真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 消えるのか、広がるのか。


 ゆっくりご覧下さい。


第九十五話 災禍は急速に

 熱い、熱い、熱い。

 脳が焼きつくほど熱い。

 耳鳴りも酷く、周りの音は何も聞こえず、ただ金属が擦り合うような音しか聞こえない。

 体はピクリとも動かず、今こうして思考出来ているだけで十分な驚きだ。

 なんなら、まだ生きていることが不思議だ。

 今このまま倒れていたとしても、もって数十分だろう。

 せめて、アリスだけでもなんとかならないものか。

 

 

 奇跡でも起きれば、話は別なのだが。

 

 

____________________

 

 

 アリス・マーガトロイドは目を覚ました。

 手足は鎖で繋がれており、何か箱の中に乗せられて運ばれているようであった。

 彼女と同じように鎖で繋がれている者もおり、その中の一人、彼女より小さな少女は泣いていた。

 アリス自身も不安ではあったが、その少女に声をかけた。

 

 

 「貴女、大丈夫?」

 

 

 アリスが声をかけると、少女はさらに泣き出した。

 慌てながらもアリスは少女をあやし始めた。

 それは幸運にも、倒れ伏した幸夜の事を、暫しの間忘れさせてくれた。

 

 

 「どう?落ち着いた?」

 

 

 「うん・・・」

 

 

 少女が泣き続ける事十分。ひとしきり泣き終えて落ち着いたのか、少女は目を腫らしてはいたが、アリスの問いかけに頷いた。

 

 

 「そう。良かった」

 

 

 それにしても、とアリスは周囲を見渡した。

 大半の拘束されている人間は女性であり、どうやら人攫いか、それとも魔女狩りか。

 どちらにしろ碌なものではないとアリスは思った。

 途端に怖くなり、無意識に体が震えた。

 しかし隣で自分よりも不安そうにする少女を見て、その気は少し紛れた。

 

 

 「私、どうなるのかな・・・」

 

 

 ぎゅう、とアリスの衣服を少女が握る。

 その手はやはり震えており、また、目には再び涙が滲んでいた。

 

 

 「お母さん・・・」

 

 

 気がつくと、アリスは少女の肩を掴み、震えながらもにっこりと笑っていた。

 少女のぽかんとする表情を前に、アリスは言葉を紡いだ。

 

 

 「大丈夫。きっと、助けが来るから・・・」

 

 

 当然それは幸夜の事で、来れないことなど分かり切っているのだが、彼女はそう言い、目の前の少女を、そして自分を励ましていた。

 少女は何も言わず、頷いた。

 

 

 「・・・なんだか、止まってない?」

 

 

 そんな時、アリスは他の女性がそう言うのを耳にした。

 実際、先ほどまで揺れていたが、今は揺れていない、それに何より、外がどうしてか騒がしい。

 

 

 そっとアリスは壁の隙間から外を覗くと、数十人の兵士が剣や松明、槍を構え、周囲を警戒していた。

 

 

 「何かいるの・・・?」

 

 

 警戒の様子は非常に緊迫しており、物音が一つでもすれば、皆そこに殺意を向けそうなほど、兵達は顔を険しくしていた。

 

 

 「いやあ、緊張してるねえ」

 

 

 どこか聴き慣れた、それでいて聞いた事のない声が背後からして、アリスはその場から飛びのこうとした。

 しかしその声の主はそんなアリスを抑え、近くで固まっていた少女の頭を撫でた。

 

 

 「ごめん、大丈夫大丈夫。今は何もしないよ。アリスってのは君?」

 

 

 アリスの背後から囁くような声がしたので、アリスは振り向く事なく頷いた。

 声は嬉しそうにそっか。とだけ言うと、アリスから手を離し、少女を抱き抱えた。

 

 

 「そのまま叫ばないようにしてこっち向いてね」

 

 

 アリスが恐る恐る振り向くと、目の前に男が立っていた。

 その姿は一瞬幸夜かと思ったが、目や髪の色が若干違っていた。

 

 

 「あなた、は・・・」

 

 

 「僕?僕は幻夜。幸夜の父親だね。・・・ここにいる理由は待ってればわかる。僕がするべきことはここで君達の拘束を解くことと、君達を別の場所へ連れて行く事だからね。・・・君もちゃんと連れて行ってあげるからね」

 

 

 幻夜は人懐っこそうな笑みを浮かべると、アリスや少女達の拘束を解き始めた。

 最初に解かれたアリスは鎖を凍らせて砕く幻夜に問いかけた。

 

 

 「あ、あのっ、幸夜は・・・」

 

 

 「ん?幸夜がどうしたの?」

 

 

 「あの、その、頭に矢が刺さって、その」

 

 

 「そうだったね。とりあえず能力で耐えてたみたいだから抜いておいたよ。・・・おーよしよし、怖かったねー」

 

 

 「能力?」

 

 

 「ん?あの子言ってなかったの?」

 

 

 幻夜がそう答えると、外で兵士の一人が悲鳴を上げた。

 ついで甲高い金属音が鳴り響き、再び悲鳴が聞こえた。

 

 

 「お、来た来た。・・・詳しい話は当人に聞いたらいいよ。まあとりあえず、死んではないからね」

 

