魔法先生ネギま project in TOHO   作:水崎雨月

15 / 30
エヴァンジェリンの別荘

 海に行った数日後。平和な日常のさなか。

 教室で授業を行うネギはなぜかふらふらとやつれた様子で授業をしている。

「………?」

 さすがの様子に霊夢は首をかしげて魔理沙を見る。魔理沙は霊夢がこっちを向いているのを気付いて首を振るう。どうやら魔理沙も事情は知らないらしい。霊夢はそう判断して授業へと意識を戻す。

 授業終了のチャイムが鳴り、ネギは、今日はここまで~と言って頭を下げる。しかし、まっすぐ教室を出ることができず、ふらふらと歩いて黒板やら扉にぶつかりながら出て行く。

 さすがの光景にクラスメイトが全員心配し、アスナが追跡をしようとする。そこに、のどか、夕映、朝倉、古菲が合流し、さらに魔理沙も面白がって追加。このか、刹那も追加され、ネギと一緒に歩いているエヴァンジェリンを追跡する。

 霊夢はくだらない、と言って龍宮のもとに行ってしまった。

 雨が降る中、エヴァンジェリンの家、ログハウスに入っていく2人。

「雨が降ったから室内で修業ですか?」

「まさか――。あんな狭いところで」

「ふむ。魔力の効率運用とかなら場所に限らずできると思うぜ」

 唯一の魔法使いである魔理沙が想像で答えるが、内心では魔力運用だけであんな疲労はおかしいな。とも考えていた。

「こりゃ、やっぱり㊙のアレ」

「も、もうやめてよ、それ」

 朝倉のセクハラをアスナが真っ赤になって止める。

 他の人は来ていないか心配しながら雨の中を走ってログハウスに入るが、中には誰もいない。

「おかしいなー。確かに2人で家に入ったのに」

「お風呂にもトイレにもいないアルよ」

 魔理沙は窓を見る。雨が部屋の中に入っていないところからおそらく窓から外に出たわけではないだろうな、と考える。

「てことは、転移系の魔法で移動したか、もしくは亜空間に移動したか」

「みなさん、こちらへ~」

 別の場所を捜索していたのどかがやってくる。

 のどかが言うには地下室に何かがあるらしく、全員で地下室へと行く。

 人形が大量に置かれた地下の廊下を歩き、突き当りに到着すると、ガラス玉に入った、何かの建物のミニチュアのようなものが淡い光を放ち存在していた。

「のどかがさっきこの中にネギ先生がいるのを見たそうです」

「え!? どーゆーこと?」

「ですから小さいネギ先生がー」

 と夕映とアスナが言い合っていると、朝倉が何かを起動したのか消える。

 さらに古菲、のどか、夕映までも消え、魔理沙もその光景を見て、

「あぁ、そういうことか」

 小さくつぶやいて、魔力を流して無理やり起動。同じように魔法が発動して、魔理沙もアスナを置いていって中に入ってる。

 

 

 

 

 

 

