真・幻想創星録   作:青銅鏡(銀鏡)

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 絶望に打ちひしがれて止まるのか、希望を持って前に進むのか。
 彼は、アレとは違うから。


 ゆっくりご覧ください。


第九十九話 限られた時間

 紫にやや強引に連れられ、俺は人里を引き回されていく。

 引き回される身ながらも人里の様子を見ているが、どこも活気に溢れていて、俺の最初の印象は良い場所だった。

 ただやはり、紫がいても、侵二がいても、俺はその風景にいない。

 そして、紫はこちらを向いて笑っている。

 忘れられているのか、俺がいつか忘れさせるのか。それとも、新しい人がいるのか。

 いずれにしろ現実に打ちのめされそうになるが、俺を掴む紫の手が震えている以上、表に出すことなど出来ない。

 嬉しさと悲しさが俺の胸の中で対立する中、紫は足を止めた。

 

 

 「ここにしましょ。・・・伊織さん!空いてるー?」

 

 

 「はーい。あー!紫ちゃんと龍一さんじゃないですかー!向こうの席が空いてるのでどうぞー!・・・風魔ー!言ってた通り龍一さんが来ましたよー!」

 

 

 紫が足を止めた先の食堂からは、俺の知り合いであり、風魔の嫁の伊織が現れた。

 彼女はにこやかに迎え入れてくれると、お冷を出してくれた。

 

 

 「好きなの頼んでくださいねー」

 

 

 伊織は俺達にお品書を渡しながら言うと、忙しそうにぱたぱたと厨房へ消えて行った。

 俺は紫にそっと耳打ちした。

 

 

 「紫、どうなってんだ?」

 

 

 「・・・形は出来たけど、まだ理想郷は完成してない。だから非常事態に備えての監視ということで、少し居てもらってるの」

 

 

 成る程、と俺は厨房で鍋を掻き混ぜる風魔を見て苦笑した。

 

 

 「ご注文は決まりましたかー?」

 

 

 「ええ。あ、龍一は?」

 

 

 「決まってる。先にどうぞ」

 

 

 「ありがと。それじゃあ・・・」

 

 

 ____________________

 

 

 「御馳走様。確かに美味かった」

 

 

 「それなら良かったわ。あ、お代は私が払うわね」

 

 

 「いや・・・ああ、うん、そうしといてもらうわ」

 

 

 「それで良いのよ」

 

 

 俺も払う、と言おうとしたが、紫の目が明らかに不満そうになったので、甘えておくことにした。

 

 

 「・・・悪いな」

 

 

 「良いのよ。・・・ちょっと言ってみたかったしね」

 

 

 にこりと微笑む紫の顔を正視出来ず、俺は顔を逸らした。

 ふと、逸らした先で風魔と目が合った。

 来い、と目が語っていた。

 

 

 「・・・すまん、紫、ちょっと風魔と話してくる。しばらく伊織とでも頼む」

 

 

 「え?・・・どうしたの?」

 

 

 「ちょっと風魔に呼ばれた」

 

 

 俺は紫に微笑むと、席を立った。

 向こうも手配していたのか、すぐに伊織が紫に話しかけにきていた。

 俺はそのまま厨房のカウンター前に立ち、風魔に話しかけた。

 

 

 「・・・久しぶりだな。美味かったぜ」

 

 

 「そうか、それは何より。そして少し気になっていたが、仲も良さそうだな」

 

 

 「ん、まあな。おかげさまで。「何もしとらんよ」ありがとな。・・・で、なんだ?俺呼んどいてそれだけじゃないだろ?」

 

 

 俺がそう言うと、比較的喜色だった風魔の顔が瞬く間に消え去り、無になった。

 風魔はそのまま目を細めると、機械的に口を開いた。

 

 

 「どんな視たくないものを視た」

 

 

 「な、お前・・・」

 

 

 「その通夜帰りのような面で隠せると思ったか、馬鹿が。・・・視たのだろう?お前のいない、お前だけがいないこの先を」

 

