大空戦当日、オレは朝からリボーンとバジル君と一緒に、いつもの日課の崖のぼりコースのところにやってきた。普段なら獄寺君も一緒だけど、まだ怪我がちゃんと治ってないから訓練は禁止って言いつけてるから、泣く泣く学校に行ってる。……や、ほんとに。捨てられたような目で見てくるんだもん。だからノートとか頼んだよ。クロームに借りて休んでた分をまとめてくれたら嬉しいなとお願いしておいた。多分今頃、授業そっちのけで頑張ってると思う。
「えっと、バジル君頼めるかな?」
「は、はい」
ここに来たのは、バジル君に手合わせを頼んだから。ヒバリさんに頼んでも良かったんだけど、切り上げてもらえるかわからなかったからね。いくらオレでも大空戦の前に体力を削るまではやりたくない。
「待て、バジル。おめーもハイパー死ぬ気モードになれ」
「しかし沢田殿は身体を動かす程度という話では?」
「ただの死ぬ気じゃ、ツナと打ち合いすらならねぇぞ」
えっ。なんかすげーリボーンに過剰評価されてない?バジル君がキラキラした目で見てくるから、オレは曖昧に微笑むしか出来ないんだけど。
「失礼しました!本気で行きます、沢田殿!」
「あ、うん。よろしくね」
バジル君がハイパー死ぬ気モードになったのを確認して、オレもその状態になる。
「いつでもいい」
「い、行きます!」
相変わらずオレの手に炎を灯ることはないけど、バジル君とは問題なく手合わせ出来ている。……いや、これは問題がないことが問題だ。チリっと殺気を感じ取り、最小限の動きで避ける。この弾は……リボーンだ。
「リボーン殿……?」
「今のを避けんのか……」
あははと苦笑いしつつハイパー死ぬ気モードを解く。バジル君が驚いて解けちゃってたしね。
「認めたくはねーが、コロネロを連れてきた方が良かったか……」
「うーん、でも今から?」
リボーンにどうしよっかと視線を送る。コロネロの技だと失敗したら大怪我だからねぇ。いやまぁリボーンの弾も避けれなかったら死んでたけどね。
「沢田殿、すみません。拙者では沢田殿の相手に務まらず……」
「や、バジル君は悪くないんだ。どっちかというとオレの問題だよ」
「ああ。ツナが死ぬ気になりきれてねぇだけだ」
うんうん、そんな感じとオレは頷く。
「先ほどの沢田殿はハイパー死ぬ気モードなのでは?」
「うーん、そう聞かれれば頷くけど、もっと死ぬ気になれる気がするんだ」
そりゃ死ぬ気の到達点に入れることは知ってるけど、なんか普通のハイパー死ぬ気モードにもなりきれてない気がするんだよ。でもこれをなんて説明したらいいだろうと悩んでいると、リボーンが補助輪だなと呟いた。オレとバジル君は揃って補助輪?と首を傾げる。
「今のツナは補助輪をつけて自転車に乗ってんだ。補助輪をつけたまま、自転車競技で周りを魅了しつつ優勝するといえば、ツナのヤバさが伝わるだろ」
え。お前から見て、オレはそんな感じなの?あと魅了ってなに?
「一度でも外して乗ることさえ出来れば、あとは身体が覚えるんだがな。外す必要性をツナ自身が感じてねぇんだ。だからオレがツナの意識外から殺す気で撃ってみたんだ。だが、ツナは今の状態でも問題なく、避けやがった」
「それはお前が殺気を出すからじゃん」
「殺す気でいかねーと、外せねぇ」
……なんかグルグル回ってるー!外すには殺気が必要で、殺気があるとオレが反応して避けちゃうとか、どうすんのー!?
