真・恋姫†無双 ~凌統伝~   作:若輩侍

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師走でも本作品は通常運行です。
なにせもとから更新速度が遅いからな、どうだ参ったか!
……すみません、毎度お待たせしております。凌統伝、更新でございます。
では、どうぞ。


第十六話

「むぅ……」

 

さて、一体全体どうしたものかな、これは。

 

口では唸り、心の中ではそう呟きながら、俺は傷だらけの大岩を前に佇んでいた。周囲にはそれぞれ形や厚みの異なる刀剣がその刀身を見事に砕かれて散乱し、さながら古戦場跡の様な様相を醸し出している。全く統一感の無いそれらは、強いて括るならば常人が扱うには少々不便が過ぎる作りの品々であるという事だろうか。

 

その例にもれず、今俺が手にしている折れた剣も、あって無さそうな切れ味の分厚い刀身と、それに付随する重量ゆえに、とてもじゃないが常人が片手でほいほいと気軽に扱える得物じゃない。両手でもって振り下ろす分には十分な威力が約束されるだろうが、それではもはや剣ではなく鈍器だ。しかしそれも、目の前の頑丈な大岩を相手にしては十合と耐えられるものではなかったらしい。

 

やはり無理かという失望の念と共に、また一つ使いものにならなくなった得物を地面へと打ち捨てる。空に浮かぶお天道様は少し前に中天を越えたばかりゆえに日はまだ十分に高いが、これが夜にでもなれば折れた剣の数だけ怨霊の類でも出るんだろうか。そんな束の間の現実逃避を試みるが、残念ながら現実は変わらない。

 

ここは古戦場でも何でもない、紛うことなく我らが城の鍛錬場だ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

事のそもそもは、黄巾の乱の際に旧臣達が合流した事で拡大化した軍部の再編成案について、瑾と共に執務室で仲良く頭を悩ませていた際に、何気なく瑾が尋ねてきた事だった。

 

「なあ、公積よ」

「んー?」

 

木簡に筆を走らせる手を止めず、俺は木簡に向ける視線をそのままに瑾の呼び掛けに生返事を返す。

 

「今更な気もするが、無くした得物の代わりはどうするつもりだ?」

「あー、そう言えば……」

 

割と真面目に考えなければならない問題を指摘され、木簡に選別した将兵の名を書き込んでいた手を止めた俺は一息つくと共に天井を仰いだ。黄巾党との戦いの後、何だかんだで忙しかったせいですっかり忘れていたが、瑾の言う通り今の俺の手元には敵と渡り合うための得物が無い。理由は言わずもがな、あの戦いの中で失ってしまったからだ。

 

実のところ、時間と人員そして状況が許しさえすれば、丸ごと鉄塊と言っても差し違えなかった俺の双鉄鎚は、あの出城の焼け跡からでさえ回収可能な代物だった。かなりの手間が掛かるだろうが、きっと灰と焼け跡の下から掘り起こす事が出来ただろう。しかしそれはとある理由によって不可能になってしまった。

 

それは、黄巾党との戦いで孫呉が大きく戦功を上げてしまったからだ。敵軍の首領である張角の頸こそは残念ながら討ち取る事は出来なかったが、圧倒的寡兵ながら大胆な火計によって堅城に籠る大軍を相手に一番槍を制し、なおかつ敵軍を大きく瓦解させた孫策軍の戦功は、その場に集った諸侯達の目を集めるのに余りある戦果だった。

 

こいつらはヤバい、確実に警戒しなければ。

 

あの場にいた諸侯の誰もが、そう思った事だろう。終戦後、帰還の準備をしているにも関わらず、俺達の陣の周りにはそれなりの数の斥候が警戒と情報収集を兼ねて終始うろちょろとしていた。そんな中で手勢を引き連れて出城の焼け跡に足を運び、瓦礫を漁って得物の回収を試みる事など出来るはずが無い。

 

諸侯に確実に不審を持たれるだけでなく、戦功を羨んだ者達によって、ある事無い事をでっち上げられ、最悪には孫呉の風評に傷をつけられる可能性だってある。そうなってはわざわざ危険な策を成功させ、折角手に入れた孫呉の勇名も水泡に帰す。

 

それだけは絶対に避けなければならない。でなければ、散っていた兵達の死が全て無駄死にになってしまう。ゆえに悲しいかな、長く愛用してきた得物だったが、俺はその回収を断念せざるを得なかった。

 

未練が無いと言えば嘘になる。だが何時までも過ぎた事を悔やみ続けても仕方がない。それにあの時、例え状況が鉄鎚の回収を許したとしても、直後に引き起こした俺個人の問題が、結局のところ鉄鎚の回収を阻んだ事だろう。

 