 

 風魔のその言葉に返す言葉もなく、カウンターを叩いた。

 

 

 「・・・じゃあなんだってんだよ!」

 

 

 俺が叫ぶと、風魔は慌てて俺の口を押さえた。

 

 

 「馬鹿、声を大きくするな・・・!?んんっ、なんでもないぞ、すまんな。・・・だから今焼くのはお節介だ。いつ死ぬか分からんなら好きなようにやれ。死ぬ時はある日突然来るのだから」

 

 

 「んな事言われても、分かんねえよ・・・」

 

 

 「まあそうだろうな。・・・まあ、なんだ。お前が最後にやりたいことをやれば、それなりに結果はついてくるさ。私が四桁目で上手くいったんだ、お前なら大丈夫だ。私よりも性根は真人間なのだから」

 

 

 「・・・そう言うんなら、そうかもしれねえけどさ」

 

 

 納得のいかない俺に、風魔が気を遣ってくれたのか、俺の頭の上に風魔は手を置いた。

 力強く置かれ、その手を払おうとしたが、どうしてかそれが心地良かった。

 

 

 「あまり言うと干渉になるから嫌なのだが。・・・お前は、満足して死ぬぞ。中途半端な終わりでも、その時お前はきっと笑う。私が知っているお前は、笑っていた。ただ悲しみに暮れて泣きはしない」

 

 

 しかし、お前もまだ子供だったんだな、とカラカラと笑う風魔に、俺は顔を俯けて頷くことしか出来なかった。

 

 

 「学生から精神面はあまり成熟せずか。まあ無理もない。割りかし不安定な状態だったのだな」

 

 

 「まあ、多少はな。・・・で、なんでお前は学生だったことも知ってるんだよ。何処から見てた」

 

 

 「・・・お前の学校の知り合いに、田中というのがいなかったか」

 

 

 「いなかったか、ってお前、なんで俺のクラスメイトのこと・・・っておい、まさか」

 

 

 「三十八度目の私だ」

 

 

 「知るかそんな事」

 

 

 冗談だ、とカラカラと風魔が笑う。

 

 

 「その田中の友達が私だ」

 

 

 「知らねえよ」

 

 

 冗談になってねえぞコイツ。

 そう思いながら遠くの席で談笑する伊織と紫を見て、自然と笑みが漏れる。

 

 

 「どうだ、私の嫁は美人だろう」

 

 

 「馬鹿言え、紫のが美人に決まってんだろ」

 

 

 珍しくレベルの低い冗談と言えない冗談を風魔が言うので、俺は風魔に冗談とは言い難い冗談を返した。

 そんな中、俺は呟くように言葉を漏らした。

 

 

 「・・・俺、アイツに何してやれるのかな」

 

 

 「さあな。私は物を残してやりたいと思うがな」

 

 

 いかんせん思い出は酸いも甘いも過去含めて多すぎてな、と自嘲気味に言った。

 

 

 「俺は、思い出かな」

 

 

 「なら作ればいい。もっとも、今まで以上の思い出を残せるかは怪しいがな」

 

 

 「違いねえや」

 

 

 二人して綺麗とは言い難い笑い声を上げると、俺は風魔に背を向けた。

 

 

 「んじゃ、そろそろ戻るわ。・・・ありがとな。ちょっと考えてみる」

 

 

 「うむ。・・・そろそろ向こうの話が惚気に近づいた。流石に店内で言われると気まずいのでな。ついでに伊織を連れて来てくれると助かる」

 

 

 「はいよ」

 

 

 風魔に言われ、伊織も送り出そうと紫の側に歩くと、話し声が聞こえて来た。

 

 

 「それでですね、私がどうしようか考えてると風魔が急に手を掴んできて、「嫌か?」って笑いながら聞いて来たんですよ!」

 

 

 「良いなぁ・・・」

 

 

 「あの人、いっつもお仕事ばっかりですけど、時々そうやってしてほしい事分かってくれるんですよね。だから大好きなんですけどね」

 

