真・恋姫†無双 ~凌統伝~   作:若輩侍

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やっとここまでやって来た!
といってもまだまだ序盤な訳ですが……。
今回、結構な厨二成分が含まれていますので、苦手な方はお気をつけを。
では、どうぞ。


第十一話

「浩牙さーん!」

 

雪蓮様達と合流するために出向いた先で、嬉しさを滲ませたそんな第一声と共に俺を出迎えてくれたのは、長い黒髪を風になびかせた小柄な少女だった。笑みを浮かべ、小走りにしては早い速度で近づいてきたその少女――周泰こと明命を、俺も満面の笑みを浮かべて迎える。寝不足の所為か、こちらから駆けよる際に少しつまづきそうになったのは、明命には気付かれないように全力で立て直した。

 

「久しぶりだな明命。元気そうで何よりだよ」

「はい! 浩牙さんもお変わりなく」

「ま、変わる様な事もなかったからなぁ」

 

というのは少し嘘になるだろうなと思いながらも、俺はそれを表に出さないように努める。瑾ではないが、妹分には弱い部分を見せたくないという兄貴分としてのちょっとした意地だ。

 

「そうなんですか?」

「そうなんです。でも明命はちょっと変わったみたいだな。背、少し伸びたんじゃないか?」

「ほ、本当ですか!?」

 

明命が先程よりも更に嬉しそうな表情でぱぁぁっと笑みを咲かせる。仲間との再会より身長が伸びた事の方が喜びの優先度が高いというのも何だか複雑な気分だが、小柄な事を気にしている明命にとってはそれだけ重要なんだろう。笑みの中に若干ながら不安を見せている明命の頭に、俺は苦笑を浮かべながらポンと手を置いた。

 

「本当だよ。以前はもう少し目線の高さが下だった。それでも、まだ下なのは変わらないけど」

「それは浩牙さんの背が高いからです! うぅ、チビで悪かったです」

「はは、拗ねない拗ねない。まだまだ、明命の成長はこれからだって」

「……それはどこを見て言ってるんですか」

「全体的な面を見て」

 

そう言って俺はジトッとした目を向けてくる明命の頭を優しく撫でる。少しくすぐったそうにしながらも気持ち良さそうな表情を浮かべた明命だったが、すぐさまハッと我に返ると顔を赤らめ、隠密らしい機敏な動作でシュバッと俺から離れた。

 

「あ、危ないところだったです。もう少しで浩牙さんに懐柔されてしまうところでした」

「うむ、もう少しで懐柔できそうだった」

「否定しないんですか!?」

「するつもりすらない!」

「しかも言い切られました!?」

 

久方ぶりの再会に俺がつい調子に乗って明命を弄る、もとい明命と漫才を繰り広げていると、恐らくはこれを見たかったがために明命を先に行かせたであろう張本人が満足げな、かつ生温かい目をしてこちらへと近づいてきた。

 

言わずもがな、雪蓮様である。

 

「はいはい二人とも。嬉しいのは分かったから、漫才はそれくらいにね」

「あっ、も、申し訳ありません雪蓮様!」

「いいのよ別に。気持ちは凄く分かるしね」

「そうだぞ明命。黒幕さんなんだから謝る必要は無い」

「えっ!?」

「だぁれが黒幕ですって?」

 

雪蓮様がわざとらしく片眉を上げて言う。しかし直後、その肩にポンと置かれた手に、傍から見ていてい見事だと思うほどに雪蓮様がビクッと震える。

 

「その言葉に反応している時点で、自分が黒幕だと言っている様なものだと思うがな」

「うっ……冥琳」

 

見え見えなしらを切ろうとした雪蓮様に冥琳様の鋭い指摘が突き刺さった。雪蓮様がばつの悪そうな表情を浮かべ、明命があわあわと顔を真っ赤にしながらうろたえる姿に、遅ればせながら雪蓮様の横に並んだ冥琳様が珍しく声を上げて笑った。

 

「はははっ。まあ、確かに雪蓮の気持ちも分からんではない。随分とご機嫌の様だな明命」

「め、冥琳様まで~」

 

真っ赤で泣きそうな表情をする明命を微笑ましい気持ちで眺めていると、俺の一歩後ろで事の成り行きを見守っていた瑾がぼそっと一言呟いた。

 