というのも、黄巾党との決戦おいて俺が陣に帰還したのは結局、夜明け前ぎりぎりのうす暗い中、戦がほぼ終結してからの事だった。そして帰還を報告するついでに冥琳様のお小言を食らう、いつもはそれだけで終わるはずだったのだが……よりにもよって、あの時あの場で一番顔を合わせたくない奴が俺達の出向かいに待機していた完全に予想外だった。

 

その男の名は陳勤。韓当こと海苑じいさん程ではないが、それなりに古株な孫呉の将で、おやじが生前の頃におやじに対して何度も突っ掛かっていた男だ。その男が腕を組み、何故か本陣の前で仁王立ちして待っていた。

 

無論、ただ俺達を待っているはずなどなく。煤と灰塗れで、しかも甘寧は気絶している状態という俺達の姿を見た陳勤が浮かべた表情は心配で歓待でもなく侮蔑。やれ見るに堪えないだの、軟弱者に相応しい姿だの、思い出すだけでぬっ殺したくなる罵詈雑言の嵐を帰還した直後の俺達にぶつけてきたのだ。

 

確かに陳勤は腕は立つし、戦も出来る。それは俺も認める。今回の戦でも全戦を率いる将として、それなりに活躍もしたようだ。しかしそれだけで何故あそこまで罵倒される必要があるのか。とは言え、陳勤の口が悪いのは昔からだし、実際帰還が遅くなったのは俺達の失態である事に違いない。それにこんな事は何時もの事だと思い、あの時の俺は黙って聞き流す事に決めた……はずだった。

 

しかしだ。そこで何を思ったか、陳勤は俺を罵倒するに飽き足らず関係の無いおやじの侮辱まで始めた。気付いた時には、俺の右拳が陳勤の頬を殺さない程度に殴り飛ばしていた。反省はしなかったし後悔もしなかった。それによって陳勤は気絶、俺は勝手な私闘で陳勤に手を上げた事で罪に問われ、撤収作業の際に冥琳様の監督の下、懲罰労働として、しこたまこき使われる羽目になった。

 

もとより撤収の際には人一倍働こうと思っていた手前、懲罰労働まで加わった俺には当然ながら自由に行動できる時間などあるはずもなく。廃城の探索に当てる時間など言わずもがなだ。どうにかして確保出来た時間は少なく、それさえも城壁で殴ってしまった甘寧への詫び代わりに、彼女が心配していた風評の操作に手を打つだけで精一杯だった。

 

思い返せば本当に我ながら頑張ったと思う。卓上で組んだ両手の上に顎を乗せ、俺はしみじみとしてため息をついた。

 

「どうするのだ、公積よ。これから鍛冶場まで足を延ばす心算なら、残りの作業は俺が引き受けるが」

「そうだなぁ」

 

嬉しい提案をしてくれる瑾に感謝しつつ、頭を悩ませる。正直なところ、すぐにでも鍛冶場にひと仕事頼みに行きたい気持ちでいっぱいなのだが、気軽によし行こうとは言えない事情もある訳で。

 

「費用、経費で落ちないかな」

「いや、それは……無理だろう」

「ですよねー……はぁ」

 

分かり切っていた事に、自分で言ってため息を吐く。江賊征伐の時の独断専行で棒給を減額されてるから、最近の俺の懐事情は結構厳しい。ゆえに今日まで贅沢を控え、こつこつと懐を温めていたのだが、新しい得物を調達するとなればここしばらくの倹約の成果が吹っ飛ぶこと間違いなしだ。いっその事、凌家の酒蔵から秘蔵の逸品を持ちだして、祭さんに売りつけるというのも……駄目だ、おやじが化けて出る未来しか見えない。

 

「何だ、そこまで懐が厳しいのか。凌家の資産は、そこまで少ない訳でもないのだろう?」

「そりゃまあ、家の金を使えば得物の一つや二つ用意するのは問題無いけどさ。国のためならともかく、俺個人の問題であんまり家に負担は掛けたくないんだよ。当主の癖に戦に感けてばかりで、家の事は家臣団に丸投げだし」

「その国のために身を粉にして働いているのだ、気にする事も無いだろうに。律義というべきか、難儀というべきか」

「そこは一つ、律義の方で頼む」

 

そう言って、俺は苦笑と共に席を立つ。

 

「行くのか?」

「おう。けどその前に城の武器庫を漁ってくるわ。もしかしたら代わりになる得物が見つかるかもしれないし」

「おいおい、武器庫の装備は軍部全体の備品だろう」

「ちゃんと許可は貰いに行くって。それに、兵達に配給されてる様な得物じゃ俺には柔過ぎる。精々常人が使わない様な変わり種を引っ張り出すさ」

「そう都合よく公積のお眼鏡にかなうものがあるとは思えないが……」

 

ぶっちゃけ俺もそう思うが、もしかしたら掘り出し物が見つかる可能性だってある。何も形状が鎚である事に拘る必要はないのだから。要は頑丈でなおかつ取り回しの効く得物であればそれでいい。そうと決まれば、今回ばかりは瑾のお言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 

