待って世界を作ると思うか?」
「無理だったと?」
「無理。身内でぶっ殺しあって終わり。オマケでいうとどの種族もそう」
「・・・そうですかぁ」
「そう。・・・いつまで覗いてんだ年増」
「なッ!?」
侵二がゆっくりと小さく声のした方を振り向き、首をかしげる。
「いたんですか?」
「そりゃばっちりと。・・・箱庭を作った奴が、上から見れないわけがないだろ?」
「どーりで、義眼なんですね」
「まあな」
俺は紫を心の中の面白い奴リストの一番上に登録し、まあせいぜい挫折しろと、罵声をかけてやるのだった。
「絶対に諦めるな」
敢えて棒読みで言ってやったが、まだそこでコソコソと様子見をしている紫には、どっちとして捉えたかね。
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・・・最悪だった。
始まりはある日、人間世界にうまく溶け込んでいる妖怪を見つけたと思い、少し攫って話を聞こうとしたら、逆に襲われた。しかも相手は悪名しかない饕餮だった。喰われるかと思ったが、勘弁してくれた。
饕餮・・・侵二と名乗った人は、何故侵二さんを攫おうとしたかの理由ついでに私の理想を聞いて、ほぉ、と頷きながら聞いてくれた。
侵二さんはまた主上に会わせてみましょう。と言って微笑むと、私を解放してくれた。
そして今日、龍神様に顔を合わせ、困惑している間に、
「理想郷作るの諦めろ」
そう言われた。何故かと噛みついて聞いた。龍神は面倒そうに欠伸をしながら、無理だから。とだけ答えた。
とても怨めしくて、憎くて、私の気持ちが分からないのにと叫んだ。
しかし見透かされた。全部当たっていた。あの人も同じ所を見ていた。けれど諦めていた。
何も言えず、睨んだ時に目が合った。
何も写していなかった。
死んだ目でもなく、かといって片方の目のように作り物でもない、吸われそうな、何処までも透き通った目だった。
まるで私の理想を実行し、諦めたような・・・
でも、真っ向から私を否定される事は無かった。あくまで理想だけを否定された。
私の事は嫌いではないと笑った。
しかし、クソ女と呼ばれるようになった。
気に入らない。
「絶対に諦めるな」
そう言われた。
・・・私はあの人が嫌いだ。龍神が嫌いになった。
今度、友人に愚痴と一緒に悪い噂を流してやろうと心に誓った。
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痛快だった。頑固者のぶつかり合い。馬鹿と馬鹿の言葉の殴り合い。
攫われた時は驚きはしたものの、攫い主は少し脅すだけですぐに恐怖で染まった。
主上に理想郷が何故作れないかを聞き、そして言い合う姿を見て、笑いそうになった。
「絶対に諦めるな」
何のつもりで言ったか、私には分かりませんでしたが、どちらの意味で言ったかは、すぐに分かりました。
理想郷を作らんと志している者と、作って諦めたモノ。
やはり巡り会わせて良かったと、私は一人笑った。
きっと、二人は仲良くなれますね。
第一印象はどう見ても最悪ですけどね。
次回へ続く
ありがとうございました。
そして書き終えた頃に発熱しました。
次回もお楽しみに。