真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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優しい狂人達のお話。


ゆっくりご覧下さい。


第七十六話 男数年会わざれば

「もういいです。元信君がそんなに苦労してたのは分かりましたから」

 

 

伊織が何かを切るように顔を上げた。

・・・いや、それよりもだ。

ここにおいて私の人生などどうでも良いような事を耳にした。

 

 

「お前、どうして私の名前を」

 

 

私が行商人だった時の名前。景浦元信(かげうらもとのぶ)。

誰も知り得る筈のない、腐った数百の名前のうちの一つ。

 

「何故知っている。その名前はあの時の世界の奴らしか、永久に関わらない別の世界の者しか知らない筈、なんで、お前が・・・?」

 

 

伊織は溜息を吐くと、気づいてないんですか?待ってたんですよ。と微笑んだ。

 

 

「だって・・・私も待ってたんですから。いつか元信君が私を攫いに来るのかな・・・って。・・・なんででしょうね、私は一回死んだのに、またこうして私として生きている。元信君は姿を変えて、私を攫いに来た。風魔って言ってましたけど、見て分かりましたよ、あ、元信君が来たって。・・・私、とっても嬉しいんです」

 

 

・・・笑う筈なのに何故涙しか出ないんだろうか、私は。

今空っぽだった何かが満たされていく。黒い何かが消えて行く。

 

「・・・どう、して、ここに」

 

 

「・・・私も聞きたいです。でも今、元信君、いいえ、風魔は目の前にいます。約束通り、私を攫って、奥さんにまでして。とっても幸せです。・・・ごめんなさい、隠してました」

 

 

ふざけるな。なんでそんな事を。

 

「・・・許さん。絶対にだ」

 

 

「じゃあどうしたら許してもらえますか?」

 

 

なんでそんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、奇跡のような事は本当にあるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これからも、ずっと側で笑って居てくれるなら」

 

 

伊織は笑った。目から水を流しながら。

互いにだらしない顔をしながら笑った。

ごちゃごちゃになっていた糸が、全て解けたようだった。

 

 

「当たり前じゃないですか。私は風魔に攫われたんです。囚われのお姫様は大人しく攫った人の前で生きるんです。とっても幸せに。・・・風魔」

 

 

「伊織」

 

 

本当にあったんだな。こんな事。

 

 

「「この世界に産まれる前から、ずっと好きでした」」

 

 

互いにそんなことを言って、笑う。

一万回貧乏くじを引かされ続けたんだ。

一回だけ当たっても、バチは当たらない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、重ーい話はやめましょう!さあ帰りましょう風魔!せっかくのお休みです!幽夜君のお店でお菓子食べましょう!でえとですよ!デート!後お洋服と、あ、久しぶりにあの山も行きましょう!」

 

 

「・・・馬鹿者、その菓子屋の幽夜が部屋の中にいるからここに来たんだろうが」

 

 

「あ・・・忘れてましたぁ・・・!風魔、どうしましょう・・・!」

 

 

「死にそうな顔をするな阿呆。・・・菓子は私が作ろう」

 

 

「え!?作れるんですか!?」

 

 

「バカ言え。作れるに決まっているだろう。私はお前の望む事はなんでもできるぞ」

 

 

何千回という人生は、お前を笑わせるためだけに、お前の目を輝かせる為だけに費やしたのだから。

掌返しが激しいが、私を転載させたクソ野郎はしばらく許してやろう。

だが会えば斬り殺す。

 

____________________

 

 

その日の夜。

 

 

「戻った」

 

 

「お帰りなさい。随分と伊織殿と仲睦まじい事で何よりです」

 

 

「まあな。本当に夢物語のような事があるとは思わなかった。後は壊夢か?」

 

 

「そうですねぇ。・・・まあ、壊夢はここしばらく何もなさそうですねぇ」

 

 

「ああ。・・・だが、我々は皆脛に傷しかない奴らだ。何かしらあるとは思った方がいいな」

 

 

「ええ。ま、私が一番重いでしょうけど」

 

 

「・・・まあ、な。紫殿は?」

 

 

「イギリスの方角向いてますよ。なーんで互いに一歩踏み出せないんですかね。・・・いや、主上が逃げてるだけですね」

 

 

「ヘタレが」

 

 

「おや、今回は珍しくズバッと言いますね。何かありました?」

 

 

「む?・・・まあな。歪んだ独りよがりの愛情ではなかった事が、何より嬉しくてな」

 

 

「しょっちゅう風魔は訳わかんない事言うよねー。・・・あ、そうだ、ミルク離れした子供の離乳食ってさ、何食べさせればいいの?」

 

 

「・・・歯が生えていないから、消化のいい柔らかいものだった気がするが。・・・龍一に聞けばどうだ?」

 

 

「えー・・・、今めっちゃ不機嫌そうじゃん。多分目についた悪人虐殺してると幻夜君は思うんですけど。それに風魔はなんでも知ってるんでしょ?」

 

 

「人間の知識についてはな」

 

 

「なんか、伊織ちゃんを神様として見てるみたいだね。人生を費やして幸せにするって。ちょっと怖いけどカッコいいなあ」

 

 

「神か・・・、成る程、だから私は神を信仰しなかったのかもしれん。伊織しか私には必要なかったからな」

 

 

「伊織ちゃん神格化して見てんの?」

 

 

「そう言いなさんな、最終確認しますよ?」

 

 