 

 「龍一は、どうなのかな・・・」

 

 

 「龍一さん、すっごく控えめですもんね・・・」

 

 

 「・・・悪いけど、そろそろ止めてくれない?伊織は気付いてるよな?」

 

 

 「はひっ!?」

 

 

 「お話ししてたら来ましたねー」

 

 

 飛び上がる紫と、待っていたかのようにニコニコと笑う伊織。

 風魔の影響か、伊織も掴みにくいようになった気がする。

 

 

 「そろそろ他のとこに行こうと思ってな。・・・後伊織、風魔が呼んでたぞ」

 

 

 「はーい」

 

 

 「じゃ、行くぞ、紫」

 

 

 俺は紫の固まった手を握ると、軽く引き上げた。

 

 

 「わ、え、ちょ、手・・・」

 

 

 「嫌か?」

 

 

 「・・・う、ううん!!」

 

 

 目視できるほど赤くなった紫と手を繋ぐ俺に、伊織は目を輝かせていた。

 

 

 「ほわぁぁぁぁ・・・って!龍一さん、そんな事出来たんですね!」

 

 

 酷い言われように過去の行いの酷さを痛感する。

 ただ、ふざけんなと暴言で返すのも簡単だが、折角なので軽く気取って返すことにした。

 俺は紫の手を引いて思いっきり引き寄せ、肩に手を置いて薄く笑った。

 

 

 「まあね。・・・御馳走様」

 

 

 固まる紫をそのままに、軽く紫を引っ張るように、しかし躓くことが決してないように俺は店を出た。

 しばらくの間固まっていた紫だったが、宛てもなく歩き回っているうちに、俺の腕を引っ張って来た。

 俺が紫の方を向くと、満面の笑顔を咲かせて俺の腕に腕を絡ませてきた。

 嬉しそうで良かった。

 

 

 ____________________

 

 

 龍一が店を出た後、ふらふらと伊織が厨房に戻ってきた。

 僅かに頬は紅潮し、嬉しそうに顔を緩めていた。

 

 

 「・・・上機嫌だな」

 

 

 「そうなんですよ!聞いてください風魔!あの龍一さんがですよ!こうやって・・・ちょっと来てください。「こうか?」そう、こうして腕を引いて肩に手をおいて、『まあね』ですよ!なんであんな急にカッコよくなったんですかあの人!?」

 

 

 「・・・元が良かったから吹っ切れたんだろう」

 

 

 「吹っ切れたとしても凄すぎですよ!あんなの風魔がいなかったら落ちてます!」

 

 

 「そうか。・・・まあ、アイツが吹っ切れたなら何よりだ」

 

 

 龍一が去った方角を眺めていると、そう言えば、と伊織がやや声のトーンを落とした。

 

 

 「龍一さんが貴方と話してたこと、本当なんですか?」

 

 

 「聞こえていたか。・・・アイツが死ぬ事か?」

 

 

 「・・・まあ、そうなりますね」

 

 

 少し顔を暗くする伊織に苦笑し、答えてやった。

 

 

 「知らん。誰がアイツの未来を知っとるんだ。そう奇跡的に奴に会うわけが無かろうが」

 

 

 「だって、田中って人のクラスメイトのって・・・」

 

 

 「田中なら何処にいてもおかしくなかろう。それに、クラスメイトの友人だ。そんなもの誰が誰かわかるまい。要は龍一からすれば他人なのだから」

 

 

 ハッとしたように伊織は顔を上げ、私の服を掴んで前後に揺らした。

 

 

 「また騙されましたー!」

 

 

 「何もお前を騙しとらんだろうが。それに、アイツの未来も知らん。せいぜい己の顔でも洗えばいい」

 

 

 「もしかして意味深な事言ってますー?」

 

 

 「さあな。言えばつまらんだろう」

 

 

 むう、と頬を膨らませる伊織に、私は笑った。

 

 

 次回へ続く。




 彼は、まだ人間なのだから。


 次回もお楽しみに。
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