魔法先生ネギま project in TOHO 作:水崎雨月
美しい軌道で振られる剣。それを魔理沙はホウキでどうにか防ぐ。
「近接戦闘は苦手でしょう? 魔理沙」
「へ。魔法使いの近接戦闘ってのを教えて」
「無駄よ」
夢子が剣で明後日の方向を指す。魔理沙がそっちを見ると、ちょうどアリスの魔法をヘルマンが無効化したところだった。
「ああ、そういうことかよ。だからネギが苦戦してたのか」
0距離からのマスタースパークを使おうとしていた魔理沙はこれで作戦を変更せざるを得なくなった。
「手伝うぜ、姉ちゃん」
小太郎が後ろから拳を握りながら言う。
「ああ。頼むぜ」
魔理沙も快くそれを受け入れる。だが、夢子がそれを否定する。
「何を言っているのかしら、この負け犬は」
「あぁ!?」
さすがの負け犬発言に小太郎が叫ぶ。
「犬上小太郎。あなたはこの戦いに参加する資格はないわ。少なくとも、本気を出さないのであれば」
「おい、どういう意味だ、夢子」
「教えてあげるわ、魔理沙。この犬はあろうことか、女と本気で戦えない、などと言って私に対して攻撃しなかったのよ」
指をさす代わりに右手に持つ剣を小太郎に向けて言う。
「そんなことをするやつに戦場に立つ資格はない」
「女を殴れるわけないやろ!」
「ふーむ。別にいいんじゃねーか?」
「は?」
魔理沙の言葉に夢子が変な声を出す。何を言っているのか理解できていないんか若干固まる。
「まぁ、しょうがないんじゃねーか? ほら、女は守るものっていう考えは昔からあるし、その教えを守るように言われ続けていたのならば、仕方ないと思うぜ」
魔理沙の言葉に夢子はため息をつく。
「甘過ぎよ、魔理沙。その負け犬は参加するだけであなたのジャマになるわよ」
「そうか? やってみなきゃわからねぇぜ」
「そう。あなたも愚かな選択をするのね、魔理沙」
「愚かかどうかは試してからだぜ!」
ホウキを振り下ろす魔理沙。それを右手の剣で軽くいなして反撃に左手の剣を薙ぎ払う。
それを小太郎が気で覆った両手をクロスして魔理沙の懐に入って防ぐ。
「あら」
自然とこういう形となった。魔理沙がホウキを振るい、魔理沙の隙を狙った夢子の一撃を小太郎が防ぐ。
「いつまで持つかしらね」
右手に持っているホウキに八卦炉を装着する魔理沙。
八卦炉から炎が噴き出る。その炎によってホウキが加速し、夢子の胸元にホウキの先、掃く部分と逆で夢子の胸元を思いっきり突き押す。
夢子は突き飛ばされながらも後ろにステップ。少しでもダメージを減らそうと思い切り後ろに飛び過ぎて1回転。バック転の要領で無事着地する。
夢子は胸元を思い切り叩かれたことで肺の中の空気が出てしまったのか、苦しく息を吸う。
「かっ、はぁ、はぁ」
「まだまだ! ブレイジングスター!」
次はホウキにまたがって、一直線に突進。
夢子はカウンター狙いで両の手に持つ剣を2本とも振るう。
魔理沙はその剣を見て、急旋回。一度剣を回避。しかし、そのまま円を描くように飛び、速度を上げていく。
夢子は剣を構える。もう一度近づいたところを斬ろうとするが、そこに小太郎が夢子に突撃する。
「邪魔をするな、犬っころ」
右手の剣を振るう、左手の剣は魔理沙を狙えるように構えたままにしておく。
小太郎はそれをできるだけ寸前で回避。
髪の毛が少し斬られるがどうにか回避すると、気を込めた拳を振るう。
「ふん」
夢子はブラフだと判断して回避や防御を破棄。魔理沙にのみ注意を向ける。夢子の予想通り、小太郎の拳は夢子に当たる寸前で止まる。
ほら、見たことか。
と、夢子は剣を振るおうとするが、直後、おなかに衝撃が来る。
「は?」
小太郎は殴っていない。だが、寸前であえて止めることで、空気を殴り飛ばす。これが空気砲となり、夢子のお腹に直撃。
「がっ。バカな」
