ドッピオの性格がちょっと原作と違って気が強くなってるかも。
まぁ、生暖かい目で見守ってやってください。
1話
――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
とても暗いどこかの中で、その着信音は突然聞こえてきた。
どこから聞こえてきたんだろう、この音は。
今までずっと待ちわびていた、たった一本の電話。
あの日から、あの人は連絡も何も寄越さず、僕はそれをただただ待ち続けていた。
急いで出なきゃ。そう思って電話を探すけれど、見つからない。
――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
わかってる。わかってるよ。
僕だってすぐに出たいんだ。
でも電話が見つからない。どこにもないんだよ。
待っててください。今すぐ、今すぐ見つけて出ますから。
――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
ああ、ちくしょう。
さっきから手探りで暗闇の中、音だけを頼りにしてるってのに、どこにも電話なんて見当たらない。
どうして。いつもあの人からかかってきたときは、すぐ見つかるってのに。どうして今日に限って。どうして。
願っていた日がやってきたのに。
願っていた時がやってきたのに。
――とおるるるるる………………
……え?
いきなり、電話の着信音が切れてしまった。
それから、もう電話はならなくなってしまった。
――嘘だ。
そんな。
どうして。
待って。
ここにいるんだ。
聞こえてるよ。
今出るんだ。
待って。
だから。
もう一度。
もう一度だけ。
電話かけてください。
すぐに見つけます。
ずっと待ってたんだ。
もう少し待ったっていいじゃないか。
だから……だから……
……でも、どれだけ願っても、もう電話がかかってくることはなかった。
待ち望んだその一時がやってきたとき、僕はそれに応えることができなかった。
「……寂しいよぉ……ボス……」
音がなくなったその暗闇の中に、僕の小さなささやきは飲み込まれていった……
僕の名前はドッピオ。
イタリアの一大組織、パッショーネのボスの側近だ――
~ゼロの奇妙な腹心~
「――?」
ドッピオの目は、不意に光を感じた。
ボスとともに裏切り者のブチャラティチームの抹殺に向かったあの日……銃弾で撃ち抜かれたあの時を境に、無音の暗闇しかない空間へと閉じ込められた彼にとって、光は奇妙なものだった。
あまり強くない光なのだろうが、ずっと光のない場所にいた彼にとっては十分すぎる刺激だ。
「――う、ぅ……」
まるで恐ろしいものにでも怯えるかのように、ゆっくり、ゆっくりと瞼を開けるドッピオ。
あの日から初めて光を受けた彼の目が映したのは……桃色の綺麗な髪をした、一人の少女だった。
「――ッ! 先生!」
「う、うわっ!?」
ドッピオが目を覚ましたことをその少女が確認したとたん、彼女は大きな声で誰かに呼びかけた。
その声も、無音の場所にいたドッピオにとっては大きな刺激で、思わずビクリと震えてしまう。
「ミス・ヴァリエール。彼は目を覚ましたのかね?」
すると――ここはどこかの医務室だったのだろうか――仕切りの向こうから、髪の少ない性格の穏やかそうな男の人が一人、やってきた。
なんだ?
なんなんだ?
頭の中で疑問がいくつも浮上するが、どれもこれもが今は何もわからないことだらけで、ドッピオは余計と混乱するだけだった。
ボスからの電話に出ることができなかったとき。
あれから自分は後悔して長いこと泣き続け、それに疲れて眠っていた。
そして起きてみれば、眼前には人がいる。ついさっきまでいたはずのあの真っ暗な空間とも違う場所にいるようで、わけがわからない。
混乱しているドッピオを気にかけてか、男の人がドッピオに話しかけてきた。
「ああ、お体の具合はよろしいですか? いえ、こちらが呼びかけても全く反応もなく、目覚めてくれなかったものでしたので……医務室にまで運んだのです」
「は、はぁ……どうも……」
ドッピオは感謝の言葉を述べるとともに、心密かに安堵した。
どうもまだわからないが、この人たちは意識がなかった自分を、わざわざ看護してくれたらしい。
どんな人にも弱腰になってしまうドッピオだが、こう見えても彼はボスの側近(実際は違うのだが)だ。ボスの命令で、彼は何度か任務をこなしていた。そのどれもが組織の運命を左右しかねないもので、もちろん他の団員が受けるようなものとは段違いに危険が多い(とはいえその度にボスに助力してもらったが)。
いつどこから敵がやってくるかわからなかったので、本来臆病なことも相まって彼は一際警戒心が強くなっていたのだ。
今近づいてきた彼らだって、ドッピオは最初こそ警戒していたのだが、様子を見るとどうやら自分に危害を与えるつもりはないらしい。全面的に、というまではいかないが、ある程度信用してもいいだろう。
「あの、ここってどこですか? イタリアのどこかなんでしょうか?」
「イタリア? そんな場所は聞いたことはないが……ここはハルケギニアにある国、トリステイン。そこでも貴族の子供たちが、魔法と貴族としての作法を学ぶトリステイン魔法学院です」
「……はい?」
ドッピオは驚きを隠せなかった。
この男、いったい今何と言った?
貴族? ハルケギニア? トリステイン?