「オレの弾を避けたんだ、案外今の状態でも勝てるんじゃねーか」
「や、流石にXANXUSの炎は無理だって。あいつの攻撃範囲広すぎ。そりゃ接近戦に持ち込めれば、いけなくもないけど……」
接近戦ならいけんのかって感じで、リボーンには呆れられてバジル君にはポカーンとされた。え?そんなに驚くこと?お前だってできるだろ?とリボーンを見たけど、もっと呆れられた気がした。
午後からはディーノさんに頼んで、スクアーロの様子を見にきた。今のところ、ヴァリアーは仕掛けて来てないらしい。……ほんと、そういうところだよね。
「せっかく来てくれたところ悪いが、まだ睡眠薬が切れてねぇんだ。すまん、ツナ」
「いえ、気にしなくていいですよ、ディーノさん。だって、スクアーロは起きてますから」
は?という顔をしたけど、流石はディーノさん。ちゃんと武器を構えて、警戒したよ。病室の警戒度が上がったからか、オレには通じないと観念したのか、スクアーロは目を開けた。
「なぜわかったぁ゛」
「お前が認めたくない超直感かな」
本当に忌々しいんだろうなぁと殺気を浴びながら思う。
「うん、でもよかった。下手すりゃお前自殺するかと思ってたからさ。オレを殺す気があるならまだ大丈夫だね」
「……なに考えてやがる、沢田ツナ」
「XANXUSにはお前が必要だから生かした。って言えば、お前は納得する?」
なんかさらに警戒されちゃった気がする。言葉通りなんだけどなぁ。オレ、ずっとあいつの面倒見れる気がしない。
「とにかく、今日の夜は大空戦でさ。お前も強制招集かかると思う。って、何かやってとかないから。好きにすりゃいいよ、オレの首を狙うのもいいしさ」
言ったそばから、スクアーロはオレの首に手を伸ばしてきた。けど、オレは一歩も避けなかったよ。ディーノさんのムチが間に合うから。
「ツナ」
あぶねーから下がれとディーノさんに視線を向けれらたけど、僅かに首を振って拒否する。そりゃ、ディーノさんには悪いとは思うけどね。スクアーロを締め付けて抑えてくれてるしさ。ギリギリという音を聞きつつ、オレはスクアーロと視線を合わせる。
「オレはオレのやりたいようにするし、お前もやりたいようにすればいいよ。とりあえずオレはXANXUSをぶん殴る予定だから。お前にも教えておこうと思ったんだ」
「テメェ程度で殴れるわけねぇ゛」
「オレはやるよ。決めたから」
フッとオレは力を抜いて、窓に視線を向ける。チェルベッロが来たみたい。オレはいない方が良いかなと思って、ディーノさんに任せてオレは帰った。
母さんに不審に思われないように、オレはいつも通り夜は過ごしたんだけど、家綱はいつも通りとはいかなかったみたい。食事中とかすげーチラチラと視線がくる。オレには聞いてこないけど、リング争奪戦の流れはラルに聞いてるみたいだし、なんか言いたいことでもあるのかな。もしかするとやらなくていい大空戦をやることにしたから、怒ってんのかも。巻き込まれてる家綱からすればいい迷惑だもんね。
うーん、どうしよっかなぁと頭を悩ませる。母さんの居ないところで声をかけたけど、なんでもねぇって言われちゃったし。もう一回聞きに行っても、多分同じ答えしか返ってこないんだよね。
散々悩んで、家を出る前にオレは家綱の部屋に来た。オレと声をかけつつノックしたけど、相変わらず返事はなし。音がしたから部屋には居るっぽいけど。
「行ってくるね」
「…………勝てよ」
へ?とオレはドアの前で固まる。いやだってさ、返事がかえってくるとは思わなかったんだもん。オレは固まってる間にドアが開いて、目の前に家綱がいた。
「おい、返事」
「ご、ごめん。勝ってくるよ、絶対」
「あっそ」
バタンと閉まった扉を見つつ、オレは思う。……あっそ、ってなに。すげー矛盾してるの、あいつ気付いてないの?とオレは笑いを堪える。や、我慢できてないけど。でも声に出さないようにはしてる。
声を出しちゃうと笑っちゃうから、リボーンに行こっかと視線を向ける。家綱の態度に呆れつつも、リボーンも機嫌が良さそうだった。
「あら、ツーちゃん。いい事あったの?」
「うん。家綱とちょっとね」
「まぁ!よかったわねぇ」
でしょでしょとオレは頷く。母さんも嬉しそうだよ。行ってくるねーとオレは母さんに声をかける。もちろんリング争奪戦のことは言ってないよ。オレは今日クロームのところで泊まることなってるの。実際、そのつもりだし。オレと骸の帰りをクロームは待ってるっていう約束だから。ちなみにランボはこっそりリボーンが連れ出してくるんだってさ。参加はしないけど、オレが見て欲しいと思ってるから。一応リボーンに泣かすなよと声をかければ、渋々返事がかえってきたから大丈夫だと思いたい。ほんとあの2人って相性悪いよな。
「気をつけてね」
「うん。いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
あと何回聞けるかなぁと思いつつ、母さんに手を振りつつオレは走り出した。
時間を確認して、予定変更。並中に行く前に、クロームのところへと向かうことにした。本格的に裏の世界に入ってしまえば、突発的に色々起きて見送ることも出来ないだろうなぁと思ったんだよ。こういう時ぐらい、ちゃんと声をかけなきゃね。