そこに、魔理沙が突っ込んできて、夢子をホウキの柄で突き飛ばす。威力で何メートルも飛ばされ、観客席のベンチを砕きながら地面を転がる。
どんどん加速してとてつもない速度となっていた魔理沙のブレイジングスターの直撃。とてつもないダメージのはずだが、
「や、やってくれるじゃない。犬っころ、魔理沙」
全身ががくがくと痙攣しながらも無理やり立ち上がろうとする夢子。
夢子の周りに何本も剣が浮かび上がって宙に浮いている。
「引き裂かれなさい!」
その剣が魔理沙と小太郎に向かってまっすぐ飛ぶ。
「マスタースパーク!」
八卦炉からのレーザー光線で全部まとめて叩き落す魔理沙。しかし、
「『
レーザーが収まると同時に、夢子の詠唱は完了。氷の散弾が魔理沙めがけて飛んでくる。
「ちぃ!」
ホウキに八卦炉を装着。それを利用して加速してその場を離れる。しかし、氷の散弾が魔理沙を追いかけ続ける。
「くそ。
上へと飛ぶ魔理沙。それを追いかける氷の散弾。
ついには追いつかれると、氷の散弾がどんどん魔理沙に当たり、砕けた氷の散弾が砕け、煙のように魔理沙を覆う。
全ての散弾が当たり終わると、ホウキからも落ちて地面に向かって頭を下に自由落下する。意識を失っているのか目が閉じられている。
「姉ちゃん!」
「終わりよ、魔理沙」
夢子が追い打ちをかけようと、剣を両手に持って魔理沙に向かってジャンプする。
だが、それを狙っていたかのように目を閉じていた魔理沙の目が開く。そして、体をひねって動かすと、夢子めがけて八卦炉を向ける。
「それは効かない」
「周りをよくみな」
魔理沙の言葉に不安を覚え下を見る夢子。ちょうど、アリスの人形、上海がアスナにかかっていたペンダントをランスで取り除いたところだった。
「しまった!」
「これで、魔法が効くぜ! 『ドラゴンメテオ!』」
防御魔法も間に合わない完璧なタイミングで夢子めがけてレーザーが照射される。
地面に鈍い音を立てて落ちた後さらにゴロゴロ転がる夢子。普通ならば死ぬようなダメージだが、夢子は立ち上がろうとする。しかし、膝ががくがくと震えてうまく立ち上がれない。剣を地面に突き刺してそれを杖替わりにすることで立ち上がろうとする。
「ファイナル・スパーク」
さらにそこに追い打ちのレーザー。
夢子は右手の剣を縦に振るってレーザーを切り裂く。
「はぁ、はぁ。まだ、まだよ、まり――」
上空から落ちてきた魔理沙が、落ちながら拳を振るって夢子の顔面を殴りつける。
自由落下による威力増強された拳に殴られた夢子は地面を転がり、地面に倒れ伏せ動かなくなる。
そして、そのまま落ちるはずの魔理沙を小太郎がスライディングのように地面を滑ってキャッチする。
「ぐっ。おもっ」
「おいおい、乙女に重いはねぇだろ」
だが、ありがとうよ。
魔理沙はそう言って立ち上がる。
「………強くなったわね、魔理沙」
「なんだ、もう目覚めたのかよ」
寝転がったまま夢子が声をかけてくる。
「
「あぁ、単純な答えさ」
「私が糸の結界を魔理沙の周辺に張ってすべての
アリスが近づいて魔理沙より早く答えを言う。
「ヘルマンと戦いながらサポートしたというの?」
「あの時点ではもう私はサポートに回ったからね。サポートに徹すれば両方をサポートするなんて簡単よ」
近づいてきた上海の頭をなでるアリス。
「犬っころにもやられたわね。まさか空気を殴って空気弾を撃つなんてね」
「おい、いい加減名前で呼べや」
夢子は起き上がると、メイド服をはたいて砂埃を落とすと、首を動かしてゴキゴキと音を鳴らす。
「あー、痛い痛い。魔理沙が容赦ないから体が痛くてしょうがないわ」
「どう見ても無傷じゃねーか」
魔理沙のぼやきを夢子はスルーする。
その光景を世界樹の上から眺める影が4人。
「……ふん。乗り切ったようだな」
「内心ハラハラ。半場おろおろだったようですが。無事でよかったですね、マスター」