「あの冥琳様が声を上げてお笑いに……明日は槍でも降るのだろうか」

「聞こえているぞ蒼志。何なら、今からお前の上にだけ実際に槍の雨を降らせても良いのだが?」

「つ、謹んでお断りさせていただきましゅ!」

 

眼鏡を光らせてニヤリと薄い笑みを浮かべた冥琳様に、瑾が最後に噛みながらも全身全霊で辞退の言葉を告げる。流石は冥琳様、あの瑾にカミカミ口調を発言させるとは……しかも地獄耳まで完備して、まさに最強である。

 

「お、なんじゃなんじゃ。面白そうな事をしておるからに。儂も交ぜんか」

「止めぬか祭よ。こういう時、吾輩等の様な老いぼれは隅で茶をすすりながら見守るのが定石というものであろうて」

「誰が老いぼれじゃ! 儂はまだお主程には歳を食っておらぬわ!」

 

祭さんに海苑じいさんも揃い、俄かに呉の主要な面子が揃い始める。だが最もこの場にいるべき人物の姿がまだ現われていない事に、俺は疑問と共に一抹を不安を感じながらも、極めて気楽に雪蓮様へと口を開いた。

 

「あの雪蓮様。蓮華様の姿が見えないんですが。明命がいるという事は、無事合流を果たしているんでしょう?」

「あー、うん、そうなんだけど……」

 

俺の問いかけに、雪蓮様が言いにくそうに言葉を濁す。どうしたのかと思い他の面子にも目を向けてみれば、俺たち三人と明命以外の全員が厳しい表情をして俺に何か推し量る様な視線を向けていた。

 

先程まで朗らかな雰囲気が漂っていた場には一瞬にして重い空気が立ち込める。たったそれだけだ。それだけで、俺の中にあった一抹の不安が最悪の確信に足り得るには十分だった……。

 

「これが天の采配とかってやつなら、天とやらは随分と腹立たしい性格なんだろうな。上げて落とすとか、相当ひねくれた奴に違いない。くそが、最悪の予想が的中か」

「浩牙……」

 

俺の声が信じられないくら冷たい事に驚くのと同時、雪蓮様達の危惧は一層強まったようだった。後ろの二人も気付いたようで、何時でも動けるように瑾が身構えたのが気配で感じ取れる。事情を察していないらしい明命の不安そうな表情が、この場では場違いに浮いていた。

 

「蓮華様は……いえ、蓮華様とそのお傍付はどこですか?」

「それを聞いて、どうするの?」

「久方ぶりの再会ですよ? 挨拶くらいは交わしたい……というのもありますけど」

「再会の挨拶をするのにそんな殺気は必要無いでしょう?」

 

まあ、そうだろうなと自分でも思う。だが、もう何度目にもなるがこれでも抑えている方だ。枷を外せば、今すぐ俺は一目散に蓮華様の気配目掛けて直行してしまうに違いない。

 

「そうですね。だからそれ以外の目的もあると素直に言わせてもらいます」

「隠すつもりは無しの様ね。それで、その目的って?」

「試させて下さい」

「試す?」

 

怪訝な顔をした雪蓮様の目を見て俺は小さく頷く。

 

「そのお傍付が蓮華様を守るに相応しい者なのかどうか。俺に試させて下さい」

「一応言っておくけど、既に私が認めた人物よ? それじゃ不満?」

「なら言い方を変えます。俺が認められる人物であるかどうかです」

「なるほどね。確かにそれは、浩牙にしか確認できないことだわ」

 

納得した表情で言う雪蓮様の顔は依然厳しいままだ。そのまま無言で何かを考えている様子だったが、しばらくして周りを見回してた雪蓮様に口を閉じて事を見守っていた冥琳様達が目で頷きを返したのを機に、雪蓮様は俺の方へと向き直った。

 

「分かった。まあ、先延ばしにしてもいつかはケリをつけなきゃいけない事だし、だったら今この場でっていうのもアリか」

「いいのだな、それで」

「ええ。幸いこの場には浩牙を止められるだけの面子も揃ってるしね」

 

それが最後の確認だったのか、雪蓮様の答えに頷いた冥琳様が輪から外れてどこかへと向かう。こうなる事を見越して、恐らく蓮華様には奥で待機しているように言うか何かしていたのだろう。戻ってくるまでにそう時間は掛からないはずだ。

 