 

 幻夜はそう言うと、アリスの背後の壁に手を置き、氷壁を作り上げ、叫んだ。

 

 

 「ここにいるぞ!ここにいるぞ!ここにいるぞ!」

 

 

 三度、幻夜が叫んだ。

 すると、氷壁の一部にヒビが入り、タイミングを見計らったように幻夜が氷を解くと、氷壁を張った部分のみ崩れ去り、太刀を持った男が納刀していた。

 

 

 「おい、幻夜、お前の息子をどうにかしろ。止める気にならんので御しきれん」

 

 

 「はいはい。ちょっと見てくる。後お願いね」

 

 

 「・・・子供は苦手なのだが」

 

 

 「いい子だから大丈夫」

 

 

 そう言い残して幻夜は跳躍して男の横を通り過ぎた。

 太刀持ちの男はゆっくりとアリスの前に立つと、無事か。と顔を顰めた。

 

 

 「あ・・・はい。あの、貴方は・・・」

 

 

 「風魔。龍一と幸夜と幻夜の知り合いだ。・・・よく無事だった」

 

 

 風魔は優しく微笑むと、少女達に口を開いた。

 

 

 「お前たち。もうしばらくここで待っていろ。じき左右で瞳の色の違う奴が来る。そいつに故郷を聞かれたら、帰りたいところを言うといい。・・・すまないが、時間がない。失礼する」

 

 

 風魔はそう言うと、その場から姿を消した。

 

 

 そしてふと、アリスは悲鳴や喧騒が消えていることに気がついた。

 聞こえるのは少女達の安堵の囁き声と、足音だけ。

 その足音はしだいに近づいてきており、やがて止まった。

 

 

 「・・・悪い、遅くなったな」

 

 

 氷壁があった穴から覗いた顔は、申し訳なさそうに笑った。

 

 

 「ごめんね、ちょっと暴れてたから抑えてたんだよね・・・」

 

 

 「幸、夜・・・!?」

 

 

 「・・・何故か知らんが生きてた。ご都合主義甚だしいが・・・偶然親父がいたらしい」

 

 

 「ほんと、ちょっと様子見に来たら玄関で頭に矢が刺さってたんだから。・・・良かったね、偶然僕が人体にそこそこの理解があって、偶然脳が取り返しのつかないギリギリ前で、偶然僕が傷を治せたんだから。ほんと幸運だよね。・・・一応言っとくけど、まだ軽く縫ってるだけだから、あんまり動かさないでね。追い追いの話は帰ってからしておいで。あと今しばらくは勢いよく抱きつくのなしね。傷口開くから」

 

 

 幻夜はそう言って微笑むと、それじゃ他の人達は安全なとこまで案内しまーす、とアリスを除く他の少女達を先導し始めた。

 幸夜は気まずそうに頬を掻くと、アリスの手を取った。

 

 

 「とりあえず・・・帰るか?」

 

 

 「ええ!」

 

 

 ____________________

 

 

 アリスの家に戻り、改めて座り直した二人。

 そして幸夜は頭を下げた。

 

 

 「改めて・・・申し訳なかったと思う。お前を守れなかったのもあるし、死にかけてたのもそうだし、何より、怖い目に合わせてしまった。・・・ごめんな」

 

 

 「その、確かに怖かったし、不安だったわ。・・・けどそれより、幸夜は?頭は大丈夫なの?」

 

 

 「え、俺の方?・・・いや、確かに脳に当たって貫通はしてたが、まあ、偶然親父がいたからな。今は大丈夫だぜ、ただの深い切り傷しか残ってねえからな」

 

 

 そう言いながら苦笑し、幸夜は頭の包帯を軽く触る。

 包帯に血は滲んでおらず、傷口付近を触れても、幸夜は顔を顰めなかった。

 

 

 「・・・そう。良かった」

 

 

 手を貸して。とおもむろにアリスは言った。

 幸夜は首を傾げて右腕をテーブルの上に出すと、アリスはその手を両手で握った。

 幸夜の顔が曇った。

 

 

 「・・・怖、かった」

 

 

 「ああ」

 

 

 「死んじゃったかと思った」

 

 

 「ごめん」

 

 

 「生きてて、良かった」

 

 

 「ああ」

 

 

 「ちょっと、このままにして・・・」

 

 

 「・・・ああ」

 

 

 二人はそれ以上何も言わず、ただ黙っていた。

 そんな二人を窓から覗いていた風魔は、溜息を吐いた。

 

 

 「・・・やはり少なからず、負担はあったか」

 

 

 「まあ、そりゃあね。アリスは人間なんだから」

 

 

 二人がどうなっているかは当に理解出来ていたのか、風魔の背後で幻夜は首を横に振った。

 風魔は僅かに顰めた顔を窓から逸らすと、真顔のままの幸夜を振り返った。

 

 

 「しかし。よく間に合ったな」

 

 

 「何が?」

 

 

 「幸夜の怪我だ。あと少し遅ければ死んでいたんだろう?」

 

 

 「まあね」

 

 

 「そこで、ふと疑問に思ったんだが」

 

 

 「今回の首謀者、お前ではないのか?」

 

 

 

 次回へ続く

 




ありがとうございました。
 次回もお楽しみに。
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