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「・・・ッ!?凄い!これが街!?」
「街というよりは村だけどな」
アリスに街に行かないかと誘った翌日の日が昇りきった頃、俺は街に行くという提案に嬉しそうに乗ったアリスと田舎町へと向かっていた。
町は牛や豚が草原の草を食み、農家が柵で囲った中で麦を栽培し、子供達が広場を駆け回っている。
まあ、なんだ、この感じは悪くない。アリスにとっても初めから大都会は厳しいだろう。
「ねえ幸夜!これが牛よ!牛!」
「そうだな、牛だな」
「あーっ!鶏よ鶏!さ、触って良いのかしら・・・!?」
「下手に触るとつつかれるぞ」
「ひゃあっ!?」
アリスにとっては全部が初めて見る景色なんだろうか。
鶏につつかれ、悲鳴をあげながら飛び上がり、オロオロとしている様を見ていると、つい口が緩んでしまう。
「あんた・・・ゲンヤさんかい?」
「・・・ん?いや?俺は幸夜だぜ?親父の名前は幻夜だが、何か用か?」
そんなアリスを見続けていると、農家のおばさんに話しかけられる。
俺は聞き慣れた名前に疑問を抱きながら、おばさんに答えた。
「そのお父さんってのは、髪が緑色の目の細い人かい?」
「・・・喋り方の軽い、やけに子供に優しい?」
「そう!そうだね!なんだ、アンタあの人の息子かい!?」
そりゃ一大事だ!とおばさんは笑い、大声で叫んだ。
「ゲンヤさんとこの息子が来たよー!」
畑を耕していたおじさんや、豚の世話をしていた若い男性達が瞬く間に集まり、鶏と打ち解けたのか鶏を抱えるアリスと俺を囲んだ。
「あのゲンヤさんに息子がねえ!まあ奥さんも美人さんだったからねえ!」
「ゲンヤさんは元気か!?あの人俺たちの村に突然麦の種をばら蒔いたんだぜ!」
「そうそう!それで奥さんの方も瞬く間に麦を育ててねえ!確かにゲンヤさんに似てるよ!あの人に似て目が鋭いねえ!」
「しっかし、ゲンヤさんと同じように綺麗な人連れてるよなぁ!」
わいわいと俺とアリスを囲み、親父や母さんの話をする。
要は親父が気まぐれか何かで不作の続いたこの村に麦の種をぶちまけ、母さんが育てたらしい。揃いも揃って訳分かんねえことしやがる。
唐突に種蒔きを始めるのは流石の一言に尽きる。
「・・・あの、俺は親父や母さんと違って種を育てる力は無いですし、隣にいる子も嫁とかじゃありません。俺はただ街を見たことのなかったこの子と偶々訪ねただけです」
「良いんだよ!あたしらからすればあのゲンヤさんの知り合いが来たってのが嬉しいんだから!ド田舎だけどゆっくりしていきな!」
「嬢ちゃん、つまるところ牛の世話とかをしたことないんだろう?折角だからうちに来な!コウヤさんと一緒においで!えっと、嬢ちゃんの名前は・・・」
「あ、アリス、アリスです!」
「そうか!アリスちゃんか!早速来るかい!?」
「はいっ!」
元気に牛の世話をしていた男の人に返事をしたアリスは、俺の手を引いて駆け出し始めた。
よっぽど嬉しいらしい。
念の為言っておくが、俺の意思で手にした物は武器に変化するので俺がアリスの手を掴んでも武器になることはない。なったら怖い。
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「コウヤ!お前鬼な!」
「さんを付けろちびっ子共ー!」
「うおっ!速っ!?」
「ハハハ!そら逃げろ逃げろ!」
牛の世話を終え、アリスは農家のおばさんと麦を刈りに、俺は広場を走っていた子供達に集られ、仕方なーく病み上がりの体で鬼ごっこに興じている。
「ほいっ、捕まえた!」
「コウヤ速すぎ!手加減しろよ!」
「そうだそうだ!大人気ないぞ!」
「ざんねーん、まだ十五くらいですー。お前らより七つくらいしか年上じゃねーんだぞー」
「私と同い年なの!?」
「どおぁっ!?」
後ろからアリスに声をかけられ仰け反ってしまう。
「あ!ご、ごめんなさい!」
「・・・いや、気にしてねえけどよ。俺幾つだと思ってたんだよ」
「二十、五?」
「老けてんなぁオイ!?」
「でも、同い年で良かった!」
「・・・そうかよ。麦刈りは?」
「終わりよ。楽しかったわ!」
ついアリスの笑顔から顔を逸らしてしまった。
何をしてるんだか。
「あっ、コウヤ顔赤いぜ!」
「ほんとだ!赤いぞー!」
「マジか!?そんなに赤いか!?」
