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帰っているといいんだけど……と思いながらオレは暖簾をくぐる。
「こんにちはー」
「いらっしゃい!お、ツーちゃんじゃねぇか!待ってろ、なんでも好きなもの握ってやっから」
「えええ!悪いですって。オレ山本に用事があるだけなんで……」
ほんと、山本のお父さんは太っ腹すぎ……。オレが来るたびに奢らなくていいから。
「なに!?ツーちゃんを待たせるとは……!」
「ち、違います!急にオレが来ただけですって」
約束するのも良かったんだけど、そうすると獄寺君がやってきそうなんだよね。ちょっと2人っきりで話をしたかったのもあって急に来たんだ。今日は午後から野球の練習がないのも知っていたから。
「だから待たせてほしいなぁなんて」
「そうかそうか。ゆっくりしてってくれよな」
いやだから……と思いながらもオレは諦めて椅子に座る。もう山本のお父さん、お寿司握って置いちゃったんだよ。
「すみません。いただきます」
「おう!」
もぐもぐ食べながら、山本のお父さんの動きを見る。ちょっと忙しそうだよね。手伝った方がいいかな。って言っても、オレが出来ることは洗い物ぐらいだけど。母さんには習ったけどオレが出来るのはふつーの料理だから。
ちょっと手伝う手伝わないで山本のお父さんと勝負したけど、見事オレの勝利。洗い物ぐらいは今までに何度か手伝ってるから、山本のお父さんもオレを見てなくていいからね。前の時もバイトしたから食器の場所だけは完璧。ただ2回目なのにそれしか出来ないんだけど……。
「ツーちゃんはいい子だなぁ……」
だからそんなに感動しないで。山本は配達も出来るんだから。この前のこともあるし、山本のお父さんの中でオレはどんな位置になってるんだろう……。怖くて聞けない。
「山本に継いでもらいたいって思ったことはないんですか?」
そういやと思ってオレは声をかける。オレが継ぐって話た時に山本のお父さんは山本に継げと言わなかった。
「一度は夢を見たな」
「やっぱそうなんですね」
「ただこの店はオレがやりたくてやった店だ。武がやりたいって言わねー限り、手伝わせても教える気はなかったな。それに……武は継いでくれた」
あ。とオレは思わず声をあげた。山本はもう時雨蒼燕流を継いだんだ。
「筋は悪くねぇ。毎日振ってるみてーだし、ツーちゃんの助けになるだろうよ」
「……ありがとうございます」
「そりゃオレのセリフだ。ツーちゃんのおかげで夢が叶った」
オレ、山本の夢を壊してしまったと思っていたけど、山本のお父さんの夢は叶えていたんだ……。
「オレのところはまだいいが……ツーちゃんのところは大変じゃねぇのか?」
「え?」
「いや、オレはまぁ考え方が昔気質つーのもあるんだろうが、息子はいつか出て行くもんだと考えて、娘はそうじゃねーとどっかで思い込んじまってな……。お母さん、よく送り出す決意したもんだと思ったんだ」
「……あ、あの……男と女じゃ、そんなに違います?」
「ツーちゃん、まさか……」
ハハハ……とオレは乾いた笑いを繰り返す。前回の時は何も言わずに送り出してくれたのもあって、まだ母さんに言ってなかったよ、オレ……。
「帰ったら、話します……」
「……相談は乗ってやるからいつでもここに来ればいい。オレ達は味方だからな」
山本のお父さんの中で反対は確定なんだ……。えー、母さんに反対されたらどーしよ!オレは頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、食器を洗い続けた。
ちょうどひと段落したタイミングで山本が帰ってきた。バイト代を渡されそうになったのをなんとか回避したオレは、山本の部屋にお邪魔する。
「急にごめんね、山本」
「いいってことよ。それに親父の手伝いをしてくれたんだろ?サンキュ」
「大したことしてないよ」
実際、洗い物しかしてないからね。オレと山本の仲だしということもあって、この話はここで終わりという空気が流れる。急にオレが会いにきたっていうのもあるんだろうけど。
「あのさ、ちょっと家綱のことで相談が……」
「仲悪りぃもんな」
山本のストレートの言葉にオレは大ダメージを受けた。変に気をつかわれれるよりはいいけど……。
「山本は家綱と話せてるみたいだし、何かアドバイスみたいなものが欲しいなぁって」
「オレは兄妹いねぇからなぁ」
あーそうだよ!オレのバカー!山本もこんな相談、困るっての!