「ふふ……。ニンニン」
「………まさかアリスに夢子が来るとはね」
「茶々丸。お前な、いい加減その方向のつっこみはよせ。まあ、ぼーやの潜在力を見れたのは思わぬ収穫だったよ。ヘルマンとやらには、例を言わねばな」
黒焦げとなったヘルマン伯爵に近づいてみているネギ。
アリスは魔法で水泡を割って全員を救出する。
「大丈夫?」
「ありがとうございます」
裸の人たちはタオルで体をどうにか隠すとネギに近づいていく。
「君たちの勝ちだ。……とどめを刺さなくていいのかね?」
ヘルマン伯爵の足の部分は煙となって消えて行っている。
「このままにすれば、私はただ召喚を解かれ自分の国へと帰るだけだ。しばしの休眠を経て、復活してしまうかもしれないぞ?」
かつて、ネギの故郷を襲った際に、ヘルマン伯爵とスライムを封印した瓶はアリスの手によって使われてしまった。
それによってこの悪魔に対する封印は不可能となった。
「……僕は……」
「君のことは調べさせてもらった。君が日本に来る前に覚えた9つの戦闘用呪文のうち、最後に覚えた上位古代語魔法……。そのための呪文のはずだぞ。本来、封印することでしか対処できない我々のような高位の魔物を完全に撃ち滅ぼし消滅させる超高等呪文。君が復讐のために血のにじむ思いで覚えた呪文だよ」
復讐、か。
魔理沙はエヴァンジェリンの別荘で教えてもらったネギの過去を思い出す。
復讐したくなるよな……。生まれ故郷を破壊されつくされたわけだしな。
ネギの気持ちを考えて魔理沙は表情を暗くする。
「僕は、とどめを、刺しません」
「ほう」
「6年前、あなたは召喚されただけだし、今日だって人質にそんなひどいことはしなかった」
いや、それはそうだけどよ。
魔理沙は物言おうとするが、さすがに空気を読んで黙る。
「それに、あなたの方こそ本当の本気で戦っているように見えませんでした。僕には、あなたがそれ程ヒドい人には」
「どうかな? やはり私は全くの悪人かも知れぬぞ。何せ悪魔だからねぇ。ハハハ」
「それでも、とどめは指しません」
「ふ、フハハハハ。ネギ君。君はとんだお人好しだなぁ。やはり闘いには向かんよ」
性格的に戦いは確かに不向きだよな、ネギは。
ヘルマン伯爵の下半身はすでに敢然に霧となっている。残すは上半身のみ。
「コノエコノカ嬢。おそらく極東最強の魔力を持ち、修練次第では世界屈指の治癒術師ともなれるだろう」
おー。それは同意するぜ。木乃香の魔力やべぇからな。
「成長した彼女の力をもってすればあるいは、今も治癒のあてのないまま静かに眠っている村人たちを治すことも可能かもしれぬな」 木乃香の力で!? 話を聞いていると永久石化クラスの魔法で石にされたんだろ。それすらも治せるのか。
「まぁ、何年先になるかはわからんがね」
ネギは木乃香を見る。その間にヘルマン伯爵の身体は完全に煙となり、消えてしまう。
「ふふ。礼を言っておこう、ネギ君。いずれまた成長した君を見る日を楽しみとするよ。私を失望させてくれるなよ、少年」
ふふ、ふはははは。
と、高笑いしながら完全に消えてしまう。
短い沈黙の時間。
「で、夢子。お前はどうするんだ?」
沈黙を破る魔理沙の声に、全員の視線が金髪メイドに注がれる。
「もちろん帰るわよ。私は魔理沙に会いに来ただけだから、こんな仕事興味なかったし。ヘルマン伯爵が適当に報告してるでしょ」
「その依頼主ってのは誰なんだぜ?」
「答えると思う?」
「無理やり言わせてやるぜ」
八卦炉を向ける魔理沙に対し、夢子はスルーしてアリスの方を向く。
「帰りましょう、アリス」
「先に帰ってて。私は用事があるから」
「そう」
夢子は高々にジャンプして観客席を超え、姿が見えなくなる。
「あ、待ちやがれ、夢子!」
魔理沙がマスタースパークを撃つ前にすでに姿が見えなくなってしまった。