「ツナ……?」
「急にごめん。あ、これお泊まりセット置いとくね。じゃ、行ってくるよ」
相変わらずオレは後先考えず行動したから、すげードタバタ。しっかりしてる骸はオレと違ってちゃんと声をかけて行ったんだろうなぁなんて思いつつ、ブンブンと手を振りつつ走る。
「ツナっ!……いってらっしゃい」
「うん!いってきまーす」
って、ほんと急がないとマズイ。これで遅刻とか笑えないから。
「ま、間に合ったー……」
結局、オレが並中に着くのが一番遅かった。まさかのヴァリアーより遅かったよ。スクアーロもディーノさんが連れてきてくれたみたいで、向こうにいるしさ。本当にオレが一番最後だった。
ちなみに獄寺君達には何かあったのかとすげー心配されたけど、骸達には呆れられた。オレの守護者って両極端すぎ。とりあえず、あははー……と笑って誤魔化す。だってさ、説明したらもっと呆れられるし……。まぁ誤魔化したら誤魔化したで、すげー呆れられたけどね。
チェルベッロのルール説明を聞くと、やっぱ全員参加でみんなは各フィールドに移動することになった。チラッと見れば、骸はもう移動し始めてた。そういう奴だよなと軽く息を吐きつつ見送る。
ふと殺気がして、慌ててしゃがみこむ。ブオンっとオレの頭上で空気が移動した。試合前にそんなことをするのは1人しか思いつかなくて、ヒバリさんの姿を探せばスタスタと歩いていた。
「って、それだけですか!?」
あれ?このツッコミであってる?って言ってて思った。ヒバリさんなりの激励ってのはわかるけどさ。もうちょっと優しいのが欲しいです。や、激励をくれるだけ前より随分優しいけど。なんか遠い目をしたくなるよね。ディーノさんもオレと似たような表情してた。
いろいろと思うところがあるけど、さっさと復活する。獄寺君がイラッとしてるからね。ブチギレてないだけ、獄寺君も成長したなぁなんて。
「えっと。みんな、無理はしないでね」
「10代目も」
「ツナもなのな」
「沢田もな!」
考えることはみんな一緒だねっと笑いあって、オレは見送った。
みんなが移動してる間に、見にきてくれた人達に視線を向ける。
シャマルはオレが女だから怪我した時は任せろって言ってくれた。……前と対応が違い過ぎぃ。
コロネロにはお前の実力が楽しみだぜって珍しく笑っていた。……あれ?オレってコロネロからの評価、すげー高くない?
バジル君には親方様の分も応援しますと気合を入れて言われた。……なんかすげー複雑。嬉しいのは嬉しいけど、素直に喜べない。これでも父さんのことを理解してるつもりなんだけどね。
ディーノさんには応援してるぜと声をかけてくれた。……オレの味方って宣言する意味を前と違ってオレはちゃんと理解している。
炎真にはツナさん頑張ってと言ってくれた。……ここに炎真がいるのがオレはすっげー嬉しい。
ランボは眠そうな目をしていた。……ちびにはキツい時間だよな。オレのわがままでごめんなと頭を撫でる。
よし、と気合を入れたオレは、最後にリボーンに視線を向ける。
「オレの言いたいことはわかってんだろ」
「うん。死ぬ気でやるから見てて」
「ああ」
リボーンとコンっと拳を合わせたオレは、今日初めてXANXUSと向き合ったんだ。
チェルベッロから守護者のみんなに毒を注入されたと聞いても、オレはXANXUSから視線を逸らさない。いつものオレなら、すげーうるさいだろうから、ディーノさん達はオレらしくないと思ってそう。多分不思議に思ってないのはリボーンぐらいじゃないかな。
結局ボンゴレリングをセットできるチェーンをチェルベッロからもらってる時すら、オレは視線を逸らさなかった。だからなのか、ふつーにチェルベッロが試合の合図を出したよ。そこでやっとオレは動いた。つっても、口だけ。
「悪い。オレ、XANXUSに集中したい」
「……相変わらず、君は人使いが荒い。仕方ありません、わかりました」
は?みたいな声が複数から聞こえた。XANXUSすら目を見張ったよ。なぜ……とつぶやいたチェルベッロにオレは声をかける。
「多分毒を注入したと機械を勘違いさせたんじゃないかな。一流の術師は機械すら欺けるから」
つっても、リングの力を使わずに出来るのはあいつぐらいだよ。オレと違って、術師は経験値がそのまま上乗せできるのがほんと大きい。イメージが出来ても、身体が動けなかったら意味ないし。まぁだからあいつもヒバリさんとバトってたんだと思うけど。ほら、骸って完璧主義だから。
「あとは……他人から貰ったものを信用しないからかな。オレが大丈夫って声をかけたら、疑わなかっただろうけど」
前の記憶云々とかじゃなくて、多分あいつの人間不信は酷くなってる。みんなの性格を知ってるのに、馴染まないのはそういうことだろ。キャラじゃないってのもあるだろうけど、それならオレの頼みを聞くってのもキャラじゃないだろ。なんつーか、2回目だからこそのひねくれ方をしちゃってるよ、あいつ。オレが間に入るとかしたら、もっとひねくれそうだし。基本好きにさせてツッコミするぐらいしか出来ないんだよね。だからオレとしてはヒバリさんに期待したいところ。……あれ?詰んでね?