「んー、家綱とケンカしたことあるのか?」
「ケンカはどうなんだろう?」
家綱は怒ってるけど、オレは別に怒ってるわけじゃないしなー。この前オレが怒った時は、家綱は何も言ってこなかったし……。
「ツナがそういうの苦手ってわかってるけどよ。家綱はツナとケンカしたいんじゃねぇの?」
「え?家綱がオレとケンカ?」
「そ。ダチだって、ケンカして分かり合えることもあるだろ?そんな変わらねーんじゃねぇかと思ったんだ」
そうかもと納得したオレは山本にお礼を言って、家綱とケンカなーと思いながら帰っていった。
「リボーン、居るー?」
家についたオレはリボーンを探す。
「ツナ、呼んだか?」
「うん。ちょっと相談したいことあってさ」
オレの言葉にリボーンは驚いた表情をした。相変わらずポーカーフェイスでわかりにくいけど。
ちび達に突撃されつつ、オレはリボーンを部屋に案内する。オレが女ってことで、リボーンは勝手に入らないようにしてるみたいだからさ。
「で、何があったんだ」
オレが無理矢理ちび達を追い出そうとしないから、この2人なら聞かれても問題ない話だと判断したリボーンはさっそく聞いてきた。だからオレは山本からのアドバイスの内容を話す。
「ツナ。お前、家綱とケンカしたことがなかったのか?」
「うーん、多分。帰りながら考えていたんだけど、記憶にないんだよね」
「それもあんのか……」
ん?とオレが首をかしげるとリボーンは首を振った。あ、これは教える気ないな。
「ま、いいや。でさ、オレケンカしてみようと思ったんだけど、どうしたらいいのかなって。最近じゃ家綱はオレに何も言ってこなくなったし、オレもそんな怒りっぽくないというか……」
「ツナはママンに似てるからな」
「あはは。母さんもあんまり怒らないよね」
ちゃんと怒るところでは怒るけど、八つ当たりみたいな感じなのは一切ないからね。
「あとオレ、怒ると怖いみたいだからさ。そういうのも気になって、どうしよっかなーって」
「ツナ姉が怒るなら先に言ってね。僕、みんなを連れてディーノ兄のところに行くから」
え。そんなにー!?遊びつつも会話に入ってこなかったフゥ太の言葉にちょっとオレは自分のことなのにビビる。尚更、家綱とケンカしたくないんだけど……。
「なくはねぇぞ」
「え!?なに、なに?」
流石リボーンだよ。オレの頭じゃ浮かばなかったことをすぐに提案してくれるなんて……!
「ツナ、お前が家綱を怒らせればいいんだ」
「え?オレが家綱を怒らせる?」
「ああ」
でもオレが居るだけで、家綱は怒ってるよな。オレがそういえば、リボーンは似てるようで全く違うと言ったんだ。リボーンがそういうならそうなんだろうなー。
「ただおめーが家綱を怒らせるようなことがあるのかって話だ」
「うーん」
オレ、そういうの苦手なんだよなーと考え込む。あ、ごめんごめん。ランボ、手が止まってたね。
「……ツナには無理か」
「ちょ、ちょっと待って。考えてるから」
リボーン、見捨てないでー!とオレは心の中で叫ぶ。ランボとフゥ太と遊びつつ、家綱を怒らせること……と考えていると一つ浮かんだ。
「あ、あった」
「あんのか!?」
え。そんなにびっくりすることなの?お前が提案したんだろ?
「うーん、多分ね。オレがこれ言ったら、あいつ怒ると思う」
「やってみろ」
心の準備の時間とか、リボーンにはないよね……と、もう慣れたオレは素直に行動する。
「今家綱部屋にいる?」
リボーンが頷いたのでオレは早速家綱の部屋の前に移動する。フゥ太が空気を読んで、ランボの面倒を見てくれたんだ。まぁフゥ太も興味津々だったのもあるみたいだけど。ランボを抱きながら、オレの部屋からのぞいてるしね。
オレは家綱の部屋をノックして声をかけた。相変わらず無視されたけど、リボーンが居るっていうんだから居る。ノックした時にちょっと反応したっぽかったしね。
「あのさ、そのままでいいから聞いて欲しいんだ。ちょっと大事なことだから」
チラッとリボーンを見れば、頷いた。んじゃ言うよ。
「オレ、中学卒業したら家出るつもりだから、母さんのことお前に頼みたいんだけ……」
最後まで言えなかった。家綱がドアを開けてオレの前に出てきたから。
「えっと……ごめん」
「……入れ」
うわ。めずらし……じゃなくて、家綱絶対怒ってる。怒らせたのはオレだけど……。
「お、お邪魔しまーす……」
そーっと部屋に入ったオレはドアを閉めて家綱と向き合った。
「こいつか」
リボーンを見ながら言ったからオレは違うと必死に手を振る。
「ボンゴレは関係ないよ。ずっと前に決めていたから」
ドンっと机を叩く音にオレは驚く。家綱ってオレを嫌ってるけど、殴ったりはしないんだよ。
「ええっと、ボンゴレのことはあるけど、オレがこの家を出て行くつもりなのは変わらないからさ。お前が継ぐことになったら……その時はまた考えるよ」
もちろん大人ランボが言っていたこともあるし、家綱のこともちゃんと対策するつもり。父さんにも話して、あっちからも気をつけてもらうよ。でもそういうのとは別で母さんのことを頼みたかったんだ。
