同じく書き溜めとなります。
ゆっくりご覧ください。
「それでね?龍一ったら私と付き合えないと空虚感で死ぬ、ですって。凄く嬉しかったのよ!」
「ほんと重いなあの先生。いや、死ぬ事が落ち込むことと同じ頻度で起きてるのか・・・?じゃなくてですね!なんでいつものことのように昼から俺の家に来るんです?」
先生が紫さんにあの言葉を言って以来、何故か俺の家に紫さんがよく来るようになった。惚気話をするために。
「え?あ、そうね。気になるから、かしら?」
「嘘つくときに目右に寄せる癖やめた方が良いっすよ「え、嘘!?」嘘です」
しまったと言わんばかりに俺を見る紫さん。成る程確かに先生が不安になるわけだ。
「御本心は?まあ多分惚気過ぎて他に追い出されたんでしょう?」
「・・・さ、さあ?どうかしらね?」
「そんなプルプル震えられながら言われても返しづらいだけなんですけど」
「だ、だって!しょうがないじゃない!私ずっと待ってたんだから!それなのに藍ったらしばらく用がある時以外は来るな、幽香に至ってはしばらく出禁よ!?伊織ちゃんも茜さんも仕事で忙しいし、もう貴方しかいないのよ!」
涙目になりながら叫ぶ紫さんの理由はクソみたいな理由だった。
要は先生の土に埋まるほど奥手な恋愛に耐えきれなかったわけですね。
先生殺すか。いや逆に殺されるわ。
「アテの中に俺の知らない人いるんすけど・・・いやまあ、アリスの家通うときにお世話になってるんで良いっすけど、先生何も言わないんすか?」
「え?」
「いや、付き合って間もない彼女が別の男と一緒にいるの、多少は気になると思うんですけど。紫さんも気になるんじゃないですか?」
「え?全然?だって私みたいなの好きになるの龍一だけでしょ?龍一もそう、あんなの好きになるの私だけよ」
「そこだけ熟練なのかよ・・・」
初々しいのか慣れてんのか分かんねえな・・・
「ところで、さっきから持ってるその箱は何?」
「ああ、これは・・・」
俺が紫さんの質問に答えようとすると、親父が当然のように上から落ちてきた。
「あー、ゆかりんもいるのね。・・・久しぶり。元気?」.
「ノックくらいしろ」
はいはい。と聞く気のない返事を親父は出し、俺にバスケットを突きつけた。
中はハーブや紅茶の葉が詰められていた。
「はい、いつもの」
「はいよ、いつもの」
俺は手に持っていた箱を親父に手渡した。
親父は微笑むと、紫さんにもバスケットを渡した。
「はい。たまたま持ってたからゆかりんにも。すぐ腐るから龍一と食べてね」
「あ、ありがとう・・・」
じゃあね、と親父は言い残し、今度は玄関から消えた。
俺がため息を吐くと、紫さんが笑っていた。
「幻夜さんの物だったのね・・・」
「あっちじゃ山菜やらは採れませんからね。採れても質が悪かったりしますし。変わりに採りにくいハーブやら貰ってるんですよ」
「幸夜も植物は好きなの?」
「ま、母さんの能力ですしね。嫌いではないですよ。アリスも好きですし」
へえ、と先程から一転して暖かい目を向けてくる紫さん。
面白いなこの人。
「もしかして幸夜、料理は得意なの?」
「そうですね。一応妖怪なんて言いつつ、生活は人間のそれですからね。変ですか?」
「ううん、そうじゃなくて、ね・・・」
言葉を濁す紫さん。
そしてこの前すき焼きを用意したのが先生である点と、料理の話で紫さんのはどうかと聞くたび真顔になり、一応食えると述べる先生から推測するまでもなく推測すると。
「さては紫さん、料理出来ませんね?」
「うっ・・・」
「そして立場上何も言えないと。・・・和食は無理ですけど教えましょうか?」
「え、い、良いの?」
「まあすること無いですし。毎回先生が微妙な表情するのもアレですし。良いですよ?」
「あー、じゃあその、お願いして良いかしら?」
「了解です」
ちなみにこの後俺自身が紫さんを呼ぶ原因を作ったことに気がつき、俺は凄まじく面倒になり、己の短絡さに嫌気がさした。
・・・後でアリスんとこ行こう。
____________________
「なんて事があってさ。とりあえず料理してもらったんだよ、何が出てきたと思う?」