これまで様々な国へと渡ったことのあるドッピオだったが、そんな場所や国の名前なんて聞いたこともなかったし、まずイタリアを知らないということからしておかしかった。
いや、それ以上に彼がひっかかったのは――男がさりげなく言った、『魔法』、という単語のことだった。
「あのォすいません。今、魔法っておっしゃいましたか?」
「? ええ、そうですが」
ドッピオがふっかけた問いかけにも、男は平然と肯定してみせた。
仮にも彼はギャングの一員だ。裏切り者のブチャラティや、暗殺チームリーダーのリゾットなどが嘘を見分けることに優れていたように、ドッピオも相手が嘘をついているかどうかくらいは判断できる。
だが、そのドッピオから見ても、男は嘘をついているように見えなかった。
「やだなァ~魔法なんてあるわけがないじゃないですか。こう見えても僕、大人ですよ? 常識くらいあるし、新手の宗教の勧誘とかならお断りなんですけど……」
表面上はヘラヘラと笑って見せるドッピオ。
だがその表情とは裏腹に、彼の中ではますます混乱が激しくなっていく。
(なんだっていうんだよォ~~~、助けてくれた人をこんなふうに思うのもなんだけど頭ぶっ飛んでんじゃないのかァ~~~~~~?)
ドッピオの言葉を受け取って、男は困ったような顔をした。いかにも『何をどういえばいいのかわからない』って感じの表情になっている。
「ふんっ、何よ! 魔法も知らないだなんて、あんたどこの田舎からやってきたのよ平民!」
と、突然今まで黙っていたはずの桃色の髪の少女が口を挟んできた。
鳶色の目でキッとこちらを見据えてくる少女に気圧されて、ドッピオは少したじろぐ。
「な、なんだよ、こっちは大事な話してんだから割り込んでくるなよッ」
「はぁ!? ご主人様に向かってその口のきき方はなによ、やっぱり平民は作法がなってないわね!」
いきなり会話に横やりを入れてきたくせになに言ってやがんだこのガキッ! とドッピオは返そうとした。だが、またもや少女がおかしなことを口走っていたのが気になった。
「……え? ご、ご主人様ァ~~~?」
聞き間違いでなければ、確かにこいつは『ご主人様に向かって』と言った。
いや、でもきっとなにかの間違いだと信じたい。
だが、ドッピオの願いはすぐに否定されてしまうこととなった。
「そうよ! あんたにはこれから私の手足になってキビキビ動いてもらうんだから、覚悟しなさいよねっ!」
厚顔無恥とは、まさしくこの少女のことを言うのだろう。
何の説明もなく突然現れたこの小娘は、自分に従者となって働けといってきているのだ。
これにはさすがのドッピオもキレた。
「おいッ、さっきからグダグダとわけわかんねーことばっか言ってんじゃねーぞッ! いつから俺がテメーの従者になったっつーんだァッ!? このマヌケッ!!」
「うるさいわね! もうこれは決まったことよ、反論なんて認めないわ!」
「やかましいッ、誰がテメーみたいなガキに仕えてやるかよッ! 俺が仕えるのは……」
と、不意にそこでドッピオは言葉を詰まらせた。
いつからかずっと自分が仕えていたボス。
自分がピンチに陥るとすぐに電話をかけて助言してくれ、能力も分け与えてくれたボス。
いざってときには自分なんかのために駆けつけてくれたりもした。
そのボスは……あれから、電話をかけてきてくれない。
それが何を意味するのか、ドッピオにはわからない。
考えられるのは……ボスに自分のことを忘れ去られてしまったのか……それとも……
「――――ッ」
そんなドッピオの様子を見て、言い返す言葉もなくなったと考えた少女はふふん、と鼻で笑った。
「何よ、誰に自分は仕えるっていうの?」
「…………………………………………何でもない」
するといよいよ相手は調子に乗り出して、見ていて悲しくなってくるほど平坦な胸を張りだした。本人としては威張っているつもりなのだろうが、そこに威厳はまったくない。
「でもマジで待ってくれ。いきなり仕えろっていったいどういうことなんだ? せめて理由くらいは説明してくれよ」
理由くらいは、こちらでも聞かせてもらわなければ『納得』できない。
『納得』もできないまま仕えるだなんてまっぴらごめんだ。
今はともかくそれを優先する。ドッピオはそう考えて自分の疑問を少女に投げかけた。
「え、そ、その……それは……」
さっきまでの威張った様子はどこへやら、いきなりしおらしくなって少女はどもりだした。
まさか何もないのにそんな暴挙に出やがったのか、と考えたそのとき、今度は男の方が話をし始めた。
「……そのことなんですが、こちらもいろいろと頭を抱えていましてね。なにぶん、今までこんなことは聞いたこともないことでしたから……」
男は難しい顔をして目を閉じていたが、何かを決意したかのように目を見開く。
「とにかく、何が起こったかについては単刀直入に申しあげましょう。あなたは彼女――ミス・ヴァリエールに召喚されたのです」
「――へっ?」
思わずドッピオは、間抜けな声を出して目を丸くした。
感想ッ! 待たずにはいられないッ!!