 中はまさに別荘地ともいえる場所だった。夏のような気温に、美しい海。そして、長い橋の先にあるとてつもなく長い、下の海へとつながる螺旋状の階段に、南国のような建物。

「あっついな」

「あ、魔理沙さん」

 中にはやはり予想通り、朝倉、古菲、のどか、夕映がいた。

「これは、亜空間か……? エヴァンジェリンの作った修行場ってところか」

 朝倉と古菲が下をのぞき込んであまりの高さに絶句している。

「とりあえず行こうぜ」

 臆することなく橋を渡ろうとする魔理沙に膝が震えている夕映。

「い、いえ。魔理沙さん、アスナさんを待ちませんか?」

「んー。アスナが来る前にそのあたり見といたほうがいいだろ」

 魔理沙はブツブツと何かを唱えると、宙に浮く。

「その辺見てくるぜ」

「え、魔理沙さん、飛べるんですか」

 夕映が驚愕の表情を向ける。朝倉はカメラを構えて写真を撮り始める。。

「ホウキ使った方が早いし楽なんだけどな。なくても飛べるぜ」

 魔理沙は飛行魔法を一度止める。すると、そのまま重力に従って落ちていく。

 海中に落ちる前に再び起動。

 海面寸前で止まる魔理沙。

「ふーむ。見事な閉鎖空間だな」

 サーチの魔法を使って周囲を確認する。外を全く観測できない。

 海を適当に飛ぶ魔理沙。

「陸地と呼べるところは中心部の建物があるところだけか」

 30分ほど飛んで元の転送されてきた位置に戻る。すると、ちょうどアスナがやってきたところだった。

「よう、アスナ。ようやく来たのか」

「魔理沙ちゃん!? なんで飛んで!?」

「おいおい。私は魔法使いだって言わなかったか? とりあえず周囲を見てきたが、陸地はそこだけみたいだな」

 夕映の隣に降り立つ魔理沙。

「大丈夫か? 震えてるぜ?」

「こ、これは武者震いというやつです。望んでいた非日常を目の当たりした喜びです」

「とてもそうとは見えないぜ……」

「ファンタジーもいい加減にしてよー」

 魔理沙は文句タラタラのアスナに振り向く。

「それにしてもずいぶんと遅かったな。30分ぐらいか?」

「え? 私、1,2分しか探してないわよ?」

 その言葉に魔理沙は、え!? と聞き返す。

 どんな人間だろうと、1分と30分は間違えるはずがない。時間の認知、感覚は人それぞれで、楽しいときとつまらないときの時間の感覚に差が出るのは仕方がないが、流石に30倍の差はありえない。

「時間の流れが違う……?」

 魔理沙は誰にも聞こえない声でつぶやく。

 そして考える。そんなことは可能なのか、と。

 パチュリーから借りている(と、魔理沙本人は認識している)魔道書等の記憶を漁る。

 しかし、結果はわからない。可能性はある、と仮説をたてても、そこから先はわからない。

「くそ、もどかしいぜ」

 橋を歩きながら魔理沙はぼやく。

 橋を渡りきったところで、階段を降りた先から声が聞こえるというので全員でこっそりと降りることに。すると、

「ふふふ。いいだろ? もう少し」

 エヴァンジェリンのそんな声が聞こえてくる。

 全員が物陰に隠れて耳をすませる。すぐそこにエヴァンジェリンがいることが声からわかる。

「も、もう限界ですよっ」

 続けてネギの声も聞こえてくる。声からエヴァンジェリンとすぐそこにいるらしく、

「少し休めば回復する。若いんだから」

「あっ、ダメ」

「いいから、早く出せ」

「だ、ダメですよ。エヴァンジェリンさん」

「フフ。私のことは、師匠(マスター)と呼べ」

 意味深な会話が聞こえており、ネギのほうは本当に嫌がっているような声色だった。

「ま、まさか、本当に?」

 朝倉はここに来る前にしていた、卑猥な妄想が現実だったのかとつぶやく。

 他のメンバーも同じことを考えているのか全員顔が真っ赤で焦っている。そして、

「こらぁ! 子供相手に何をしているのよ」

 アスナがハリセン片手に飛び出すとそこには、ネギの腕に噛み付いて血を吸っているエヴァンジェリンの姿。

「なんだ、お前達」

 口を離して呆れ顔で言うエヴァンジェリン。

「何って、何やってんのよ!」

「授業料に血を吸わせてもらっているだけだよ。多少魔力を補充せんと稽古もつけれんし」

 その言葉にアスナが再び叫ぶ。

「どうせそんなことだと思ったわよ」

「なんだと思ったんだ?」

「うるさいわね!」

 いかがわしいことを考えていたらしく、大声で叫ぶアスナ。

 

 

 

 

 

「で、ここはなんなんだぜ?」

「ここは私の造った別荘だ。しばらく使ってなかったんだが。ぼーやの修行のために掘りだしたんだ」

「へー。こんなモノ造ってしまうとは、魔法使いとはスゴイアルねー」

「全く。勝手に入って来おって。一応言っておくがな。この別荘は1日単位でしか利用できないようになっているから、お前たちも丸一日ここから出れんからな」

「「「「ええーー!?」」」」

 エヴァンジェリンの言葉に驚いて、明日の授業どうするんだーと、みんな文句を言う。しかし、安心しろ、とエヴァンジェリンは言い、

「日本の昔話に浦島太郎の竜宮城ってのがあったろ。ここはそれの逆だ」

 別荘内での1日過ごしても、外では1時間しか経過しない。

 この別荘はそういうシステムだと教えてくれる。

「つまりだ。ネギは1日学校で仕事した後、1日修行してたってことか。しかも血を吸い取られて。そりゃあんなにやつれるわな」

 魔理沙がやれやれ、と言いたげに言う。

「教職の合間にちまちま修行しても埒があかないからな」

 ネギの1日は実質2日だということに驚愕するみんな。そんな中、アスナが心配そうにネギに声をかける。

「ネギ。あんたまたそんな無理して」

「大丈夫ですよ、アスナさん。それに、また修学旅行みたいなことがあったら困るし、強くなるためにこんなことくらいでへこたれてられませんよ」

「………」

 やる気満々で笑顔で言うネギに、アスナは何も言えないでいた。

 