ま、まぁ骸はオレが見てるから大丈夫ってことにして……XANXUSだよ、XANXUS。
「このままだとあっちはあいつの独擅場になるけど、お前はそれでいいの?」
あ、なんかヒバリさんがキレてる気がした。すみません、ヒバリさんが骸の助けを必要ないってのはわかってますと心の中で訴えつつ、XANXUSの出方を見る。
「ッチ。カスども、これ以上オレの足を引っ張るんじゃねぇ」
そういってXANXUSは銃を抜いて撃った。方角からして、嵐と雷。そして……雨。
前の時は勝利した者だけだった。今回は……動ける者っていう意味、かな。それでもオレは嬉しいよ。スクアーロの忠誠心を疑ってないことが。お前さ、気付いてる?スクアーロに追手を出さなかったのも、あわよくばオレを殺すと思ったからじゃないの?
聞けば、全部否定するだろうね、お前は。あり得ないって、お前自身が否定するんだよ。
「やっぱ、オレ……お前に負けれないや」
お前は敗北を知る必要がある。
「本気で来い、XANXUS。さもないと、死ぬぞ」
「はっ。イキがるんじゃねぇ、カスが」
オレの額に死ぬ気の炎が灯ると同時に、XANXUSの銃がぶっ放された。
けど、それはオレに向かってじゃなく、移動のために。XANXUSは銃を持ちつつだけど何度か拳を交える。オレがついてきてるからか、時折銃からもぶっ放されるけど至近距離だから問題ない。手首や銃に当てたりして軌道逸らせるから。
「ぶははは!!所詮、その程度か」
「…………」
オレは答えるすべを持たない。今オレらが戦えてるのは、XANXUSが至近距離で戦ってくれてるから。懸念してた通り、XANXUSが空中から一方的に撃てば、オレは超直感を頼りに避けるだけしかない。それでも……それでもオレは口を開く。
「試してみるか?」
「はっ、己の力量もわからねぇとは」
「どうだろうな」
ザッとXANXUSが後ろに下がる。そして飽きたという一言と共に、空中に飛び上がった。
「それ程消えたきゃ、かっ消えろ!!」
迫り来る大炎にオレは動こうとしなかった。ああ言いつつも、XANXUSはオレの超直感を最大限に警戒していたみたい。逃げ場がない程の炎をオレを中心に放っていた。
このままだとオレは死ぬ。超直感も肯定している。死んじゃったら、みんなは悲しむだろうなぁ。それでもみんなは進んでくれると思う。けど、骸はどうかな。あいつが一番心配かも。普段は心配してないんだけど、オレが死んだらってなると心配。
なんか時間の感覚が変だなと冷静に思いつつ、今のオレの後悔ってなんだろうなぁと考える。もっと死ぬ気になればよかった?うーん、でもなぁ、出来ないのは出来ないし。これは今のオレが出来る本気だもん。後悔はないかって聞かれれば、意外とないのかもしれない。よく考えればオレって2度目の人生だもん。気になると言えば、アルコバレーノの呪いだけど、それだけは骸がちゃんと導いてくれる。あいつ結構律儀だから。
――あれ?そういや、オレ……まだXANXUS殴ってないや。
気付けば、オレの全身から炎が噴き出していた。
沢田家綱
勝ったのに大空戦をやるとラルに聞いた時、ばっかじゃねーの!?と叫んだ。
残念ながらラルは同意してくれず、沢田ツナの決定だ、という返事しかくれなかった。
晩御飯中はなんでコイツいつも通り食ってんの?という感じでチラチラみてた。
返事がおかしかったのは、死ぬなよと本当は言いたかったから。口から出た言葉は違って動揺していた。
六道骸
実はツナが一番心配している人物。
多分もしツナが死んだら、アルコバレーノの呪いだけ解き、その後復讐者と交渉せずに黒のマフィアを殺して消える。
クロームすら置いていく。
雲雀さんがクロームの面倒を見ることになるかな。
沢田ツナ
ずっと抑えられてた理由は、子どもの身体でハイパー死ぬ気モードになったから。
出来だけ負担を減らそうと超直感が導いた結果、手から炎は出なかった。
その状態で問題なく過ごせていたため、きっかけがなかった。
さらに2度目の人生だからこそ、後悔がなく死ぬ気になりきれない。
守護者のことはやることはやったから後悔はなく、骸は心配だけど、命の心配はしていないのもあって乗り切れない。
走馬灯の中、ヴァリアーのためにXANXUSを殴らなきゃ死ぬ気で後悔すると思って覚醒。
今回は身体が出来上がってたため、死ぬ気の到達点までいった。