表情筋金剛石
ゆっくりご覧ください。
朝、小鳥達の囀りにより、輝夜は目を覚ました。
眠い目を擦りながら顔を上げると、見慣れていた顔が見下ろしていた。
「兄上・・・?」
「おはよう」
武田は金剛石と化した表情筋を緩めながら、優しく声を出した。
「ずっと起きてたの・・・?」
輝夜が申し訳無さそうに聞くと、武田も申し訳なさそうに笑った。
「・・・悪かったか?」
「ううん・・・ありがとう」
そう笑う輝夜だったが、昨日の小刀の事を思い出し、さっと顔色が悪くなる。
慌てて武田の腹部を見るが、出血はおろか傷口も無い。
「どうした?」
「え、だって昨日・・・刺して・・・」
武田は表情を金剛石を砕きそうな程固めて真面目な顔になった。
「・・・飲んだんだ。お前と同じように、あの薬。三番無かったろ?」
「何で!?」
武田は表情を暗くした。
「すまん、言えないんだ・・・」
「・・・頼んでも?」
「・・・ごめんな、俺からは言えない」
輝夜は頷くと、武田の膝に頭を乗せた。
「怖かった・・・」
「・・・すまん」
謝らなくていいのよ、と輝夜は笑った。輝夜は武田の腹部に顔を埋め、嬉しそうに身じろぎをした。
「兄上」
「ん?」
「大好き・・・」
「・・・なら結婚するか?」
冗談かと思って、それでも本当だったら良いなと思った輝夜は顔を上げ、武田の顔を見た。
「そうねぇ・・・兄上なら良いかなぁ・・・あれ?」
笑って冗談を受けようとしたが、武田の目が一切の冗談を殺していた。
本気と書いてマジの目だった。輝夜は混乱した。
「え・・・?」
「駄目か?・・・まあ、殺し屋だったからな。こんな奴は嫌だろう」
「そ、そうじゃなくて・・・なんで?」
武田は不思議そうに首を傾げた。
「だってお前、昔から俺と結婚するって聞かなかったじゃないか。俺もお前が良ければ悪く無いと思ったから待ってたんだが」
「・・・兄上に結婚してくれって言った人は居なかったの?」
「いた。死亡したと書いていたはずなんだがなんか沢山いた。殆どは覚えてない。冗談気味に依姫様と豊姫様に聞かれたが、断って以来は誰からも来てない」
それ本気だったんじゃないの・・・?と輝夜は言いたかったが言えない。
というか目の前の兄貴は自分の幼少期からの我儘を真面目な発言として受け取っていたのだろうか。嬉しいのは間違いないが申し訳なくなってくる・・・というかアホなのかと、輝夜は思った。
「で、どうだ?冗談だったならまあ仕方ない「本気よ!」・・・なら結婚するか」
「へ?・・・私で、良いの?」
「ん?逆に断ると思うか?」
「ホントに?」
「ああ」
結婚するかと聞いてから終始表情筋を動かさない義兄の筈なのに何故か照れてしまい、輝夜はこくりと頷く。
「ならよろしく頼む。輝夜」
「よろしく、えーっと・・・」
「勝也・・・いや、偽名で、そもそも武田じゃない」
「へ?」
数千年は読んだ名前を偽名だとさらりと暴露する義兄に輝夜が混乱していると、義兄は輝夜の手を取った。
「月野、月野守(つきのまもる)。・・・どっちでも良い」
「守・・・」
「うん?」
ほんの少し表情筋の動いた義兄・・・旦那に笑ってしまい月野の服をぎゅっと握りしめる。
「ずっと側に居て。・・・何処にも、行かないでね・・・?」
言えなかったあの時の言葉、それが今、すらりと言えた。
月野はしっかりと頷き、輝夜の頭を撫でた。
「分かった。・・・もう、俺は何処にも行かない。ずっと側にいる。・・・世界が終わっても」
輝夜はありがとうと言いたかったけれど、昨日から自重しない涙腺が再び動き、ボロボロと大粒の涙を流してしまった。
「な、泣くな・・・ああ、どうすれば・・・」
ひょっとして昨日もこんな感じだったのだろうかと、同じように泣いた自分に困惑して表情筋が動き、どうにか涙を止めようとする月野の顔が容易に想像出来て笑ってしまった。
こうして、輝夜姫は月の迎えが来たのでした。
「・・・お熱いところ悪いんですが、朝食は冷めるので早く来てくださいね」
「ヒアッ!?」
その後、武田改め月野は、蓬莱山守。と言うことになった。
竹取物語、完。
「おい、ところで蓬莱の薬2号何処にやったんだ?」
「そこに・・・あ、今妹紅が取ってるのです・・・あ、飲んだ」
「うえっ、この薬あんまり美味しくない・・・」
「でーっ!?吐き出せ妹紅!それは冗談にならん!」
完。完といったら完。
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「本当に申し訳ない、不比等さん!」
場所変わって藤原家、龍一が不比等の前で頭を下げていた。
目の前には短刀。そして龍一の隣には妹紅に見える少女が座っていた。しかし少女は目が紅く、髪と肌が異様なほど白かった。
「妹紅・・・なのか?」