「言っておくけど、あくまで試すだけよ。絶対に血は流させないから」

「大丈夫ですよ。俺の得物は、上手くやったら血は出ません」

「……蒼志、浩牙の鉄鎚を取り上げて」

「はっ」

「え、あっ、おい!」

 

反論する間もなく後ろから伸びてきた瑾の手によって、瞬く間に腰に提げていた二本の鉄鎚が奪われる。流石に瑾から強引奪い返すわけにもいかず雪蓮様に非難の目を向ければ、雪蓮様は何か問題でもと言いたげな表情を浮かべた。

 

「試すだけなんだし、何も得物を持って戦う必要は無いと思うのよね。正直、素手でも十分に武力は推し量れるし」

「素手であってもやりようはありますよ?」

「あんまり油断してると、浩牙の方が痛い目に合うかもしれないわよ? なんたって私が認めた子だもの」

 

挑発に聞こえるかもしれないが、恐らくは本当の事なんだろう。少なくとも蓮華様の傍付を任せるくらいには腕がたち、そして人柄に関しても蓮華様が認める人物。客観的に見ればそんな人物に喧嘩を売る俺の方が呉にとっては逆賊なのだろう。だがそうだとしても、俺が内に抱えるこの感情は理屈ではどうにもできない。治める唯一の手段は、俺自身が納得の出来る方法でケリをつける以外に他は無い。

 

「連れて来たわよ」

 

一言、その言葉と共に戻ってきた冥琳様の後ろには、二人の人物が確認できた。一人は雪蓮様によく似た姿の、雪蓮様と同じ王者の風格を纏う女性。見間違いようもない、孫家の次女孫権こと蓮華様だ。そして、呼ばれたは良いがこの場に漂う剣呑な空気に目を白黒させる蓮華様の背後にもう一人女性が佇むようにして立っている。

 

その女性が立ち位置をずらして姿を見せたその瞬間、俺は束の間息をすることを忘れた。停止した様に見える光景の中で、女性がゆっくりと一挙一動するごとに心臓が跳ねる。防具らしい防具を纏わず、ただ身軽さを追求したらしき軽装に映える、漆黒の黒布と紫の髪が否応なしに俺の目を引く。

 

それは、以前江賊征伐の折に俺が賊から手に入れた甘寧の外見情報と違わずに一致していた。しかしそれだけでは決め手にはならない。この広い大陸だ、同じような姿をした人物など何人もいることだろう。

 

だが俺は確信していた。服装など関係なく、鋭い眼光の宿るその目を見た時から。今ここにいる、蓮華様の傍に控えるこの女性こそが、父である凌操を討った我が仇敵……甘寧であると。

 

「……」

 

視線に気づいたのか俺と傍付の目が合った。いや違う、最初からずっと合っていた。向こうも俺の事をこの場に来た瞬間から見つめていたのだ。あの時の様に黒布で顔は隠されておらず、曇りの無いその瞳はただ一心にこちらを見つめ、感情の揺らぎを見て取ることはできない。

 

「思春と共に待機していろと言われたと思えば、次は一緒に来てくれだなんて。冥琳、一体どうしたというの?」

 

すぐ目の前にいるはずなのに、蓮華様の声が遠くから聞こえる。何やら待たされた事に文句を言っているらしいが――あぁ、そんな事はどうでもいいか。

 

「少し込み入った事情がありまして」

「込み入った事情?」

 

込み入った事情? とんでもない、何も難しい話じゃない。俺の目の前におやじの仇がいる。ただそれだけの事じゃないか。

 

「それが私に待機を命じた理由?」

「蓮華様というより興覇に。と、ここは言うべきでしょうか」

 

ああ、そうだろうとも。何せここ最近俺の情緒が不安定な一番の原因なのだから。

 

「思春に……どういうこと?」

「それは、俺から説明しますよ」

「えっ?」

 

そうだ、これは俺の問題だ。いや、俺と甘寧の問題か。ならば冥琳様の口から説明というのも野暮な話だ。だって折角、事の当人がこの場に揃っているのだから。

 

「浩牙ではないか! 久しぶりだな、会うのは何年ぶりになる……浩牙?」

 

今の俺が普通ではないと感じ取ったのだろうか。驚きと喜びの色が即座に失せ、不安そうな表情を蓮華様が浮かべる。まったく、主君の妹君にそんな顔をさせてしまうだなんて、これはとうとう逆賊決定かもしれないなぁ。

 