「じゃあ、行ってくる」

「ああ」

 

編成案の作成を瑾に任せて、俺は城の武器庫へと足を向ける。その途中、武器庫を漁る許可を得るために、冥琳様から兵站の管理を任されている穏に失った鉄鎚の代わりの得物を見繕いに行きたい旨を伝えるため、穏の部屋へと寄る。

 

「穏、入るぞー」

「はぁい、どうぞ~」

 

部屋に入る前に一声掛け、穏の返事を待ってから扉を開ける。すると部屋に入った俺の顔を見るなり、穏が丁度良かったとばかりに顔を輝かせた。

 

「あらぁ浩牙さん、いいところに来てくださいましたねぇ。でも、その前に何か御用ですかぁ?」

「あ、ああ。実は――」

 

先程、瑾と話していたのと同じ内容の話を穏に告げる。すると穏は手をパンと前で打ち合わせて、にっこりと笑みを浮かべた。

 

「あらぁ、偶然ですねぇ。実は私も丁度、蔵に用事があったんですよぉ」

「……」

「うふふ」

 

きっと顔を引き攣らせているだろう俺に対し、穏はほんのりと頬を赤く染めて何やら体をもじもじと揺らし始める。俺は無言で即座に踵を返した。

 

「って、なに無言で帰ろうとしてるんですかぁぁぁぁぁぁ!」

 

直後、叫びながら椅子から立ちあがった穏が飛び出す様にして彼我の距離を一瞬で詰めてくる。そして体当たりに半ば近い形で、がっしりと俺の腰にしがみついて来た。

 

「ええぃ、離せッ! そんな顔してる時の穏に関わると、大抵碌な目に合わん!」

「酷い!? そんな決めつけは良くないですぅ~!!」

「決めつけじゃない、経験則! って、やめて! 羽織が破れる!」

「ぜぇ~ったいに、逃がしませんからね~!」

 

両の手で陣羽織の裾を固く握り込み、だらんと足を投げ出し全体重を掛けてくる穏に、凌家伝来の朱地の陣羽織がミチミチと悲鳴を上げ始める。いかん、いかんぞ。こんなアホ丸出しの争いが羽織の死に場所だなんて、ご先祖様達に申し訳が立たない!

 

「は・な・せ!」

「い・や・で・す~!」

 

くそう、一体何が穏をここまで駆り立てるんだ。穏の手に怪我を負わせないように手加減したままでは、まったくもって振り払えそうにない。かといって穏の気力体力が切れる様に仕向けようにも、その前に陣羽織が討ち死にしてしまう!

 

「入るぞ、穏。実は先程頼んでいた件についてだが――」

「あっ、冥琳様! ちょっと助けてください!」

「――特に言う事はないからゆっくりしてていいぞ」

「冥琳様ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

扉を開け入って来こようとした救いの神は、こちらを見るなり流れる様な動作で扉を閉めて出ていく。去り際にちらっと俺に向けてきた視線が、まあ頑張れ、と言っていた様に見えたのはきっと気のせいじゃない。

 

「うぅぅぅ~! なんでそんなに嫌がるんですかぁ! 別に厄介な仕事を頼む心算はありませんよ~!」

「じゃあ今すぐその要件とやらを言ってみろ! 悪いが俺には即座に断れる自信があるぞ!」

「えっとですね、私と一緒に孫子のご本を取りに――」

「断る!」

「早っ!? せめて最後まで聞いてくれても――」

「だが断る!」

「うぅぅ、断る言いたいだけちゃうんかぁ~……」

 

そんな事はない。俺がここまで嫌がる理由にはちゃんとした理由がある。それには穏の個人的な事情が深く関係しているのだが……まあぶっちゃけてしまうと、穏の特殊な性癖に問題があるからだ。

 

実に個性的と言うべきか、穏は知識欲を刺激されると、同時に性欲も大いに刺激されるという何とも困った性癖を持っているのだ。しかもその度合いが尋常ではなく、加えてその発散に場を弁えないものだから、その場に居合わせた者は堪ったものではない。

 

一応、本人もそのことは自覚しているし、ゆえに多少の事ならば穏も自制が効くのだが、今回ばかりは相手が悪い。何せ、かの孫武が記した、知識人ならば一度は耳にした事のある、あの有名な兵法書『孫子』が相手なのだ。

 

現に穏は蔵に用事があると目的を遠回しに口にしただけで、顔を赤くしてもじもじする始末。現物を前にしたら、とても理性を保つ事など出来ないに違いない。そしてその時に被害を被るのは、同行する俺という事になる。それだけは絶対に駄目だ、というか俺以外の人物であっても駄目だ。何が駄目かと聞かれれば、それはもう色々な意味で駄目なのだ。

 