「了解。幻夜、コールサインはアンノウン。目的は名桐ちゃんをメインに変人部隊及び綿月姉妹の存在する基地の通信妨害、制圧、時間稼ぎ。だよね?」

 

 

「続いて風魔。コールサインは月破。目的は鞍馬と犬走を合わせての総合指揮。他の妖怪に最も知られ敬われているのが私というだけでこれだ。まあ駄弁っておく」

 

 

「そして今不在の壊夢、コールサインは摩天楼。後半以降後方で殿と防壁を頼む予定です」

 

 

「んじゃ、侵二はなんて呼ぶのさ?」

 

 

「私は・・・まあ、石頭かサンダーヘッドで」

 

 

「了解。・・・結局幽夜は来ないんだね?」

 

 

「おそらく。・・・それが我々龍一に仕えた集団の特徴でもありますから。・・・相棒達であり、敵であり、親友であり、邪魔者である」

 

 

「だね。ちょっと残念だけど。・・・じゃあ、また次は一年後かな?」

 

 

「ええ。また会いましょう」

 

 

____________________

 

 

私がぼーっと窓を見ていると、藍が隣にやって来た。

 

 

「紫様、お茶です」

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

藍が淹れたから美味しいはずなのに、何故か味がしない。

挙句には龍一に淹れてもらった紅茶の味を思い出したくて、これ以上飲みたくなくなって来た。

言い表せないイライラ感に包まれた。

 

 

「・・・また龍神様の事ですか?」

 

 

「・・・うるさい。あなたは良いわよね、侵二さんがいるから」

 

 

む、と藍が顔を顰めた。

 

 

「そりゃ、紫様みたいに駄々こねませんから」

 

 

私も言い過ぎた気はしたけれど、藍のその言葉で更にイラっとした。

 

 

「・・・何?私が面倒な女だって言うの?」

 

 

「そう聞こえましたか?」

 

 

「戻りましたー」

 

 

「別に?侵二さんが可哀想だって思っただけよ?」

 

 

「・・・何故そう思ったんです?」

 

 

「聞いてますー?」

 

 

「・・・そりゃ、侵二さんからの不満がないんでしょ?貴女が尻に敷いてるんじゃないの?」

 

 

「失礼な!」

 

 

「失礼なのはそっちよ!」

 

 

「あのー」

 

 

「何よ」

 

 

「やるんですか?」

 

 

私と藍が睨み合い、摑みかかろうとした時。

 

 

「話聞けって言ってんだよ聞けやァ!」

 

 

目の前に雷が落ち、頭の上に鈍い衝撃が襲いかかった。

 

 

「ッ〜!?」

 

 

「いっ・・・!?」

 

 

目の前が点滅しながらも辺りを見渡すと、犬歯を覗かせた侵二さんが仁王立ちしていた。

 

 

「ギャーギャー喚きやがってェ!良い加減にしろよお前ら、ええ!?」

 

 

「ちょっ、侵二さん、口・・・」

 

 

「るっせえぞ紫ィ!なんだって人諌めるのにも敬語使わなきゃなんねえんだ、今こっちの方が楽だからこうしてるんだろうが!後藍!」

 

 

「っ、はいっ!」

 

 

「従者があの程度で腹立てて反発すんな!流石に使えんだのクソだのクビだの言われりゃキレていいさ、だがなぁ!?ある程度従者になってからは我慢すんだよ!」

 

 

「・・・もしかしてお前、龍一殿に・・・」

 

 

「鬱憤溜まってるに決まってるだろうがァ!!あんの野郎笑えねーくらい仕事持って来やがって。そのくせマトモに休暇とらせるせいで文句言えねえしなァ!!」

 

 

マトモな職用意しやがって・・・と喜んでるのかキレているのか分からない表情で侵二さんがブツブツと呟き、ほれ。と私と藍に紙束を投げつけて来た。

 

 

「な、何・・・?」

 

 

「最近紫と同じようにアイツらも俺も鬱憤が溜まってきてな。月行くぞ月」

 

 

「月!?」

 

 

「待ってくれ侵二!あれは紫様が走り回って人を集めたんだ!明らかに人数が足り「足りる。こっちで雇った。老害をナメないで下さい」しかし、紫様はあれを気にして・・・!」

 

 

「良いのよ、藍」

 

 

「しかし・・・!」

 

 

「・・・侵二さんは、この事を龍一が見てくれると思う?」

 

 

「断言します。アレは自己嫌悪で一切見にこないです。しかし紫殿にとっては少なからず学習する場にはなるかと。ぶっちゃけうじうじしてるのにも飽きたでしょう?私達も暇な時期が来そうなんですよ」

 

 

来ますか?と犬歯の引っ込んだ、いつもの優しい侵二さんが微笑んだ。

私は頷いた。

 

 

「・・・侵二、紫様が行くなら私も行く。それはいつだ?」

 

 

「お前は仕事ないと思うぞ?一年後だが」

 

 

一年後なの!?

 

 

 

次回へ続く




神様に殺意沸くヤベー奴と、親族皆殺しにされて味覚壊れてるヤベー奴と、何度も転生しまくって好きな子を笑わせることに人生費やしたヤベー奴とパワーに全振りしてるまだ事情抱えてるヤベー奴と八つ当たりで世界粉砕するヤベー奴と遂に人殺しの抵抗と恐怖を割り切ったヤベー奴の完成です。
ろ く な の が い ね え や 。
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