「照れてやんのー!でもアリス姉ちゃんならしかたねーよなー!・・・アリス姉ちゃん!姉ちゃんも鬼ごっこやろうぜ!」
「良いの?」
「良いの良いの!コウヤが速すぎるからみんなで逃げるんだぜ!「おい待て小僧俺が鬼のままか」行くぞーっ!にげろーっ!」
十人程度の子供達とアリスが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「・・・逃げられると思ってんのかぁ!?待てコラァ!」
「「「キャーッ!」」」
この後全員捕まえたのと、
アリスの足が相当遅かった事を記しておこう。
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「またなコウヤ!」
「さん付けろって言ってんだろ小僧!」
「アリス姉ちゃんはもっと足速くなれよー!」
「バーカ!か弱い女の子に足速くなれとか言うんじゃねえよ!それに俺から逃げ切ってから言ってみろ!ノロマ!」
「・・・チクショーッ!次は逃げ切るからな!」
「やってみろちびっ子共!」
「今日は助かったよ、またおいで!」
「はいっ!」
「いやあ俺たちも人形みたいな綺麗な顔見れて満足だよなぁ!いやあ眼福眼福!嫁さんより綺麗なんだもんなぁ!」
「貴方・・・?」
「ヒッ!?・・・いやあそんな事ないじゃないか今のは言葉の綾というかその場のノリというか美辞麗句と言うかだからその手を何卒お控えくださガッ!?」
「・・・まあ、毎度毎度五月蝿いが、また来な、嬢ちゃん、坊主」
「なーにカッコつけてんだい!禿げるよ!」
「う、うるせえやい!せめてジジイにカッコつけさせろい!」
「あ、あはは・・・」
まあね、と最初に会ったおばさんが俺とアリスの肩を掴んだ。
「またおいでよ!いつでも待ってるからね!」
その時抱いた感情は、親父の持っていたものに少し似ていた。
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「・・・ところで、アリスってなんでこの前魔法使いの話振ってきたんだ?」
「え!?」
アリス宅。
今日の事が相当楽しかったのか、日記のようなものを書いていたアリスの手が止まった。
「い、いや、べ、別に他意はないのよ!?」
「じゃあそこの棚の上のエリクサーは?「嘘!?あそこのはちゃんと隠して」あるじゃねえか。隠した事バラしてどーすんだよ」
しまったというようにアリスの顔がこちらを向いた。
その顔が余りにも驚いていたので、俺は吹き出した。
「ぷっ、なんだよその顔。顎外れそうじゃねえか」
「・・・っ!し、失礼ね!」
「わりーわりー」
「・・・いつから分かってたの?」
アリスの声が若干重くなったので、俺も真面目モードに変える。
「前から。細かく言うと二日目辺りからそんな気はしてた」
「ほぼ最初じゃないの!」
「あんなの見つけられない方がおかしいんだよなぁ」
むう、とアリスは頬を膨らませた。
・・・だからそこで心拍数増えるんじゃねえよ。
「・・・なんで指摘しなかったの?」
「俺の知り合いに魔法使いがいるんだよ。親父は親父で魔道書の原点書いた人だしな。少なからず魔法ってのに接点はあった。俺は使えねえけどな!」
親父と違い世界を書き換えるなんて事が出来ないので、俺はごく一般的な魔法に関しては非才の妖怪だ。
親父が使えないくせに使えることにしたせいで崩壊しているだけであって、そもそも妖怪が魔法を使えるなんて事は滅多にない。
「お父さんがゲンヤって聞いたけど、もしかしてあのゲンヤ?」
「どの幻夜だよ。緑髪に細目、おちゃらけた常子供みたいな奴のくせにある地方で守り神認定されてるガーデニングが趣味の妖怪か?」
「後半は全然知らないけど、前半なら聞いた事があるわよ。やっぱりゲンヤさんがお父さんなのね」
「俺からすればマイナスでしかないけどな」
「そうなの?」
「まあな。色々あるんだよ」
親父に挑み、早くも数千敗。未だに無勝。
年の差、経験の差、能力の差。そんな言い訳じみた理由が全て重なり、親父を越える事がほぼ不可能でそれを認めるのに腹が立つから。
アイツが親父でなければ今の強さでも少しは誇れたのに。
そんな単純な癇癪じみた惨めな理由。
先生やオルゴイさんには常に言ってきた事なのに、何故かアリスには会いたくなかった。
理解不能だ。
・・・気分が悪い。
話を変えよう。
次回へ続く
最近精神不良が続いております。
ひょっとしたら二ヶ月ほどお休みを頂くかもしれません。
次回もお楽しみに。