 

 

 

 外の世界で数分、別荘内で数時間後。

 夕食の時間、別荘の地上に出ている部分の中心部で秘蔵の食糧さえも食べてしまうみんな。さらに、エヴァンジェリンが飲むな、と言うジュースと書かれているものも勝手に飲みだす。

 魔理沙はエヴァンジェリンと一緒にワインを飲む。

「なぜ魔理沙さんだけええのー?」

 飲むなと怒られて文句を言われた木乃香が文句を言う。

「こいつは幻想郷で普段から飲んでいるからな」

「外では20まで飲んじゃダメなんだろ? 我慢しとけだぜ」

 そんなことをしていると、夕映とのどかがエヴァンジェリンに魔法を教えてほしいと頼み込んできた。

「なんで私がそんなことを。そこに魔法先生がいるんだからそっちに頼みな」

「ええ!? 魔法を教える? 今ここで!?」

 話を聞いたネギが驚き、エヴァンジェリンに確認をするが、めんどくさそうに勝手にしろー、と言う。

「まぁ、『別荘(ここ)』は外より魔力が充溢してるから素人でも案外ポッと使えるかもしれんぞ?」

 ネギは小さなとき使っていた練習用の杖を数分出してみんなに渡す。

「この杖を振りながら、プラクテ・ビギ・ナル 『火よ灯れ(アールデスカット)』です。

 ネギが実演をすると、小さな三日月のついた杖から小さな火がつく。

「こんなものよりライター使ったほうが早いんですけど、初心者用の呪文ですね」

 みんなでそれを持ち、それぞれ呪文を唱える。しかし、火は出てこない。

「貸してみな」

 魔理沙が1つ手に取ると、同じように呪文を唱える。すると、星の形をした杖先に火が灯った。

「おぉ!」

 その光景を見た全員が驚きの声を上げ、

「すごいです、魔理沙さん。普通は何ヶ月も練習しないと出ないのに」 

 フフン。とネギに褒められドヤ顔の魔理沙。

「コイツは形式が違うとはいえ、普段から魔力を扱いなれてるからな。むしろ出なければ、何をしているんだ、と言われるところだ」

 しかし、エヴァンジェリンが辛辣に言う。

「おいおい、エヴァンジェリン。もっと私をほめてくれていいんだぜ」

「くだらん」

 その後、日が暮れてから全員寝るが、ネギだけは起きて修行をしている。

 それにお手洗いに起きたアスナが気づく。

 そして、ネギは過去をアスナに語る。

 魔法が一つも使えない幼い時代。村が襲われ、村人たちはみんな石に。

 それを救ってくれたのは、死んだはずのナギ。という過去。

 そして、ネギはアスナにのみまずは話すつもりだったのだが、エヴァンジェリンの手によってのどかのアーティファクト、『いどのえ日記』を使って内容を解読してしまう。

 

 

 そしてそんなころ。別荘の外。

「んー! あぁ、疲れるわね」

 丸テーブルで勉強をしていた霊夢は首を動かして、固まった筋肉を動かす。

 コキコキ。と音が鳴る。

「大丈夫か?」

「悪いわね。教えてもらって」

「気にするな。国語は大丈夫だろうが、英語だとか理科だとかはさすがに幻想郷出身者には難しいだろう」

 目の前で勉強を教えてくれていた龍宮にお礼を言う霊夢。

「ん?」

 休憩にお茶でも入れようと立ち上がると、霊夢は何か違和感を感じる。

「これは、学園に誰かが侵入した? 学園結界を誰かが通ったのかしら」

 霊夢は結界に意識を向ける。

「侵入者か?」

「ま、どうでもいいや」

 霊夢は自分には無関係だと判断して、無視してお茶を入れ始める。

 龍宮も別の魔法生徒、魔法先生が何とかするだろう。ここに来たら容赦しないがな。と放置することにした。

 

 

 

 

 別荘内で24時間。外で1時間が経過をして、別荘組が別荘から出る。

 雨の中を走って帰る8人。

 魔理沙は寮の入り口でみんなと別れると、自室へと向かう。そして、

 一人の老人によって、狗族の少年、犬上小太郎を保護した那波千鶴が連れていかれ、さらに、宮崎のどか、綾瀬夕映、朝倉和美、古菲がお風呂の中でスライムの手にさらわれ、刹那も廊下で隙をつかれて連れていかれてしまった。

 そして魔理沙は、………。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。