「どうしたというの浩牙。様子が変よ? 何だか怖いわ」

「それで正しいですよ蓮華様」

 

そう言って俺は蓮華様の方へと一歩足を踏み出す。するとどうだろう、案の定傍付が俺と蓮華様の間に立ち塞がる。俺と傍付との距離が急速に縮み、傍付の顔がよりはっきりと見えるようになる。それでも傍付の表情は微動だにしない。大したものだ、これだけ殺気をぶつけているというのに。

 

「蓮華様を巻き込むのは止めてもらおう」

「……そうだな、あんたの言う通りだお傍付の方。なら、とりあえず自己紹介から始めるとしよう。最も、そんなもの既に必要だとは思えないけどな」

「……」

 

無言のままこちらをじっと見つめる傍付に向け、俺は朱染の陣羽織を強調するようにしながら声高々に名乗る。

 

「我が名は凌統。字は公積。呉の猛将、凌操の息子。そしてこの陣羽織は、我が父凌操が夏口の戦にて敵に討たれた折に父より受け継いだものだ」

 

事細かく、聞かれてもいない事まで含めた俺の名乗りに、傍付の表情がピクリと動いた。どう対応するから考えているのだろうか。しらを切る? それとも謝り通して関係の改善を図る? それも良いだろう、それならば俺もそれに応じた考えがある。だが、この女がそんな事をするとは思えない。こいつはそんな弱い人間の目をしていない。

 

その程度の人物なら雪蓮様が認める訳がない。

 

「我が名は甘寧――」

 

きっとも、そして恐らくも無い。これは確信だ。この真っ直ぐな、どこまでも自分の意志を貫き通そうとする強い瞳を持つ、この(甘寧)は――

 

「かつては江賊の長として、そして今は蓮華様の矛であり盾として、孫呉に忠誠を誓う者。そして――」

 

逃げる事は無く、折れる事も無く、例え恐れや不安を抱えていようとも――

 

「夏口の戦で、孫呉の猛将……いや――」

 

怯えを見せず、背を見せず、むしろ獰猛な歯牙をむき出しにして――

 

「貴殿の父君、凌操を討ち取った者だ」

 

真正面から正々堂々、俺にぶつかってくる事だろう。

 

「そうか……あぁ、そうか」

 

やはり間違いじゃなかった。目の前の傍付こそが、おやじの仇である甘寧であった。ずっと捜し続け、そして一時はもう諦めようかと思う事もあった、我が仇敵たる甘寧だ。その甘寧がようやく見つかった。これから孫家を支えて行く仲間の一人として。いやはや、これ以上の皮肉があるだろうか。しかもその人物が、誰よりも蓮華様の身を案じ、例え孫呉の臣である俺であろうとも、危機を感じたのならば前に出て立ちはだかるという行動に移るほどの忠臣とは……。

 

「く、くくっ」

「何がおかしい」

「さて、何がだろう? 仇敵が道を共に歩むべき仲間として見つかった事かもしれないし、そんな仇敵が……憎むべき存在が、悔しい事に既に孫家の一員たる人物だと認めている自分がいる事がかもしれない」

「なんだと……?」

 

くつくつと笑いながら言った俺の言葉に甘寧が怪訝な表情を浮かべる。だって仕方がないだろう。今の俺は酷く感情的だ。ならば、誰からをも蓮華様を守り通すという甘寧の意志に、ひいては孫家の忠誠へと続くそのあり方に、同じ孫家に仕える者として敬意を覚えずにはいられようか。まったくもって、完全に頭が冷えてしまった。

 

「やれやれ。蓮華様が傍に置き、雪蓮様が認めた時点で、まあ俺も認めざるを得ないだろうなとは思っていたけど……ははっ、これじゃ俺一人だけが悪者みたいだ」

「……」

 

自嘲とも呼べる俺の独白を、甘寧は一言一句逃さないとばかりに俺の顔をじっと見つめて聞いている。だが恥ずかしいとは思わない。むしろ聞いてくれている事に感謝したい。

 

「悔しいけど完敗だよ。あんたみたいな人に討たれたのなら、おやじも喜んで成仏するだろうさ。もしかしたら、俺が縁を結んでやったんだ、なんて言って今頃空の向こうで自慢しているかもな」

「貴殿は……それでいいのか?」

 