ならば一人で行かせればいいと思うだろうが、残念な事に穏の性癖を知っている冥琳様によって、穏は一人で蔵へ入る事を禁止されている。蔵書数はそこまで多くないとはいえ、孫子を除いても蔵の中は言わば知の宝庫。そんなところに穏を一人で行かせようものなら……想像するのも憚られる事態になりそうだ、確実に。

 

「だいたい、別に穏が直接行く必要はないんだから、誰か他の文官に持ってきて貰えば万事解決じゃないか」

「それはそうですけどぉ~……」

「だろう? その後で、穏が一人、部屋で孫子に熱を上げる分には誰にも迷惑は掛からないし、迷惑にならない以上はそれを止める事もしない。是非とも存分にやってくれ」

「うぅぅぅぅ~……」

 

依然、俺の腰にしがみついたまま、うっすらと目尻に涙を浮かべてしょぼくれる穏に若干心が揺らぎかけたが、それを払拭するためにも毅然とした態度で俺は穏に言葉を返す。

 

「そんな悲しい声を出されても、俺は絶対に行かないぞ。いや、行っても良いけど、その場合、穏はここで留守番だ」

「そんなご無体なぁ~。一度だけ、一度だけで良いですから。中を覗くだけで構いませんから、いっそ香りを嗅ぐだけでも我慢しますからぁ~! どうか冥琳様には内密で!」

「む・り・だ!」

「うっ! う、ううぅぅぅぅ、うぅぅぅぅうあぁぁぁぁん!! 浩牙さんの鬼ぃ! 分からずやぁ! この、性欲枯れ枯れの鬼畜童貞ぇぇぇぇぇ!」

「ちょ、おまっ!?」

 

ついに不満が爆発したのか、穏がとんでもない台詞を口にしながら大声で俺を罵り出す。というか、年頃の女の子がそんな言葉を口にするんじゃなぁぁぁぁい!

 

「童貞! 童貞! 冥琳様が怖くて何も出来ない浩牙さんなんて、どーせ下の逸物も、しなちく程度の役立たずに違いないんです!」

「しなちく!? いやそりゃ、確かに童貞だけど……ていうか、そんな大声でいきなり何言い出してんだ! 周りに聞かれたら変な誤解されるだろうが!」

「誤解じゃないから問題ありませんもんね!」

「ありまくりだ! 俺はまだ全然枯れてないし、人並みに性欲もある! 加えて鬼畜なんかじゃ断じてない! って、何でこんな恥ずかしい事を言わなきゃならんのだ、こんちくしょー!」

 

売り言葉に買い言葉。穏の勢いに乗せられ、つい熱くなった俺も、多少の壁など役に立たない程の大声ではしたない台詞を穏に返す。鎮まれ、鎮まりたまえ、俺! 名のある孫呉の将が、この様な痴態を見られて良いものか! 誰にも聞かれていない今なら、まだ――

 

ガタッ!!

 

「はっ!?」

 

後ろで立った音を耳聡く聞きつけ、俺は咄嗟に後ろへと振り返る。身を乗り出し過ぎたのか、足がぶつかって半開きになった扉の向こうには、目を見開き中腰の姿勢で固まった明命の姿が――

 

「み、みんめー、さん?」

「…………はぅあ!?」

 

棒読みな俺の呼びかけに、随分と長い間を置いてから明命が硬直から復帰する。まさか、今の話を聞いてたのか? いや、そんな馬鹿な。いくら隠密の隊長だからって、あの明命がよもや立ち聞きだなんて真似をするはずが無い。うん、ナイナイ……無いよな?

 

「もしかして、今の話……聞いてたか?」

 

震え声で大事なことを明命に尋ねる。頼むから、聞いて無いと言ってくれ、お願いだ。

 

「え、えっとえっと……廊下を通りがかったら、何やら穏様のお部屋が騒がしかったので、つい……」

「……」

 

のぉぉぉぅ、天は我を見捨てたッ!!

 

「あ、あうあうあうぁ……その、その……わ、私は、その……別に浩牙さんが童貞で鬼畜でしなちくでも、全く気にしませんからぁぁぁぁぁーー!!」

 

明命が顔を真っ赤に染めて叫び、隠密らしい俊足で廊下を走り去っていく。何だろう、兄貴分としてかなり致命的な誤解を妹分にされてしまった様な気がするんだが……。

 

これどうするの、馬鹿なの? 死ぬの?