「・・・何が出てきたの?」
「紫色と緑色の物体。・・・俺は確かに紫さんがトマトを持っていくのを見たんだ。なんであんな事になるんだ・・・」
アリス宅、少し床や壁に走り書きされた紙が散乱しているものの、アリスと幸夜の二人は安楽椅子に座りながら談笑していた。
最も、幸夜は目が死んでいるのだが。
「一応な、味も確認したんだ。色がおかしいだけで味はまともなんじゃないかって。変な匂いしたけど。・・・俺初めてだわ、口に入れちゃならんもの食ったの」
あれ完食できる先生はなんなんだよ・・・と安楽椅子に座りながら幸夜は俯いた。
実際幸夜が口にしたものは、紫自身が食べ物の境界を捻じ曲げたとしても食べ物と認識されないであろうレベルのものだった。
幸夜は味か、それとも匂いを思い出したのか、軽くえづいた。
「そ、そんなに・・・?」
「そんなに。体力もごっそり持っていかれた気がする。・・・すまん後生だ、今日の晩は何か消化に良いものにしてくれ・・・」
「そんな後生とか大層なこと言わなくても・・・別に構わないわよ?少しは食べられるの?」
「食べる事は出来る。が、味が多分わからないのと、胃が動けるかどうか・・・」
「分かったから。少し休んでて?」
悪い、そうする・・・と言いながら幸夜は机に突っ伏した。
アリスはそんな幸夜に苦笑しながら、エプロンの紐を締めた。
次に幸夜が目を覚ましたときには、既にちゃんとした色合いの料理が目の前に置かれていた。
「・・・起きてるよな?」
「起きてるんじゃないの?まだ寝てるの?」
「いや、夢じゃなさそうだな・・・」
頂きます。と幸夜はリゾットを口に含み、そして安堵の溜息を吐いた。
「ああ・・・美味いわ」
毒気が抜けたように幸夜は微笑み、そしてリゾットを口にかき込み始めた。
アリスはそんな幸夜に苦笑し、自分も席についた。
「・・・うん、美味しい」
「そりゃお前が作ったんだから違いねえだろ」
「ふふ。ありがとう」
あ、そういや紫さん繋がりなんだが、と幸夜が思い出したように口を開いた。
「紫さんから何か言われてねえか?引っ越しの類の話」
「え?・・・あー、言われたわ、確かに」
「今絶対忘れてたろ」
「そ、そんな事ないわよっ!・・・で、そ、それがどうかしたの?」
「受けたか?受けなかったか?」
「えっと・・・「ほらみろ忘れたんじゃねえか」う、うるさいわねっ!・・・そ、そう!受けることにしたわ!」
「そうか。その方がいいしな」
「その、幸夜は?どうするの?」
「俺?・・・俺はもうちょっと残るかな」
「そうなの?」
「まあな。・・・実を言うとオルゴイさんとこの仕事くり上げてこの生活してるからな。お前が安心して住める場所に行くなら、それなりに向こうで働いてからそっちに行くさ」
「そうだったの、ごめんなさい」
「謝る事じゃねえだろ。・・・御馳走様。食器流しに置いといていいか?」
「ええ、何かするの?」
「ちと外の空気を吸いに。これでもまだげっそりしてるんでな。今ちょっと何が来ても対応出来そうにない」
幸夜はアリスに軽く手を振りながら、外へ出た。
外は日が傾きかけており、何処かで烏が鳴いていた。
「もうこんな時間かよ。・・・寒っ、さっさと戻ろ」
一つ身震いをした後、幸夜が家に戻ろうとした時、ふと視界が揺らぎ、視界が赤くなった。
「あ・・・?」
糸が切れたように前のめりに倒れる体。
不自然に体が重く、そして意識が薄れていく。
「あ、くそっ、不意打ちか・・・」
ひとまず地面しか見る事が出来ない顔を横に動かそうとして、幸夜は頭に謎の突起がある事に気がついた。
「これは、毒矢か・・・!!」
酷い耳鳴りが響く中、何人かの足音と、アリスの悲鳴が聞こえる。
咄嗟に幸夜は立ち上がろうとするが、せめて手を頭に当てられる程度で、体が動かない。
「クソッ、しくじった・・・」
玄関からアリスが引きずり出されていく。
そして倒れ、頭部に矢が貫通した幸夜を見て、悲鳴を出す事なく意識を失った。
気絶したアリスを見る事しか出来ず、とうとう指一つ動かなくなった幸夜は、そのまま倒れ続けた。
次回へ続く
ありがとうございました。
次回もお楽しみに。