「左様でございます。ウチの薬を飲んでしまいまして、はい・・・こうなりました。知ってたみたいですはい。その短刀で俺ぶっ刺して貰って構いません、なんならここで指詰めます」
「・・・ふーむ、別に問題なく、ヨーロッパ辺りの美人にも見えるし良いのではないですかな?「は?」・・・それより、その薬はうちの娘が勝手に飲んで良かったのですかな?」
「いや、それは良いんですよ。あのですね、補足があるんですわ。・・・娘さん、不老不死になりました。「なんと!それは面白い!」お前の親父さんやべえんじゃねえの?」
龍一は初めこそ丁寧に謝罪していたが、不比等の的外れな発言につい妹紅に悪口を言ってしまう。妹紅は今になってとんでもないことをしたと分かったのか、頭を下げている。
「と言うのは冗談で。「マジすか」妹紅、大変なことをしたのは分かっているかい?・・・不老不死、とは聞けばとても甘美で素晴らしいように聞こえるが、それは決して良いものではない。死ねなくなる。とは辛いものだと私は思う。歌も死ぬことを考えて読めず、大切な人を全て失ってしまう。・・・無論、私も死ぬ。すると私は決して・・・向こうの国でもお前と会えなくなる。とても悲しい」
しかし、と俯く妹紅の頭を不比等が撫でる。
「寂しいのは私の心だ。歌を詠んで美しいだのなんだの言うが、美しいさ。しかし歌の本意は本人しか密接できない。心はその人しか分からない。なら私が寂しいと思うのは私だけの感情だ。お前には・・・喜ばしいことではないが、同じような境遇の人が三人はいる。似た境遇の人は一人いる。・・・これは奇跡だ。・・・妹紅、その姿になれば、私は分かるが他人はあの妹紅だと分かるまい。よって縁を解く。・・・されど私はいつまでもお前の父だ。縛り付けて悪かった、好きに生きなさい」
「父上・・・?」
妹紅が不比等をおずおずと見上げる。
不比等は笑顔だった。
「どうした?何も自分を責めることは無い。・・・まあ人様の薬を飲んだのはどうかと思うがね、良い子だよお前は。・・・龍一殿、いえ、龍神様、娘が世話になると思います。どうか末長く見守ってやって下さい。なんと言いますか、向こうの国のよしみか何かでお願いします」
「言われずとも承りましょう・・・あ、こっちか。んんっ、・・・良かろう、その願い聞き届けた」
「ありがとうございます。・・・では妹紅。お前はここから出ればもうここには戻れない。私はそろそろ仕事がある、ではな」
立ち上がって去ろうとする不比等を妹紅が呼び止めた。
「待って」
「・・・どうした?」
「今までありがとう。父上」
「いささか親バカと思うが、お前はきっとあの集まりにずっと居たかったのであろうな。・・・生まれてきてくれてありがとう、妹紅」
嗚咽を漏らす妹紅に不比等はそうだと手を打ち鳴らした。
「妹紅に一つ仕事を任せよう」
「仕事・・・?」
「うむ。・・・もしお前がこの先、お前のような目にあった子や、辛い思いをした子を見つけたら、私のように・・・いや、おこがましいな。私が霞むほどの優しさを持って助けてやりなさい。それが仕事だ」
「・・・わかった、頑張る!」
「うむ、良い返事だ。・・・では龍一殿、さらばです。案外この時代も愉快なものですぞ」
そう言うとそそくさと不比等は退出し、龍一も妹紅を連れて退出した。
それから数分後、不比等は戻り、妹紅のいた場所を眺めた。
そして、大粒の涙を一粒流した。
「娘に涙を見せるまいと思ったが・・・危なかったな。・・・お前がいて、本当に良かったよ・・・」
不比等は空を見上げ、何かを閃いたようにニヤリと笑った。
「・・・ふむ、ここは一つ、あの輝夜姫の物語を誰かに書かせてみるか・・・」
きっと面白いことになるし、未来で娘も読んでくれるだろうな、私、いや、求婚した私達をとても滑稽にしていたなと不比等は一人微笑んだ。
「ふむ・・・私は計画が金を払わなかったせいで失敗する。といったものだったな・・・輝夜姫のお付きの人と兄上の事は伏せよう。龍神様にも自重していただこう」
ああしようこうしようと様々な考えを練る不比等の足取りは軽かった。
それから時は過ぎ、竹取物語と呼ばれる文献が未来に残るのは言うまでもない。
・・・蛇足ではあるが、その裏でまことしやかにBambooprincessと呼ばれる物語が出たと囁かれている。
誰だそんなもの書いたやつは。
竹取物語、始
次回へ続く
勝手に竹取物語の解釈をしました。
尚武田は初期は初めから月野迎(つきのむかえ)にするつもりでしたが、中性的になるのとどう見てもその辺から付けたっぽくなるので、もういっそ初めは偽名にするか!って感じでした。守は蓬莱山を守る→蓬莱山守
とまあちょっとキザにしました。わあい恥ずかしい。これで表情筋金剛石の味覚なしとかおかしいですよ。全身黒い甲冑に身を包んでシールド手に張って殴るんじゃないですかね。
ありがとうございました。
次回もお楽しみに。