 

「なあ、穏さんよ……俺さ、もし明日にでも明命に鬼畜とかしなちく呼ばわりされたら、ちょっと生きていける自信が無いんだが……」

「いいじゃないですか。だって、浩牙さんってば実際に――」

 

そこから先の出来事を的確に言葉で表現するのは少し憚られる。ただ一つ言えるのは、流石の穏も断末魔の叫び声までは緩くないということだ。

 

閑話休題。

 

ひと仕事終えて完全に沈黙させた穏を寝台に放り込んだ俺は、穏の引き出しからとりあえず武器庫の鍵を拝借する。得物を求める旅路は、道中ちょっと失うものがあったりと紆余曲折あったが、これでようやく終着点へと向かう事だろう。そして話は冒頭に戻る。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「やっぱり適当に見繕った得物じゃあ駄目だったかぁ」

 

そう呟きながら、刃が大きくこぼれ落ちた蛮刀を手から落とし、俺は空を仰ぎながら大きくため息を吐いた。今ので武器庫の奥から引っ張り出してきた掘り出し物は最後。あとは残らず、この目の前に鎮座する試し切りの大岩を前に敗れ去って朽ちた。

 

死蔵されていた物の中でも特に頑丈そうなものを選んだつもりだったが、やはりというか、結局それらは全て剣という武器の範疇を出ないものばかりだった。いくら刀身が分厚かろうが、それはあくまで剣という規格の中での事であって、俺が求める様な圧倒的な耐久力を持つには程遠い代物だった。

 

まあ、それこそ殴殺するしか技の無い、鉄の塊であった双鉄鎚と比べてやるのも可哀想な話だが……悲しいかな、俺はそんな得物で無ければ力を十全には発揮できない。その証拠に、この程度の大岩一つ未だに壊す事が出来ずにいる。俺の力が足りていても、それを伝える手段たる得物の方が耐えきれずに先に潰れてしまうからだ。

 

「本当に、どうしたものかな」

 

鍛錬場に散乱していた、使い物にならなくなった得物達を拾い集め、ここまで運んでくる時に使った木箱の中へと纏めて放り込む。少し前まで武器の山だったものが鉄くずの山になってしまったその光景を見て、そこでふと思いつく事があった。この鉄塊の山を鍛冶屋に持ち込んで、これらを材料に鉄鎚を作って貰えば、その分だけ支出が減るんじゃないだろうか。

 

剣という形ゆえに俺の扱い方に耐えきれず破損してしまったこの得物達も、その刀身に使われた鉄そのものは、頑丈さを求めただけあってなかなか良質なものが使われているに違いない。

 

壊した本人が言うのもおかしな話だが、どっちみちこのままでは鉄くず以外の何物でもないのだし、ならばいっそ新しい得物の礎となって生まれ変わる方がこれらのためにもいいんじゃないだろうか。ああ、そうだ、そうしよう。俺は新しい得物が手に入って幸せ、こいつらは長く死蔵されていたところを新しく生まれ変わる事で、戦場という活躍の場で日の目を見る事が出来る。

 

これぞまさしく天啓という奴かもしれない。俺の破壊活動は決して無駄ではなかった。俺は鼻歌交じりに木箱を担ぎ上げると、軽い足取りで鍛錬場を後にする。道中すれ違う見張りの兵達に怪訝な顔をされながら、軍部掛かりつけの鍛冶師の工房を目指す。俺も何度か鉄鎚の手入れで世話になっているため、城からの道順はすっかり頭の中に入っている。手元をがちゃがちゃと鳴らしながら、そうして歩く事半刻ほど。目的地にたどり着いた俺は、お目当ての鍛冶師の工房の暖簾をくぐる。来客に気付いた一人の青年が、俺の抱える荷物に目を丸くしながらも対応に出た。

 

「らっしゃい。随分とでっかい荷物を抱えてるみたいだけど、ウチに何か用かい?」

「おうとも。ちょっくら、ひと仕事頼みに来た。よいせっと」

 

抱えていた木箱を足元に置く。その中身を覗いた青年が、眉間な皺を寄せて難しい顔をして顔を上げた。

 

「お客さん、一体どんな使い方したらこんな事になるんだ? 悪いけど、ここまで壊れちゃ修復は無理だと思うぜ」

「まあ、修復を頼みに来た訳じゃないからな。おーい、おやっさん! 居るかー? 一つ仕事を頼みに来たんだが!」

 

再び壊れた武器達に目をやりながら唸る青年を横目に、受付の奥、仕切りを隔てた向こう側の作業場の方へと俺は声を大きくして呼びかける。しばらくして、手拭いを額に巻いた、小さい子が見たなら思わず泣き出してしまいそうな強面の男……俺が先程おやっさんと呼びかけた、この工房の親方が額に汗を滲ませながら顔を出した。

 

「おお!? これは凌将軍、毎度ご贔屓に」

「どうも、おやっさん。作業中に呼び出して悪いね。悪いついでに一つ、急ぎで仕事を頼まれて欲しい」

「わはは! 作業と言っても弟子に教えを授けていただけゆえ、お気になさらず。それで、仕事と言うと……もしや、そこに置いてある?」

 

未だに青年が覗きこんでいる木箱に、親方も厳しい視線を向ける。それに気づいた青年が場所を譲ると、壊れた剣群を良く見ようと傍に寄った親方が腰をおろし、その中から真っ二つに折れた剣を適当に選び手に取ると、うーむと唸り声を上げて顎を撫でた。