それは、きっと俺の心中を察しての言葉だったんだろう。なぜなら今、俺は孫呉の臣下という立場の上で言葉を紡いでいる。ならば俺個人、立場にも何にも縛られずに考えたのならばどうなのかと。それならば、勿論答えは――

 

「ああ、構わないさ」

「……私が憎くはないのか」

「いや、勿論憎いさ。だが今はもう、それを理由にあんたを殺すつもりはない。孫呉の臣下として、あんたを殺す事は呉の不利益になるからとか、そんな理由じゃないぞ? これは歴とした俺個人の意志だ」

 

正確に言うならば、そこには少なからず孫呉の臣としての俺の考えも反映されてはいるだろう。だが、孫呉の臣下である事も俺という人物を形作る中で欠かす事の出来ない重要な要素だ。だからいくらその他の事を横に置いた上での個人の意志と言えども、それらの影響を完全に切り離して物事を考えるのというは土台無理な話だと俺は思う。

 

「なら、その理由とやらを聞かせてもらいたい」

「いいだろうとも。確かに、今ここであんたを殺せば、確かに仇打ちは果たせるだろう。でもその後はどうする? 仲間殺しの咎を背負い、そして今いる居場所を失い、求めている夢すらも奪われる」

「夢……」

「そう、夢だ。我が主君の悲願を阻む全ての障害を打ち砕き、そして達成までの道を作る事。それが、俺がこの鉄鎚に掛けて――」

 

そこまで言いかけて鉄鎚を手にしようと腰に回した手は悲しいかな、空しくひょいと空を切った。そう言えばさっき、鉄鎚は取られたんだっけか。くそぅ、なんとも間の悪い。

 

「どうした?」

「いや、まあともかくだ! こういった事を損得勘定で語るのもなんだと思うけど、俺があんたを殺した時に得られる利益は達成感という名の形の無いものだけで、失うものはその他のもの全てだ。どう考えたって割に合わない」

「理屈だな。それで納得をつけられるなら、この世から復讐などというものは無くなるだろう」

「それこそ余計なお世話だ。といっても、少し前までの俺はその最たる状態だったわけだが……まあ、あんたのおかげで頭が冷えたよ。今の俺は、そんな理屈で納得がいく物分かりのいい人間になったらしい。ただそれだけのことさ」

「……そうか」

 

そう呟き、俺を見つめていた甘寧の瞳にふっと瞼が下ろされた。恐らくこれで話は終わったと思ったのだろう。だが、ところがどっこい。まだ俺の話は終わってない、といっても殆ど蛇足な気がするが、俺にとっては大事なことだ。

 

「だけど最後に、これだけは言っておく」

「聞こう」

「俺はあんたを許さない。おやじの仇であることも、それに伴う憎しみも、忘れるつもりは毛頭ない。だが、共に孫呉に忠誠を誓う者としてはあんたの事を認める。これが、俺とあんたとを隔てる距離だ」

「ああ、覚えておこう」

 

今度こそ話は終わりだとばかりに俺から顔を逸らそうとした甘寧に、俺はもう少しだけ言葉を掛ける。

 

「あぁ。そう言えば、もう一つだけ確認したい事があったんだった」

「まだ何かあるのか」

 

事態は一瞬。しっかりと拳を握り、腰を軽く落として足の踏みこみを確認する。そして先の俺の問いに答えようと、甘寧が踵を返しかけていた体を再度俺の方へと向かわせようとしたその瞬間――

 

「シッ!」

「なっ――!?」

 

俺は全力を込めた足で大地を蹴り、驚愕の表情を浮かべる甘寧へと飛びかかった。

 




穏便に終わると思った? 残念! 騙して悪いが(ry
それにしてもくせぇー! 厨二成分の臭いがプンプンだぜぇぇ!
作者は当然ながらこんな修羅場に遭遇した事などないので、凌統と甘寧の掛け合いは勢いとノリで書いてます。こうした方が読みやすい、または情景描画が映える、などといったご意見ご感想がありましたら、どしどしお申し付けください。
ボキャブラリー不足で割と真剣に悩んでますので……ええ、ほんと切実に。

そして何気に明命のキャラがつおいお。
対して蓮華様の扱いが薄いですよね、ファンの方はごめんなさいぃぃぃぃ!!
だがしかし、敢えて言おう! 何度でも言おう!! 

ヒ ロ イ ン は 甘 寧 で あ る と !!

それでは、次回も宜しくお願いします。

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