「……母さんには話したのかよ」
「えっと、まだ。今日の夜には話そうと思っていたけど……」
「言うな!」
……ああ、やっぱそうだよな。家綱はオレのことは嫌いだけど、母さんとはうまくやってるもんな。
「……ごめん、それは出来ない。ずっと前から決めていたんだ」
「母さんの気持ち考えろよ!」
ごめんとオレは呟くことしか出来なかった。
「……出てけ。この部屋から出て行け!」
家綱に言われてオレは部屋を出る。オレが扉を閉めた途端、物が扉に当たったような音がした。
自分の部屋に帰ったオレはやっちゃったなぁと頭を抱える。母さんを味方につけてからと思っていたから……。
「……なぁ。本当にこれでいいのかよ、リボーン」
「さぁな。だが、進んだのは確かだぞ」
「そっか……」
ちび達とも遊ぶ気力もなくなったオレは少し1人にしてと頼んで、ベッドでうずくまった。
晩御飯の後、オレは母さんに大事な話があるって言って、2人きりにしてもらって話したんだ。いつかは言わないといけないから……。
「そう。わかった。いつでも帰ってきていいからね。この家はツーちゃんの家なんだから」
「……いいの?母さん」
「時々ね、ツーちゃんはお父さんみたいな顔をするから、そうじゃないかなって思っていたの」
まいったなぁとオレはちょっと泣きそうになる。今の父さんは前みたいに変な設定とか作ってないけど、仕事の都合で簡単に帰ってこれないってことになってるからさ。オレも同じだと思っていたんだ……。
「ごめん……母さん……」
「滅多にないツーちゃんのお願いですもの。叶えてあげたいと思うのは当然よ。だから謝らなくていいわ」
ああもうとオレは我慢できずに涙が溢れた。なんでオレが泣いてんだろう……。泣きたいのは母さんのはずなのに……。
「母さん」
「……家綱?」
オレがグズグズ泣いていると、家綱がいつのまにか扉のところで立っていたんだ。
「オレは出ていくつもりはないから。ずっと居るから。こいつと違って」
「あら、イッ君が居てくれるなら心強いわ」
「……おい。だからお前が継げ。いいな!」
「え、あ、うん。わかった」
オレがそう返事をすると家綱は二階へ行っちゃったんだ。
「みんなに大事に思われてる母さんは幸せものね」
母さんの言葉にオレは何度も頷いたんだ。
次の日、リボーンがオレの部屋にやってきた。オレも話したかったからちょうど良かった。
「お前も昨日の話聞いていたと思うけど、オレがボンゴレ継ぐから」
まぁ最終決定はリボーンにあるのはわかってるんだけどね。オレ達の意思はちゃんと伝えとかないと。
「今んとこ、オレもツナで文句はねぇぞ」
「そっか。それなら良かった」
この確認だけかなーと思っていたけど、リボーンはまだ話があったみたい。
「んで、お前の用は?」
「この家を出て何すんだ?」
それかーとオレは思わず天をあおぐ。しばらく悩んだ後、オレはリボーンを見た。
「言ってもいいけど、誰にも言わないで欲しいかも。特に父さんには」
「わかったと言いてぇところだが、理由次第だぞ」
「それならわかってくれると思う。父さんには自分の口から言いたいんだ」
予想通りリボーンも納得したみたいだったから、オレは口を開いたんだ。
「黒のマフィアを一掃する」
……あれ?なんか反応があるかなーって思ったんだけど。まぁいっか。
「ちゃんと考えてるから安心して。今骸に証拠とか集めてもらってるし、復讐者と交渉してからやるから」
「…………そうか」
「うん。あ、お前ならわかってると思うけど迂闊に話さないでよ。計画してるのバレたら逃げられちゃうからね」
「……やる時はオレにも声をかけろ」
「え?まじで?助かるよ、リボーン」
リボーンも手伝ってくれるならもっと早く潰せそうだなーとオレは中学卒業後の予定を考え直すことした。
山本武
海の時に家綱を追いかけた時の様子から、もしかしたらと思っていた。
ただツナの性格もあって、ケンカしろと言っても出来ないだろうなーとも思っていた。
それでもツナに聞かれたので教えた。
沢田奈々
ツナは顔や性格は自分に似たが、行動力などは父親似と察していた。
家を出るのもかなり早い段階からわかっていた。
居候含め沢田家では誰も彼女に勝てない。
沢田家綱
ボンゴレを継がないことを決めた。
ツナのことが気に食わず嫌いだったが、今回の件で大っ嫌いになった。
ただ何かが変わった。
その一つとして、今まで近づいて来なかったフゥ太が話しかけてくるようになった。
ツナにするような甘えや遊んでほしいとは言わないので、話ぐらいは付き合う。
リボーン
ツナとママンが話している時に家綱に発破をかけた。
良くも悪くも、進んだなと一安心したところでツナに爆弾を放り投げられた。
怒らせてはいけない人のランキング一位をとる意味をよーく理解した。
家光に美味いものでも奢りたくなった。
おまけ
作者
オリキャラの考え、性格をどこでどこまで出すか散々悩んだ。
悩んで悩んでこのタイミングにした。後で後悔しませんようにと祈ってる。
自分で作ったのに家綱のことは苦手だし好きじゃない。
でも嫌いとは一言も言ってない。