 

「ふぅむ、なるほど。確かに凌将軍が振るうとなれば、これらには些か荷が勝ち過ぎたようですな。加えて剣の本分にない使い方を為されたと見える」

「やっぱり分かる?」

 

俺からすれば、どれも同じく折れたもしくは刃毀れした剣にしか見えないが、本職の人物から見ればその理由すらも分かってしまうらしい。なんだか自分の愚行を見透かされた様で、少し恥ずかしい気分になる。

 

「恐らくですが、何かとてつもなく頑丈な物を斬ろうとしたのでは?」

「いやまあ……城の鍛錬場に長い事居座ってる大岩を思いっきりぶった斬ろうとしただけ……かな?」

 

茶目っぽく説明した俺に親方は呆れるでもなく、くくっと小さく笑みを浮かべる。

 

「それはそれは、また随分をお硬いものを斬ろうとしたものですな」

「正確に言えば、斬るというより砕こうとしたんだけどな。それに向いてそうな物を選んだつもりだったんだけど、やっぱり基の頑丈さが足りていなかったみたいでね」

「剣は殴るものではなく、斬るものですゆえ。その様な使い方をされては、こうなる事も致し方ない事かと」

「そこにあるのは、どう見ても斬る用途に適してないっぽいけどなぁ」

「きっと、これらを鍛えた工匠達は皆、凌将軍と同じ考えを持った工匠だったのでしょう。始めから斬るのではなく、重さで叩きつけて殴殺するのを是とするならば、これらも理に適った作りと言えますからな。もっともそれが、人ではなく大岩相手に振るわれるなどとは、流石に作り手の工匠達も予想しなかったのでしょう」

「まあ、そうだろうけどさ。でもそれって別に――」

「必ずしも剣でやる必要は無いでしょうなぁ。凌将軍が大岩を相手にする必要が無かったように」

「おっと、これは一本取られたか」

 

俺が言おうとした言葉を親方が苦笑を浮かべながら皮肉交じりに先に口にし、それから手にしていた剣を木箱へと戻す。次いで青年に目配せをして木箱を工房の奥へと運ばせると、しばらくしてから親方は立ちあがり、今までと打って変わって真剣な職人の目付きをして俺の方へと向き直った。

 

「では凌将軍、改めてお話をお聞きしましょう」

「ああ。以前、俺がおやっさんに頼んで何度か見てもらった鉄鎚があっただろ? 実は、あれと同等の物を鍛えて欲しい。先の戦で、不手際ながら紛失してしまってね」

「なるほど、なるほど。さっきのあれらを材料にですな。そしてその材料費の分、手間賃を割り引いて欲しいと」

「流石はおやっさん、話が早い」

「以前、酒屋の主人に仕事を頼まれた際に、世間話に凌将軍が財布の紐を少々気にしていたと噂していましたので」

 

それはもしや、俺のおごりで祭さんと夜通し飲み明かしたあの時の事だろうか。あの時は確か、俺と祭さんがあまりに長居し過ぎて、店主に涙目でお帰り下さいと懇願された記憶がある。あれからそれなりに時間は立つが、よもやそれがこんなところでひょいと顔を見せるとは……恐るべし、商人同士の情報網。

 

「わはは! 他に広めたりなどはしておりませんゆえ、ご安心くだされ」

「既に手遅れな気もするんだが……まあ、おやっさん達の話のタネにでもなれば幸いか。それで、手間賃はどれくらいになりそうかな」

「凌将軍を始め、孫家の武官の皆様方にはご贔屓にしてもらっておりますからな。それらも踏まえて……これ位でいかがでしょう」

 

若干間を入れて提示された金額は幸いにして、一般に業物と呼ばれる得物に付けられる相場の価格よりもかなり安い金額だった。材料費の分を差し引いて、本当に親方と弟子達の手間賃分しか要求していないのだろう。それでも庶民からしたら十分に高価であるし、減給中の身である俺にとってはやはり懐に響く程なのだが、少なくともこの先しばらく、懐の寂しさに城の食堂通いに徹するなどという事にはならないと思う。本当にありがたいことだ。

 

「なら是非それで頼む。時間はどれくらい掛かりそう?」

「出来る限り迅速を心がけはしますが、正確にはお答えできかねますな。完成し次第、城へ弟子を遣わせます」

「分かった。他の誰でもない、おやっさんの鍛える鉄鎚だ。期待して待ってるよ」

「工匠の誇りに掛けて、至高の品を鍛え上げて見せますとも」

 

そう言って、自信に充ち溢れた笑みを浮かべた親方が、その大きな手を俺に向けて伸ばす。それに応える様に、俺もまた親方の方へと手を伸ばして、がっしりと固く握手を交わす。それから手間賃の半額を先払いとして親方に手渡し、工房を後にしようとした丁度その時だった。

 

「おや、興覇様。今日も砥ぎ直しの依頼ですかな?」

 

俺が踵を返すよりも早く、俺の背後に視線を向けた親方が苦笑を浮かべてそう口にした。俺がギョッとして振り返ると、そこには何時もと変わらない澄まし顔をした甘寧が工房の入り口で、ほんの僅かだが目を見開いて固まっていた。どうやら甘寧の方も俺がここにいる事が予想外だったらしい。

 

「……」

「……」

 

距離を開けたまま、無言で睨みあう事しばらく。背後で親方が若干、きまずそうな気配を醸し出しているのを察し、俺は視線を切って甘寧に親方の前を譲る。甘寧は特に表情を変えず親方に近づくと、剣を剣帯から外し鞘ごと親方に手渡す。俺と甘寧の間に流れる不穏な空気に戸惑っていた親方も、流石に仕事を前にしては工匠らしく鞘から剣を抜いてその状態を調べ始めた。

 

「これはまた、随分と短期間に使い込みましたな。以前お持ちになった時より日もそう経っていないはずですが、よもやこれほどとは……」

「頼めるか」

「砥ぐのは構いませぬ。ですがこの剣は見る限り、随分と刀身が細くなってきております。その上ここ最近、興覇様はこの剣をかなり酷使していらっしゃるご様子。此度もまた砥ぎ直すとなればいっそうの事、剣の寿命を縮めるでしょう。そうなれば戦の最中、不意に折れてしまう事も十分に考えられます。そろそろ新しい得物をお求めになった方が宜しいかと」

 

伺う様にして打診する親方に甘寧が考え込むようにして目を閉じる。甘寧は一体何をして、親方にそうまで言わせるほどに得物を使い込む必要があったのか。黄巾の討伐を終えてから今日まで、甘寧がどこかに出陣する様なことは無かったはずだ。

 

いや、何も戦ばかりが得物を消耗させる理由にはならない。俺の様に大岩をぶった切ろうとして武器を壊してしまう場合もある。流石に俺の場合は極端な例だが、それほどに得物を酷使する何事かを、甘寧は俺の知らないところでやっているのだろう。

 

そんな風に考え込む俺の視線に気づいたのか、甘寧がぱちりと目を開き、訝しげな表情を浮かべながら俺の方へと振り返った。

 

「……何を見ている」

「いや、別に」

 

何とも素っ気ない俺の返事に甘寧がムッと目付きを険しくする。

 

「言いたい事があるならハッキリ言えばいい」

「……ふむ」

 

――意外だな。

 

甘寧の厳しい視線にさらされながら、内心で俺はそう思った。今までの付き合いから鑑みれば、舌打ちの一つで甘寧の方から即座に話を切るだろうに。それを俺が吹っ掛けるならまだしも、まさか甘寧の方から俺に因縁をつけくるとは……。

 

「なんだ、その意外そうなものを見る目は」

「ん、顔に出てたか」

「……貴様は、私を馬鹿にしているのか?」

「まさか」

 

悪態をつく甘寧に俺は軽く戯けてみせる。町人なら震えあがりそうな甘寧の鋭い眼光も、戦場での雪蓮様の殺気と比べれば可愛いものだ。自分の死が情景に浮かぶほどではない。もっとも、町中でそんな殺気を放たれるのも迷惑な話だが。

 

「まあ、生憎と俺からあんたに聞く様な事は何もない。あんたから俺の方がどうかは知らないけどな」

「……」

「どうやら、そっちも無いみたいだな」

 

無言を貫く甘寧に軽く問いかける。すると以外にも反応を示した甘寧が、ポツリと小さく呟いた。

 

「いや……一つ、聞きたい事がある」

「ほう、何かな?」

「城壁で貴様に意識を狩られたあの後。貴様は私が気を失っている間に、皆に私が先の戦で武功を上げたと語ったな……なぜだ?」

「あんたが武功を上げたのは事実だろう」

「だが、そこに至る過程を貴様は丸々抜かして伝えただろう。教えろ、なぜそんな事をした」

 

問い詰める様にして聞いてくる甘寧の瞳に真剣な光が浮かぶ。あまりに真っ直ぐで強いその視線に、どの様に問いをはぐらかそうかなどと画策していた俺の思考は軽く吹き飛ばされ、否応なしに求められる真摯な返答を汲み出そうと俺は新たに思考を巡らせ始める。

 

あの時、甘寧を止めた自分の判断に関しては、決して間違っていなかったと俺は自信を持って断言できる。しかし殴って気絶させた事に関しては、多少の申し訳なさを感じたのも事実だ。だからこそ俺はせめてもの詫びにと甘寧の風評操作に手を回した。甘寧の部下達にその英雄譚を語って聞かせ、冥琳様には十分以上の働きをしていたと報告した。

 

それらは別にやましい事でも無し、わざわざ隠し立てする必要もないのだろうが、甘寧を性格を含めて考えれば詫び代わりにやったのだと伝えたところで、甘寧が不快な思いをあらわにするのは目に見えている。あの時はこちらに道理があったとは言え、それでも俺は甘寧の意思を力づくで曲げたのだ。その事を後になって勝手な手土産と共に詫びられたところで、甘寧からすれば屈辱的なだけだろう。

 

我ら将の名誉や義は、時に命よりも重い。ただでさえ甘寧は責任感の強い生真面目な頑固者だ。己が名誉にいらぬ情けを掛けられていたなどと聞かされたなら、次に戦場に立った時にどの様な無茶をしようとするのか、想像するだけでも億劫だ。

 

ならばここは勝手な手土産ついでにもう一つ、憎まれ役を俺が演じ甘寧を納得させるのが一番だろう。今更一つ二つ憎まれ事が増えたぐらいで何が変わるでもない。それで目の前の問題が片付くのなら安いものだ。余計ないざこざなど、起こさないに限るのだから。

 

「伝える必要が無いと思ったから伝えなかった。それ以外に理由は無い」

 

考え抜いた末に突き放す様に放った俺の言葉に案の定、甘寧は肩を怒らせて噛みついてきた。

 

「それで私が納得すると思うのか。侮るのもいい加減にしろ」

「あんたが納得しようがしまいが知った事か。他人の些細な失態を懇切丁寧に言いふらすほど俺は暇じゃないんだ。何だったら、今から俺の代わりを務めてみるか?」

「……ちっ」

 

俺の問い掛けに甘寧が舌打ちし口を噤む。まあ、無理だろうとも。確かに黄巾征伐は終わったが、それが最終目的ではない孫呉は今も次の足掛かりを作るために水面下で忙しく動いている。それを蓮華様の側近を務める甘寧が知らないはずがない。実際、ここ数日の俺は中間管理職の実態をまざまざと見せつけられるほどに忙しかった。暇じゃないとは言い得て妙だなと、思い返してため息をつく。

 

「何を呆れる!」

「別の事だ、気にするな。それよりも、さっきの俺の答えであんたは納得したのか、それとも否か……どうなんだ?」

「否だ」

「即答かよ……一体何が気に食わないのやら」

「貴様の言、全てがだ。貴様は虚言を吐いてはいないが、真実を語ってもいない」

「言い切るんだな。俺の心でも見透かしたか?」

「私の勘がそう告げている」

「……」

 

当たり前のように断言した甘寧に束の間、俺は言葉を失った。その勘とは所謂女の勘という奴なのか。何時もなら馬鹿らしい事をと言い返したいところだが、残念ながらその勘はしっかりと的を射ている。それとも、冥琳様達が言っていたように俺が分かりやすいだけなのか。もしそうだとしたら、それはそれで困ったものだ。

 

「どうだ、本心を話す気になったか」

「はぁ……なあ、甘寧よ。さっきも言ったが、あんたは先の戦での働きで間違いなく結果を出した。それは揺るぎない事実だ。あんたが命を賭けて成し遂げ、そして手に入れた名誉は誰にも卑下される事は無い。あんたの働きが、失われるかも知れなかった幾人もの孫呉の勇者達の命を生かした。そんな大きな結果を前に、ただの過程に犯したほんの些細な失態なんて、取るに足らない細事だと思わないか?」

「そう思えていたなら、今ここで貴様を問い詰めてはいない」

「生真面目ここに極まれりだな」

「これが私だ、文句を言われる筋合いは無い」

「至極ごもっともな意見をどうも」

 

そんな性格だから、きっと気苦労やら何やらも溜めこむタチに違いないんだろうなと、俺は表面で苦笑を浮かべながら内心でそう思った。

 

「まあ、どれだけ問い詰められようと、俺があんたに語る理由はさっき言ったので全てだ。それで納得できないなら、甘興覇自身の考えを周りに説くなり、好きにすればいい。殆どの奴が謙遜だろうと笑うだろうけどな」

 

そこまで言って、俺は甘寧から視線を切る。これ以上は何を言っても蛇足にしかならないだろう。あとは全て甘寧次第だ。

 

「俺は先に城に戻る。あんたも何やら忙しいみたいだが、程々にしておけよ」

「貴様に言われるまでも無い」

「くっくっ、そうだったな」

 

釘刺しと僅かな心配の言葉に返って来たぶっきらぼうな憎まれ口に、思わず笑いがこみ上げる。それは望外に憎まれ役を演じきれた自分に対してのものだが、しかし踵を返した俺の背中には痛いくらいの視線が突き刺さる。

 

恐らく嘲笑か何かと勘違いしたんだろう。だがまあ、それもまた憎まれ役には心地よい。そんな勘違いの視線に見送られながら、俺は鍛冶場を後にした。




更新する度に一話が長くなっていく謎。これ二つに分けたら先月更新できたんじゃねと気付いたのは、最新話を打ち終わって達成感に浸った後でした……。

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